平成26年度 5年経験者研修 教育実践記録 問題発見力・解決力の育成を目指した授業 勤務校 1 福井県立藤島高校 職名・氏名 教諭・家根谷 直登 テーマ設定の理由 特に進学校における高校数学では、受験に対応できるだけの素地を身に付けさせるため、ある程 度の授業進度の確保と知識の定着が必要となる。そのために、どうしても講義型であったりパター ン演習であったり、生徒が受け身となる授業になりがちである。今までできる限り質の高い解説を 心がけ、問題を上手く解決する力を伸ばすことに成功している実感はある。一方で、自ら問題を発 見し解決する力や、今獲得した知識をさらに応用する力が身に付いていないように感じる。 あらゆる場面において、自発的に問題を発見し解決策を構築する能力は、我々が生きていく中で 必要不可欠な能力である。特に、日本国内や世界のトップで活躍できる人材を育成するには、より 高いレベルでの実現が必要である。数学という教科の役割を理解し、生徒が受け身となりがちな授 業展開からの脱却を図りたい。 2 実践内容 ジグソー法を改良したグループワーク中心の授業 3年生文系 数学 6単位 3年生の文系で4月より実践している。3年生の文系では予習を前提とした入試問題演習を行っ ており、毎日3題の問題を指定している。問題演習のやり方としては、生徒が解答の板書をして、 その解答に対して教師が添削と解説を行うことが一般的であった。しかし、このやり方だと次のよ うな問題点がある。 《問題点》 ・生徒が板書をすることによる時間のロス。 ・予習をせずとも板書を丸写しして満足してしまう。 ・自らその問題のポイントを発見する力、新たな発見をする力が育たない。 押さえておきたい問題の定着を図りつつ、特に3つ目の問題点を解決するために、以下のような 実践を行った。 《実践内容》 ・事前に6名の生徒(1題につき2名)に指名をし、解答用紙に解答を書かせ授業までに提出をさ せる。 ・授業までに6名の解答にコメントを付ける。誤りを直すことはしない。間違っているところやポ イントになっているところにアンダーラインを引き、議論する内容を書く。 ・授業の最初に4人1組のグループを作り、4人でどの3題を担当するか決める。4人で3題のた め、どの問題を2人担当するかなどもその班で決めさせる。 ・いったん班を解散して、担当の問題ごとに集まる。事前にコメントを付けた解答を配布し、解答 の中身やコメントについて議論する。 ・もとの班に戻り、一人一人が議論した内容を解説する。 ・教師が補足したり理解の確認をしたりする。 ・類題の演習を行う。 -1- 《授業の流れ》 Ⅰ 黒板で指示 Ⅲ 議論の時間 Ⅱ 移動 Ⅳ 班に戻って解説。教員による補足 《実践の記録》 Ⅰ 実践開始段階 単発ではなく、3年生文系6単位すべての授業でこの形式の授業を実践した。 私自身、今までほとんど講義型の授業しか行ったことがなかったため、何に主眼を置いて授業に 臨めば良いか分からなかった。生徒も単発でグループワークをやることはあっても、数学の授業す べてがグループワークになってとまどったようである。ましてや、数学に対して前向きでない生徒 も多く、抵抗を示す生徒もいた。班によっては新しい発見をして盛り上がる班もあったが、議論が 活発にならない班、雑談をしてしまう班などもあった。この授業形式に意味があるのかないのか、 手応えのないまま演習が進んでいったが、予習の状況は概ね良好で、『生徒が板書をすることによ る時間のロス』と『予習をせずとも板書を丸写しして満足してしまう』という問題点は解消できた。 また、副産物として授業中に寝る生徒は一人もいなくなった。 Ⅱ 意義の模索 教員も生徒もよく分からないままとりあえずグループワークをやっている、という様子が続いた ため、まずは私自身がグループワークの意義を理解しようと試みた。もともと、この授業実践は同 じ3学年に所属する数学の Y 先生からアドバイスをいただいたものであったため、Y 先生の授業を 何度か見学し研究しようと試みた。また、何のためにグループワークを行うのかも Y 先生と積極的 に議論を重ねた。授業実践と研究と議論を繰り返す中で、次の結論に至った。 -2- Ⅲ グループワークの意義 まず、グループワークはグループで何をさせたいのかがすべてであり、グループでやることさえ はっきりさせておけば生徒は自然と活発に議論を行うということである。