まえがき 低圧電路の保護機器の中心として,広く使用されている配線用遮断器(Molded-Case Circuit Breakers:MCCB)及 び漏電遮断器(Earth Leakage Circuit Breakers:ELCB)はその選定にあたっては,ともすると経験的に決定され るきらいがあった。 しかし,各種の負荷に応じ,また保護方式に応じて,もっとも有効でかつ経済的な電路設計のためにはより合理的な MCCBやELCBの選定について考慮しなければならない。 各種の負荷の種類に応じたMCCBとELCBの定格電流や定格感度電流の選定は, 「各種用途における配線用遮断器・ 漏電遮断器の選定」で説明することにして,本冊子では,カスケード遮断方式や選択過遮断方式などの過電流保護方 式や地絡選択遮断方式などの地絡保護方式による選定,電線や機器の保護協調のための選定及び高圧側機器との保護 協調のための選定を中心に述べることにする。 注)漏電遮断器の英文名称はJIS IEC等では,Circuit-breakers incorporating residual current protection, CBR または Residual current operated circuit breakers,RCCB となっているが,まだ国内では一般的でないため, 本書ではELCBとする。 1. 過電流保護協調 MCCBやELCB(以下,特に限定する必要がない限り,MCCBの表記で代表する。)は,配線を過負荷及び短絡 電流による損傷から保護するために使用するものであり,その設置点において,そこを通過する過負荷及び短絡電流 を遮断し,事故の波及を可能なかぎり小さな範囲にとどめることが使用目的である。しかしながら,負荷の要求する 給電条件の程度に合わせ,保護装置の配列,経済性の考慮などの諸条件により最適の保護方式を適用する必要がある。 1.1 選択遮断方式 1.1.1 選択遮断方式とMCCB (1)選択遮断方式の基本 選択遮断方式とは,事故回路に直接関係する保護装置のみが動 作し,他の健全な回路はそのまま給電が継続されることを目的 とした保護方式である。つまり,図 1.1 において,S2 点の事故 に対してはMCCB 2 のみが動作し,上位のMCCB 1 及び他 の分岐回路のMCCB 3 はいずれも動作に至らないようにする ものである。 選択遮断は,過負荷及び短絡を含むすべての過電流に対してな されるのが望ましいが経済性をも勘案し,できるだけその関係 を保ちうる範囲を拡大する方策をとらなければならない。 図 1.1 選択遮断方式 1 (2)選択遮断方式の検討 通常のMCCBを使用した場合について図 1.1 において考えて みる。MCCB 1 とMCCB 2 の両者の動作特性曲線を比較す ることになる。これらの関係が図 1.2 のようになったとすると, 両者は交差していないので,全領域で選択遮断関係が保てそう にみえる。しかし,MCCB 1 は動作しないことを確認するわ けであるから動作特性曲線ではなくいわば不動作特性曲線を描 く必要がある。 つまりMCCB 1 のいわゆるアンラッチングタイム(復帰可能 時間,付録参照)について知る必要がある。 アンラッチングタイムとは,ある過電流がある時間MCCBに 流れた場合,動作に至らない最大の過電流通電時間をいう。M 図 1.2 動作協調 CCBの場合,長限時引きはずし領域では動作時間が長いので, 動作時間とアンラッチングタイムの差は無視できるが,瞬時引 きはずし領域では,遮断時間そのものが通常 20ms 以下と短い ので,アンラッチングタイムを無視できなくなる。つまり図 1.3 に示すとおり,動作特性曲線の瞬時引きはずし領域では,正確 にアンラッチングタイムを描いて,分岐回路のMCCBの引き はずし特性曲線と比較する必要がある。前に述べたとおり,通 常 T1 は 20ms 以下でフレームサイズにより大きな差はなく,T2 は数 ms 程度であるから,MCCB 1 とMCCB 2 の関係は通 常図 1.4 のようになり,両者が選択遮断関係を保ち得るのはM CCB 1 のアンラッチングタイムと,MCCB 2 の全遮断時間 とのクロスポイントまでとなる。つまりMCCB 1 の瞬時引き はずし電流値 Ii までとなる。 図 1.3 MCCBのアンラッチングタイム 以上説明したとおり,図 1.1 に示すような主回路MCCB 1 と 分岐MCCB 2 では,主回路MCCB 1 の瞬時引きはずし電流値までが選択遮断領域であるが,S2 点の事故電流とし ては,S2 点の短絡電流まで考えられるので全領域にわたって,つまり,すべての過電流に対して選択遮断関係を保つ ことができない。 全領域にわたって選択遮断関係を保つためには図 1.5 に示すとおり,MCCB 1 のアンラッチングタイムをMCCB 2 の動作特性曲線とクロスしないように長くすればよい。たとえば T ´ 2 を 30ms 程度以上にできればよいのである。