薬学部・薬学総合研究所 成果報告会 - 近畿大学

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業
第5回
アンチエイジングセンター
薬学部・薬学総合研究所
成果報告会
日時: 平成 23 年 6 月 11 日(土)
13:00~17:00
場所: 近畿大学本部キャンパス
16 号館 5 階 第 3 講義室
平成 23 年 6 月 11 日(土)
第 5 回 アンチエイジングセンター
薬学部・薬学総合研究所 成果報告会プログラム
開会の挨拶 アンチエイジングセンター長 掛樋一晃教授
13:00~13:05
薬学部・創薬科学科
薬用資源学研究室
演者:村田 和也
13:05~13:30
座長
13:30~13:55
関口富美子
薬学部・医療薬学科
分子医療・ゲノム創薬学研究室
演者:杉浦 麗子
薬学部・医療薬学科
生化学研究室
演者:船上仁範
13:55~14:20
漢方医学に学ぶエイジングケア素材の探索研究III
~育毛効果のある素材を求めて~
エイジングと細胞死に関わるシグナル伝達経路の解析
加齢に伴うストレス応答の変化について
休
14:20~14:30
14:30~14:55
座長
14:55~15:20
村田和也
15:20~15:45
薬学部・創薬科学科
生物情報薬学研究室
演者:木下充弘
エイジングにより変化する血清糖タンパク質のグライコプロテ
オーム解析
薬学部・医療薬学科
病態薬理学研究室
演者:松波真帆
加齢に伴う生体内レドックス状態の変化とその制御
~還元性気体メディエーター硫化水素の内臓痛発現への関与~
薬学総合研究所
機能性植物工学研究室
演者:角谷晃司
アンチエイジング作用を有する植物ポリフェノール成分の探索
研究とサプリメントへの展開
休 15:45~16:00
16:00~16:25
座長
角谷晃司
16:25~16:50
16:50~17:00
憩
憩
薬学部・医療薬学科
公衆衛生学研究室
演者:川﨑直人
特定健診・特定保健指導の有効性評価と大学生のライフスタイ
ルに関する調査研究
薬学部・創薬科学科
細胞生物学研究室 &
薬学総合研究所
演者:益子 高
癌幹細胞マーカーCD44の機能
閉会の挨拶 アンチエイジングセンター長 掛樋一晃教授
-1-
漢方医学に学ぶエイジングケア素材の探索研究 III
~育毛効果のある素材を求めて~
薬学部・創薬科学科・薬用資源学研究室
村田和也、松田秀秋
【研究概要】漢方医学では、エイジングは五臓六腑の機能低下から始まるとされ、様々な病態・
症状となって体の表面に現れるとされている。体表面に現れた病態・症状を治療・改善する方法
が医書としてまとめられ、現代に残っている。我々はこの先人の知恵を調査することにより、現
代の病態改善に効果のある天然植物素材探索のヒントとしてきた。例えば、
「皮膚のかゆみを止め
る」との記述があった未熟柑橘類果実に抗アレルギー・美白作用、南太平洋の伝承生薬であるノ
ニ( Morinda citrifolia )に美白・美肌作用を見いだし報告した。このように、先人の知恵に学べ
ばアンチエイジングに効果のある素材を高い確率で見いだすことができることを実証してきた。
平成 22 年度の研究では、育毛作用のある素材の探索研究を実施した。いくつか見いだした育
毛素材の中で、今回は薬用人参について紹介する。薬用人参は「長寿の仙薬」と称され、漢方生
薬の中でもアンチエイジングに効果のある生薬として古くから珍重されてきた。薬用人参は経口
で服用するのが一般的であるが、中国医書を精査すると、外用として用いられていた事実も見ら
れたことから、新たな育毛素材としての有効性を期待し、本研究に着手した。
【研究成果】薬用人参には修治(加工)法の違いにより、紅参(蒸して乾燥したもの)、白参(外
皮を剥いで乾燥したもの)がある。これら二種類の薬用人参の部位別(主根部、根茎部、ひげ根
部)エキスについて、まず男性型脱毛症の鍵酵素である 5α-reductase 阻害作用を検討したところ、