例えば、今回の授業実践 の場合、3題の問題の質とその問題に対して何をテーマに議論をさせたいかがすべてである。テー マによっては、生徒は早々に雑談にふけってしまうこともあれば、活発な議論の中で別解などの新 たな発見をすることもあった。 次に、グループワークをしていると細かいところまで教えられないのではないかと思っていたが、 そうではないことに気が付いた。生徒の話合いの中身をよく観察し、また質問に応じることで、授 業中に「生徒がどこでつまずいているのか」知ることができる。それを解決するための方法を提示 もしくは発見させればよい。つまり、講義型よりも生徒の実態を詳細に把握することができ、さら にそれを問題発見力・解決力につなげることができるということである。 教員は事前準備に徹し、授業中は飽くまで生徒のサポートに徹することが役目である。そして、 生徒にいかに考えさせ、いかに自分たちで気が付かせることができるか。これがグループワークを やる意義であるという結論に至った。 Ⅳ 改良、そして生徒の変化 授業実践を進めていく中で以下のように実践内容を改良していった。改良したこととそれによる 生徒の変化を番号で対応させたが、 これらは 1 対 1 ではなく相互に関連しあっているかもしれない。 ~改良したこと~ ①生徒の解答につけるコメントのテーマ性をはっきりとさせ、より議論がスムーズに行われるよう に工夫した。 ②グループで議論しているときはできるだけすべての班に声をかけ、どのような話題になっている か観察し、また生徒の質問を受ける中で疑問点を吸い上げてフィードバックした。 ③補足のところが教員の腕の見せ所だと考え、吸い上げた情報をもとに補足に全力を注いだ。 ④事あるごとになぜグループワークをやるのかというその意義を生徒に伝えた。 ~生徒の変化~ ①何もやらない生徒はほとんどいなくなった。雑談も減った。解答や与えられたテーマで分からない ことがあると、教科書や参考書を調べて解決しようとする前向きな姿勢が見られた。 ②授業中に生徒が積極的に質問するようになった。最後の捕捉を聞くときの目付きが変わった。休み 時間まで数学の議論をするなど、文系の生徒とは思えないほど数学に興味関心をもつ生徒が増え た。 ③補足を聞くときの目付きが変わった。 ④初めは講義型の授業のほうが良いという生徒が多かったが、グループワークのほうが良いという生 徒がかなり多くなった。 Ⅴ 数字で見る生徒の様子 数字は生徒を機械的に評価してしまい、数字を通して生徒を見ることには少し危険な部分もある。 しかし、生徒の変化を視覚的に捉えることもでき、ある程度の指標にもなる。 まず、数字としておもしろい結果が出たのが「わかる度調査」である。各項目の中で特に興味深 かった項目が、『授業中に考える時間は十分にあるか。」という項目であった。結果は100%で ある。数字上、すべての生徒が授業中十分に考えていたのである。また、グループワークによって 県連模試数学 Y の偏差値分布がどのように変化したか自クラス対象に調べてみた。まだ授業実践を 始めて間もない4月段階での度数分布と、授業実践も終盤に差し掛かった10月段階での度数分布 を比較した。次の表1のようになった。 -3- 表1 4月 76~78 72~74 68~70 64~66 60~62 56~58 52~54 48~50 44~46 40~42 0 1 2 3 4 5 6 7 10月 この偏差値帯で 他クラスと差が 出た。 76~78 72~74 68~70 64~66 68 以上の 人数 文系A(自) 文系B 文系C 60~62 56~58 52~54 48~50 44~46 40~42 0 1 2 3 4 5 4月 10月 3 6 1 10 5 6 ※黄色はグループワークを行ってい たクラス。 6 7 偏差値の度数分布だけで見てみると、56~58よりも下の層が 10 月段階で上の層に移っている ことが分かる。また、3年生文系他クラスで、従来通りの講義型を行ったクラスと比較してみたと ころ、偏差値68以上のラインで人数が大きく伸びていることが分かった。このことから、すべて の授業をグループワークで行っても、全体を引き上げることに成功しており、特に中位層をやや上 位層まで引き上げることに成果があったのではと考える。 