ほう素中性子捕捉療法用中性子源 堀池 寛、加藤逸郎、橋本直哉 大阪大学(工、歯、医) 三菱重工メカトロシステムズ株式会社 住友商事(株) 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 ほう素中性子捕捉療法 (Boron Neutron Capture Therapy)とは • がん細胞に集積させたほう素化合物と、中性子との反 応を利用して、がん細胞を細胞毎に破壊する、身体へ の被ばくの少ない治療法である。 • 正常組織に浸潤したがんに効果的である。 • 従来の放射線治療、粒子線治療より低被ばくで、副作 用が少ない、などの特長があります。 • 中性子が原子炉でないと得られなかったことから、これ までは東海村や京大の原子炉で治療研究が行われて きた。 • この度、阪大核動での要素技術を応用した新型の BNCT治療装置を設置する計画を進めている。 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 BNCTの治療メカニズム ホウ素中性子捕獲療法 (Boron Neutron Capture Therapy : BNCT) 1. がん細胞にホウ素を取り込ませる。 2. そこに熱中性子を照射する。 3. ホウ素は中性子が当たると高速のヘ リウム(α線)とリチウム粒子線が生 成される。 4. これらの高LET粒子線が、がん細胞 を死滅させる。粒子の飛程は5~7μ mで隣接する正常細胞まで届かな い。 a線 中性子 ホウ素 リチウム 中性子線 癌細胞(10mm) ホウ素の集積した細胞(がん細胞)のみが死滅 B + n → α + 2.31MeV+ γ(478keV) B + n → α + 7Li + 2.79MeV イオンの飛程 = 5-7 μm 中性子のエネルギーは 低く、生体組織に当って も、共有結合を切断しな いので無害 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 熱~熱外中性子線の照射挙動 • BNCTとは、体外から熱中性子線束を照射し 体内にあらかじめ仕込んだほう素から高LETイオンを発生させて、 がん細胞を損傷させる巧妙な仕組みである。 • ほう素からイオンを生成するため、誤照射がない。 • ほう素の中性子の吸収反応断面積は、原子炉制御棒のものであり、中 性子速度に逆比例する。強い熱中性子束が必要となる。 • 人体は水が主成分であり、中性子が体内では散乱され、強度が下がる。 このため熱外中性子を照射して強度の減衰を補てんするが、 限界があり、体深部の治療ができない(7cmより深部)。 • ほう素薬剤(BPA:ボロノフェニルアラニン)の患細胞と正常細胞との集 積比が3.5(2~5)であり、がん細胞に20Gy照射したとき正常細胞は (20/3.5)Gy被ばくする。 • 付随するガンマ線により全身被ばくが高いが、阪大の装置では低減さ れている(~0.2Sv)。 放射線の生体組織内への透過 BNCT がん細胞 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 粒子線治療とBNCTとの比較 粒子線治療 BNCT 放射線 陽子線、重粒子線 H+ C+ 中性子線 (He, Li 粒子線) n 、 α 、 Li+ 照射方法 粒子線をがん細胞を含む範囲に照 射 がん細胞に蓄積するホウ素薬剤を 投与し中性子線をがん細胞を含む 範囲に照射し、粒子線を作り出す 腫瘍選択性 ブラックピークの分布で調整し、広 い範囲に照射する。腫瘍選択性は 低い 細胞単位の選択性がある 被ばくの程度 高い (50Gy < 致死量) 照射既往患者への適応なし 非常に少ない (<0.2Sv) 照射既往患者にも適応可 複数回治療も可能 患部の深度 深部の治療に適す 皮膚から~6-7cmの範囲に適用 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 従来の放射線治療との比較 X線(IMRT)、粒子線 BNCT治療 X線を正常組織を含む広 い範囲に照射することが 必要で、正常組織も傷つ き副作用になる。 被ばく線量が高い 再照 射できない がん細胞に集積させたほう 素と中性子との反応で発生 するイオン(高LET粒子線)を 使う。この粒子は飛程が短く、 隣接細胞まで届かない。 治療効果が放射線感受性 に左右されず、放射線抵抗 性がんにも効果がある。 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 BNCTの現状と治療装置の必要性 治療に高フラックスの熱中性子を必要と する為、原子炉での治療が行われてきた。 しかし治療用の原子炉は少なく、設備も 不十分である。また都市部から離れてい るので、患者や医師への負担も大きい。 新たな治療施設の建設に向けたハードル は高く、研究にも支障が出ている。 