人間性豊かなALTを育成 日本の英語教育を支えるインタラック

第
48 号
2015年4月
発行: 株式会社インタラック
ALTプロジェクト
東京都千代田区富士見2-10-2
T E L: 03-3234-7774
FAX: 03-3234-5342
E-mail: [email protected]
高いスキルをもち、人間性豊かなALTを育成
SELNATE
GROUP INTERAC・学校教育便り
日本の英語教育を支えるインタラック
日本政府観光局(JNTO)
によると、日本を訪れる外国人旅行者は2014年度には前年比29.4%
増の1,341万4,000人と過去最高を記録しました。2020年の東京オリンピック・パラリンピッ
クを待つ間もなく日本の国際化は加速しています。世界で広く使われる英語によるコミュニケー
ション能力の獲得は子どもたちの未来を方向付けるといっても過言ではありません。
その最初の扉として欠かせないのが、小学校から高校に勤務する「ALT」の存在です。彼らはな
ぜ日本で教えたいと思ったのでしょうか。そしてどのようなトレーニングを経て学校現場に赴く
のでしょうか。ALT事業最大手
(株)インタラックを訪ね、研修の様子を取材しました。
文:長尾 康子(フリーライター)
研修システムの充実
教師としての責任を理解した
ALTだけが現場に立てる
ALTになるためには、該当教授言語
研 修のねらいは大きく2つあります。
での教育を12年間以上受けており、か
1つは学習指導要領や日本の学校制
つ学士号を取得している英語のネイテ
度の理 解、2つめは教 授力向上です。
ィブスピーカー(もしくは同等の語学力
特に学習指導要領については初日に
を所持する者)であることが前提です。
徹底して理解させます。英語教育の目
ケーションを教えるALT。2020年に向
しかし、それだけで教壇に立てるわけ
標やカリキュラム、ALTに期待される役
け、自治体から「ALTを増やしたい」とい
ではありません。インタラックでは目指
割、小学校、中学校、高等学校で使わ
う要望が増える中、児童・生徒のため
すALT像を「自分で考え成長できる人」
れる教科書の解説なども含まれます。
に優秀な人材を見つけることはますま
と定義します。子どもたちをより良く育
勤務 校の近くに住むALTは学 校の
す重要性を増しています。
むために、教室の内外での関わりの中
顔であると同時に、地域の顔でもあり
同社は2,60 0名という国内最大規
から、常に教え方を見直し、改善でき
ます。子どもや保護者以外にも多くの
模のALTを抱えていますが、中には長
るALTを送り出すことに主眼を置いて
年経験を積んだALTが、同社の外国人
います。
子どもたちに生きた英語のコミュニ
管理部門等にキャリアアップする人も
日本の学校の新年度である4月の着
少なくありません。また帰国等で退職
任に向けて来日したALT研修生は、飛
するALTに備え、定期的に採用・補充
行機を降りたらそのまま成田空港近く
を行なっています。
の施設に滞在し、1週間の採用時研修
同社は非常に厳しい採用基準を設け
ています。今回取材したのは、その採用
プロセスや条件をすべてクリアし、選抜
されて来日した海外採用者の研修です。
を受けます。今年も3月下旬に行われ
ました。
朝から夕方までの公式プログラムか
ら、夜の自主勉強会まで、内容の濃い
ウェルカムセレモニー
1
トレーナーによる研修風景
アップとなる簡単な会話、授業で用い
け方はとてもいいね」と、良い点を必ず
る単語の導入、そしてワークシートを活
ほめてから
「もう少しジェスチャーを加え
用したグループワークや会話のレッス
ると子どもたちがわかりやすいよ」と助
ン、発展的なライティング課題からまと
言するなど、厳しさの中にもやさしさと
めまで、スムーズに流れていきます。マ
温かさで研修生を導いていました。
