「オガールプロジェクト」 一歩先の公民連携 特集 「 こ れ か ら 先、 人 口 減 少 に 伴 っ て 税収も減っていく。しかし、住民の 行政に対する要望は膨れ上がってい くでしょう。そこに生まれるギャッ プを埋める取り組みに、民間の知恵 や資金力を活用しようというのがP PPの発想です。紫波町も1998 年 に ・5 億 か け て 紫 波 町 駅 前 の 土 地を買ったものの、その年が税収の ピーク。施設建設に資金を投入でき ず 年間も更地のままでしたが、当 時の町長が公民連携によって何とか この土地を活用しようとした。それ が オ ガ ー ル プ ロ ジ ェ ク ト で す。『 岡 崎君土地はあるよ』って言われまし た( 笑 )。 し か し、 私 一 人 が 声 を あ げたところで、公の中に自分と考え を 共 有 で き る 人 間 が い な け れ ば、 ムーブメントは起きない。一緒にや るならば、地主=紫波町の覚悟を示 してほしいと伝えました」。 そして、半年遅れて町の職員が同 大学院に送りこまれたのです。 28 「 従 来 型 のP P P は 公 が 民 に 対 し 仕事を発注する形でした。でも、紫 波町の場合は民にすべてが委ねられ ています。紫波町が全国的に有名に なった唯一無二の理由は、行政が民 に委ねる覚悟を持ったこと。公がで きることは、民間活動がスムーズに い く よ う に 制 度 設 計 を 見 直 し、 預 かった税金の再配分をすることです。 プロジェクト遂行を担うオガール紫 オガール独自の公民連携 12 紫波町における PPPのはじまり 2009年、紫波町は駅前の町有 地 ・7 を 中 心 と し た 都 市 整 備 を 図る、紫波町公民連携基本計画を策 定。紫波中央駅前都市整備事業「オ ガールプロジェクト」をスタートさ せました。そのベースにあるPPP ( パ ブ リ ッ ク・ プ ラ イ ベ ー ト・ パ ー トナーシップ)とは、公と民が連携 して公共サービスの提供を行うしく み。同プロジェクトのリーダーであ る岡崎正信さんがPPPに着目した のがきっかけです。 7年間、東京で国の行政機関に勤 務したのち、実家の建設業を継ぐた めに帰郷。しかし、建設業界の厳し い現状を目の当たりにし、将来に危 機感を持った岡崎さんは、町の活性 化を提案できる建設会社になる糸口 として、2006年から東洋大学大 学院でPPPについて学び始めます。 ちょうどその頃、当時の紫波町長か ら声をかけられたのでした。 「地方創生の本質は、仕事」と岡崎さん 開館から丸3年で来館者 100 万人。人口 3 万 3000 人の町 なかにある「オガールプラザ」の誘引力が、ここ数年全国の 注目を集めています。その背景にあるのは2009 年から進め てきた「オガールプロジェクト」 。一般的に知られるPPPのさ らに先を行く独自の取り組みの核にある姿勢を学ぶべく、同 プロジェクト代表・岡崎正信さんのもとを訪ねました。 世界に通じるメンバーをそろえた「デザイン会議」で創りあげた、魂のこもったディティールが散りばめられたオガールプラザ 10 ha 2 27 仕上げをせず、排管むき出しの天井は予算削減のため。しかし、これ に対するクレームは一つもないとのこと の負のスパイラルを解決していくの が 地 方 創 生 の 本 質 」 だ と 強 く 語 り、 まちづくりでいう紫波町の活性化と は、産業と雇用開発の2点しかない と言い切ります。 デザインの重要性 プロジェクトを進めるにあたって、 前町長はその趣旨を理解してもらう ため、自ら100回以上も出向いて 住民説明会を行いました。ただ、集 まる世代は固定化しており、まちづ くりに興味のない大多数派「声なき マジョリティ」に対するアプローチ が必要です。それこそが、自分の役 割と岡崎さんは話します。 「街のあり方に関心のない若い層 も、おいしい食べ物、かわいい女の 子やカッコいい男性に会える、カッ コいい都市空間などへの関心は高い。 