抄録(PDF) - 日本歯科大学

日本歯科放射線学会第 195 回関東地方会
日時:2003 年 12 月 13 日(土)午後 2:00∼
場所:日本大学歯学部 2 号館(病院校舎)地下 1 階第 2 講堂
担当:日本大学歯学部放射線学教室
1.量産試作機版 YCR21-XG○R の画像特性
○西川
和光
慶一,大黒
俊樹*,光菅
裕治,
衛
(東歯科大・歯放,*吉田製作所)
現在,吉田製作所では新しい歯科用ディジタル X 線画像診断システ YCR21-XG を開発し
ている。このシステムは IP 方式で,口内法撮影,パノラマ撮影,セファロ撮影に対応し
ている。まもなく量産体制に入る予定であるが,それに先立ち,量産のための試作機を用
いてその画像特性を検討した。今回は,口内法画像の評価結果について報告する。
YCR で得られる画像にはハイレゾ画像とノーマル画像の 2 種類があり,口内法の場合,
前者は画素サイズ 29μm で,後者は 4 画素が平均化されて 58μm となる。階調はどちらも
16bit である。今回の評価はハイレゾ画像について行った。濃度補正等の後処理は一切行
わなかった。評価項目は,いわゆる物理的評価一式すなわち特性曲線,MTF,NPS,NEQ,DQE
とした。これに加えて,画像特性について実績のある DenOptix との比較を行うため,
Photoshop を用いて,9 画素の平均化を行って画素サイズ 87μm とした上で,階調を単純
に8
bit 化した画像を作成した。DenOptix の画像には,走査密度を 300dpi(画素サイズ
85μm)とし,自動濃度補償機能を無効にして得たものを使用した。さらに,YCR では光電
子増倍管への印加電圧を調整することでダイナミックレンジの変更が可能であるため,両
システムのダイナミックレンジをほぼ同等にして,直接的な比較を行った。なお,両シス
テムとも口内法用の IP は BAS-SR である。
DenOptix では画素値が線量に対して比例するが,YCR では線量の対数値に比例した。ま
た YCR は,DenOptix に比べて感度,MTF, NPS のいずれも優れていた。このため,NEQ, DQE
も高い値を示した。
YCR は現在,より良い画像特性が得られるように最終的な調整を行っている。したがっ
て,製品版ではさらに良好な特性を示すものと期待される。
2.各種 CT(全身用 CT,歯科用小照野 CT, マイクロ CT)における骨梁の描出の比較方法
○森田 康彦,伴 清治 1),下田 信治 2)
小林 馨,犬童 寛子 3),末永 重明 3)
三島
章 4),誉田 栄一 5),馬嶋 秀行 3)
和泉 雄一 6),山本
昭
(鶴見大・歯・歯放,1)鹿大院・歯科生体材料
2)鶴見大・歯・解剖一,
3)鹿大院・顎顔面放射線,
4)鶴見大・歯病院・画像検査室,
5)徳島大・歯・歯放,
6)鹿大院・歯周病態制御)
【目的】各種 CT(全身用 CT,歯科用小照射野 CT,マイクロ CT)における微細な顎骨
骨梁の描出能の差異を把握する方法を検討する。
【従来の相互比較の検討方法の問題点】従来の相互比較については①ファントム,試料
の異なる部位を観察する危険性②異なるソフトウェアー,アルゴリズムにより発生する差
異を,装置固有の影響と誤認する危険性③人体組織とはかけ離れた,性能測定用ファント
ムの測定結果を骨の描出能と誤認する危険性等が上げられる。
【提案する方法】これらの問題を解決するため①についてはマイクロ CT と歯科用 CT 装
置間に共通のファントム保持装置を作成した。またファントム,試料を自体で識別できる
構造に加工した。試料は 500,250,100μm に薄切した下顎骨包埋切片をアクリル板ではさ
んだものである。基準としてアルミニウムマイクロパイプと共にソフテックス撮影もして
いる。②については共通の画像観察ソフトウェアーとして,
既に報告したシステム(KUCHEN)
で全身用 CT,歯科用小照射野 CT,マイクロ CT の画像を観察できるようにした。③につ
いてより人体組織に近い人工合成による大きな針状結晶ハイドロオキシアパタイトの撮像
をおこなった。伴により合成された結晶は 50μm×10μm である。マイクロ CT において
は試料を直径 3mm のスチロールパイプに入れ,画素サイズ 6.4μm で観察可能であった。
【まとめ】各種 CT における微細な顎骨骨梁の描出能の差異を把握する方法 3Yl 細胞の