阪大工の成果を応用して BNCT用治療装置を設置する 計画である 実施施設 実施国 実施期間 症例数 BGRR USA 1951~1958 28 BMRR USA 1959~1999 71 MITR USA 1959~ 42* HiTR Japan 1968~75 13 MuITR Japan 1977~1989 108 JRR Japan 1990~ 99** KUR Japan 1974~ 271** Studsvik Sweden 2001~2005 52* HFR The Netherland 1997~ 22* Fir-1 Finland 1999~2013 150* LVR-15 Czech Republic 2000~ 2* TAPIRO Italia 2002~ 2* RA-3 Argentina 2003~ 7* * 08年現在 ** 09年現在 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 中性子生成方式の比較(ターゲット材による) ターゲット 材 反応 液体リチウム方式 7Li(P,N)7Be 反応 固体リチウム方式 7Li(P,N)7Be 反応 ベリリウム方式 9Be(P,N)9B 反応 加速器 静電加速器 静電加速器、RFQ サイクロトロン、RFQ ビーム エネルギー 2.5MeV (2.5MeV, 30mA) 2.5MeV 8 - 30 MeV (e.g. 30MeV 1mA) ターゲット 液体Liターゲット 固体Liターゲット 固体Beターゲット 頻繁な交換が必要 問題点 アルカリ金属の取扱いが一般 的でない(阪大が基盤技術を保 有する) リチウム熱負荷が高い 融点が低く(182℃)、 実現性ゼロ ベリリウム熱負荷が高い 放射能が高い 中性子の直接透過成分が多い 優位性 環境放射線が低く抑えられる 中性子の直接透過分が小さい 環境放射線が低く抑えられる 中性子の直接透過分が小さい 化学的に安定で取り扱い易い 融点が高い(1287℃) ターゲットが小さい 大阪大学 バーミンガム大、ロシア アルゼンチン、 がん研究センター 京大 筑波/KEK (外国の取組皆無) 取組機関 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 リチウムターゲットとベリリウムターゲットの比較 1.9 MeV P-Li反応 熱中性子: 2.5MeV陽子入射により、数 100keV中性子を生成し、減速して強度の高い 熱中性子とする。中性子エネルギーが低いた め、付随して生成されるガンマ線が少ない 10-20MeVのビーム加速が必要 中性子のエネルギーが高く、2次ガンマ線や、 高エネルギー中性子が被曝効果を与える。 ターゲットとしてのリチウムの優位性は明らか → だからIFMIFはLiを採用 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 液体金属リチウムの研究開発 • 大阪大学工学部では平成7年度に、既往のNa沸騰実験装置と NaK-MHD発電装置を液体金属リチウム循環装置に更新した。 • 当初はリチウム強制循環熱伝達に対する磁場の効果の実験研 究や、外部磁場による液体金属の温度成層化の防止の実験に 成果を上げた。 • 平成13年度より原研と核融合研の支援にて、国際核融合材料 照射試験施設建設計画(IFMIF)のために、自由表面流動試験 部を新設し、リチウムの高速自由表面流の実験研究に多くの成 果を上げている。(流路断面10mm x 70mm, 流速16m/sec) • その後阪大での成果とノウハウを発展させ、大洗工学センター に日欧協力でIFMIF-EVEDA大型リチウムループが建設され、 本年には開発目標を完遂した。(流路断面25mm x 100mm 流 速20m/sec)。 これらの成果により加速器内での液体Liの利用 計画が種々持ち上がっている 液体金属リチウムプロジェクトについて The Li facility for IFMIF-BA project was constructed by a transfer of engineering experiences of LI and personnel, from Osaka to Oarai center in Japan Atomic Energy Agency, with collaboration of FBR department. For the BNCT application, much smaller facility is sufficient. A very stable neutron generation can be attained with using a liquid metal system. P-beam 50mm BNCT target ~2mm Li Flow 15m/s n g Up grade Osaka University核動 ELTL (大ドブ 大洗) 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 阪大発の液体リチウムを用いたシステム イオン源 加速器は既製品を購入 Accelerator 加速器 遮蔽室 2.5 MeV 30 mA 大阪大学原子動力実験棟液体金属循環装置 2.5 MeV 30 mA H+ 液体金属 リチウム ターゲット 放射線調整部 1013/sec Neutron Flux 109/sec・cm2 液体リチウム流の例 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 バーミンガム大での性能確証実験 実験の目的 P-Li BNCT装置の性能実証実験 バーミンガム大学で実証実験中 東北大学で実施 実機:加速器(2.5MeV, 30mA) Neutron Flux:109/sec・cm2 中性子発生量を実験的に確認した。 