ノートン則の応力指数の特性 Characteristics of stress index in Norton

ノートン則の応力指数の特性
Characteristics of stress index in Norton law
三田 俊裕(東京工科大学・バイオニクス) 三角 正明(成蹊大学・工) 大久保 雅文(成蹊大学・工)
Toshihiro MITA, Tokyo University of Technology
Masaaki MISUMI, Seikei University
Masafumi OHKUBO, Seikei University
FAX: 0426-37-2452
The linear relation on the semi-log plane between the log k and stress index n in Norton equation dε/dt = kσn was
recognized for residual compressive stress relaxation behavior of an induction hardened steel. This linear relation k=BAn
(A,B: experimental constants) could be expected also in high temperature creep phenomena. Investigating many references
in latest two decades, this study widely verified the stress index n relation for various kinds of materials of ferrousmetals,
nonferrous metals,and ceramics and also for compressive creep behavior.
1.まえがき
著者等は,高周波焼入れ丸棒に対して高硬度表面層内の
軸方向と円周方向の圧縮残留応力の低温度環境下での応力
緩和挙動を統計的に観察した結果,正規分布を示す残留応
力の中央値の減少挙動が,定常クリープ挙動を表現する
Norton 式から導出される緩和式を用いることにより良く
近似できることを見出した 1)。また,その残留応力緩和に
対応する Norton 式 dε/dt = kσn における応力指数 n と係
数 k との間に片対数グラフ上で直線関係が認められた 1)。
B.Derby と M.F.Ashby は n と他の実験定数との間に片対
数グラフ上での直線関係を指摘している 2)。本研究は,応
力指数 n と係数 k の関係式 k = BAn (A,B:実験定数) がク
リープ現象において一般的に成立しているものであるか否
かを検証するために,最近の約 20 年間の文献を調査して
まとめたものである。
2.Norton 式
材料のクリープ特性を扱う場合,第1期から第3期のク
リープ段階に分けて考えられる。第 2 期段階における一定
のひずみ速度 dε/dt を応力σの関数として,さまざまな関
係式が提案されているが,式(1)に示す Norton 式は,応用
クリープ力学の基礎式として最も広く用いられている。
(1)
ここで,k と n はともに実験定数であり,中でも n は応
力指数と呼ばれている。式(1)の dε/dt とσの関係を両対
数グラフ上に表すと傾きが n,切片が log k の直線となる
ことから,dε/dt とσの実験データから最小自乗法を用い
て k と n を近似的に求めることができる。図 1 は F.K.G.
Odqvist と J.Hult の著書の中に掲載されている主な金属の
クリープ特性データ 3)より k と n を求め,片対数グラフ上
に整理した結果である。試験温度は 20∼700℃であったが,
材料および温度によらず,k と n はほぼ直線関係を示して
いる。
3.検索文献
1981 年から 2003 年に報告された文献を JOIS で検索し
10 0
Coefficient k
dε
= kσ n
dt
たところ,
「応力指数」
「クリープ」
「高温クリープ」をキー
ワードとする文献は 853 篇であった。さらにそれらの文献
の中でクリープ試験のデータを引用可能な文献は 48 篇で
あった。それらのデータの単位をすべて SI 単位に換算し,
ひずみ速度の単位は h-1 に統一した。
また,取り扱われていた材料と試験方法により分類した
ところ,引張りクリープ試験では Cr-Mo 鋼などの鉄系材料
(11 篇) 4),アルミニウム合金などの非鉄系材料 (18 篇) 5),
および窒化珪素などのセラミック系材料(6 篇) 6)の計 37 種
類の材料に関するクリープデータが得られた。また,圧縮
クリープ試験では,鉄系材料(1 篇) 7),非鉄系材料(5 篇)8),
およびセラミック系材料(8 篇) 9),10)の計 13 種類の材料に関
するクリープデータが得られた。これらのクリープ試験デ
ータをもとに k と n の関係を整理した。
4.応力指数 n と定数 k の関係
4.1 引張りクリープ
引張りクリープ試験による文献値から k と n の関係を整
理した結果を図 2 に示す。試験温度はそれぞれ a) 鉄系材
料では 500∼1093℃,b) 非鉄系材料では-40∼1550℃およ
び c) セラミックス系材料では 1049∼1600℃であった。図
中に示した破線は F.K.G. Odqvist と J.Hult により紹介さ
れたデータによる近似線(図 1)である。鉄系,非鉄系,
10-10
log k = -2.82 n -2.09
-20
10
10-30
10-40
10-50
0
Carbon steel (400∼550℃)
Chrome steel (400∼600℃)
Stainless steel (450 ∼700℃)
Nimonic75 steel (650 ℃)
Duralmin 24S-T4 (150,190℃)
Aluminum alloy RR-59 (200 ℃)
Copper (20,190℃)
Magnesium alloy (20,50 ℃)
2
4
6