Ⅵ 今後の展望 3年生の演習は終了し、今年度の授業実践は終了したことになる。3年生の演習の授業をどう改 善するかという観点で始めたものだが、実は他学年の授業でも応用できそうだと思い、現在1年生 や2年生の授業でも実践している。数学の議論を深めるにはある程度の知識が必要となるため、す べての授業というわけでなく、単元の最後にグループワークによる演習を行っている。題材は傍用 問題集の節末にある演習問題であり、同様のやり方で実践している。生徒の反応は概ね良好である。 今年度の手ごたえとして、まず私自身がグループワークを実施することに前向きになったこと。 何を意識してグループワークを実施すればよいか見通しができたこと。数字では中位層の生徒の伸 びが確認できたこと。他学年の授業でも応用できている点である。しかし、この授業実践は飽くま でグループワークの一つの手法であって、これが生徒の問題発見力や解決力を育てるためのすべて ではない。今後は演習のときだけでなく、普段の授業の中で効果的にグループワークを取り入れる 方法を模索したい。 -4- 予習課題解決型授業の実施 1年生 数学 α 4単位 1年生の数学では数学 α4単位、数学 β4単位で並行履修の形をとっている。私は数学αを担当し ており、「授業進度の確保」と「予習段階での問題の発見と授業における解決」による問題発見力・ 解決力の育成を目的として、以下のような実践を行った。 《実践内容》 ・B41枚の予習用ワークシートを作成する。ワークシートの内容は、公式・定理の確認や証明、 教科書の練習問題である。 ・教科書の丸写しにとどまらないよう、考えてきて欲しいことを事前に指示している。もしくは、 ワークシートの中に盛り込んでおく。 ・授業の前半ではペアワークやグループワークで予習内容の確認を行う。教師はポイントを解説 するだけにとどめる。 ・授業の後半では予習してきたことを踏まえ発展的な内容を扱う。 《実践の記録》 Ⅰ 実践開始段階 教育研究所との連携という形で、6月より実践が始まった。ただし、正式に教育研究所と連携し て行うのは2学期からということで、1学期の間はまず予習に慣れさせる程度とし、上記のような 形でスタートした。6月までは通常通りの授業を行っていたため、予習を徹底させることは難しか った。また、予習を前提としていたため、できる限り解説は少なめにして生徒に考えさせる時間を 設けたつもりであったが、丁寧に解説してほしいとの声も多く、生徒からの評判はいまひとつであ った。1学期間の取り組みに関して簡単なアンケートを取ってみたところ、次のような結果となっ た。疑問点を解決できている生徒は 53%のうちの 94%なので、予習してきた生徒にとってマイナス になっていることはなかったようである。 ~1学期のアンケート結果抜粋~ Ⅱ ・予習の取り組みができていると答えた生徒 …約 65% ・予習をして、疑問点をはっきりして授業に臨めていると答えた生徒 …約 53% ・予習の段階での疑問点は授業である程度解決できていると答えた生徒 …約 94% ・教師の説明の詳しさがちょうどよいまたは詳しいと答えた生徒 …約 55% 2学期より『予習課題解決型』本格スタート 2学期からは本格的に教育研究所と連携して予習課題解決型授業を始めた。まずは、予習課題解 決型とはどのような授業かというその意義や理念の共有からはじまった。教育研究所のユニットメ ンバーの先生と打ち合わせをしていく中でどのような形で実践していくかを確認した。また、今回 この予習課題解決型授業を行うのは私と 1 年生学年会に所属するT先生の二人で、ともに 1 年生の 授業で実践することとなる。ワークシートはステップ1、ステップ2、ステップ3の形で構成され、 生徒にはワークシートをとっておくためのファイルを購入させている。ステップ1、ステップ2、 ステップ3の内容が何を意図したものになっているかは次の表2のとおりである。1 コマの授業の 流れは色のついている部分となる。また、初期に作ったワークシートは資料1となる。 -5- 表2 ステップ1 ステップ2 ステップ3 ステップ1 予習課題の補助 予習課題 授業前半で確認 まとめ・発展 予習課題の補助 (通常授業で言うとこ ろの“導入”に当たる。) (通常授業で言うところ の“展開”に当たる。) 