地域金融機関を取り巻く事業環境(各地域の産業構造

地域金融機関を取り巻く事業環境(各地域の産業構造)、
企業の抱える経営課題及び地域金融機関の取組み
平 成 2 6 年 1 2 月
財務省北陸財務局
問合せ先
北陸財務局理財部金融調整官
電話 076-292-7859
1.北陸地域の産業構造の特徴
○県内総生産、事業所数、製造品出荷額等でみると、全国の3%程度のシェアを占めている。
○業種別の製造品出荷額によると、はん用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイスや、医薬品を中心とした化学部門におい
て全国と比べてウエイトが高く、我が国を代表する企業が存在する。また、繊維産業の全国シェアが高いほか、輪島塗や九谷
焼といった伝統工芸品産業もある。
○第三次産業のウエイトは全国と比べて低いものの、平成27年3月の北陸新幹線開業を控え、観光関連産業の動きが顕著に
なってきている。
●主な産業指標の全国比
県内総生産
事業所数
製造品出荷額等
小売業販売額
(億円、H22年度)
(H24年)
(億円、H24年)
(億円、H23年度)
北陸3県
119,381
158,049
76,802
26,883
全国比
(%)
2.4
2.9
2.7
2.4
(%)
●県内総生産(平成22年度)
はん用・生産用・
業務用機械
北陸
17.0%
電子部品・
デバイス
13.2%
化学
12.2%
繊維
繊維の出荷額は
全国出荷額の
13.5%
6.9%
北陸
80
60
●製造品出荷額の業種別ウエイト(平成24年)
全国
全国
11.5%
4.6%
9.0%
40
1.4%
20
0
第1次産業
第2次産業
第3次産業
(資料)内閣府「国民経済計算年報」「県民経済計算年報」、総務省「経済センサス」、経済産業省「工業統計表」
1
(参考)北陸のグローバルニッチトップ企業(11社)
№
所在地
企業名(業界要職)
上場/非上場
製品等
製品の詳細、特徴
シェア等
1
津田駒工業㈱
(県経営者協会会長)
東証1部
高度の機械・電子技術の集積で繊維機械を開発。
ジェット式(空気圧や水圧により糸を飛ばす)
織機は、極めて高い生産性、品質織物、耐久性等があり、販売実績は世界最
織機、サイジングマシン
多。経糸に糊付けを行うサイジングマシン(長繊維糸用)は、世界シェア9割。
世界シェア1位(約90%)
2
㈱明石合銅
非
パワーショベルの一部分であるが、不具合時にはパワーショベルが全く動か
パワーショベル向け油圧ポンプ用シリンダブ なくなる、文字通り心臓部品を生産。
ロック
世界の競合他社が追随できない耐摩耗性、耐焼付性、強度面に優れた技術
を持ち、世界シェアは5割超。
世界シェア1位(50%超)
3
㈱BBS金明
非
半導体シリコンウェハ研磨装置(300㎜)
石川県
半導体シリコンウェハの鏡面仕上げ装置。
同社独自の制御技術を有し、均一で安定した品質を得ることができるほか、他 世界シェア1位(約80%超)
社製の1/2以下の加工時間を達成し、米英独中韓など海外主要企業にも採用。
ころがり軸受向けのころ全品種を生産している日本で唯一のころ製造専門
メーカー。
世界シェア20%超
自社グループ内で高生産性、高精度のころ生産設備を開発し、積極的な設備
展開を図り、球面ころの世界シェアは2割超。
ビンテージ繊維は、世界初の改質技術により、本来ソフトな合繊素材に、匠の
染色技術によって適度なハリ・コシ・独自の形状記憶性を付与。
世界シェア1位(約50%)
合繊でも化繊でも天然繊維でもない新しい素材等を展開し、世界のラグジュア
リーブランドから注目。
約40分の1ミリという、蜘蛛の糸のような超極細糸で織り上げた世界一の極薄
メッシュ織物。
世界シェア1位(100%)
独自開発の設備によって、1ミリ幅に5~6本という比較的粗い密度で均等に
配列したメッシュ織物の生産に成功し、1ケタグラム織物分野ではシェア独占。
4
㈱東振精機
非
球面ころ軸受組込用ローラ
5
小松精練㈱
(日本染色協会会長)
東証1部
繊維改質技術
(「ビンテージ繊維」等)
6
天池合繊㈱
非
世界一の極薄ファッション織物