いずれの薬用人参についても、根茎部で他の部位よりも高い阻害活性が見られた。また、紅参根
茎部は白参のそれの約 2 倍の阻害活性を示した。根茎部には他の部位と比較して、オレアナン型
サ ポ ニ ン で あ る ギ ン セ ノ シ ド Ro が 高 い 濃 度 で 含 有 し て い る こ と を 明 ら か に し 、 さ ら に
5α-reductase の活性本体であることを証明した。ギンセノシド Ro および紅参エキスについては、
テストステロンによる毛成長障害マウスにおいて、それぞれ 0.2 および 2.0 mg/mouse/day の用
量で毛成長障害を有意に解除した。これらの結果から、薬用人参根茎部に育毛作用という新たな
機能性を見いだし、さらに根茎の薬用利用の可能性を発掘することができた。
【研究計画】平成 23 年度においては、認知症に有効な素材を探索する予定である。これまでに、
スクリーニングを視野にいれた β- secretase 阻害活性を指標とする in vitro 評価系を構築した。
現在、中国医書の調査から選出した生薬のスクリーニングを実施している。β- secretase を阻害す
る素材の探索と有効成分の解明をとおして、認知症改善作用を有する機能性食品の開発につなげ
たいと考えている。また、長期的ビジョンとして、他の研究グループで発見されたバイオマーカ
ーを指標にしたスクリーニング系を構築し、素材探索に活用したいと考えている。
-2-
ゲノム科学から攻める、細胞増殖の制御に関わる
シグナル伝達経路の解析と、ケミカルゲノミクスへの応用
薬学部・医療薬学科・分子医療・ゲノム創薬学研究室
杉浦麗子、喜多綾子、石渡俊二
細胞の老化を抑制する遺伝子や長寿遺伝子が世界で初めて発見されたのは、線虫やショウジョ
ウバエ、酵母というモデル生物でした。また近年では、
「早老症」を示す老化のモデルマウスも作
製され、老化の進行や寿命の決定に関わる基本的な仕組みには、種を超えた生物間で共通する部
分があると考えられています。
我々は、細胞の寿命や老化のメカニズム、細胞周期や細胞増殖の根源的な仕組みを明らかにす
る目的で、分子遺伝学的アプローチとケミカルゲノミクスの手法を容易に用いることのできるモ
デル生物である、分裂酵母を用いて研究を行ってきました。特に、細胞増殖シグナルや細胞周期、
あるいは、酸化ストレスという老化の重要なファクターにより活性化されるシグナル伝達経路で
ある、各種の“MAP キナーゼ経路”に焦点をあて、分子遺伝学的アプローチとポストゲノムアプロ
ーチを駆使することで、MAP キナーゼ経路の制御因子、さらには標的因子を数多く同定してき
ました。
そのような MAP キナーゼ経路の制御因子の一つに Ecm33 という細胞表面タンパク質がありま
す。私達は、Ecm33 が二種類の MAP キナーゼによって遺伝子発現が制御されていることに着目
し、Ecm33 の発現を指標として、それぞれの MAPK シグナルを生体内でリアルタイムにモニタ
リングできるシステムを確立しました。さらに興味深いことに、Ecm33 をノックアウトすると細
胞の寿命が短縮することから、Ecm33 は、細胞寿命シグナルのマーカー遺伝子としても、極めて
重要であることがわかりました。
私達は、Ecm33 の遺伝子発現を指標とした MAPK シグナルのモニタリングに加えて、現在ま
でに得られた独自の研究成果に立脚した遺伝学的アプローチを融合させたスクリーニングを行う
ことにより、新しい MAPK シグナルの制御因子と阻害化合物を同定するとともに、ケミカルバ
イオロジーの手法を用いて、この化合物が標的としている遺伝子産物を同定することにも成功し
ました。さらに、ケミカルゲノミクスのアプローチにより、この化合物がどのようなシグナル伝
達経路に影響を与えているのかに関するプロファイリングのデータを得ることができたので、報
告させていただきます。
-3-
加齢に伴うストレス応答について
薬学部・医療薬学科・生化学研究室
船上仁範,和田哲幸,市田成志