8
10
12
Stress index n
Fig .1
Relation between coefficient k and stress
index n in the book of F.K.G. Odqvist & J.Hult
セラミックス系のどの場合も僅かに破線との違いが見られ,
ばらつきも見られる。
4.2 圧縮クリープ
圧縮クリープ試験による文献値から k と n の関係を整理
した結果を図 3 に示す。試験温度はそれぞれ鉄系材料では
800∼1000℃,非鉄系材料では-55∼1850℃およびセラミ
ックス系材料では 1049∼1600℃であった。鉄系,セラミ
ックス系の文献値は高温クリープのみであり,低温クリー
プの文献値は非鉄系においては僅かに 60Sn-40Pb はんだ
材(-55∼125℃)9)のみであった。この図より 600℃以上の高
温クリープの場合はばらつきは大きめであるが,おおよそ
同じ直線傾向が見られる。はんだ材の結果のみが少し高い
位置にある。
5. 応力指数 n と係数 k の関係式について
図 1∼図 3 の近似直線より,n と k の関係式 k = BAnに
おける A および B の値を求め表 1 にまとめた。引張りクリ
ープにおける鉄系材料のみが B=240 と大きめであったが,
その他の場合は A と B の値は同じオーダーである。
6. 温度 T の影響
n と k に加えて新たに温度 T を関数に加えて,図 2,図
3 をまとめて整理した結果を図 4 に示す。図 4 a)および b)
は同じ結果であるが,視点を変えて表示しており,データ
点は温度軸方向に僅かに傾いた平面上にほぼ位置している
ことが分かる。
Table 1
7. 結論
最近の約 20 年間に報告されている多数のクリープに関
する文献を調査し,それらに記載されている種々の材料の
クリープ特性に関する文献値を用いて応力指数 n と定数 k
の関係を整理し得られた結論を以下にまとめる。
1) 応力指数 n と係数 k の関係は,実験条件等を分類する
ことにより,ばらつきはあるものの片対数グラフ上で
ほぼ直線関係を示した。
2) 応力指数 n と係数 k の関係は,温度 T を考慮すると,
3 次元座標上では温度軸方向に僅かに傾いた平面上に
ほぼ位置している。
参考文献
1) 三角,大久保,川嵜,日本機械学会 2004 年度年次大
会講演論文集 Vol.1,No.4-1, pp.67-68 ,2004.
2) B.Derby, M.F.Ashby, Scripta Metallurgica, Vol.18,
pp.1079-1084 ,1984.
3) F.K.G.オドクビスト・J.ハルト,クリープ強さの理論,
培風館, pp286-287 ,1967.
4) 石油学会,石油精製および石油化学装置に使用される
耐熱合金の高温クリープ破断強度データ集,1979.
5) 例えば J.Warren, H.N.G.Wadley, Scr. Mater. Vol.34,
No.6, pp897-902 ,1996.
6) 例えば K.J.Yoon, S.M.Wiederhorn, W.E.Luecke,
J. Am.Ceram. Soc. Vol.83, pp 2017-2022 ,2000.
7) K.Kleveland, A.Wereszczak, T.P.Kirkland, J. Am.
Ceram. Soc.
8) 例 え ば R.S.Koyyada, A.H.Chokshi, Acta Mater.
Vol.48, No.15, 667-679 ,1998.
9) 例えば D.M.Owen, A.H.Chokshi, Acta Mater.
Vol.46, No.2, 667-679 ,1998.
10) J.J.Stephens, D.R.Frear, Metall Mater. Trans. A
Vol.30, No.5,pp 1301-1313 ,1999.
Experimental values of A and B
A
B
F.K.G. Odqvist & J.Hult
1.51×10-3
8.13×10-3
Ferrous metals under tensile creep
2.04×10-3
2.40×102
Nonferrous metals under tensile creep
9.77×10-3
2.75×10-3
4.79×10
-3
7.24×10-3
7.76×10
-3
8.91×10-3
Ceramics under tensile creep
Under compressive creep
Coefficient k
10 0
log k = -2.01n -2..56
10-20
log k = -2.32n -2.14
log k = -2.69n +2.38
10-40
10-60
10-80
log k = -2.82n -2.09
a) Ferrous metals
10 -100
0
log k = -2.82n -2.09
log k = -2.82 n -2.09
5
10
15
b) Nonferrous metals
20
25
0
5
10
15
c) Ceramics
20
25
0
5
10
15
20
Stress index n
Stress index n
Stress index n
Fig. 2 Relation between coefficient k and stress index n under tensile creep test.
Coefficient k
10 0
log k = -2.11n - 2.05
log k = -2.82 n -2.09
10-20
10-40
10
-60
10-80
10-100
0
over 600℃
Ferrous metals
Nonferrous metals
Ceramics
-55∼125℃
60Sn-40Pb
5
10
15
20
25
Stress index n
Fig. 3 Relation between k and n
under compressive creep test.
a)
Fig. 4
b)
Relation between k , n and T.
25