(「天女の羽衣」)
7
㈱大阪合金工業所
非
超電導線用Ti添加高錫ブロンズ
日欧米中露韓印7極による国際熱核融合実験炉(ITER)等に用いられる10テ
スラ以上の超高磁場マグネットの製造に欠かせない唯一の実用材。
生産上のノウハウを多数有し、他社からの参入は皆無。
8
日本電産テクノモータ㈱
非
空調機器用ブラシレスDCモータ
世界で初めてインバータエアコン用にDCモーターを開発・製品化。
以来、圧倒的な技術優位性を確保し続けるほか、省エネ規制にもいち早く取り 世界シェア1位(約60%)
組んでいる。
9
セーレン㈱
東証1部
(北陸経済連合会副会長)
福井県
10
㈱ホプニック研究所
非
11
㈱SHINDO
非
世界シェア1位(約70%)
染色技術とITの融合により、企画から製造、販売まで行う独自の一貫生産ビ
繊維製品の一貫生産ビジネスモデル
ジネスモデルを確立。
(ビスコテックス、自動車内装材・カーシート
世界シェア1位
従来の染色手法では不可能だった1,677万色を用いた多彩なデザイン表現力
等)
を実現。また、合繊による自動車シート材は、世界シェア100%。
独自技術の開発により、視力矯正用の高屈折率偏光レンズの薄型化・軽量化
を実現し、耐衝撃性にも優れる。
視力矯正用高屈折率偏光レンズ
世界シェア1位(約90%)
また、レンズに使用する偏光フィルムは、品質、コスト面でも他社と比較して優
れ、世界の主なレンズ会社で採用。
トリミングテープやリボン類は、スポーツウェアやアパレル衣料の服飾を差別
化する際に必ず使用される製品。
服飾用トリミングテープ、リボン
世界シェア約20%
同社は、企画段階からモノづくりに参画し、多品種小ロット対応を強みとし、世
界的に著名なラグジュアリーブランドでは必ずと言っていいほど使用されている。
(資料)経済産業省「グローバルニッチトップ企業100選表彰企業概要(2014年3月17日)」を基に、各県別、掲載順で作成。
2
2.北陸地域における地方中枢拠点都市について
(1)金沢市
金沢市は、北陸地域最大の都市として、卸売・小売業等のサービス業のウエイトが高い。また、歴史ある観光資源が多く、来年3月の北陸
新幹線開業に向けて、観光関連サービス業の動きが顕著であり、地域金融機関も各種の支援を実施している。
・付加価値構成比
・事業従事者構成比
産業構造の特徴
○ 卸売・小売業、あるいは宿泊業、飲食業といったサービス産業のウエイトが高い。
○ 製造業においても、日本を代表する繊維機械やボトリングシステム等の企業が存在する。
○ 歴史ある観光資源が多く、来年3月の北陸新幹線開業を控え、
新幹線開業後
商業施設の開設など、首都圏等からの観光客の拡大に
の交流人口は
対応するため、官民ともに取組んでいる。
その他
34.3%
製造業
9.9%
1.5倍を見込む
宿泊業・
飲食
サービス
業 9.9%
卸売業・
小売業
22.7%
建設業・
不動産
業等
10.8%
医療・
福祉
12.4%
その他
39.1%
製造業
9.4%
宿泊業・
飲食サー
ビス業
3.9%
卸売業・
小売業
24.1%
業建設・
不動産業
等 11.9%
医療・
福祉
11.7%
※付加価値額=売上高-費用総額+給与総額+租税公課
地域金融機関の取組み
卸売・小売業等の取組み
複合商業ビルの新規出店(26年4月開店、27年4月開店)やホテルの新規出店(27年3月
開店)を予定している。
老舗和菓子店等の観光名所への新規出店や、観光客の動線を考慮した本店の移転、需
要増を見込んだ新工場を建設した。
老舗料亭がリニューアルし、料理・サービスの質の向上を図った。
地元和菓子屋が、「いしかわ産業化資源活用推進ファンド」を活用して、加賀野菜を使った
新しい商品を開発し、オンラインショップを開設するなどして販売網を拡大している。
地元資本の小売業が、金沢市内中心部に住む高齢者に向けて、ミニ店舗を展開している。
支
援
老舗料亭に対して、関係機関と連携して、他の金融機関との
調整を行ったほか、行員を派遣し、総務・財務に限らず、仕入
ルートの確保や料理メニューの検討などにも関与し、経営改
善支援を行った。
地元の農林水産、伝統工芸、観光資源やものづくり、サービ