短限 時引きはずし特性をもつMCCBがこれにほかならない。 1 2 K 図 1.4 通常のMCCBの選択遮断領域 2 図 1.5 選択遮断領域の拡大 1.1.2 保護協調用遮断器 (1)電子式MCCB 電子式MCCBは図 1.6 に示すように,ピックアップ電流を調整できる短限時引きはずし特性をもっており選択遮断 に適している。また大短絡電流に対しては,瞬時引きはずし動作を行うので,従来の短限時つきMCCBのように, 高速遮断を犠牲にしたことによる遮断容量の低下ということがない。 また,電子式MCCBは動作特性の可調整項目が多いので多岐にわたる選択遮断が可能であるなどすぐれた特長をもっ ている。図 1.8 はその一例を示す。図 1.9 はその協調関係を示す。 図 1.8 の回路構成により,第 1 ステップ(NF1600-SEW 形,1600A 設定)第 2 ステップ (NF630-SEW 形,500A 設定 ) 第 3 ステップ(NF250-SV 形,150A)間において図 1.9 に示すとおり,動作特性上の協調が完全に得られており,選択 遮断は,第 1・第 2 ステップ間で 20kA まで,第 2・第 3 ステップ間で 10kA まで可能である。 Ii (T L) ᵏᵐᵋᵔᵎᵋᵏᵎᵎᵋᵏᵓᵎ ᵆᅺᵇ ᵆᵿᶒᵐᵎᵎᵃᵇ (TS) 図 1.7 電子式MCCBの特性設定部 K 図 1.6 電子式MCCB可調整特性 3 V 図 1.8 系統例 V 図 1.9 系統例(図 1.8)による各MCCB間の協調特性 4 (2)気中遮断器(ACB) 気中遮断器は主に低圧回路の主幹用ブレーカとして使用さ れ,保護協調用遮断器として最適である。例えば AE-SW 形の場合,図 1.10 に示すように,定格電流,長限時動作時間, ቯᩰ㔚ᵹ⸳ቯ䋨㪠㫉䋩 㪚㪫ቯᩰ䋨䌉䌮䋩㬍㪇㪅㪌䌾㪈㪅㪇䋨㪇㪅㪇㪌䉴䊁䉾䊒䋩 㪠㪬 䌉 䌲 短限時ピックアップ電流,短限時動作時間,瞬時ピックアッ 䋨㪇㪅㪇㪉䉴䊁䉾䊒䋩 プ電流が広範囲に調整できる機能をもっており,電子式M CCBより保護協調をとり易くしてある。またACBの瞬 㪠㪬 㪈㪉㪄㪉㪌㪄㪌㪇㪄㪈㪇㪇㪄㪈㪌㪇䋨⑽䋩 時ピックアップ電流は最大,定格電流の 16 倍± 1 倍まで設 定でき図 1.11 の系統例のように図 1.8 の系統例の NF1600- ⍴㒢ᤨ㔚ᵹ䋨䌉㫊䋩㩿㪠㫊㪻㪀 䌉㫉㬍㪈㪅㪌㪄㪉㪄㪉㪅㪌㪄㪊㪄㪋㪄㪌㪄㪍㪄㪎㪄㪏㪄㪐㪄㪈㪇 SEW 形を AE1600-SW 形に置換えると最大瞬時ピックアッ ⍴㒢ᤨേᤨ㑆䋨㪠㫊㪻㬍㪈㪅㪌䋩 㪇㪅㪇㪍㪄㪇㪅㪈㪄㪇㪅㪉㪄㪇㪅㪊㪄㪇㪅㪋㪄㪇㪅㪌䋨⑽䋩 プ電流は 1600A × 15 = 24,000A となり第 1 ステップ,第 2 ステップ間で 24kA まで選択遮断ができる。 このようにACBを上位遮断器として使用すると選択遮断 領域の拡大が図れる。 㪠㫃 㪠㫉㬍㪉㪄㪋 図 1.10 AE - SW形の可調整範囲例 (WS1 リレーの場合) V 図 1.11 系統例 5 1.1.3 選択遮断領域の拡大 (1)下位限流遮断器使用による拡大 実際に流れる短絡電流そのものを限流するいわゆる限流ブレー カと呼ばれるMCCBを分岐回路のMCCBとして使用すれ ば,相対的に幹線MCCBの瞬時引きはずし電流値が増大した ことになり選択遮断可能範囲が拡大される。 たとえば,図 1.12 に示すように,NF1600-SEW 形を幹線に, 分岐MCCBとして汎用シリーズである NF250-SV 形と超限流 遮断器 NF250-UV 形とを使用した場合について考えてみる。 NF1600-SEW 形の瞬時引きはずし電流は,動作特性曲線上は, 実効値で表わされているが,実際の動作は尖頭値によって行わ れる。 V V したがって,通過する電流の最大尖頭値が瞬時引きはずし電流 値の√2 倍以下であれば選択性が得られる。 たとえば,図 1.13 において NF1600-SEW 形の瞬時引きはずし 電流値は 20kA であり,この値は対称実効値であるから,通過 図 1.12 分岐回路に限流ブレーカを使用した場合 電流の最大尖頭値が 20 ×√2(kA) をこえなければ動作に至ら ない。 超限流ブレーカ NF250-UV 形を考えてみる。 NF1600-SEW 形の定格遮断容量 85kA の短絡電流でも NF250UV 形の通過最大尖頭値は 20 ×√( 2 kA)をこえることはない ため 85kA(短絡電流対称値)まで選択遮断が可能である。 一方 NF250-SV 形を分岐MCCBとして使用した場合は,短絡 IK IK 電流は超限流ほどは限流されないので 22kA までとなる。つま り,分岐MCCBの種類により,選択遮断領域は大幅に異なる のである。 また,実際の選択遮断の場合には,限流された電流波形が正弦 波と異なるので,選択遮断領域は上記算出値と異なる場合があ る。 6 図 1.13 限流ブレーカとの選択遮断
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