その欲望をくすぐるため、オガール プラザ建設にあたって大事にしたの が『デザイン』です。多くの人を呼 び込み、テナントに潤ってもらうた めには、カッコ良さが重要。カッコ 良さって必要とされる正義だと思っ ています」。 岡崎さんを含む外部の専門家によ る「デザイン会議」では、声なきマ ジョリティをターゲットに4つのコ ンテンツを軸にした都市計画を構築。 健 康 志 向 を 踏 ま え た ワ イ ン、 コ ー ヒー、自転車、オーガニックはどれ も紫波の資源であり、人を呼び込む 価値につながっていくはずです。レ スポンスもすでに表れており、例え ば、 オ ガ ー ル ベ ー ス は、「 週 刊 プ レ イボーイ」の誌面企画で日本一無料 朝食が充実しているビジネスホテル として紹介されたのだとか。 「ここは紫波マルシェと連携して 地産地消の朝食を提供していますが、 今後は一般客にも開放してランチバ イキングをやる予定。マルシェの野 菜を上手に仕入れて弁当も販売して いきます。事業利益を追及する方策 の一つですよ。また、敷地内にロン ド ン で は 良 く 知 ら れ た『 チ ャ リ カ フェ』もオープンしたい。将来的に は紫波町ロードレースを、ここから 始められたらカッコいいですね」。 岡崎さんのストーリーは広がって いきますが、その根本にあるのはあ くまで建設会社の経営者として、従 業員を守ること。事業として真剣に 利益を追及するには、街全体がもっ と元気になる必要があると感じた故 の取り組みです。 「 本 来、 活 性 化 は 行 政 が す べ き こ とではない。稼げる民間企業だから できるのです。紫波の場合に限らず、 あらゆるプロジェクトに共通するの は、外部の無責任なコンサルタント に任せずに、住民自身、事業を展開 で き る 人 が 将 来 図 を 描 く こ と。 今、 話題のILCについても研究施設は 別として、そこに広がる街は完全に 民間資金でつくるべきです。そして その方がよほど素敵な街になると思 います」。 3 波㈱の役割は、事業計画を立てて資 2012年にオガールプラザ、2 金調達し、民間企業との交渉、テナ 014年に宿泊施設やアリーナを備 ン ト 集 め 等 整 備 事 業 を 進 め る こ と。 え た オ ガ ー ル ベ ー ス が オ ー プ ン し、 予算の無駄をそぎ落とし、お客が集 真 剣 に 事 業 と し て 取 り 組 ん だ 結 果、 まるしくみをつくりあげることで 現在オガールプラザで105人、オ す」。 ガールベースで 人の雇用が生まれ、 こうして、補助金を1円も使わず、 産直マルシェで290人の生産者所 銀行からのシビアなチェックを何度 得向上という成果が出ています( も 何 度 も 受 け、 共 有 床 面 積 わ ず か 年 月)。 %という無駄のない建物・オガー 「まちづくりを担う企業は一般の ルプラザが完成。建設後は図書館と 民間企業と違い、儲けた利益をこの 地 域 交 流 セ ン タ ー を 紫 波 町 に 売 却、 エリアに再投資するのが基本。利益 それ以外の施設を民間が所有し、紫 を再投資してお客さんの誘致につな 波町に固定資産税と土地代を支払っ げ、魅力的な空間づくりに努めてい ています。町はその土地代と固定資 くのがスタンスです」。 産 税 を 原 資 に 図 書 館 を 経 営。「 稼 ぐ 今、 世 の 中 を 駆 け 巡 る「 地 方 創 インフラ」という、公民連携のなか 生」というキーワード。それに対し でも先駆的なスタイルを実現してい て 岡 崎 さ ん は、「 い く ら、 地 域 に 子 るのです。 供がたくさん誕生しても、仕事がな ければ『住む』ことはできない。雇 用がない→人の流出→雇用環境悪化 14 「紫波町立図書館」。スタッフが自主的に企画を催すことで、オガールプラザに人を 呼び込む吸引力になっています 4 65
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