第69回入学式 式辞 柔らかな春の日に差しに誘

第69回入学式 式辞
柔らかな春の日に差しに誘われ、グランドをのぞいてみると体育系クラブの生徒たちが、明
るい声で駆け回っている。講堂からは器楽部の軽やかな演奏が聞こえてきた。美術教室では創
造表現コースの生徒たちが、楽しそうに創作活動に励み、ホームルーム教室では実力テストを
控えた生徒たちが、課題と格闘している。今年も、私の大好きな基高生たちが躍動を始めた。
若者たちに生気がみなぎり始めたこのよき日に、PTA 会長 亀岡洋海 様をはじめ、本校に縁の
ある多くの方々のご臨席を賜るとともに、多くの保護者・ご家族の皆様のご列席のもと、広島
市立基町高等学校第69回入学式を盛大に挙行できますことは、この上ない慶びであり、深く
感謝申し上げます。
ただいま、入学を許可しました361名の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。皆
さんは、この春に厳しい入学者選抜を突破して、基町高等学校に入学されました。我々教職員
および2・3年生の生徒は、皆さんの入学を心よりお祝いし、歓迎いたします。
本校は、これまでに25,000名を越える卒業生を輩出し、多くの同窓生が各界で活躍さ
れている伝統ある高等学校です。平成11年からは、普通科普通と創造表現コースが両輪とな
って切磋琢磨し、多くの実績を積み上げてきました。校舎は、被爆後百年の広島において残す
べき重要な建築物の一つであり、
「ひろしま2045:ピース&クリエイト」事業の指定を受け
て作られたものです。平和のモニュメントでもあり、広島市民の平和への願いを表したもので
す。したがって、皆さんには、先人の伝統を受け継ぎ、それぞれが持てる能力を最大限に磨い
て、将来、広島や日本、そして人類の幸福に貢献するという大きな期待がかけられています。
新入生の皆さん、高校生活を始めるにあたり、まず、3年後に達成したい目標を立ててくだ
さい。そして、それを実現するという強い決意をしてください。富士山に登ろうと決めた人だ
けが富士山に登ったのです。散歩のついでに登った人は一人もいません。どんな山に登るとき
も、みんな、山に登ることを決意して登ります。とくに、めざす山が高ければ高いほど、強い
決意が必要となります。決意して登り続けてほしいと思います。あせることなく、一歩一歩登
り続ければ、確実に頂上は近づいてきます。
次に、学ぶ者として謙虚な気持ちを持ってください。学校は足りない部分を学び、不十分な
ところを満たしていく場です。皆さんは、中学校まで非常に優秀な成績を収めてきました。ク
ラスや学年のトップであったかも知れません。
高校でも順位などは気になるでしょう。
しかし、
本当に大切なのは、高校の学習内容をどれだけ吸収できたかということです。自分は、まだ多
くのことを学ぶ必要がある、わかっていないことがあるから学びにきているのだと思えば、気
持ちも楽になれます。謙虚な気持ちが、吸収力を大きくするのです。過去の自分にとらわれた
り、わかっていないことを隠すなど、かたくなになっていると吸収力は落ちます。謙虚さを持
つことは、時に勇気も必要です。曖昧な部分があれば、先生のところを訪ねて指摘を受ける勇
気。恥ずかしがることなく、隣の友人に教えを請う勇気。お互いに教え合い、学び合うことで
力はついてきます。そこで理解したことを、反復し、自分のものとしていくことが重要なので
す。謙虚な気持ちを大切にして高校生活を送ってください。
三つ目に、くよくよしないことです。くよくよと考えると心は暗くなるし、本当に疲れます。
次に繋がるものは何もないと思います。
「挫折感」や「敗北感」を経験することは、人生におい
て非常に大切です。負けることこそが、その人を一まわりも二回りも大きくします。今の2年
生や3年生もたくさん経験しています。プラス思考で一歩ずつ登りましょう。
心配はいりません。登り始める皆さんには、多くの応援者がいます。我々教職員、2・3年