前時の10分 (通常授業で言うと ころのまとめをボ リュームアップ。) 本時の前半10分 本時の後半30分 本時の10分 本時の50分 2学期10月の中間考査までやってみたところ、この予習課題解決型で私が感じたメリットとデ メリットは次の表3のようになった。 表3 メリット デメリット ・授業が早く進み、考査前にゆとりができる。 ・ワークシートであるため、授業の流れが イメージしやすい。 ・ワークシートに縛られてしまい、50 分にゆと りがなくなる。 ・どうしても授業が単調になってしまう。 ・ワークシートを作るのが大変。 ・進度が速くなってしまい、生徒の定着が悪い。 表3のように、正直このやり方ではメリットよりデメリットの方が多いと感じた。教員の私自身、 手ごたえがいまひとつであったので、当然生徒の反応も散々であった。考査からも生徒の定着の悪 さが見て取れた。考査後、生徒にアンケートをとったところ次のような意見が寄せられた。 ~10月アンケート、生徒の要望より抜粋~ ・進度が速すぎる。分からないうちにどんどん先へ行ってしまう。 ・予習でやってきたこところの扱いが不十分だ。 ・もう少し丁寧に解説をしてほしい。 ・グループで相談するときは疑問点を解決できたり、理解できたりするのでもっとやって欲しい。 ・ステップ2の予習で全く分からないときがあった。 細かいアンケート項目については次のページの表4のとおりである。設問1と設問4の関係か ら、予習をしてきた生徒にとっても進度が速くて解説が不十分であったことが読み取れる。予習を してきたからといって、解説を端折ればいいというものではなく、予習をしてきた生徒が予習をし てきて良かったと意義を見出せる授業にしなければいけないと強く実感した。このままでは、生徒 は予習をやることに意義を見出せなくなり、やる気の低下につながって本末転倒である。そこで、 生徒が予習中に課題を発見し、授業中にその課題を解決できるような工夫がまず必要だと考えた。 さらに、ワークシートに教員が縛られすぎないよう、ワークシートの見直しも必要と考えた。せっ かく教育研究所と連携しているので、教育研究所のユニットメンバーの方に授業を見ていただき、 議論をさせていただいた。ワークシートについても逐一コメントをいただいた。また、T先生とも お互いに授業を見学したり、お互いの作成したワークシートを使い合ったりして、今後の予習課題 解決型をどうするか議論した。議論を重ねる中で至った結論は、結局、生徒が予習することで持っ た疑問点をどう吸い上げて、それを授業の中でどう解決させるかというこの1点が最も重要である ということだ。これをもとにして、10月末からは改良を加えた新しい方法で実践した。 -6- 表4 設問1 「予習」への取り組みの度合いについて、5段階で、 あてはまる数字に○をつけてください。 できていない できている 設問2 できている 予習をしてきた生徒のうち、 役半数の生徒が、解説が不十分 であると感じている。 つまり、予習をしてきたのに、 授業に対する満足度が低いとい うことである。 1 2 3 4 5 8.1 21.6 32.4 29.7 8.1 「予習」の段階での「疑問点」は、授業で解決できていますか。 5段階で、あてはまる数字に○をつけてください。 できていない できている 設問4 2.7 18.9 29.7 40.5 8.1 (※単位は%) 「予習」をして、わからなかったことなど 「疑問点をはっきりさせて」授業に臨めていますか。 5段階で、あてはまる数字に○をつけてください。 できていない 設問3 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 2.7 10.8 16.2 56.8 13.5 授業中の先生の説明は、あなたにとって適切ですか。 5段階で、あてはまる数字に○をつけてください。 もっと丁寧に ちょうど良い 丁寧すぎる 1 2 3 4 5 8.1 40.5 32.4 18.9 0.0 -7- 予習段階で疑問点を感じてい た生徒のうち、75%の生徒は 授業で解決できていたことにな る。しかし、25%の生徒は疑 問点を解決できていない。 Ⅲ 改良、そして変化 ~改良したこと~ ①ワークシートの内容をできるだけ軽くした。 ②ステップ2を予習したときに疑問点があった場合、授業の前日までに [email protected] にメールをするように指示。