【研究概要】過度のストレスが老化を進行させる要因になることはよく知られている。ストレス
には急性ストレスと慢性ストレスがあり,各々のストレスで発症する症状も大きく異なる。慢性
ストレスは急性ストレスと違い時間の経過とともに身体症状の快癒が認められず,放置すること
によってさらに重大な病気に悪化する場合がある。また,慢性ストレス状態への急性ストレスの
負荷がさらにその症状に追い打ちをかける。一方,ストレスに対する応答は,生体に対するあら
ゆる刺激に対し,恒常性を維持するための重要な役割を担う生理機能である。このようにアンチ
エイジング対策を行う上においてストレス対策も重要である。我々は,日常遭遇しうるストレス
として,周囲環境の急激な気温変化をシミュレートした SART ストレスを用い,老化・加齢の進
行に密接に関係するストレスがどのように関与するかを検討している。また,SART ストレス動
物は,慢性ストレス状態にあり,うつ・不安や痛覚過敏といった老化によっても惹起しうる様々
な症状を持つ,副亣感神経緊張亢進型の自律神経失調症のモデル動物である。
【研究成果】我々は,前年度までに急性ストレスとなる 1 時間 4℃寒冷刺激が脳の視床下部や橋・
延髄領域の神経活動を上昇させ,ストレス応答に関与することを見いだした。今年度は,これら
のストレス応答部位が加齢に伴ってどのように変化していくのかを,SART ストレス(慢性スト
レス),老齢(60 週齢)及び若年(5 週齢)マウス(対照マウス)を用いて検討した。中枢では神
経活動のマーカーである c-Fos タンパク質を指標として,また,末梢ではストレスホルモンであ
る血清コルチコステロン(CORT)濃度変化を指標として,それぞれ検討した。その結果,急性
ストレスにおけるストレス応答は,SART ストレス及び老齢マウスで低下していた。さらにアン
チエイジングで利用される血清デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)濃度の測定も行った。
その結果,SART ストレス及び老齢マウスは対照マウスに比べ有意に低下していた。これらのこ
とから慢性ストレス状態の一部は老化状態に類似した側面を持ち合わせていることが考えられた。
【研究計画】24 年度は,特にストレスと関連性が深い視床下部室傍核,視床下部背内側核や淡蒼
縫線核において,ストレスホルモンである CORT 調節の起点となるコルチコトロピン放出因子
(CRF),ノルアドレナリンやセロトニンあるいはこれらの作動性神経系とストレスの関係や加
齢に伴う影響について検討する。さらに慢性ストレス状態にある SART ストレス動物についても
同様に検討し,急性ストレスとの相違を検討する予定である。また,これらのストレス応答を改
善させるような薬物についても検討したい。
-4-
エイジングにより変化する血清糖タンパク質の
グライコプロテオーム解析
薬学部・創薬科学科・生物情報薬学研究室
木下充弘、掛樋一晃
【研究概要】生体高分子のうち、糖鎖は複数の遺伝子産物の協調作業により生合成されるため、
細胞の生理的環境変化による影響を受けやすい。特に細胞レベルの微細な変化の蓄積は、様々な
疾患発症に繋がる老化過程の重要な一面を担うため、糖鎖は老化度を判定するためのマーカー分
子として期待できる。我々は、これまでに加齢マーカーとしての糖鎖の可能性を検証するため、
ラット血清中の糖タンパク質糖鎖の変化を解析し、加齢に伴って O-アセチル化された N-アセチ
ルノイラミン酸(NeuAc-OAc)を持つシアロ糖鎖が増加することと糖鎖の非還元末端に位置する
ラクトサミン(Gal-GlcNAc)の結合様式が変化することを明らかにした。本報告では、エイジン
グマーカーとして糖鎖を活用していくため、加齢に伴い変化する糖鎖のキャリアータンパク質 に
ついてグライコプロテオーム解析を実施し、エイジングマーカーとなりうる候補タンパク質を 解
析した結果を報告する。
【研究成果】7 週令の Wistar ラット血清よりアルブミンを除き、SDS-PAGE によりタンパク質