イクを使わなくてもよく通る声と、わか
別のセミナールームでは、色とりどり
人が注目し期待をかけます。母国では当
りやすいジェスチャーや表情は、子ど
のカードを用いたゲームのバリエーショ
たり前の生活習慣も、日本では適さない
もを前に現場を踏んできた経験値の高
ンを考える研 修が行われていました。
こともあります。研修中は「学校で教え
さを感じさせます。
ある研修生はカードの色を果物に見立
る者としての心構え」をしっかり伝え、
責任ある行動がとれるように促します。
特に法令や社会規範を守ることを
模擬授業が終わったところで、授業
てて相手の「好きな果物」を当てるペ
全体の構成を解説します。教室に入る
アワークを提 案。英 語のじゃんけん
瞬間の印象づくりから、板書の方法、
“Rock, Scissors, Papers”も覚えら
れる楽しいゲームを考えました。
重視し、厚生労働省の職員を招いた反
フラッシュカードのもち方から視線移
社会的行動防止の講演も行ないます
動、単語選びまで、すべてが意図的に
約10 分の 模 擬 授 業の後にトレー
が、ただ厳しくルールを押し付けるだけ
計画されていると知り、研修生は驚い
ナーがアドバイスをします。じゃんけ
では萎縮させてしまいます。研修中は
た様子です。指導案をもとにした質疑
んでは“Loser”
という言 葉は使わず、
同社の外国人スタッフが「なぜそうする
では「フラッシュカードを出すテンポは
“Partner”と表現し、ジェスチャーとシ
のか」
「どのようにしたらいいのか」を、
どのくらいですか?」など、積極的に手
ンプルな単語でルールを伝える方法を
自身の豊富な経験と共に伝えていきま
があがっていました。日本の新採用の
教えていました。細かく丁寧なアドバイ
す。こうした準備期間があるため、ALT
先生が校内研修で先輩の授業を見て
スは、実際に教室に入った後にも役立
はスムーズに日本での生活を始められ
憧れを抱くように、一流のデモンストレ
つことでしょう。
るのです。
ーションを見ることで研修生の気持ち
も上昇していくのです。
お手本となる授業を見て、背景にあ
る指導の理論を知り、自分でもやって
続いて、模擬授業と同じウォーミン
みる。助言をもとに授業案を練り直し、
グアップの部分に研修生が挑戦です。
実演を繰り返す。計画(plan)→実行
小グループになり、1人の研 修生が先
(do)→評価(check)→改善(action)
生役、残りのメンバーが生徒役になり
のPDCAサイクルを経験する中で、教
採用時 研 修のねらいの2つめは教
ます。各グループにはトレーナーと呼ば
授力が短期間のうちに身に付くのです。
授力の向上です。ここでは徹底した演
れる現役ALTが1人つき、研 修生の一
グループワークでは仲間のやり方を見
習形式で現場ですぐに役立つ技術を
挙手一投足にわたりアドバイスをしてい
て自分の番では別のやり方をしてみよ
磨いていきます。研修2日目の午後は、
きます。
うという意欲や、こちらの方がいいので
指導案を練り
模擬授業を繰り返す
ぐんぐん成長するALTたち
緊張して話し方が速くなったり、未習
はないか、という案を積極的にトレーナ
の英単語を用いてしまったり、板書がく
ーにぶつけるなど盛り上がりを見せて
最初に現役ALTが模擬授業を見せ
せ字になったりと皆、四苦八苦。けれど
いました。
ます。不定詞の単元をメインにした、本
も授業を盛り上げようという強い気持
ALTの事前研 修がこれほど実践的
番同様の50分の授業を実演しました。
ちが伝わってきます。その熱意に応え
に行われていることは、あまり知られて
授業開始時の挨拶から、ウォーミング
るようにトレーナーたちも「今の呼びか
いないのではないでしょうか。まるで英
中学1年生向けの授業を組み立てる演
習が行われていました。
2
語科 教員の研究大会を見ているよう
は、海外 採用を担当する同社の海外