1mA 1mA 30mA 電流値 1. 中性子線量およびガンマ線線量を測定 2. 阪大で行っている同装置設計用解析コードの実機規模での比較校正 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 バーミンガム大での性能確証実験 2013 June at Birmingham University Dynamitron Accelerator Beam species : Hydrogen Energy :2.25,2.65,2.95(MeV) Current on average :450 mA Target : Li Neutrons Generated Energy:700keV at maximum Yield :~4.5×1011 n/sec Measurements Neutron:Gold foil(198Au) Gamma:Glass dosimeter Foils and glass chips were placed inside and under the moderator, and inside of phantom. Accelerator Moderator Assembly Isao Murata, “Mock-up Experiment at Birmingham University for BNCT Project of Osaka University - Outline of the Experiment“Parallel Sessions (Pa P4 03) 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 Epi-thermal Flux [a.u.] 中性子・ガンマ線計測実験 1 中性子フラックスは良くコリメート できることを確認 照射領域 1/2 1/100 0 50 100 150 200 Position [cm] 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 中性子束とガンマ線束の分布 2.65 MeV w/o phantom Gamma ray profile 6.E+06 4.E+06 Collimator radius(100 mm) 2.E+06 1.E+04 0 200 400 600 Distance from the center [mm] 800 Gamma-ray dose [mGy] Neutron Flux [neutrons/cm2/sec] Epithermal neutron profile 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 Experiment Calculation 0 200 400 600 800 1000 Distance from the center [mm] Neutron flux is collimated well and low beyond collimated radius. → Suppression of the total body dose for a patient Shingo Tamaki, “Mock-up Experiment at Birmingham University for BNCT Project of Osaka University - Neutron Flux Measurement with Gold Foil –” Poster Sessions (Ps2 P01) A peak of the gamma at the center is partly attributable to neutron doses, which has verified by numerical analysis and by new differential measurement of g-ray. → A glass dosimeter is tested to have sensitivity to neutrons. Sachiko Yoshihashi, “Mock-up Experiment at Birmingham University for BNCT Project of Osaka University - Gamma-ray Dose Measurement with Glass Dosimeter – “ Poster Sessions (Ps2 P03) 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 BNCT実機性能 Evaluation condition Tumor : Head and neck cancer BPA : 24 ppm (ave.) Values supplied