ス業をバックアップするために県が組成した「いしかわ産業化
資源活用推進ファンド」に出資(出資機関中最大の80億円を
出資)し、小規模事業者に活用を促している。
今後の課題
来年3月の北陸新幹線開業に向けて官民一体となって取り組んでいるものの、新幹線開業効果を中・長期的に持続させるための取組みが
不足している事業者や、開業効果の取込みに向けた投資に取り組めない小規模事業者に対し、地域金融機関は新商品開発や販路拡大
などのコンサルティング機能を適切に発揮することが課題となっている。
3
2.北陸地域における地方中枢拠点都市について
(2)富山市
富山市は、300年以上の歴史と伝統を持つ「富山のくすり」を基に医薬業が発展しており、現在も製造業の2割弱を占める主要産業となって
いる。近年、後発医薬品市場が拡大傾向にある中、後発医薬品メーカーは生産能力拡大のため設備投資を積極的に行っており、地域金
融機関も各種の支援を実施している。
・事業従事者構成比
産業構造の特徴
○ 富山市の医薬業は、江戸時代から続く売薬業者を基としている。
その他
30.3%
○ 売薬業者によって、金融機関(北陸銀行、富山第一銀行、富山信用金庫)、電力会社が設
立されるなど、医薬業は富山市の産業の基礎となっている。
○ 医薬品製造は製造業の2割弱を占め、日本を代表する後発医薬品メーカー等も存在。現在
も他の製造業(印刷業、プラスチック容器製造業等)を牽引する主要産業。
その他 建設業・
サービ 不動産
ス業
業等
8.6% 10.8%
・付加価値構成比
製造業
20.2%
卸売業・
小売業
医療・ 19.0%
福祉
11.1%
その他
サービス
業 5.9%
製造業
その他
23.2%
31.8%
建設業・
不動産 医療・
福祉
業等
11.1% 10.2%
卸売業・
小売業
17.9%
※付加価値額=売上高-費用総額+給与総額+租税公課
医薬業の取組み
地域金融機関の取組み
後発医薬品メーカーは、市場の拡大傾向を見据え、生産能力向上のための工場建設や、
海外メーカーとの合弁会社を設立している。
新薬メーカーは、研究開発能力不足を補うため、 (億円) 富山県内製薬企業の設備投資の動向
(件)
大手異業種企業の傘下に入り、研究開発能力を
400
30
投資金額
強化している。
件数
300
20
配置薬メーカーは、全国的なニーズの低下を踏ま 200
10
え、ドラッグストア事業への進出やアジアへ事業
100
展開を図っている。
0
0
H19
H20
H21
H22
支
援
後発医薬品メーカーが異業種大手の子会社と合弁事業を実
施するにあたって、当該事業の評価を行うなど、当該メーカー
の新分野進出をサポートした。
後発医薬品メーカーとの定期的な医療制度等に関する情報交
換や、共同レポートを発刊している。
需要拡大を見据えた後発医薬品メーカーの設備投資に対し、
積極的に応需している。
H23 富山県調べ
今後の課題
拡大が見込まれる後発医薬品市場に外資系医薬品メーカーや国内新薬メーカーの参入が予想され、後発医薬品メーカーは、事業規模の
拡大により価格競争力の強化が必要となることから、地域金融機関は、M&A等の支援が課題となっている。
4
2.北陸地域における地方中枢拠点都市について
(3)福井市エリア
福井市は、繊維産業が主要産業となっている。中国の大増産に伴う国際競争の激化を受けて衣料品生産は縮小を余儀なくされていること
から、織の技術を生かしながら産業資材、医療分野等の新分野へ進出する動きがみられ、地域金融機関も各種の支援を実施している。
産業構造の特徴
・事業従事者構成比
○ 福井市の主要企業は、福井市を含む近隣地域(あわら市、坂井市、永平寺町、鯖江市、越
前市)に工場を設置し、事業を行っており、これらの地域の産業は一体となっている。
○ 繊維産業は、製造業において従業者の2割強を占め、地域を支えている。
○ 高級アパレル向けなどの織物生地は、高度な製織技術が必要とされ、日本の製品が優
位。織物、ニット、繊維雑品等の福井県の出荷額は全国首位。日本を代表する企業も存在
している。
宿泊
業・飲
食サー
ビス業
7.7%
その他