方法を提案した。
3.3Y1 細胞の放射線感受性における MEK/ERK 経路活性化の意義
○渡邊
裕,倉林
亨,三浦
雅彦*
(東医歯大・院・口放,同・分子診断治療)
細胞に放射線が照射されると MAPK 活性が上昇することが多数報告されている。
MAPK の
うち ERK は MEK により活性化され,細胞増殖促進,細胞死抑制効果を示すことが知られ
ている。しかしながら今回我々は,ラット線維芽細胞 3Y1 において,MEK/ERK 経路を抑制
すると放射線抵抗性が誘導されることを見いだしたので報告する。
【材料と方法】細胞は上記 3Y1 細胞を用いた。ERK 活性を抑制するため,MEK 阻害剤で
ある PD98059 を照射 2 時間前に種々の濃度で培地に添加した。細胞の放射線感受性は,60Co
γ線を照射後,コロニー法およびエリスロシン B 色素排除能試験により求めた。また,
ERK1/2 活性およびアポトーシスの指標としての PARP 切断能については,ウエスタンブロ
ット法により評価した。
【結果】3Y1 細胞に PD98059 を作用させると 1μM でも明らかな増殖抑制効果が認められ
た。6Gy 照射による ERK のリン酸化は,25μM の前処理でほぼ完全に抑制された。コロニ
ー法によって放射線感受性をみると,意外なことに PD98059 の濃度依存的に放射線抵抗性
が誘導され,25μM でほぼ飽和に達した。また,優性阻害型 MEK を組み込んだベクターを
3Y1 細胞に発現させると,PD98059 と同様に放射線抵抗性が誘導された。6 Gy 照射 72 時間
後には,対照群では 50%の細胞が色素排除能を失い,ウエスタン法で PARP の切断が検出
されたのに対し,PD98059 処理群では細胞死および PARP の切断は有意に減少していた。
【結論】今回の結果から,従来生存シグナルとして知られている MEK/ERK 経路の活性化
は,細胞種によっては放射線による細胞死を促進する方向に働きうることが明らかとなっ
た。
4.記述試験:採点者間での相関と多肢選択問題との相関
○岡野
友宏,荒木
和之,佐野
司
(昭和大・歯・歯放)
【目的】教科試験では通常,記述試験と多肢選択問題(MCQ)が採用される。前者は内容
の妥当性,知識量とその正確さ,さらに論理性をも求める。一方,MCQ は主として知識の
量とその正確さを求める。したがって両者は相補的に学生を評価すると考える。ここでは
記述試験の採点法とその結果の再現性を検討することとした。
【対象と方法】対象は本学 4 年生 89 名である。4 年前期科目「歯科放射線学」における
総括的評価として行った試験結果について検討した。記述試験は 2 問とし,2 名が独立に
採点した。採点項目は各問ともに回答の妥当性,正確性,論理性,知識量の 4 つの面につ
いて各 10 点満点とし合計 40 点とした。MCQ は 20 問とした。両者の出題範囲は異なってい
た。採点者間および MCQ との相関にはノンパラメトリックの Spearman の順位相関係数を
用いて評価した。
【結果と考察】記述試験 2 問における 2 名の採点者の相関は以下のようであった。相関
係数は問 1 で 0.70,問 2 で 0.70,2 問の合計で 0.74 であり,回答内容の妥当性での相関
係数は 0.68,正確性で 0.70,論理性で 0.69,知識量で 0.73 であり,中等度から高度の相
関があると考えられた。記述試験の採点をこのような 4 項目に分けて評価することは採点
手順を容易にすると思われた。一方,記述試験の結果と MCQ との相関は 0.25 となり,ま
た項目ごとでも低い相関となった。両者は共通した領域以外の部分も評価しているといえ
た。なお,この学年は PBL を実験的に導入しており,その評価結果との相関は記述試験で
0.6 程度と中等度の相関と考えられた。MCQ との相関は 0.34 と低いと考えられた。PBL は
記述試験との相関係数がより大きいことから,PBL が単に知識領域だけではない部分を評
価しているともいえた。
5.マルチメディアを活用した歯科放射線科臨床実習
―2003 年度前期アンケート調査結果から―
○永山 哲聖,安河内知美,黒岩 博子
内田 啓一,新井 嘉則,塩島 勝
(松本歯大・歯放)
【目的】今回我々は,歯科放射線科臨床実習で活用するためのマルチメディア(以下教
