危ない!!と感じたら・・・・資産・負債の棚卸しをしよう ◆試算表・解体新書◆ 危機管理の第一歩 清算貸借対照表のつくり方 細 野 孟 士(株式会社ホロニックス総研 ◇リスク・カウンセラー ◇ファイナンシャル・プランナー 代表取締役) ◇産業カウンセラー 1944年愛知県生まれ。「経営計画シミュレーション・ツール」を用い、現場に踏み込んだ独特の切り口に より「経営改善」「事務改善」等を実践に重点をおいたコンサルタント業務を行う。中小企業の経営者及び資産 家の危機管理支援。企業経営者の事業承継、事業撤退などのファイナンシャル・プランナー業務を行ってきた。 1996年4月に「経営危機対策研究グループ」を設立し、永年に亘って構築してきた専門家組織「ホロニックス・ 専門家ネットワーク」を有機的に活用し、バブル崩壊後の経済下における危機問題の解決やその支援を行ってい る。 近年は、中高年勤労者の家庭生活や企業経営者の様々な危機管理対策を仏教医学と対比させ、健康3K(こ ころ・からだ・けいざい)の啓蒙活動としてミニ・セミナーやカウンセリングを行っている。とくに、問題を解 決した後に再起への道を志す人々に対する支援活動を積極的に行っている。著書として「会社の危機いざのとき 事典」(中経出版社)等 ワラをも掴む想いで私の事務所に尋ねてくる社長達に、果たしてここに来るまでに何を考え、 誰に相談しどんな想いでいるのかを尋ねると、殆どの社長が顧問税理士に相談せずに(相談でき ずに)お金の臭いのする処へ行って資金繰りに奔走していた日々を語り、精も根も尽きたことを 打ち明けはじめるのです。 相談を受けた私にとって、何とか窮状を打破したいと一心に願うこの社長の場合には、明晰な 決断力、ねばり強い勇気と機敏な行動力を活性化できるようにし、今までの栄光や見栄との決別 の大切さを理解してもらえる柔軟な姿勢で私の話に耳を傾けてもらえることが解決の第一歩なの です。 来月になれば、いや来年こそは景気が回復するだろう・・・・と線香の先の点のような僅かな明か りにさえも希望の灯火になることを願い続けて頑張ってきた中小企業の社長達が、今日の混沌と した経済の中でどこまで頑張り続けることが出来るのだろうか。いや、、頑張り続けることが適 切な選択肢なのか。 窮状を乗り切ろうと、その社長が頑張り続けてきたこの数年間、数ヶ月間の日々の足跡を一気 に語り終わってしばしの沈黙。私は決算書や試算表を見ながらたっぷり時間をかけ、少しずつ質 問して言いたがらない口を開かせ「清算貸借対照表」を作り上げてゆくのです。 これから後の場面で、その社長がどのように出来上がった「清算貸借対照表」を観ていくかが 大きな分岐点になると考えています。自分が永年に亘って経営してきた会社の決算内容が「清算 貸借対照表」によって丸裸にされたとき、私と同じ目線で、客観的になった会社の財務内容を分 析する意識を持っている社長は、もっと早く相談しておけば良かったとしみじみ語ります。一方、 「清算貸借対照表」の実態を否定してでも、更に事業を続けたいと声を大にして語る社長がいま す。果たしてどちらがいいのでしょうか。 -1- このまま頑張るべきか・・・・出直すべきか 社長にとって都合のいい税理士は・・・・ 粉飾決算に荷担してきた税理士の功罪 会計事務所にお願いしているのは、自分で は面倒で難解な確定申告書を作成できないし、 ◆粉飾試算表で生き延びるの? 自分で伝票入力をするのが面倒だから・・・・ぐ 来月の資金繰りの目途がつかない!手形の らいに考えている社長が多いのです。毎月の 決済できそうにない!お客が倒産して売掛金 顧問料を伝票の事務処理料ぐらいに考え、決 が回収できない!とうとう不渡を出してしま 算処理は申告書の作成費用と思っているので った!・・・・どうしたらいいのか。 すから、毎月支払う5万円(現実はこれでも 社長は高いと思っている)から10万円の顧 どうやっても資金繰りの見通しの立たなく なった社長達は、友人や街の金融へ駆け込み 問料を惜しんでいる社長も少なくありません。 