ALTとして生活する中で柔軟性を試さ
な、その熱気と真剣さに胸が熱くなりま
法人、インタラックアメリカのスティー
れるような場面に何度も遭遇している
した。 ブン・マデセン取締役と、リシェル・ト
といいます。
デモンストレーションを行なった同社
東京第1支店のトレーナー、ピーター・
リケル部長も参加しており、話を聞くこ
とができました。
「ALT勤務初日に、ある先生からアメ
リカの国内情勢について質問されたの
レナードさんは「ALTの技量とは、いか
「日本で働きたい、英語を教えてみた
です。
『難しい問題ですね 』と答えまし
に自分が 話すかではなく、いかに児
いと考える人は多く、また採用したい日
たが、とてもびっくりしてしまいました。
童・生徒から発話を引き出すか、その
本企業もたくさんありますから、優秀な
政治の他にも年齢や血液型など、アメ
機会をいかに作れるかにかかっていま
人材を獲得するための競争は厳しさを
リカでは初対面の相手に尋ねるのがた
す」と話します。コミュニケーション重
増しています」と話すのはマデセン取
めらわれる事 柄があります。けれども
視の英語指導において、ALTの役割を
締役です。日本文化に魅かれて「英語
“今、自分は日本にいるのだ ”と、考え
熟知したリーダーがいることで、伸びし
を教えながら住んでみたい」という応
直し、驚かないようにしました。ALTに
ろのある新任ALTを現場に送り出せま
募者も多いそうです。
なろうとする人は柔軟な考え方をもって
ほしいと思います。その意味では教え
す。また、グループワークをサポートす
そうした応募者の中から、リクルータ
る先輩ALTは新任のよき相談相手にな
ーと呼ばれる採用担当がALTにふさわ
り、後輩を支えることを通して成長でき
しい人物を推薦するシステムがありま
ます。これは日本人の教員が育っていく
す。リクルーターは全員、日本でALTを
「学校は日本社会の縮図で、いろい
プロセスとよく似ています。同社が全国
はじめとする英語指導経験をもつ人に
ろなことを学ばせてもらいました。ある
の教育委員会から高い評価を受けてい
限られ、ALTとしての資質があるかを見
時、靴を履き替えずに校舎に入ってしま
る理由は、教師としての成長を促す独自
極めて面接に送り出すのです。採用に
ったことがあったのですが、子どもたち
の研修システムにあったのです。
おいては、年間約14,000人の書類応
は私を見て笑って、それでおしまいです。
募がある中で、採用されるのは400人
適性ある人材の獲得に 奔走するリクルーターの存在
採用時の厳しい審査
採 用時 研 修に参加するALTは、同
程度という狭き門となっています。
る力4割、人間力6割と考えています」
(マデセン取締役)
『失敗した、恥ずかしい』という気持ち
は一瞬で済んだのでほっとしたのです
では、面接を通り、ALTとして採用さ
が、その後、日本人の家を訪ねた時は、
れるのは、どのような人物なのでしょう
きちんと靴を脱いでから上がれました。
か。リシェル・トリケル部長は「意欲と
柔軟性を併せもつ人物」だと指摘しま
社の厳しい審査をくぐり抜けて選抜さ
す。
「教師になろうという意欲のある人、
れてきました。同社は全国各地で採用
子どもが好きな人であること。そして異
セミナーを開催するなど、国内採用も
文化への適応力などを重視しています。
活発に行なっていますが、最も多くの応
学校でほかの先生とうまくやれるか、ア
募者を集めているのが、アメリカ、カナ
パートの近隣の人たちとの間にトラブル
ダ、カリブの3エリアで行う海外採用で
なく過ごせるか等、自分を環境に合わせ
す。ニューヨークやシカゴ、シアトル、
られる柔軟性の高い人を採用します」
。
バンクーバー、トロント、キングストンな
実はこの2人も元ALT。10年以上前
どの大都市で採用セミナーを開き、面
に「採用時研修」を受け、日本の小学