材と略記)を作成し,臨床実習生(以下学生と略記)に使用させた。そして,この教材に
関してのアンケート調査を行い,その結果について検討した。
【方法】本学では,臨床実習を行う 5 年生は 6 名を 1 単位とし前期に 4 日間の歯科放射
線学の実習を受ける。学生各自に 1 台のコンピュータを用意し,教材を臨床実習中に閲覧
できるようにした。
教材としては,乾燥頭蓋骨を使用した解剖学的名称や各疾患の X 線写真を提示するソフ
トおよび,自作した口内法 X 線撮影法のビデオや関連するホームページなども制作した。
これらのうち,臨床実習で学習に必要な教材を指定して実習中に閲覧するように指示し
た。そして,学生にアンケートを行いその結果を集計し検討した。その他,臨床実習最終
日に教材の閲覧の有無に関しての確認のために X 線解剖学的名称の試験を行った。
【結果】アンケートは 2003 年度学生 99 人を対象に行った。その結果「学習に役立ちま
したか?」という問いに対して,約 80%の学生から有効であるとの回答を得た。
「今後も
コンピュータ支援学習を行いたいですか?」という問いに対しても約 80%近い学生が次回
からも活用したいと言う積極的な回答を得ることができた。
【考察】今回,コンピュータによる教材は学生からの評価が高く,歯科放射線学に興味
を持たせるためには有効と考えられた。しかし,学生からは“利用する時間が短い”との
意見があり自宅でも教材を利用したいという要望があった。
また,他の教科も含めて,さまざまな番組の作成と CD-ROM の出版の希望があった。
6.結節性筋膜炎の画像所見
○堅田
勉,佐々木善彦,外山三智雄
亀田
綾子,原田美樹子,羽山
土持
眞
和秀
(日歯大・新潟歯・歯放)
結節性筋膜炎は 1955 年に Konwaler らによって初めて報告された線維芽細胞の増殖を
主 体 と し た 反 応 性 増 殖 性 病 変 で , WHO の 分 類 で は 線 維 腫 症 の 一 型 と し て nodular
fasciitis として記載されている。性差はなく比較的若年層に見られ,半数の症例は上腕
から前腕部にかけて発生しており,頭頚部領域での症例は 10%前後との報告が多い。臨床
的特徴は,急速に発育して孤立性の結節を生じ,悪性腫瘍との鑑別が必要である。今回我々
は本疾患の画像検査を経験したので若干の考察を加えて報告した。
患者:19 歳 女性
主訴:オトガイ部の腫脹
現病歴:4 ヶ月前から右側オトガイ部の腫脹を自覚。徐々に拡大傾向を認めたために本
学来院。
既往歴:平成 13 年 2 月に右側前腕部の腫瘤切除(皮膚線維腫)
画像所見
MRI:T1 強調画像においてオトガイ部の皮下脂肪中に直径 10mm の類円形で,境界明瞭な
内部均一な筋と同程度の low intensity の病変として認められ,T2 強調画像にてやや不
均一な intermediate から high intensity として認められた。病変周囲には一層の low
intensity な領域に囲まれているのが認められた。さらに,Gd-DTPA 造影において病変内
部は均一な造影性を認め,T2 で認めた一層の low intensity な領域に囲まれていた。
US:境界明瞭な直径約 10mm の病変内部は均一な低輝度として認められ,後方エコーの増
強所見も認めた。
本症例は過去の報告文献と同様に境界明瞭で,CT や MRI 等の造影検査にて造影効果を
認めた。しかし画像診断において線維腫やリンパ節炎等との鑑別は困難であり,臨床経過
等を考慮しながら診断する必要があると考えられる。
7.右側下顎骨内の透過性病変からみつかった Multiple myeloma の症例
○荒木
正夫,松本
邦史,橋本
光二
篠田
宏司,西村
敏 1),松本 光彦 2)
小宮山一雄 3)
(日大・歯放,1)同・口外 1,
2)同・口外 2,3)同・病理)
Multiple myeloma は形質細胞の腫瘍性増殖性疾患といわれ,1973 年に Rustizky によ
って multiples myeloma の病名ではじめて報告された。現在では免疫グロブリン遺伝子分
化機構が明らかにされ急速に診断,治療に拍車がかかって来ている。X 線学的には myeloma
は骨の融解像が主な所見であるため,悪性所見を呈する悪性リンパ腫,転移性病変,白血
