27pC02 バナジウム合金の液体金属雰囲気中性子照射クリープ特性 Irradiation creep properties of vanadium alloys during neutron irradiation under liquid metal environment 福元謙一1、松井秀樹2、鳴井実2、長坂琢也3、室賀健夫3 福井大1、東北大金研2、核融合研3 Ken-ichi Fukumoto, 1 Hideki Matsui2, Minoru Narui2, Takuya Nagasaka3, Takeo Muroga3 Univ. of Fukui1, IMR/Tohoku Univ. 2, NIFS3 1.はじめに 核融合炉構造材料としてのバナジウム合金研究開発において原子炉内照射下クリープ試験は照射クリー プによる高温側中性子壁負荷量の上限を決定する上で重要である。このため照射温度均一化のためおよび 液体金属雰囲気下照射技術開発のためにナトリウムボンド型照射キャプセルの開発を行った。この雰囲気制 御型キャプセルを用いて常陽炉にて液体ナトリウム雰囲気におけるバナジウム合金の高温照射下機械的特 性を調べた。液体リチウム金属雰囲気下におけるバナジウム合金の高温照射下機械的特性を調べるため HFIR にて炉内照射クリープ試験が行われた。本研究から得られる照射特性データはバナジウム合金の高温 機械的性質、特に照射クリープ変形過程を理解する基礎データとして極めて有用である。ナトリウムボンド型 照射キャプセル技術の開発及び解体作業工程の確立により、様々な液体金属雰囲気下における材料照射試 験法開発の基盤技術として活用されることが期待される。 2.液体ナトリウム雰囲気キャプセルの開発 ナトリウムボンド型照射キャプセル開発は東北大学金属 材料研究所大洗施設と日本原子力開発機構(以下JAE A)大洗工学センターにより行われた。照射キャプセルへ のナトリウム充填は不活性ガス雰囲気のグローブボックス 内で行われた。ナトリウム充填時のナトリウムからの不純 物移行は認められなかった。図はナトリウム充填した照 射キャプセルのX線写真であり、ナトリウム充填により照 射試料はナトリウムに完全に浸積した状態で照射される 図 1:ナトリウムボンドキャプセルの X 線写真 ことを確認した。 照射後ナトリウムボンドキャプセル解体をJAEA大洗工学センターMMF施設のホットセルで行った。東北大金 研大洗センターホット施設内にグローブボックスを設置し、試料搬送後、試料表面の残滓ナトリウム除洗をエタ ノールを用いて行った。現在までにナトリウムボンドキャプセルは MNTR-1・2、SMIR-27、MARICO-2、 CMIR-6 の常陽照射計画で装荷され照射実験に供されている。 3.Joyo照射実験と照射後試験 常陽炉 MNTR-1・2 で内圧クリープ管[1]を用いた炉内クリープ試験を実施した。試料にはバナジウム二元系 合金および NIFS-Heat2 合金を用いた。常陽照射(MNTR-01,02)は 2 サイクル照射で、照射温度は 450~ 700℃(±30℃の不確定性)で、中性子照射量は 1.1~12x1025n/m2(E>0.1MeV)、pureV 損傷量換算で 1.7~ 5dpa であった。照射後試験としてクリープ測定、引張試験、TEM 観察を行った。 4.HFIR照射実験と照射後試験 試料には高純度 V-4Cr-4Ti 合金 NIFS-Heat2 を用いた。内圧クリープ管を用いた炉内クリープ試験を HFIR にて実施した。照射温度均一化のためリチウムボンド型照射キャプセルを用いた。HFIR-17J 照射は Effective Irradiation Creep strain at 458C (%) 1 25 2 458C-SA neutron dose : 2.4x10 n/m 458C-CW 0.8 0.6 458˚C 0.4 0.2 0 0 50 100 150 200 250 Stress (MPa) Effective Irradiation Creep strain at 598C (%) HFIR-RB*照射孔にて 5 サイクル照射で照射を行った。