を分離後、CBB 染色により観察された主要なバンドについてペプチドマスフィンガープリンティ
ン グ 法 に よ り タ ン パ ク 質 を 解 析 し た 。 そ の 結 果 、 Alpha-1-macroglobulin 、 Plasminogen 、
Serotransferrin、Alpha-1-antiproteinase などのタンパク質が同定された。同定された主要なタ
ン パ ク 質 の う ち 7 つ の タ ン パ ク 質 に つ い て N- 結 合 型 糖 鎖 の 解 析 を 行 っ た 結 果 、
Alpha-1-antiproteinase に加齢に伴い特徴的に増加する NeuAc-OAc を持つシアロ糖鎖が豊富に
含まれることがわかった。一方、加齢に伴う Alpha-1-antiproteinase の N-結合型糖鎖の変化に
ついて追跡すると、4 週令、7 週令および 15 週令で観察される糖鎖プロファイルに著しい変化は
なく、Alpha-1-antiproteinase がラットのエイジングの特徴である O-アセチル体を持つシアロ糖
鎖を恒常的に発現するタンパク質であることがわかった。以上の結果から、ラット血清における
NeuAc-OAc を持つシアロ糖鎖の増加は、ラット個体としての糖タンパク質糖鎖生合成の変化の
結果を反映したものではなく、加齢に伴い NeuAc-OAc を持つシアロ糖タンパク質群が増加した
結果であると考えられた。
【研究計画】23 年度下半期中に加齢により変動する糖タンパク質分子をさらに 2、3 分子同定す
るとともに、加齢および生活環境に伴うマーカー候補分子の質的量的変化を追跡する。また、最
終年度に向け、糖タンパク質性マーカー分子の質的量的変動を指標として、他グループで見出さ
れているアンチエイジング素材および運動等によるアンチエイジング効果の評価についても着手
していく予定である。
-5-
加齢に伴う生体内レドックス状態の変化とその制御
~還元性気体メディエーター硫化水素の内臓痛発現への関与~
薬学部・医療薬学科・病態薬理学研究室
松波真帆、関口富美子、川畑篤史
生体内における酸化と還元のバランスが加齢に伴って崩れることが知られており、体内のレド
ックス状態の改善が老化防止において重要視されている。硫化水素( H 2 S) は、L-システインか
ら酵素的に生成される還元性気体メディエーターであり、加齢に伴う H 2 S 産生酵素の発現増加や、
癌、炎症性疾患などを含む様々な病態における H 2 S の体内濃度変化が報告されている。我々は、
これまでに H 2 S の生理機能や病態との関係を検討し、H 2 S が Ca v 3.2 T 型 Ca 2+ チャネルを介して
痛みの情報伝達を促進すること、また内因性の H 2 S が神経障害性疼痛を含む持続性疼痛の病態に
関与することを明らかにしている。今回は、結腸痛および膀胱痛への H 2 S の関与についての最新
の研究成果を報告する。
マウス結腸内に H 2 S ドナーである NaHS を投与すると、内臓痛様行動および関連痛覚過敏が
誘起され、これらの内臓痛反応は T 型 Ca 2+ チャネル阻害薬で阻止された。一方、麻酔マウスの結
腸内へ NaHS を投与すると、数分以内に結腸からの知覚神経が入力するレベルの脊髄後角表層ニ
ューロンにおいて ERK リン酸化が誘起され、結腸内の NaHS によって侵害受容ニューロンが活
性化されることを示す物質的証拠が得られた。
H 2 S は還元剤であると同時に Zn 2+ キレーター作用も有することが知られている。興味あるこ
とに、Ca v 3.2 は生体内で内因性 Zn 2+ によって機能が抑制された状態にあるため、外来性の Zn 2+
キレーターにより活性化されることが最近明らかとなった。そこで、NaHS 以外の Zn 2+ キレータ
ーをマウス結腸内へ投与したところ内臓痛反応が発現し、これは T 型 Ca 2+ チャネル阻害薬により