病,急性感染症などの疾患との鑑別が必要とされる。本症例は最初に某総合病院から悪性
リンパ腫の疑いがあると診断され治療依頼で来院した患者であり,その後の画像診断や医
学部血液内科との連携および病理組織診断から multiple myeloma と診断に至った症例を
経験したので報告した。
患者は 69 歳の女性で,
現病歴としては来院 1 ヶ月前から右側下顎臼歯部にうずくような
感じがあり某歯科に来院し,X 線検査後同部位に透過像を指摘され某総合病院歯科を紹介
された。そこで 2 週間前に歯を 3 本抜歯を受け同時に生検を受けている。既往歴としては,
20 年前に胆石の手術,急性腎不全にて透析を受け現在は完治しているとのことである。顔
貌所見としては,右側頬部の軽度の腫脹がある。口腔内所見では,右側下顎 67 番部に抜歯
窩がみられ圧痛があり,表面は潰瘍様でありその周囲は硬結していた。
初診時のパノラマ像では右側下顎 567 番相当部を中心に境界不明瞭な透過像が広範囲に
存在し,辺縁は浸潤性に骨を吸収し骨梁構造が淡く消失し辺縁は移行像を示した。下顎管
は消失し下縁皮質骨も菲薄化し吸収像を呈した。P-A 像から骨膨隆はなく右側下顎角部の
透過性の亢進を示した。また頭頂部に大小の円形の透過像が数個存在した。CT では頬舌側
に皮質骨を破壊し骨外に突出した mass がみられ,造影で mass は不均一に増強され,MR
検査では STIR 法で膨脹性の腫瘤で境界明瞭であり,T1 強調画像で周囲の脂肪髄と比べて
低信号,脂肪抑制 T2 強調画像で高信号を呈してみられた。Gd 強調画像にて全体的に淡く
増強されていた。全身の Ga67 シンチグラフィーでは右上腕骨と大腿骨に集積像がみられた。
画像診断学的には右側下顎骨部の骨中心性の悪性腫瘍が疑われ,シンチグラフィーや頭頂
部に大小の円形の透過像を考えると multiple myeloma も否定できなく疑われた。最終的
には,probe からの病理組織診断および FACS 解析の結果から plasmacytoma の確定診断
されたため日大医学部駿河台病院血液内科にて化学療法のため入院治療を行った。現在は
予後良好で経過観察をしている。
8.埋伏歯周囲から発生した扁平上皮癌の一例
○森
進太郎,加藤
正隆,李
光純
片山
雄三,阪柳
雅志,本橋
淳子
岡野
芳枝,小椋
一朗,金田
隆
秋元 芳明 1),近藤 寿郎 1),岡田 裕之 2)
山本 浩嗣 2)
(日大・松戸歯・放,1)同・口外,2)同・病理)
顎骨には嚢胞性疾患,良悪性腫瘍,炎症性疾患や異形成症など様々な病変が発生する。
また顎骨中心性癌は顎骨から発生する上皮性の悪性腫瘍であり,非常に稀な疾患である。
今回我々は,埋伏歯周囲から発生した扁平上皮癌の一例を経験したので画像所見を中心に
報告した。
【症例】36 歳 女性。
主訴:親知らずが疼いて顎が痺れる。
現病歴:平成 15 年 7 月,下顎右側 8 番に違和感を生じるが,
特に痛みがあるわけでなく,
そのまま放置した。同年 8 月 12 日,同部の違和感がおさまらず近位某歯科医院を受診し,
智歯周囲炎の診断のもと投薬処置をうけた。同年 9 月 2 日,下顎右側にしびれ感を生じて
同医院を来院し,消炎目的にてまず咬み合わせの上顎右側 8 番を抜歯処置した。以降,消
毒や投薬をくり返すも一部下唇の麻痺感が残ったため,本学付属歯科病院に紹介された。
【画像所見】パノラマエックス線写真にて下顎右側 8 番歯冠遠心部にび漫性のエックス
線透過像を認める。
エックス線 CT にて右側の下顎枝内面,オトガイ孔付近,および前歯部唇側の皮質骨に
骨吸収像が認められ,同部に mass lesion が認められる。顎骨の骨梁構造は失われており,
皮質骨の断裂像が見られる。
造影 MRI にて同病変は T1 強調像にて低信号,T2 強調像にて低∼中信号を呈し,Gd-DTPA
にて造影効果を認め,STIR 像にて高∼著明な高信号を呈している。顎骨内を下顎管に沿っ
て進展する,いわゆる Perineural Spread の所見であると考えられる。
【まとめ】今回我々は,埋伏歯周囲から発生した扁平上皮癌の一例を経験し,画像所見
を中心に報告した。自験例より埋伏歯の歯嚢からは扁平上皮癌などの悪性腫瘍を引き起こ
す可能性があるといえた。埋伏歯への対応は,単に智歯周囲炎を考慮するのみならず,慎
重に対処すべき症例があると考えた。