何とか会社が生き延びるためにお金を借りて お金を借りるのに、自分が一番理解しやす きます。返済の目途がないことを知りつつ、 いのが試算表の「損益計算書」なので、売上 ただひたすら金を集めて資金繰りをしている 高を増やしたり、仕入高や経費計上を減らし のです。 たりを粉飾しているのですからどうにも手の 付けようがありません。 公的資金からの借入をするためと言って会 計事務所に利益が出たかのような試算表を作 ◆税理士に相談できない社長達 ってもらい、黒字の試算表でどうにか借り入 れできたもの、その資金は砂に水を撒くかの ように消えてしまった。 そんなわけですから、自業自得といえばそ 黒字に作り直してもらった試算表であった れまでですが、今更、会計事務所に相談する ものが、社長にとって「自分の会社は黒字だ ことさえも出来ずに3ヶ月、半年と、いたず から資金さえあれば何とか生き延びられる・・・ らに無駄な時間を過ごし、ついに破綻直前に ・」という、とんでもない錯覚に陥り、黒字に まで至ってしまうのです。 作り直す前の赤字の試算表のことなど、すっ このような状況を客観的に観たときに、そ かり頭の中から消えてしまっているのですか の日まで、それを許してしまった会計事務所 ら困ったものです。 の在り方についての功罪が気になって仕方あ りません。 独走してしまう社長が必死になって頑張り ◆損益計算書の数字で黒字? 続けようとする気持ちに敢えてブレーキをか 普段から「決算報告書」や「試算表」の内 けることを強いてでも、客観的な視点でみら 容を見慣れない中小企業の社長がいかに多い れる「清算貸借対照表」を作り上げることを ことか。 提言するのです。 -2- 我が社の健康度を・・・・・難解な試算表を絵にしてみよう 清算貸借対照表は人間ドックと同じ ◆試算表を易しく理解する ◆粉飾決算の継続は致命傷 試算表にはその会社の経営情報が詰まって 資金繰りが苦しく経営が危ういくなり駆け いることは周知の通りですが、試算表のるの 込んでくる経営者から試算表を見せていただ は経理担当者に任せるとして、経営者の眼は き、試算表の内訳を伺っていくとガンの末期 その試算表の顕す意味を、大局的にとらえイ 症状のように手の付けようがない状態である メージとして残しておく事が大切なのではな ことがほとんどです。 いでしょうか。 案の定、金融機関から融資を受けるため、 取引先に提出するため等と過去に苦し紛れの 粉飾決算をしたものの、粉飾前の状態に戻せ ◆試算表は健康診断書と成績表 ないまま3∼5年と経過し、現実にありもし ない資産がそのまま計上され放置されている 中小企業の経営者にとって会社は自分その 例が多々あります。 ものであるわけですから、会社を知るための 試算表の結果を真摯に受け止め正しく理解し ていなければなりません。 「貸借対照表」と「損益計算書」の2枚に よって構成される試算表ですが、経営者にと っては1枚目の「貸借対照表」こそ大切なも のなのです。 貸借対照表は 、会社が創立から今日まで蓄 積されてきた体力と健康や疾病の状態を示す 「健康診断書」の役割を持っているからです。 損益計算書 は、その学年にどれだけの成績を あげたかを示す 「学年成績表」 と言えます。 5年生で成績が悪い成績も6年生では頑張ら ればと捉えればいいわけでして、ややもする と、成績ばかりを気にしすぎて、身体の健康 状態をボロボロにしていたのでは全く意味が ありません。 -3- の意味があります。 ◆天秤計には事実のみ乗せる 平常時には気にならなかった 資産 と 負債 の 経営にとって大切なことは、会社の体力が バランスも、急激な業績不振が生じたときに 健康であることに尽きるわけです。会社の健 持久力を確認するための指数 を示す重要なポ 康をほったらかしにして利益ばかり追求して イントとなるわけです。 も全く意味がない努力と言わざるをえません。 ◆他の財務諸表との連携チェック 体力があり健康でありさえすれば、成績はす ぐに挽回できるというものですし、金融機関 や取引先は、一時的な業績低下よりも、その 「3期連続比較表」「決算推移表 」「資金繰 会社に体力があり十分に力を発揮出来る裏付 り表」なども、真実の数字を洗い直したうえ けを観ているのです。 で作成し、「清算貸借対照表」と連携させてチ ェックします。 「清算貸借対照表」は 健康診断書 ですから 会社の数字の隅々までチェックし、換価でき それにより、時系列的な傾向がはっきりし ないにもかかわらず資産として計上していた た「 健康カルテ」 が作成でき、会社の実態を 粉飾分の数字を除外 し、ありのままの真実の ふまえた経営に当たることができます。 数字のみを計上することによって 健康診断書 天秤ばかりで観る 清算貸借対照表 リース 債務 買掛金 差異の不足分は 個人保証によって 埋めなければならない 不動産 売掛金 (個人保証) (個人保証) 借入金 未払金 商品 預り金 (個人保証) 預金 保証金 受取手形 支払手形 投資 資産の部 負債の部 【バランスがとれていない場合】 ③個人の保証債務 保証不可能な債務が残る 保証不可能な債務 -4- ◆借入金は、提供担保、保証人が誰かを確認しておく ◆買掛金は、個人保証の取引契約をしている場合がある ◆リース債務は解約した場合の残金額を計上する ◇不動産・ 固定資産などは、換価した場合の金額を計上 ◇商品は、換価できないものは計上しない ◇売掛金の、回収不可の金額は計上しない ◇預貯金・ 受取手形の担保付は明記しておく 【バランスがとれている場合】 ①事業内容と安定性の評価 ②取引先の与信度 ③個人資産の担保保証 によってバランスしている 清算貸借対照表 平成 資産の部 財産目録の名称 月 評価金額 債務の名称 A 支払手形 ② 売掛金 B 買掛金 ④ 商 C 短期借入金 ⑤ 原材料 D 未払い金 ⑥ 貸付金・前払い金 E 未払費用 ⑦ 土地・建物 F 前受金・仮受金 ⑧ 機械装置 G 預り金 ⑨ 工具・器具・備品 H 未払法人税 ⑩ 車両運搬具 I 長期借入金 ⑪ 営業権・特許権 J 預かり保証金 ⑫ 投資有価証券 K 退職給与引当金 ⑬ 保証金・敷金 L リース債務 評価金額 ⑭ 保険積立金 ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ ⑲ 合 計 差引金額 日現在 負債の部 ① 現金・預金 品 年 合 計 =資産合計−債務合計 ◆勘定科目の記載がない場合は空欄に追記して作成してください。 -5- は、会社に危機が生じ、万一の事態が生じた 場合に、会社や個人の立場での具体的な備え ◆会社の危機は個人の危機 をするためのものなのです。 会計財務に明るい社長はともかく、営業出 毎日のように報道される上場企業の経営危 身の社長は、確固たる営業力により売上維持 機情報や倒産情報の中で、中小企業の財務体 さえできれば・・・・と、モノづくりに忙しい社 制における危機管理は十分に出来ているので 長は、いいモノさえ造っていれば・・・・と言い しょうか。 ます。然しながら、財務体質を盤石な状態に 万一のとき、社長を信頼する社員や家族、 してから・・・・とはなかなか聞くことが出来な 保証人の友人達を素早く守れるようにする為 いのは、昨今の経済状況下における金融機関 にも、常に真実の会社の姿を知っておくこと の貸し渋り政策の影響によるものであるかも が大切です。 知れません。 ◆絵で観る「貸借対照表」 金融機関は、中小企業を会社も社長個人も 一体のモノとして評価しているのが実態です から、会社に経営危機があった場合は殆ど同 試算表を手にすると売上、経費、利益がわ 時に個人財務にも危機が及ぶことになるわけ かる「損益計算書」に目が向いてしまいがち です。 ですが「貸借対照表」に目を通し会社の 健康 チェックをして欲しいのです。 