阻止された。また、NaHS 結腸内投与により誘起される内臓痛反応は ZnCl 2 によって抑制された。
さらに、NaHS 以外の Zn 2+ キレーターの結腸内投与によっても脊髄において ERK リン酸化が誘
起され、これは T 型 Ca 2+ チャネル阻害薬により抑制された。これらのことより H 2 S は Ca v 3.2 の
Zn 2+ 抑制を解除することで結腸痛を誘起することが示唆された。
抗癌薬 cyclophosphamide(CP)をマウスに全身性投与するとヒトの間質性膀胱炎に似た症状
が出現する。そこで、このモデルの病態への H 2 S/Ca v 3.2 系の関与を検討した。その結果、CP 投
与による膀胱痛反応は H 2 S 合成酵素の阻害薬および T 型 Ca 2+ チャネル阻害薬により著明に抑制
され、またアンチセンス法を用いた Ca v 3.2 のノックダウンによっても阻止された。一方、膀胱
炎の進行に伴って膀胱組織中の H 2 S 合成酵素の発現誘導が認められた。さらに、マウス膀胱内へ
の NaHS の投与により、脊髄において ERK リン酸化が誘起され、これが T 型 Ca 2+ チャネル阻害
薬により阻止されることを確認した。これらのことのより間質性膀胱炎に伴う膀胱痛の発現に内
因性 H 2 S による Ca v 3.2 の活性化が関与することが示唆された。
以上より、結腸痛、膀胱痛など高齢者の QOL を低下させる内臓痛の治療において、H 2 S 合成
酵素や T 型 Ca 2+ チャネルが新たな標的分子となりうることが示唆された。
-6-
アンチエイジング作用を有する植物ポリフェノール成分の
探索研究とサプリメントへの展開
薬学総合研究所・機能性植物工学研究室
角谷晃司、瀧川義浩
【研究概要】老化とは、生物が成熟後から至るまでの期間に、時間に依存して普遍的に漸進
的に進行する現象である。このような老化の進行を遅延させる素材を植物ならびに微生物か
ら探索することを目的として、これまで我々は、Sirt1活性促進作用を指標に、生物の寿命
延長効果を有するポリフェノール化合物を野生種トマトからスクリーニングしてきた。寿命
延長のみならず、痴呆や美容に対応したアンチエイジング素材開発も重要であることから、
本研究では、野生種トマトから認知機能の改善効果を目的とした AChE 阻害効果を有する素材
研究や、古来中国漢方で不老長寿の妙薬として使用されている冬虫夏草の新規機能開拓として、
Matrix metalloproteinase(MMP)阻害効果について検討した。
【研究成果】昆虫類は触覚などの神経系が発達しており、神経伝達物質阻害効果を評価するために
有 効 な 実 験 生 物 で あ る 。 今 回 、 食 害 虫 で あ る ニ ジ ュ ウ ヤ ホ シ テ ン ト ウ ( Henosepilachna
vigintioctopunctata )を用い摂食試験を行ったところ、野生種トマト(Solanum hirsutum)の葉
に対して強い忌避効果が認められた。野生種トマトには忌避成分であるアルカロイド tomatine が、
栽培トマト(S.lycopersicum )と比べ約 10 倍以上含まれている。そこで、tomatine、solanine
ならびに強心配糖体 digitoxin、ouabain について、SK-N-SH 神経培養細胞を用いた AChE 阻害試
験を行ったところ、それぞれ強い阻害効果を示した。また、これらの化合物は Na + -K + -ATPase 阻害
効果を示し、ショウジョウバエを用いた摂食試験を行ったところ、寿命延長が認められた。
対照区の平均寿命(25 日±1 日)に対し、5μM tomatine 摂食区では 38 日となり、約 1.5 倍の寿
命延長が確認された。一方、冬虫夏草については、タンパク質抽出画分をヒト繊維芽細胞に処
理したところ、細胞の委縮が観察された。ゼラチンザイモグラフィーにより、抽出画分中に
MMP 阻害効果を有することを明らかにした。
