宮崎市における歯周病とメタボリック症候群の関連について ○櫛山 実寿 瀧口 俊一 近藤 泰子 岡 伊東 芳郎 篤子 末永 誠一郎 久保田 晴美 久米田 義夫 長瀬 由佳 滝 芙美 (宮崎市保健所) 要旨 宮 崎 市 で は 平 成 1 6 年 度 よ り 歯 周 疾 患 検 診 (宮 崎 市 歯 科 健 康 ド ッ ク )を 実 施 し て い る 。 同 年度に本検診と基本健康診査の両方を受診した宮崎市民を対象に歯周病とメタボリック症 候 群 の 関 連 を 分 析 し 、有 意 な 関 連 が 認 め ら れ た 。今 後 の 啓 発 に 利 用 す る こ と が 重 要 で あ る 。 Ⅰ はじめに 宮崎市では「健康みやざき市民プラン」の中で平成24年度までに「進行した歯周病を 持つ人の割合を40歳で30%以下、50歳で40%以下にする」目標を掲げ、歯科保健 事業を展開している。歯周疾患対策として行っている歯周疾患検診(宮崎市歯科健康ドッ ク)事業を行っているが、受診率が低迷している。今後更なる啓発が必要と考えられたの で、宮崎市民のデータから歯周病とメタボリック症候群の関連を分析し、両者間の疫学的 な関連が認められたので報告する。 Ⅱ 研究方法 1 対象 平 成 16~ 19 年 度 歯 科 ド ッ ク 受 診 者 3,925 人 の う ち 、 同 一 年 度 に 基 本 健 診 も 受 診 し 、 現 在 歯 数 が 10 本 以 上 の 宮 崎 市 民 1,080 人 ( 男 性 : 285 人 、 女 性 : 795 人 ) 2 方法 (1)歯周組織の判定 委 託 先 で あ る 、宮 崎 市 郡 東 諸 県 郡 歯 科 医 師 会 会 員 の 歯 科 医 院 に て C P I( Community Periodontal Index) コ ー ド を 測 定 し 、 最 大 値 が 4 の 人 を 重 度 歯 周 炎 と 判 定 し た 。 (2)メタボリック症候群の判定 腹 囲 を 除 き 、 以 下 の National Cholesterol Education Program の 判 定 基 準 を 用 い た 。 ・肥満:BMI25以上(腹囲測定が行われていなかったのでBMIで代用) ・ 血 圧 上 昇 : 最 高 血 圧 : 130mmHg、 最 低 血 圧 : 85mmHg 以 上 の 一 方 ま た は 両 方 (高血圧薬を服用中の人も含む) ・ H D L コ レ ス テ ロ ー ル 値 低 下 : 男 性 で 40mg/dl 未 満 、 女 性 で 50mg/dl 未 満 ・ 中 性 脂 肪 値 上 昇 : 150mg/dl 以 上 ・ 血 糖 値 上 昇 : 空 腹 時 血 糖 値 : 110mg/dl 以 上 ( 糖 尿 病 治 療 薬 を 服 用 中 の 人 も 含 む ) (3)歯周病とメタボリック症候群の関連について 重度歯周炎の有無を従属変数、メタボリック症候群の各判定項目および該当する項目 数を独立変数とし、年齢、性別、喫煙習慣で調整した多重ロジスティック回帰分析を行 った。 Ⅲ 結果 1 重度歯周炎とメタボリック症候群の 各判定項目の関連 重度歯周炎と「血圧上昇」および「H DLコレステロール値低下」の間に有意 な関連が認められ、年齢、性別および喫 煙習慣で調整したオッズ比は「血圧上昇」 が 1.6、「 H D L コ レ ス テ ロ ー ル 値 低 下 」 が 1.5 で あ っ た 。 2 重度歯周炎とメタボリック症候群の 各判定項目に該当する項目数の関連 重度歯周炎と「3項目該当」および 「4項目以上該当」の間に有意な関連が 認められ、年齢、性別および喫煙習慣で 調 整 し た オ ッ ズ 比 は 「 3 項 目 該 当 」 が 2.1、 「 4 項 目 以 上 該 当 」 が 2.3 で あ っ た 。 Ⅳ 考察 今回の分析により、重度歯周炎と「血圧 上 昇 」、「 H D L コ レ ス テ ロ ー ル 値 低 下 」、 「( 判 定 項 目 に ) 3 項 目 以 上 該 当 」 の 間 に 有意な関連が認められた。この結果は歯周 病とメタボリック症候群の関連を示唆する ものであるが、本研究は断面的研究であり 両者間の関連を方向付けることはできない。 今後、生体内や試験管内で起こる反応の裏 付けや縦断的研究によって両者間の関連が 確立することが期待される。 Ⅴ おわりに 宮崎市では平成20年度から歯周疾患検診(宮崎市歯科健康ドック)の対象者を5歳 ごとの30歳から70歳までに拡大し、歯周病の早期発見および早期対応を目指してい るが、平成20年度の受診率は5.8%と低迷している。また平成20年度から40歳 以上の市民を対象に「特定健診・特定保健指導」が開始されたが、その中に歯周疾患の 検査は含まれていない。今回の分析によって、メタボリック症候群の判定基準に該当す る者は重度歯周炎のリスクが高い結果が得られたことから、メタボリック症候群該当者 には歯周疾患検診の受診を勧めることが大切と考えられる。 今回得られた結果を健康教育などの啓発の場面で活用し、歯周疾患検診の受診率向上 を目指していきたい。併せて「特定健診・特定保健指導」との連携も検討していく必要 があると考える。
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