地域に根差したJリーグが グローバル化を推進する理由

内なる
グローバル化
地域に根差したJリーグが
グローバル化を推進する理由
公益社団法人日本プロサッカーリーグ
(Jリーグ)
国際部リーダー
やました
しゅうさく
山下 修作
1. 日本サッカー界の現在地
J リーグは、1993 年に 10 クラブ(所属ク
モデルを創るため、J リーグはアジアの展開
を本格化させています。
ラブのホームタウンは 8 府県)で開幕し、現在
ASEAN 各国ではサッカーの人気はダントツ
は J1 - J3 と 3 部リーグ制となり、52 クラブ
です。また各国の資産家が自国リーグやクラブ
(同 37 都道府県)と日本全国に広がりを見せ
経営に携わっています。ただクラブ経営や選手
てきています。昔は、ワールドカップ出場は
育成のノウハウが乏しく、十分な成果が得ら
遠い存在でしたが、J リーグ開幕後は、強化・
れず、ワールドカップにも出場できていません。
育成の体制が整っていったことで、急速に
そこで J リーグは、自分たちが短期間で
レベルが向上し、ワールドカップ 5 回連続
成長してきたノウハウを無償でシェアをして
出場、五輪も 5 回連続出場と世界的に見ても
いき、ASEAN のサッカー発展をサポートして
類を見ないほどの成長を遂げてきました。
います。これは、アジア全体のレベルアップ
また J リーグは、地域密着を理念に掲げ、
が日本サッカーのレベルアップにも不可欠
クラブ名に必ず地域名を入れることを条件
であること、そして J リーグが、人口減少・
とし、北海道から沖縄まで日本全国へ広がり
高齢化が進む、人口 1 億 2,600 万人の日本の
を見せています。鹿島、鳥栖など、全国的に
国内リーグという立場から、人口増加・経済
知名度が低かった街が、J クラブが活躍する
成長著しい ASEAN 各国を含めた 7 億 5,000
ことで、日本全国へ知られ、スタジアムは街の
万人が見たいリーグになっていくことで、
シンボルとなり、2 週に 1 度のホームゲーム
長期かつ継続的な成長モデルをつくれるから
では、万単位のお客さんが来場し、地域活性
です。アジアと「共に成長する」
、これが重要
につながっています。
なキーワードです。
2. J リーグのアジア戦略について
3. 内なるグローバル化の具体例
2012 年 1 月より、長期かつ継続的な成長
2013 年、J2 のコンサドーレ札幌は、ベト
2015年5月号 No.736 39
内なる
グローバル化
コンサドーレ札幌の試合を
観戦しに来たベトナム人
レコンビンを歓迎する
コンサドーレ札幌サポーター
ナムの英雄と呼ばれるレコンビンを獲得しま
とってもプラスの効果が出始めました。
した。移籍会見はベトナムの国営放送、全国
またホーチミン市内でコンサドーレ札幌の
紙等でトップニュースとなり、札幌の知名
試合のパブリックビューイングを開催した
度が急上昇。またレコンビンが初めてスタジ
ところ即満席となり、試合前やハーフタイム
アムに現れた際は、サポーターがベトナム
に北海道観光の PR を実施しました。その翌
国旗を数千枚掲げ、女性サポーターがトラ
日には北海道の企業が現地にて、ベトナムの
ンペットでベトナム国歌を演奏したところ、
企業とのビジネスマッチングの場が持たれた
レコンビンが「北海道、札幌の人がこんな
のですが、ベトナム側から北海道への好感度
にも歓迎してくれ、感動して涙が出そうに
が高いこともあり、とても良い成果を残し
なった」とコメント。このコメントがベト
ました。
ナムで大きく報道され、北海道、札幌への認
一人の選手を獲得したことにより、イン
知度のみならず好感度も一気に上昇すること
バウンド観光だけでなく地元企業の海外進
につながりました。
出など、さまざまな面で、プラス効果が生
そして、在日ベトナム人がコンサドーレ
まれていきました。またコンサドーレ札幌の
札幌の試合観戦のために北海道に駆け付け
スタッフが、今までは北海道 550 万人をター
ました。さらにベトナムの旅行会社がレコン
ゲットとしていろいろな施策を考えていたと
ビンの試合観戦ツアーを企画。北海道観光に
ころが、ベトナムの 9,000 万人もターゲット
40 日本貿易会 月報
地域に根差したJリーグがグローバル化を推進する理由
にしていろいろと施策を考えていくようにな
るなど、グローバルな視点と発想を持つよう
になったのも内なるグローバル化の好例と
いえるのではないでしょうか。
2014 年には、ヴァンフォーレ甲府がイン
地域│日本│海外
ドネシア代表のスター選手イルファンを獲
得しました。イルファンは Twitter のフォ
ロワーが 430 万人を超えていました。ジャ
サッカーは地域と海外をダイレクトにつなげられる
カルタで開催された移籍会見には山梨県の
職員も随行し、多数のメディアの前で、イル
ンサー企業の露出アップやイメージアップに
ファンと共に山梨・富士山への観光 PR も
貢献するなど、さまざまな取り組みが行われ
行いました。今まで富士山は知っていても
てきています。
山梨や甲府を知らなかったインドネシアの
このような活動をしていく中で、サッカー
人が、山梨に興味を持つ大きなきっかけと
界に と っ て プ ラ ス に な る と い う 発 想 で は
なりました。
なく、経産省、外務省、総務省、国際交流
その他にも複数の J クラブが現地クラブと
基金、日本政府観光局、日本財団などとも
提携をし、現地クラブオーナーの財界ネット
連携し日本・地域、日本製品の PR を ALL
ワークを紹介してもらい、クラブスポンサー
JAPAN 体制で実施していくことを重視して
企業の海外進出をサポートしています。また
います。
現地で親善試合やサッカー教室を行いスポ
J リーグは、地域に根差し、日本全国に広
がりを見せているからこそ、COOL JAPAN
図 アジアと「共に成長する」モデル
として日本に好感度を持ってもらうだけでは
なく、その先の COOL LOCAL として地域
と海外をダイレクトにつなげ地域経済の発展
に寄与していける存在になり得ると確信して
現在
J リーグ
マーケット
5−10 年後
アジアマーケット
います。地域の発展・活性に役立つためには、
内なるグローバル化が重要だと考えており、
そのために積極的にアジア展開を推進して
います。
JF
TC
2015年5月号 No.736 41