【23 年度研究計画】上記の結果より Na + -K + -ATPase の阻害と寿命延長効果についてメカニズ
ムを明らかにするとともに、tomatine ならびにポリフェノール含量の高い野生種トマトを付加価
値植物として選抜する。また、冬虫夏草抽出成分中の MMP 阻害効果を示すタンパク質(ペプチ
ド)の単一化を図り、アンチエイジング素材としての有効性を評価する。
-7-
特定健診・特定保健指導の有効性評価と大学生の
ライフスタイルに関する調査研究
薬学部・医療薬学科・公衆衛生学研究室
川﨑直人
緒方文彦
【研究概要】2008 年 4 月,特定健診・特定保健指導という新制度が始まった。この制度の目的
は,生活習慣病の発症を未然に防ぐために,メタボリックシンドローム(MetS)罹患者やその予
備群(Pre-MetS)を見つけ出し,対象者に生活改善を指導することにある。本研究では, MetS
の診断基準や新しく導入された特定健診に関する知見を得ることを目的とし,学内における特定
健診の結果を統計解析している。今回,MetS の診断基準である腹囲,高血圧,高血糖,高脂血
症に着目し,2008~2010 年度の追跡調査に基づき,特定健診・特定保健指導の有効性を評価し
た。
一方,若年層からの健康維持に必要な動機づけを行うことは,重要であると言われている。し
たがって,大学生に対し生活習慣に関するアンケートおよび体力測定を行い,食習慣など のライ
フスタイルに関する統計解析を行った。
【研究成果】特定検診を受け,同意の得られた教職員,男性 448 名(2008 および 2009 年)~450
名(2010 年),女性 180 名(2009 および 2010 年)~183 名(2008 年)の結果を用い,年度別に腹囲,
高血圧,高血糖,高脂血症である被験者の割合を算出した。その結果,経年的に 30 代の男女お
よび 50~60 代の男性において,高血糖の被験者の割合が有意に増加し,また,女性において腹
囲が有意に増大した。さらに,2008~2010 年において,男性で高血糖の被験者の割合が増大し
ており,生活習慣病の発症を未然に防ぐために MetS や Pre-MetS に着目した特定健診・特定保
健指導が 3 年間実施されたにも関わらず,今回の結果からは腹囲,高血圧,高血糖,高脂血症の
改善効果が認められなかった。
一方,2009 年度に実施した大学生(前期:男子 959 名,女子 377 名;後期:男子 683 名,女
子 280 名)に対する生活習慣に関するアンケートおよび体力測定を行った。その結果,前期に比
べ後期に朝食を摂取しない学生が著しく増加し,特に下宿生において顕著であった。また,女子
大学生において,BMI が標準であるにも関わらず減量傾向が認められ,前後期でその割合は変化
しないことを明らかにしてきた。朝食欠食ならびに減量傾向の低減を目的とし,2010 年度に(前
期:男子 907 名,女子 404 名;後期:男子 640 名,女子 276 名)に対する生活習慣に関するア
ンケートおよび体力測定,朝食欠食などに関する指導を行い,その介入効果に関する評価を行っ
た。
【研究計画】2011 年度も引き続き教職員から特定健診結果の提供を受け、健康な群が 加齢に伴い
Pre-MetS 予備群そして MetS へと移行する主因子を明らかにしていく。過去 4 年間の追跡結果
に基づく,特定健診・特定保健指導の有効性に関する評価を行う。
一方,生涯スポーツの授業の中で、大学生の体格調査ならびに食習慣、運動習慣に関するアンケ
ート調査に基づき統計解析を行う。2011 年度は,睡眠習慣と疲労との関連性について検討し,具
体的には睡眠習慣に関する介入を実施する。この結果から大学生への適正な食習慣,体格,睡眠
習慣などの動機づけに関する積極的介入を試み,「生活習慣指導プログラム」の構築を目指す 。
-8-
癌幹細胞マーカーCD44 の機能
薬学部・創薬科学科・細胞生物学研究室 & 薬学総合研究所
益子
高