また指名した数名には予習内容を写メで撮って上記メールアド レスに送信するように指示。疑問点や写メを参考にして授業でやる内容を決める。授業の前半で 疑問点をもとにテーマを作成し、グループワークで解決させる時間を設けた。 ③毎時間ワークシートに縛られて授業を行うのではなく、必要に応じて小テストや演習を実施し、 その結果も踏まえてワークシートや授業をデザインした。 ~変化~ ①内容が薄く、定着が悪くなるのではという不安の声が生徒からもれるようになった。 ②事前に疑問点を知ることができたので、授業をデザインしやすくなった。また、予習をして分から なかったところを解決するための時間を設けたため、生徒は予習に意欲的になり、グループワーク での議論も活発になった。疑問点を授業で拾い上げてくれて嬉しいという声も聞こえた。 ③その単元が終わった後でもどこの定着が悪かったか把握することができ、定着が悪いところを繰り 返し拾い上げることで、生徒の「定着が悪いままどんどん先へ進んでしまう。」という不安を取り 除くことができた。 この改良を加え、10月末から12月期末考査まで実践した。毎時間生徒から届くメールは約8 通ほどであった。生徒からの疑問点を吸い上げることで、グループワークで話し合う内容のテーマ 性をより明確なものにでき、 こちらが解説せずとも生徒自身の力で解決していた場面も多々あった。 しかし、予習をしながら携帯を触りたくないという生徒もいて、必ずしもこのメール式に賛同して いる生徒ばかりではなかった。12月期末考査終了後、10月にとったものと同じアンケートを実 施したところ、次ページの表4のようになった。予習状況や学習理解度などが改善し、特に予習を してきた生徒のうち、授業の解説が十分かの問いに対する回答が10月と比べて大きく改善した。 今回のアンケートからは生徒から次のような意見が出た。 ~12月アンケート、生徒の要望より抜粋~ ・ワークシートでやった類題をたくさんやりたい。 ・グループワークをもっとやりたい。 ・勉強中に電子機器に触れることになり、メールを送るやつはちょっと嫌です。 ・しっかりと自分の今やっている問題の意図が理解できる授業がいいです。 ・サクシード(傍用問題集)が難しく感じる。 上の生徒の要望にあるように、まだ問題点はある。どうしてもワークシートの内容が軽くなって しまい、生徒から定着が悪くなるという声が出ていることである。教科書を使わずにこのワークシ ートで本当に今の単元は大丈夫なのだろうかという不安は、出てきて当然なのかもしれない。また、 メールにも難色を示す生徒が数名いたため、メール以外の方法で疑問点を吸い上げる方法を考える 必要もあった。3学期の課題として残ったのは、生徒が自分は今何をやっているのか把握できるワ ークシートを作ることと、このワークシートをやっていれば教科書の内容は大丈夫だと思えるよう な設問作りと、新しい疑問点の吸い上げ方の考案であった。 -8- 表5 設問1 「予習」への取り組みの度合いについて、5段階で、 あてはまる数字に○をつけてください。 できていない できている 設問2 できている 1 2 3 4 5 8.1 13.5 37.8 32.4 8.1 「予習」の段階での「疑問点」は、授業で解決できていますか。 5段階で、あてはまる数字に○をつけてください。 できていない できている 設問4 5.4 10.8 27.0 40.5 16.2 (※単位は%) 「予習」をして、わからなかったことなど 「疑問点をはっきりさせて」授業に臨めていますか。 5段階で、あてはまる数字に○をつけてください。 できていない 設問3 1 2 3 4 5 10月と比較すると、予習を してきた生徒のうち、2と回答 する生徒が減り、3と回答する 生徒が増えた。授業における教 員側のアプローチが改善された といえる。 1 2 3 4 5 5.4 8.1 24.3 56.8 5.4 授業中の先生の説明は、あなたにとって適切ですか。 5段階で、あてはまる数字に○をつけてください。 もっと丁寧に ちょうど良い 丁寧すぎる 1 2 3 4 5 5.4 37.8 35.1 21.6 0.0 -9- 10月と比較して予習段階で 疑問点を感じていた生徒のうち、 4と回答した生徒が増え、1or2 と回答した生徒が減少している。 