接を行います。今回の採用時研修に
校や中学校で教えた経験があります。
Interac America スティーブン マデセン、リシェル トリケル
3
あの時、子どもたちが教えてくれたおか
「もうすぐ子どもたちの前で教えるの
げだと思いましたね」
(トリケル部長)
だ」という期待を高めているようです。
日本での思い出話に花が咲く2人の
オーストラリア出身のティエナン・シ
様子を見ていると、ALTという仕事は
ルコックさんは、採用時研修について
情熱を傾けるだけの「意味のある仕事」
「集中的なトレーニングで情報がたくさ
という使命感をもち、採用にあたってい
んあり、ためになります。自信をもつこ
ることがよくわかります。
とが大事だと思いました。小さい頃、日
り、新 任ALTもそれに参加します。先
「私たちの役目は、世界でより重要さ
本に1年間住んでいたので、より日本に
輩ALTとの交流を通して、現場での悩
を増している英語の運用能力を高めな
関わりたいと思って応募しました。児
みを相談し、教授改善のヒントを得る
がら、日本の子どもたちに異文化体験
童・生徒が楽しみながら英語を話せる
ことができるといいます。また、1年に
をしてもらうことです。そしてもう1つは、
授業を目指したいです」と抱負を語り
数回、同社のトレーナースタッフが学校
ALTとなる人自身に成長の機会を提供
ます。
を訪問し、授業見学と評価を行います。
役所での手続きをサポートする日本人スタッフ
することです。企業でも家庭でも“教
イギリス出身のリース・モーガンさん
配置後の継続的なフォローと研修で、新
える”技術は大切です。将来、ALT以
も研修でALTとしての自覚が高まった
任ALTも徐々に日本の生活に慣れ、授
外の職業に就くことになっても日本で
ようです。
「イギリスは日本と同じ島国
業に集中できるようになっていくのです。
のこの貴重な経験を、人生の中で活か
で親近感があります。英語を活かして
ここまで取材してきた海外採用者に
せるようなチャンスにしてほしいと考え
教える仕事をしたくて応募しました。研
対する研修は、国内で採用したALTに
ています」
(マデセン取締役)
修では英語で教えることを、ジェスチャ
も同様に実施されています。現場で必
ーやアクションに変えて表現することを
要な知識とスキルをもって現場に立て
学びました。子どもたちが英語を話す
るように育成されますし、スキルアップ
のが好きになる、そんなALTになりたい
のために継続して行われる「オンゴー
です」
。
イング 研 修」は、採用ルートに関わら
これから日本の学校で
教えます! はばたく新ALTの声
研修会場に戻ると、2日目午後のプ
ログラムが佳境を迎えていました。実
践的なトレーニングが続き、研修生は
新 ALT
4
ず、すべてのALTが年間を通して継続し
手厚いALTサポート体制と
継続的なALT研修
て受講するシステムになっています。
意欲ある応募者を海外で直接採用
し、文部科学省が目指す英語教育の
1週間の採用時研修を終えると、全
方向性をトータルに理解させ、スキル
国各地域への配置となります。同社の
と人間性を備えたALTを育てる。これ
各支店に勤務する日本人社員や地域
はインタラックの経営理念の一つであ
コーディネーターが学校への挨拶まわ
る“全人格的教育を目指す ”ことに直
りに同行、新学期が始まったその日か
結し、子どもの輝く未来に貢献したい
ら1人で時間通りに出勤し、授業を行な
という情熱の表れです。ハードな研修
えるように生活面でも手厚いフォローを
を修了した新ALTのフレッシュな力と、
しています。
先輩トレーナー、支店に常駐する外国
さらに、長期休業中の研 修や月例
人スタッフと日本人スタッフの力が一丸
研 修が、都道府県単位から市町村単
となって、日本の英語教育の推進を縁
位、校種別までさまざまに準備されてお
の下から支えているのです。