癌幹細胞の存在は白血病で最初に報告され、ついで、悪性黒色腫、脳腫瘍、乳癌、肝癌、大腸
癌などの固形腫瘍でも、その存在が明らかになってきた。ヒアルロン酸受容体 CD44 はこれらの
様々な組織由来の癌幹細胞で発現が認められることから、癌幹細胞マーカーとして認知されるに
至っている。CD44 には、10 の標準的エキソン(ex1〜ex5 と ex16〜ex20)からなる遺伝子でコ
ードされる標準型 CD44(CD44s)と、Alternative splicing により ex5 と ex16 の間に 10 の変
異型エキソン(v1〜v10)が様々な組み合わせで挿入された遺伝子でコードされる変異型 CD44
(CD44v)があり、CD44s は種々の正常細胞に広範に発現しているが、CD44v は組織特異的に
発現している。研究室では、老化過程における組織幹細胞の変動や、癌化過程における癌幹細胞
の出現を解析する目的で、ヒト及びマウス CD44 を特異的に認識するモノクローナル抗体(mAb)
を作製してきたが(1)、今回、癌幹細胞における CD44v の機能の一端を明らかにできたので報
告する。
Gan マウス(K19-Wnt1/C2mE)は Wnt シグナルと PGE 2 産生が亢進した TG マウスで、発
生した胃癌の進展により全てのマウスが 60 週以内に死亡する。CD44-KO マウスとの亣配により
CD44(-/-)となった Gan マウスでは腫瘍増殖が著しく抑制されることから、癌化過程で CD44 発
現の必要性が示唆されたが、とりわけ CD44v の重要性が抗マウス CD44v mAb による免疫染色
と、ヌードマウスへの CD44v 陽性細胞の移植実験で明らかになった。ところで、胃癌組織にお
ける CD44v 陽性部位では、細胞分化および ROS(Reactive Oxygen Species)の指標であるリン
酸化 p38 の発現が陰性だった。ヒト消化器系癌を抗ヒト CD44R1 mAb と抗リン酸化 p38 抗体で
免疫染色した場合も、両者の発現はお互いに排他的だった。したがって、CD44v 発現細胞では酸
化ストレスによって誘導される p38MAPK の活性化が抑えられ、CD44v 陽性領域は未分化-低
ROS 状態と考えられた。実際、CD44v 高発現のヒト胃癌や大腸癌細胞は CD44v 低発現癌細胞に
比べて、過酸化水素(酸化ストレス)耐性を示した。興味深いことに、シスチントランスポータ
ーである xCT を認識する mAb を用いた免疫沈降実験により、CD44v と xCT との会合が明らか
となった。したがって、CD44v が細胞膜上で xCT と結合することで xCT が安定化、シスチンの
取り込みが亢進、細胞内グルタチオン濃度が上昇することが、CD44v 陽性癌細胞の酸化ストレス
耐性の機序と考えられた(2)。以上、癌細胞マーカーの一つと考えられていた CD44 が xCT と
会合、ROS の制御を介して癌幹細胞としての特性を維持するために機能的に働いている可能性が
示された。
(1)Masuko T, et al. Towards therapeutic monoclonal antibodies to membrane oncoproteins by a robust strategy using
rats immunized with transfectants expressing target molecules fused to green fluorescent protein.
Cancer Science 2011; 102: 25-35.
(2)Ishimoto T, et al. CD44 variant regulates redox status in cancer cells by stabilizing the xCT subunit of system xc –
and thereby promotes tumor growth.
Cancer Cell 2011; 19: 387-400.
-9-