26.0%
製造業
24.6%
建設
業・不
動産 医療・
業等 福祉
9.2% 10.7%
卸売
業・小
売業
21.8%
宿泊業・
飲食
サービス
業 3.3%
建設業・
不動産
業等
9.3%
・付加価値構成比
その他
26.8%
製造業
30.6%
卸売業・
医療・
小売業
福祉
19.2%
10.9%
※付加価値額=売上高-費用総額+給与総額+租税公課
繊維産業の取組み
財務体質を強化した企業が、高級衣料の販売力強化のため、M&
Aにより縫製会社を買収することで、織布からアパレル販売までの
一貫した体制を整備している。
小規模企業が、公設試験研究機関と炭素繊維の複合材料に関す
る共同研究に取り組むことにより、独創的な加工技術を確立してい
る。
東京農工大教授の依頼により、加工の難しい絹糸による人工血管
を量産する技術開発に成功している。
地域金融機関の取組み
行員を企業に派遣し、企業診断を実施。「ヒト・モノ・カネ」+「情報・技術」等を切口とし
た課題を洗出し、経営体質の強化を支援している。
支
援
事業の多角化を図っている繊維関連会社に対して、M&A案件の紹介、及びそれに伴
う必要資金に積極的に対応した。
新たな事業を模索している繊維関連
会社に対して、産学官連携を通じ構築
したネットワークを活用し、マッチング
による支援を実施している。
地元大学に行員を派遣
するほか、医科大学等
や医師会、経営コンサル
とも連携し情報網を構築
今後の課題
非衣料分野の拡大を目指す繊維業界の動きを踏まえ、地域金融機関は、企業がこれまで培った技術を活用し、新しい分野で収益源を確保
するための経営計画の策定支援や、ビジネスマッチング、M&A等の支援態勢の強化(人材育成等)が課題となっている。
5
3.地域金融機関に求められる役割の発揮状況やビジネスモデル構築に向けた取組み状況
地域金融機関に対する中核企業の声
○企業が成長する段階では、地域金融機関による「経営へのアドバイス」あるいは「取引先の紹介」等の各種支援は大変ありがたい。しか
しながら、企業が成長すると、独自に各種情報を入手できるほか、海外進出等の事業を拡大する際には、メガバンクのノウハウが有益と
なることが多く、地域金融機関に対するニーズは相対的に低下する。
○企業が成長しても、地域金融機関は継続して訪問してくれるほか、金融機関のトップと会う機会も多いが、メガバンクの場合には、支店長
と会う機会も少ないことから、協調融資の場合の主幹事は地域金融機関とする等、今後も顔の見える地域金融機関との関係は継続した
い。
○日頃から地域金融機関と密接に付き合いをしていることから、当社が業績悪化した際に、第三者の目でトップの意思決定を背中から後
押ししてくれるのは地域金融機関だと考えている。
地域金融機関におけるビジネスモデル構築に向けた取組み
○営業力強化のために、支店の行員が顧客に集中できるようITを活用すること等により、支店事務の本部集中化に取り組んでいる。また、
人材育成も兼ねて地域企業へ行員を出向させている。将来的には、マネジメントができる人材を地域企業に還元することにより、地域経
済の活性化につなげることを目指している。
○審査力強化等のために、若手行員に工場見学等を実施することにより、企業の強みを把握できる地区OJTインストラクターとして育成し
ている。将来的には、当該若手行員が、培った「目利き力」を後輩行員に伝承する態勢を目指している。
○限られた人材を効率的に活用するため、地区毎に配置していた企業支援の人材を本部直属としたうえで、成長性が見込める地域に機動
的に投入している。こうした態勢整備により、取引先のニーズを的確に把握し、対応する。
今後の課題
取引先企業の技術力や優位性を把握する態勢を構築するには、時間とコストを要するものであり、中・長期的な観点から、人材育成が重要
な課題となっているが、各金融機関とも取組みを始めたところである。現状では、限られた経営資源を効率的に投入し、企業のライフサイク
ルに応じて必要とされる支援を適切に行うことが課題となっている。
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