試算表の数字を細かく読むことも大切です ◆財務危機への備えとして が、時にはイメージで観る 「健康カルテ」 と して絵図に作り直してみることをおすすめし 「試算表」をこまめにチェックすることや ます。 「清算貸借対照表」 づくりを提案しているの 試算表もパターン化して観ると分かりやすい (試算表の数値を面グラフとして加工する) 資金繰りがキツイときのパターン 資産の部 負債の部 金 額 支払手形 買掛金 短期借入金 未払い金 未払費用 借受金・預り金 未払法人税 賞与引当金 割引手形・裏書手形 長期借入金 固定 負債 固定 資 産 現金・預金 売掛金 受取手形 商品・原材料 短期貸付金 土地・建物 機械装置 工具器具 保証金・敷金 投資有価証券 資金繰りが楽なときのパターン 金 額 資産の部 現金・預金 売掛金 受取手形 商品・原材料 短期貸付金 土地・建物 機械装置 工具器具 保証金・敷金 投資有価証券 -6- 負債の部 支払手形 買掛金 短期借入金 未払い金 未払費用 借受金・預り金 未払法人税 賞与引当金 割引手形・裏書手形 長期借入金 流動負債 流動資産 金 額 金 額 清算貸借対照表・記入のポイント に分析してみましょう。預貯金の殆どが金融 機関からの 借入金と相殺 されていることがわ ◆作成のまえに かります。万一の時には、借入先の金融機関 清算貸借対照表は、 「清算B/S」とも言い、 に真っ先に押さえられてしまい、借入の担保 「月次試算表」又は「決算書」の貸借対照表 として差し入れているわけでもないのに、預 の数字から、今、会社を清算した場合におけ 金を引き出すことが出来なくなってしまうの る 資産と負債のバランス を確認し、その差異 です。こんな事態に備えて、借入金のある金 を知ることで客観的に観た自社の与信度や財 融機関への預金は、借入金のない金融機関へ 務体力を知ることです。 預け替えておくのも一つの考え方です。流動 当然のことながら 粉飾部分は取り除き で、 資産の中で、商品や原材料の評価金額を算定 資産や負債のありのままの 実態の金額 を計上 すると、過去からの売れない商品が在庫とし しなければ意味がありません。 て資産計上されていたことがわかります。 貸付金や前払い金、立替金などは財務諸表 に計上されていても換価できない事由がある ◆清算貸借対照表をつくる ことがわかります。この場合は、回収できな いものして0円で評価します。 詳細ポイントは後述により説明いたします 固定資産に計上してある「土地・建物」は が、まず、①試算表の「資産の部」から 「財 金融機関からの借入金の担保として提供して 産目録」 を作成します。試算表の数字から現 いる場合が多く、換価できる資産とは言い難 時点で換価した場合の評価金額を決めます。 いのです。 ②次に「負債の部」から支払わなければなら ない債務を洗い直し 「債務一覧表」 にまとめ ◆財務の大切さに目覚め ます。借入金や買掛金は連帯保証のあるもの や相殺は注記をしておきます。③それぞれの ①及び②の金額を●●ページの「清算貸借対 思い起こしてみてください。会社を設立し 照表」に記入します。④最後に資産と負債の て事業を始めた時、限られた資本金を元手に 差異を計算して記入します。このとき、保証 始めた当時の貸借対照表はどのようなものだ 人が誰なのかを念入りにチェックして不明瞭 ったかを・・・・。それから頑張り続けた今日の のままにしておかないことが大切です。 「清算貸借対照表」は何が変わってきたのか を確認して驚くような発見があるでしょう。 せめて1年に1回、年末・年始や創立の日な ◆完成資料は客観的に分析 どに行うべき、社長にしか出来ない大切な作 業と言えるでしょう。 「清算貸借対照表」 が完成したら、客観的 -7- 財産目録(資産の部)をつくる 装置、工具備品、車両等も売却処分した場合 に売れる金額 (時価)が評価額 となります。 ◆増えることがない資産の部 ◆担保提供していないか 財産目録は、会社の全財産を換価した場合 に、はたしてどれだけの現金が残るかを確認 するための資料になります。 