生の先輩は、皆さんに頂上への方向を示し、しっかりと案内をします。目標達成に繋がるカリ
キュラムを用意し、どの時期に、どのペースで登ればよいかを先生方が導き、先輩たちがアド
バイスをくれます。次に、保護者・ご家族の方々です。ご家族の皆さんは、山小屋で温かく迎
えてください。体調を気遣い、食事を用意し、そしてまた、明るく送り出していただけたらと
思います。さらに皆さんは、後ろからそっと背中を押されていることを感じてください。それ
は、本日ご臨席のご来賓の方々をはじめ、広く市民・県民の皆様が、基町高校の生徒であると
一目をおいて、活躍を期待してくださっていることです。皆さんには、必ずこのことを自覚し
てほしいと思います。感謝の気持ちを忘れずに、校外においても基高生としての自覚ある振る
舞いを強く願っています。そして、何よりも大切なことがあります。それは、皆さんは決して
一人で登っているのではないと言うことです。同じような大きな目標、高見に向かって、一緒
に登っているたくさんの仲間がいることを忘れてはいけません。皆さんは、同じ志を持った優
秀な仲間に恵まれ、励まし合い、時には手を取り合って山頂を目指しているのです。これは、
基町高校ならではのことです。先輩たちは、本校での生活を充実感に溢れていたと喜んで卒業
していきました。その最大の理由が本校で築いた仲間、支え合ってきた仲間です。69回生の
皆さんも、ぜひ、すばらしい友人関係を築き、励まし合い、苦しみを楽しみに変えて、立派に
山頂にたどり着いてください。
皆さんが立てた目標は、志望する大学への合格であるしれません。しかし、それは本校教育
の最終目標ではありません。大学受験に向けて苦労し努力することは、すばらしいことです。
そのことによって、単に学力だけではなく、いろいろな、そして、大きな力がつきます。実は、
その力がこの先の人生を生きていくための力です。3年間を目標達成に向けてとことん努力す
ること、そのことで培った力が今後の人生に生きてくるのです。本校の教育目標は、あらゆる
教育活動を通じて、皆さんを卒業と同時に自立した社会人に育てることです。皆さんが、卒業
後に歩む長い人生において、どんな環境の変化がおころうとも、それに対応する力を備えた、
骨太の人間に成長してくれることを心から望んでいます。
さて、本校の北門のそばに「桐林」と呼ぶ小さな庭があります。
「桐林」は、本校の創立60
周年、創造表現コース開設10周年を記念して作られたものです。そこには、
「学問の木」と言
われる櫂の木と3本の桐の木があります。この桐の木は、原爆投下後、旧広島市立中学校時代
に本校の将来の発展を願って校庭の片隅に植えられたもので、当時は、花も枝もない1メート
ル足らずのぼくっとうでした。被爆後70年は、草も木も生えないと言われた広島のこの地に
おいて、その木が大きく育っています。台風による暴風や真冬の寒さにも耐えながらも、太陽
の光をいっぱい浴びて立派に成長しました。旧市中時代の先輩方の思いを込められたこの桐の
木も、皆さんを温かく見守ってくれています。実は、皆さんがつけている校章には、桐の果実
がデザインされ、皆さんを見守っているのです。桐の木が光を浴びて育ったように、我々教職
員は、皆さんに温かい言葉をいっぱい浴びせて、皆さんの成長を心から応援します。
今日まで、新入生を様々な面で支えてこられた保護者の皆様に心からお祝い申し上げます。
私たち教職員は、一丸となって指導にあたり、お子様の高い志の確立と、その実現に全力を尽
くし、誇りを持って高校生活を送ることができるよう努めて参ります。保護者の皆様におかれ
ましても、本校の教育にご理解とご協力を賜りますとともに、ご家庭でも、お子様が充実した
学校生活を送るために必要なご指導をいただきますよう、よろしくお願いいたします。
本日ご臨席賜り、新入生の前途を祝福してくださいましたご来賓の皆様、そして、ご列席の
保護者・ご家族の皆様に再度、篤くお礼を申し上げ、式辞といたします。
平成27年4月7日
広島市立基町高等学校
校長 板倉 宏治