疑問点を解決する時間を十分に とったためと思われる。 Ⅵ 今後の展望 12月期末考査後のアンケートより得た課題を解決するために現在次のような改良を加えた。 ~改良し、現在実践していること~ ①その単元において、教科書の流れは無視してワークシートを「テーマ別」に作成。今何をやって いるのか明確にした。また、ワークシートだけでなく教科書にも目を通させるよう設問に工夫を した。教科書の流れを無視しても、今教科書のどのあたりをやっているのか分かるようにするた めである。さらに事前に教育研究所のユニットメンバーに送付してコメントをもらって改良を加 えてから授業に臨んでいる。現在使用しているワークシートは資料2のようになる。 ②ミニ黒板を購入。疑問点はメールでもいいし、このミニ黒板に書きこんでも良いとした。ミニ黒 板は毎朝数学係が私のところにもってくる。 この改良点を加えて、現在進行形で行っている。2学期からの変化として感じていることは、生 徒はこちらが指示する前に意欲的にどんどん先へやっていることである。また、問題解決の時間を 設けると、グループにしなくても自然と動き始めて話し合いをして疑問を解決しようとする姿勢が 見られた。『予習課題解決型』に関しては、まだまだその効果の検証が足りていないので、経過を よく観察して、ほかの先生方にもやっていただけるような良い方法はないか研究したい。 2 まとめ 今年度は教員6年目ということもあり、5年間の教員生活を振り返って、次のステージへと進む 第一歩の年にしたかった。グループワーク型や予習課題解決型の授業実践を行い、生徒が主体的に 課題を発見し解決する力を育てようと考えた。全く新しいことを始めるというのは不安ばかりで、 授業計画を立てるのにもかなりの労力を要した。しかし、よく考えてみると、採用されたばかりの 頃は講義型の授業でも不安を抱え、教材研究に苦労をし、失敗と試行錯誤を繰り返しながら半人前 ながらもそれなりの授業の形にしてきたのである。今はまだ始めたばかりなので、失敗が多いかも しれないが、試行錯誤の末、生徒の主体性を育てる授業の形が出来上がることを信じている。 特に失敗からの学びは大きい。実践を初めた当初は教員の私が何を目標にやっていけばよいのか 分からない状態であった。しかし、結局のところ、生徒の声をよく聞き、授業中に生徒をよく観察 していればどこに注力すればよいか見えてくる。グループワークにおいて、生徒はなぜ黙るのか。 なぜ雑談をするのか。予習をしてきた生徒がなぜ授業に後ろ向きになるのか。そこにはすべて理由 があり、改善するヒントがある。2学期の中ごろ、ようやくそのことに気がついた。生徒を見て、 改良を加える。そうすると、生徒も授業に対しておのずと前向きに変化するものである。数値に頼 りすぎるのもよくないが、私とともに生徒が成長できていることが数値からも読み取れるのでうれ しい限りである。 課題は山積みである。そもそも今私が実践していることはようやくそれなりになってきたところ であり、とてもではないが他の人に勧められるやり方ではない。しかし私一人が授業改善をしたと ころで、学校という現場では意味がない。私の授業を受けている生徒だけが変わっても意味がない のである。学校全体が変わらなければ、生徒は幅広い学びの機会を得ることや、相互に高め合う機 会を十分に得ることはできない。そのためには、より汎用性のあるやり方を確立しなければならな い。私は自分で始めたことなのでワークシート作りはそれほど苦痛ではないが、他の先生がワーク シートを作成してやるだろうか。今年度は二人だけの取り組みであったが、来年度は同じような目 的をもって授業改善に臨む先生の仲間を増やしたい。その仲間のうちで様々な授業実践を行い、議 論を重ね、そして他の先生がやってみたいと思うような汎用性の高い方法を見つけたい。横に広が れば、一人で考えるよりもっと良い工夫が生まれ、アイデアを共有することで教員全体のステップ アップ、ひいてはそれが生徒の成長につながるものと考える。 今後は、引き続き授業実践を行い、自己のスキルアップやさらなる授業改善は当然として、でき る限り情報を発信し、他の先生にも広げられるように尽力したい。 - 10 -
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