3.3. 社会秩序の推論 社会心理学特殊講義(高木) 2000.07.13 この3.3.は大部分、以下に基づいています。 •高木英至 (1999) 「社会科学におけるシミュレーション研究の現状」、『日本ファジー学会誌』、11巻、30-42. •高木英至 (1998) 「社会秩序のシミュレーション」. 『オペレーションズ・リサーチ』, 43(7), 389-394. 1.群居と分居 Sugarscape のシミュレーション Epstein & Axtell (1996) 食糧クラスタにエージェントの群居が生じる 食糧の再生率に応じて移民の波が生じること 視力の良いエージェントは渡り鳥型の移動、視力の悪いエージェントは 冬眠定住型 食糧採取に伴う公害(負の外部性)が集合的移動を生む 他者からの有益な情報による群居 捕食者からの逃避のシグナル 生存技術の学習 分居(segregation) Schelling (1971)、 Sakoda (1971)、Epstein & Axtell (1996) 2.親族組織 血縁選択説 子供への親の利他性と、子供の側の親への接 近傾向の共進化(Parisi et al.,1995) 親族組織の進化をシミュレートする試み 3.利他性(altruism) 非血縁的利他性の可能性 「基礎社会」、ゲマインシャフト 一般交換としての利他性 部 族 外 部 族 村 落 氏 族 家 族 負 の 互 酬 均 衡 互 酬 一 般 互 酬 り 合 っ た 一 般 交 換 = 利 他 性釣 限 定 交 換 社 会 的 交 換 の サ ー リ ン ズ 説 一 般 交 換 ( 利 他 性 ) 無条件利他戦略:Altruist 無条件に他者に自分の資源をすべて与える。 Altruist だけの社会は効率的(高い利得を実現させる。) 利他性の実現を保障しない[孤立主義者(NonCoop)の侵入に無防備]。 条件付き利他戦略:C_Alt(x,y) x:他者に与える資源総量 y:与える相手の資格条件(y 以上を他者に与える者に与える) x, y が固定されている → C_Alt は NonCoop を駆逐する。→ 利他性の実現 x, y が可変のとき → C_Alt は NonCoop に淘汰されることがある。 100 60 40 20 0 1 0 0 8 0 N 0.0 C 6 0 2.5 C 5.0 C 4 0 C 7.5 C 2 0 10.0 Players 80 Players 0 Ro u R ound 内集団利他戦略:I_Alt(x,y) y 以上を他者に与える者を「仲間」とみなす。仲間にだけ与える。 しかし仲間に y 以上を与えていない仲間は仲間から外す。 I_Alt は安定的に NonCoop を淘汰できる。→ 利他性の実現 I_Alt による利他性の実現:その意味 社会を「善き市民」と「逸脱者」に分割。逸脱者を差別する。 利他性の実現には排他性(非寛容性)が必要。 4.基礎社会 基礎社会 (communal societies):利他性(一般交換)が 生じる社会圏 利他性によって固有の社会秩序が生まれる。 集団中心主義(group-centrism) 社交の階層化 弱者のサポート 正義 例:社会的ディレンマの解決 集団内で利他性(一般交換)ゲームと公共財供給ゲームが共存 「良き市民」の基準に利他的であることと公共財に貢献することが含ま れるようになる → 公共財が供給されやすくなる。 5.規範形成 「見つけた者勝ち」の規範(Conte & Castelfranchi, 1995) 相互の強さの考慮あり/なしで攻撃をする場合に比べ、攻撃は生じにく く、エージェントの福祉は高く、不平等も少ない。 規範ゲーム:Axelrod (1986, 1997) エージェントはコストを払って非協力者を罰する選択肢を持つ(規範ゲー ム) → 科罰水準の低下、規範の崩壊 メタ規範(罰に加わらない者も罰の対象にする)→規範の維持 分配正義の生成 異なった分配ルールを持つ協働集団 どの分配ルールが支配的になるか? 6.富の不平等 Epstein & Axtell (1996) sugarscape において富の不平等が進化(ジニ係数が上昇) 富の相続や(複数資源の)取引可能性を導入することで不平等はさら増 大する。 7.権力構造 貢物システム:Axelrod (1995, 1997) 近隣エージェントに貢ぎ物を要求できる。 要求を受けたエージェントはしたがうか戦うかを決定し、負ければ貢ぎ 物を出す。 貢ぎ物のやりとりがあるエージェント間では戦いでも同盟する。 結果:多様なシナリオ 覇権国の成長 「帝国の過大拡張」による最大の覇権国の凋落 交換に基づく権力 前提 エージェント間に科罰可能性 エージェント間で協力の交換 他者から協力を得たエージェントは強くなる。 他 者 か ら 多 く の 協 社 会 的 交 換 科 罰 力 を 得 る と の 偏 り 能 力 が 高 ま る 強 い と 認 め ら れ 誰 が 強 い か に さ ら に る こ と で 関 す る 協 力 を 得 る R e p u t a t i o n 与える量と受け取る量のバランスは両科罰条件で崩れる。 科罰可能性の下での権力の発生 権力者 多くの協力を受け取るエージェント 被罰は少なく科罰は多い。 科罰-不平等条件では、元来強い者が権力者になりやすい。 相 1 関 0 .8 科 0 .6 科 0 .4 科 0 .2 0 ラ 科 罰 な し 条 件 科 罰 - 平 等 条 件 科 罰 - 不 平 等 条 件 ウ 8.分業 蟻の社会のシミュレーション Drogoul & Ferber (1994a,b) エージェントの蟻は刺激(例:空腹の蟻)によって活性化された反応(例: 食事を与える)を選ぶ。 機能特化した5つのエージェント集団による分業 Epstein & Axtell (1996) ワルラス的調整機構のない人工的市場である。 文献 下記の論文の参考文献を高木のホームページからダウンロードできる ようにしておきます。 高木英至 (1999) 「社会科学におけるシミュレーション研究の現状」、『日本 ファジー学会誌』、11巻、30-42. 追加の文献 Nowak, M.A. & Sigmund, K. (1998) Evolution of indirect reciprocity by image scoring. Nature, Vol.393, 6685, pp. 573-577 Takagi, E. (1999) Solving Social Dilemmas is Easy in a Communal Society. In M. Foddy, M. Smithson, M. Hogg & S. Schneider (Eds.) Resolving Social Dilemmas. NY: Psychology Press. Takahashi, N. (2000). The emergenece of generalized exchange. American Journal of Sociology, 105, 1105-1134. 山岸俊男 (1998) 『信頼の構造』 東京大学出版会
© Copyright 2025 ExpyDoc