土地・建物は借入金の担保となっている場 「資産の部」は会社の粉飾決算の温床とも 合が殆どですが、不動産の評価額と比較して 言えるのです。すぐに元に戻すつもりであた 借入金残高が超過する場合はゼロで評価しな かも利益があるかのように決算書を仕上げて ければなりません。車両は、所有者欄が法人 金融機関に提出し、元に戻せないまま何年も 名義となっていても割賦販売契約書には「所 経過している事例を多く見ます。 作成の注 有権留保」が明記されているので契約の解除 意点は、返還、回収、売却などによって換価 の際は返還することになりますが車両の査定 が困難なものはゼロとして評価することです。 評価額ど比較しローン残高が超過する場合は ゼロで評価しなければなりません。 ◆相殺勘定の取り扱い ◆仮勘定はゼロ評価 預金と借入金 、 売掛金と買掛金 と言うよう に資産であっても取引先との間で相殺が成立 仮払消費税、不渡手形、貸倒引当金などは する勘定は 相殺後の金額 を計上します。借入 財務諸表のうえで計上しているものであって 金がある金融機関の預金残高は、借入金残高 換価できるものではありませんから当然ゼロ に充つるまではゼロで評価します。また、売 で評価します。 掛金も、同じ取引先から仕入れて買掛金残高 がある場合は、買掛金残高に充つるまではゼ ◆投資等の評価は時価 ロで評価します。 同様に、他の勘定科目においてもすべて相 投資有価証券、出資金、保証金、保険積立 殺後の金額を評価額として計上します。 金などは時価評価します。 有価証券は当日の時価、出資金は換価でき ◆売却できる金額で評価 ないものでゼロで評価します。保険積立金は、 解約時の 解約返戻金 を評価額として計上しま すので、予め返戻金の額を確認しておくこと 流動資産の中では商品在庫、仕掛品、原材 が必要になるでしょう 料など、固定資産であれば土地・建物、機械 -8- 「財産目録」 勘定科目名 簿価合計 評価金額計 名 簿価金額 評価金額 称 適 相殺等の特記事項 ◇相殺等がある場合は相殺差引後の金額を記載する ◇評価金額合計を清算貸借対照表に転記します。 ◇簿価と評価額がいかに大きく乖離しているかが明確にわかります。 -9- 要 債務一覧表(負債の部)をつくる 証協会から請求が来る(保証協会が求償)の で、決して金銭債務の残高が減るものではあ ◆減ることはない負債の部 りません。 負債の部は、貸借対照表の上でも限られた 借入の際、金融機関に提出した 金消契約書 勘定科目しかありません。粉飾決算であった (金銭消費貸借契約書)のコピーを保存して とすれば、故意に負債を少なく計上していた いないケースが多いのですが、 金消契約書 に か、誤って 計上漏れ に気がつかなかった場合 は、借入条件の金額、利息、返済方法、遅延 によるものでしょう。よほど利益がある場合 損害金、担保の内容、連帯保証人などが記載 でない限り、負債を多く計上することは殆ど されていますので、この機会に整理してくだ 考えられません。 さい。 ◆買掛金・未払費用の評価 ◆未払金その他の勘定 売掛金の場合と同様に、相殺があれば相殺 未払金、未払費用、未払消費税、預り金な 後の金額を債務額として計上します。また、 どは買掛金などと同様に債務から除外するも 請求書が未達のため買掛金や未払費用に計上 のは殆どありません。未計上の伝票がないか していないものがあれば追加計上して債務を 再度確認してください。 確定します。 割引手形や裏書手形も、期日に決済される までは安心できませんが、よほど不安な手形 ◆借入金の金消契約書を確認 がある場合は、念のため債務に計上した方が いいでしょう。 借入金が発生した原因は、運転資金のため 仮勘定の計上は「資産の部」の処理と同様 であったり不動産を取得するためであるわけ に考えてもかまいませんが、明らかに支払い です。不動産を取得するために借り入れした 義務が生じるものは債務として計上してくだ 場合は当然、購入不動産に抵当権設定がされ さい。 