by T/N ratio : 3.5 (ave.) Prof. Itsuro Kato Mucosa dose : 12 Gy-eq of Osaka University Irradiation time : 30 min Extrapolated real machine performance ○Basic Themal neutron : 5.8x106 n/sec/cm2/30mA Epi-thermal n. : 8.1x108 n/sec/cm2/30mA Fast neutron : 1.2x108 n/sec/cm2/30mA γ-ray air dose : 0.24 Gh/hr ○Dose Tumor : 20 Gy-eq Normal brain : 4.1 Gy-eq ○Contribution Fast : 5.1 x 10-13 Gy・cm2 Gamma-ray : 2.7 x 10-13 Gy・cm2 ○Whole body Neutron : 0.03 Sv/irradiation Gamma-ray : 0.15 Sv/irradiation B+N : 0.08 Sv/irradiation Total : 0.26 Sv/irradiation 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 実機BNCT装置の鳥瞰図 装置のサイズは粒子線装置に比べて非常に小型。年間600症例以上の治療 が可能 医学関係者の育成が重要。(医師(主治医)、放射線医、医学物理士、放射 線管理者、装置運転員)。総合的ながんの放射線治療が可能となる。Mo99 の製造が可能 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 液体リチウムBNCT装置の特徴 工学的に非常に安定した装置である。 • 液体金属をループで循環させるので、安定して稼動。 • ビームによるターゲットの損傷が無く、 • ビーム熱の冷却の必要も無く、 • 固体であれば強度に放射化するところが、リチウムの容積(300リット ル)で放射能が希釈され、 • リチウムは年単位で交換の必要がない。 (強く放射化したターゲット板の交換廃棄という危険な作業が不用) • リチウムの放射化は半年のフル稼働で平衡値に達する。リチウムの 容積が大きいので放射線は弱く、ループ機器配管を遮蔽すれば、通 常の作業環境が確保できる。 • BNCTは治療時の患者への全身被ばくが高い傾向があるが、本装置 では0.1Sv台に抑制でき、ビーム加速エネルギーを調整することで更 に抑制可能である。 BNCT治療における大阪大学の適性 • 液体リチウムターゲットが他機関で採用できないのは、その安 全取扱い工学知見が大阪大学/MHIにしか無いから。 • 阪大はDT中性子源OKTAVIANの実験と運転について種々の 知見を有し、低速中性子の減速と遮蔽等の安全取扱について 知見と経験を保有する唯一の大学である。 • 京大炉を府内に抱え、BNCT治療の専門医を擁している。 口腔外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科、 • 熊取でのBNCTの失敗プロジェクトに参加した医学部側の経験 者が多く、予備知識と相場観がある。 • 三菱など原発関連企業を近隣に擁し、製造技術と強放射線施 設の維持運営面での支援が大きい。 全体計画 1年目 2年目 3年目 4年目 試験調整 5年目 6年目 7~10年 試験、供用 設計 製作 装置開発製作 装置完成 性能確認 遮蔽計算、設計 FEL研建屋整備 25 改築 RI申請 前臨床研究 臨床研究 継続の場合 25 治験準備 硼素製剤, PET 事業会社 実施場所 設立 枚方市津田 病院分院として稼動 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 まとめ 大阪大学の液体金属と中性子の取扱い知見をベースに、超小型 の医療用中性子源装置を開発した。 バーミンガム大学において1/10規模での中性子線およびガンマ 線の発生量を計測し、装置性能実証実験を実施した。(2013) 液体Liターゲットとその減速遮蔽器の性能が実験的に確認された ・中性子フラックスが十分良くコリメートできること、 ・ガンマ線と高速中性子線による、治療に不用な放射線による 全身被ばくは、原子炉でのそれと同等以下で ~0.1Sv台/治療 であり、 ・被ばく線量が充分に低い理想的な放射線治療となること が確認された。 装置は約2.5年で製作し、動物実験から臨床研究に進む。医療上 の認可後は年間600例以上の治療が可能である。 口腔外科、脳神経外科、放射線科などと関連病院との連携にて、 施設の運営計画を策定している。 大阪大学BNCT研究会6.19.2013 実証実験装置完成(バーミンガム大) Prof. Dr. Stuart Green (Head of radiation oncology, Birmingham University Hospital) 大阪大学BNCT研究会6.19.2013
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