照 射温度は 428~429℃で制御され、最終サイクルで 445℃ま で照射温度が上昇したことが確認されている。損傷量は pureV 損傷量換算で 3.9dpa であった。照射後液体リチウム ボンドキャプセル解体を ORNL3525α-ホットセル施設で行 った。試料からのリチウム除洗には液体アンモニアを用い てリチウム溶出速度を遅くしながら試料表面洗浄を行った。 照射後試験としてクリープ測定、引張試験、TEM 観察を行 った。 10 25 2 598C-SA neutron dose : 6.7x10 n/m 4.試験結果と考察 8 598C-CW NIFS-Heat2 合金(高純度V-4Cr-4Ti 合金)の照射クリープ 6 測定から、クリープ応力指数として 1.2~1.7 が得られ、フェ 598˚C 4 ライト鋼などの照射クリープ変形過程と似た傾向であること が明らかとなった。図 2 に常陽炉ナトリウム雰囲気照射によ 2 るクリープ歪みの横領依存性を示す。過去の研究で示され 0 た V-4Cr-4Ti における 445℃照射での 120MPa からの急速 0 50 100 150 200 250 Stress (MPa) なクリープ速度の上昇傾向は観察されず、照射クリープ速 度は ATR や HFIR で行われた照射クリープ試験の照射クリ 図 2:常陽炉照射した V-4Cr-4Ti 合金の照射下クリ ープ変形速度と同じオーダーであった。このことから ープ歪みのクリープ応力依存性。 400-600℃における照射クリープ変形機構は同一のもので あり、過飽和の空孔拡散・上昇運動による転位すべりによってクリープ変形を律則していることが示唆された。 引張試験では V-5Ti や V-4Cr-0.1Ti,1Ti 合金で高温照射下にて大きな照射硬化がみられなかった一方で、 NIFS-Heat 合金で高温側でも照射硬化と延性低下がみられた。延性低下は照射後400℃8 時間の真空熱処理 で改善されたため、除洗時に発生した水素による延性低下であると考えられる。ナトリウム雰囲気およびリチウ ム雰囲気の違いによるクリープ変形挙動、引張挙動、損傷組織の有意差は顕著には認められなかった。高純 度リチウムおよび高純度ナトリウム雰囲気における不純物移行は本実験の範囲内(試料温度、照射線量、試験 期間)で試料内部での損傷組織発達に大きく影響を与えなかったと考えられる。また液体金属雰囲気におけ る照射クリープの活性化エネルギーは常陽、HFIR のデータから約 46kJ/molK であることが明らかとなった。 本研究から照射下クリープ挙動の基本的パラメータが得られ、V-4Cr-4Ti の照射下健全性評価および使用 寿命評価への指針が得られた。本研究で確立した照射クリープ試料作製、液体金属環境制御型照射キャプ セル製作・実験手法・解体技術、照射クリープ試験片寸法測定技法は、バナジウム合金だけでなく、改良型ス テンレス鋼の照射下クリープ試験にも応用され、現在活用されている。 5.まとめ 液体金属(リチウム・ナトリウム)を用いた照射キャプセルの技術開発により均一温度の照射場における環境制 御型の原子炉内照射クリープ測定が可能となった。バナジウム合金の照射下クリープ特性の基本パラメータが 得られ、照射下クリープ変形機構が示され、照射下クリープ変形による寿命評価への指針が得られた。 [1] K. Fukumoto, H. Matsui, M. Narui, T. Nagasaka and T. Muroga, J. Nucl. Mater., 335, 103-107 (2004) 謝辞 本研究でのナトリウムボンド型照射キャプセル開発にご協力いただきましたJAEA大洗工学センター燃料材 料試験部および技術開発部の皆様に深く感謝いたします。HFIR照射実験は日米科学技術協力事業 (JUPITER-II計画)で行われました。関係各位に感謝いたします。
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