ますし、購入不動産の評価額によっては、自 貸借対照表に計上されていなくても、毎月 宅を共同担保として提供している場合もあり 経費として損金処理していたリース料残金は、 ますので、必ずチェックしてください。 忘れず債務として計上して下さい。 「清算 運転資金として、保証協会の保証付で借り 貸借対照表」の債務一覧を勘定科目ごとに整 入れした場合、借入金の返済が滞ると銀行が 理したら「天秤ばかり」の図に示したように、 保証協会に代位弁済を求めることになります。 取引先や個人保証の背景が具体的にご理解い その場合、後に銀行に対して代位弁済した保 ただけましたでしょうか。 - 10 - 「債務一覧表」 勘定科目名 名 称 簿価合計 評価金額計 簿価金額 評価金額 ◇相殺等がある場合は相殺差引後の金額を記載する ◇評価金額合計を清算貸借対照表に転記します。 - 11 - 適 要 相殺等の特記事項 社長の個人資産の棚卸し 資産と負債の確認をする ◆個人リスクは最小限に止める ◆会社と個人は切り離せるか 会社が資金調達する場合、資本金を増資す 会社の「清算貸借対照表」を作り上げてい る以外は借入金やリース、割賦販売などによ く中で、どの債務が個人責任を負うことにな らなければならないわけですが、それには個 り、どの債務が責任を負わずに済むものなの 人が契約書の保証人欄に署名しなければなり かがご理解いただけたと思いますが、法人債 ません。 務の中でも個人保証さえしていなければ個人 経営者は連帯保証のリスクを最小限に止め 債務とはなりません。ただ、金融機関の借入 ることを正しく認識することです。家族や知 金やリース債務は、法人契約とは言っても個 人を保証人として巻き込んで、抜き差しなら 人保証している場合が多いのでです。特に日 ぬ最悪の事態に陥っている場合が多いのです。 本の中小企業の場合取引契約においてさえ個 自分の事業の継続のために、会社に関係のな 人保証を求められる場合があります。その意 い周囲の人を債務負担の世界に巻き込んでは 味で中小企業においては会社と個人は切り離 いけません。 せないと考えるのが妥当です。 ◆個人資産と債務のバランス ◆会社と繋がらない個人資産 チェックシートに記入する前に、個人の財 個人資産には預貯金、有価証券、投資用不 動産、保険積立金、自宅の土地・建物、や貴 産や債務を●●ページの用紙を使い法人の時 と同様に整理してみてください。 資産は時価で評価し記入します。債務は住 金属や書画骨董品などがああります。 法人で借入金のある銀行に家族が預金すれ 宅ローン残高から順番に記入してください。 ば常に監視の眼が光り、それは株式配当金の やっかいなのが連帯保証の金額です。自分の 振込金、不動産の賃料収入も同様です。 会社の連帯保証はもちろんのこと、ある日突 法人の借入金について個人保証しているの 然に第三者から頼まれた連帯保証の請求がく が原則なので住宅ローンで購入した自宅も、 ることのないように日頃から確認しておいて 万一の際には差押えの対象になります。 ください。 会社の危機を家庭に持ち込まないために妻 このように考えると、財務の危機管理の為 には法人取引銀行の個人口座は安全とは言い や家族を保証人にしないことです。 万一の時、夫婦で行き詰まるのでリスク管 難いのです。 理の面から見ても決して良いことではありま せん。 - 12 - 個人資産のバランスチェック ◆財産 資産の名称 1 現金・預金・貯金 2 株式・有価証券類 3 自宅以外の不動産 4 保険積立金 5 自宅土地・建物 6 自動車 7 書画骨董品・貴金属 簿価等 評価金額 担保提供等の記述 発生金額 現在の残高 連帯保証人の記述 8 9 10 ①資産の合計 ◆負債 資産の名称 1 住宅ローン残高 2 自動車ローン残高 3 未払租税の残高 4 カードローン残高 5 信販購入の残高 6 消費者金融の残高 7 保険会社の借入残高 8 第三者の保証債務 9 10 ②負債の合計 ◆差引合計(①−②) ◆会社債務の保証金額の合計 ◆あなたの債務の総合計金額 - 13 - 法人財務のリスク管理・意識度チェック あなたの会社ではどのように対処していますか 1 試算表は翌月15日までには完成している 2 預金・貯金の残高金額は常に掌握している 3 売掛金に回収不能がないか常にチェックしている 4 支払いサイトの長い取引先は与信度により取引額の枠を定めている 5 回収した手形は借入している金融機関には預けない 6 商品在庫は予算を定めて金額管理している 7 商品は先入れ先出しを徹底しデッドストックをつくらない 8 仮払金、未収金の処理は溜めずにこまめに精算している 9 短期貸付金は常に回収を徹底し残高を確認している 10 建物等の会社資産の現在の価値を正しく評価している 11 固定資産等の減価償却は毎年処理することが望ましいと思う 12 知的所有権を財産として積極的に活用するべきだと考えている 13 所有している株式の現在価値を常に掌握し適正に換価している 14 支払手形を振り出すことは好ましいとは思わない 15 買掛金残高は、流動資産とのバランスを常に確認している 16 仮受金、前受金の処理は溜めずにこまめに精算している 17 日頃から事業計画書や資金繰り表を作成し、実態との差異を確認している 18 家族、親戚、友人などを連帯保証人として借り入れするべきでない 19 金融機関等以外からの借入はするべきでないと考えている 20 借入金に対する個人保証等の借入条件を正しく知っている 21 知人から保証人を依頼された場合きちんと断ることができる 22 無駄な経費を削減することに積極的に取り組んでいる 23 財務処理の内容が不明瞭な場合はすぐに調査して明確にする 24 財務処理でわからないことは税理士に聞いて直ちに解決する 25 財務内容を掌握し改善することを積極的に行っている 【○のチェックの集計】 ・1∼5 会社の財務指数と危機意識についての考えてみましょう。 ・6∼10 会社の財務を他人任せにしないで全体を見直して下さい。 ・11∼15 得意な分野だけでなく不得意な分野も見直して下さい。 ・16∼20 会社経営に対する危機管理は意識は高く社内啓蒙を始めましょう。 ・21∼25 危機管理意識が高いので、専門家のアドバイスで完成させて下さい。 【△のチェックの集計】 ・5個以上ある場合は事業経営に対するポリシーを明確にしてください。 - 14 - 自己評価 ○ △ × ■おわりに(「清算貸借対照表」作成のすすめ) 中小企業経営者の誰もが感じている経営の恐ろしさは、会社のトラブルがそのまま個人の生活 や経済に影響を及ぼすことだ。しかし、誰もが解っていながら充分な対策が取られていないこと も中小企業の特徴だとも言える。 大企業の代表者の場合と違って、会社での借入金やリース契約のほとんどが、個人信用や不動 産などの会社の決算の時期や個人の確定申告の時期など、せめてl年にl∼2回は会社と個人の 「清算貸借対照表」を作成することをおすすめしたい。「清算貸借対照表」の作成結果で、会社 が万一の状況に陥ったとき、個人にどれだけの債務が生じるのか、その時、会社や個人の資産は どれだけ残るのかが解る。 また、社長が死亡したときに、残された家族が会社を継続して行かれるだけの備えがあるのか も解る。社長と妻とが一体となってその実態を掌握することは、経営に対する新たな発見が見い だせるばかりか、リスクに強い耐久力のある会社を創りあげることになるだろう。 この記事は、ジャパン・プレジデンツ・ネットワーク社の依頼を受けて執筆し 「JPNソフト №63」に記載されたものです。 ◆この記事へのお問い合わせは・・・・・・◆ 株式会社 ホロニックス総研 〒 113-0033 東京都文京区本郷1-35-12 TEL.03-5684-0021 かんだビル7階 FAX.03-5684-0031 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