国際交流学級設立準備会に対する渋谷区行政財産使用許可に関する件

渋谷区職員措置請求及び監査結果
(国際交流学級設立準備会に対する渋谷区行政財
産使用許可に関する件−Ⅱ)
平成22年5月28日
渋谷区監査委員
第1
1
請求の受付
請求人
渋谷区千駄ヶ谷
2
久保田
正尚
ほか4人
請求書の提出
平成22年3月29日
3
請求の内容
(注1)住民監査請求書は、請求人の電話番号及びFAX番号を除き、原文の
まま記載した。
(注2)事実証明書は、省略した。
渋谷区職員措置請求書(住民監査請求書)
平成22年3月29日
渋谷区監査委員 殿
〒151−0051
東京都渋谷区千駄ヶ谷
職業
請求人代表(送達場所)久保田 正尚
電 話
FAX
請求人 ほか4人
1
請 求 の 趣 旨
1.<主位的請求>
渋谷区処分行政庁渋谷区教育委員会は、国際交流学級設立準備会に対する平成
21年3月16日付け渋谷区行政財産使用許可(許可第36号)を取り消せ。
<予備的請求>
渋谷区処分行政庁渋谷区教育委員会は、国際交流学級設立準備会に対する平成
21年3月16日付け渋谷区行政財産使用許可(許可第36号)にかかる使用料免
除を取り消せ。
2.渋谷区長は、桑原敏武、大高満範、原秀子、椿滋男、佐藤喜彦及び池山世津子
に対し、連帯して平成21年10月1日から平成22年3月31日までの使用損害
金2942万4000円を支払うよう請求せよ。
請 求 の 原 因
第一 事件の概要
1 事件の要旨
渋谷区教育委員会(以下「教育委員会」という。)は、平成19年5月1日より
平成21年3月31日まで、「国際交流学級の設置」との名目にて、学校法人ホラ
イゾン学園(以下「ホライゾン学園」という。)に対し、渋谷区神宮前4丁目20
番12号所在の渋谷区立神宮前小学校(以下「神宮前小学校」という。)施設を無
償にて使用させていた。
2
ホライゾン学園は、ホライゾンジャパンインターナショナルスクール(以下「H
JIS」と略称する。)との名称でインターナショナルスクールを運営している民
間事業者であり、そのHPでは、横浜校と渋谷校の2校のインターナショナルスク
ールを開設していると告知しており、その「HJIS渋谷校」の所在地こそが神宮
前小学校であった。
すなわち、教育委員会は、民間の一学校法人であるホライゾン学園に対し、原宿
表参道の一等地にある区立小学校内施設を無償使用させるという破格の便宜・利益
を与え、そのホライゾン学園は、神宮前小学校施設を無償使用して「HJIS渋谷
校」を開設していたのである。
請求人らは、教育委員会が神宮前小学校施設を無償使用させていることの根拠と
なる平成19年3月29日付け及び平成20年3月21日付け渋谷区行政財産使
用許可の取消し及び平成19年5月1日から平成21年3月31日までの使用損
害金並びに神宮前小学校施設をホライゾン学園に無償使用させるために支出した
整備工事代金相当額の損害賠償請求を求めて、住民監査請求を経たうえで東京地裁
民事第2部C係にて係争中である(平成20年(行ウ)第561号事件/平成21
年(行ウ)第484号)。
そして、教育委員会は、神宮前小学校施設を引き続き平成21年4月1日から平
成22年3月31日まで無償使用させるに際しては、「神宮前国際交流学級」の運
営主体がホライゾン学園から国際交流学級設立準備会との名称の団体(以下「設立
準備会」という。)に変更されたとして使用許可の名宛人を設立準備会とした。
加えて請求人らは、渋谷区に対し、平成21年4月1日から平成22年3月31
日までの無償使用の根拠となる設立準備会に対する平成21年3月16日付け渋
谷区行政財産使用許可(以下「本件使用許可という。)の取消しあるいは本件使用
許可に係る使用料免除の取消しを求めるとともに、渋谷区長に対し、上記期間の使
用損害金として使用料相当額の損害賠償請求を求めて、住民監査請求を経たうえで
東京地裁民事第2部C係にて係争中である(平成21年(行ウ)第621号事件)。
本件請求は、上記平成21年(行ウ)第621号事件において、使用損害金の期
間を平成21年4月1日から平成22年3月31日まで請求しているが、住民監査
請求の段階では、使用損害金の期間を平成21年4月1日から平成21年9月30
日までとしているので、平成21年10月1日から平成22年3月31日までの使
用損害金の請求が、監査請求前置を問題とされないように、念のためにするもので
3
ある。
2 当事者
(1)請求人らは、いずれも渋谷区民である。
(2)請求人らが、渋谷区長に対し損害賠償請求を求める相手方たる桑原敏武は、
本件使用許可がなされた平成21年3月16日当時を含め平成15年から現在に至
るまで、渋谷区長の地位にある。
同じく原秀子、大高満範、椿滋男、佐藤喜彦及び池山世津子の5名はいずれも、
本件使用許可がなされた平成21年3月16日当時、教育委員会を構成する委員の
地位にあった。
3 本件使用許可に至る経緯
(1)上記のとおり、ホライゾン学園は、平成19年3月29日付け及び平成20
年3月21日付け渋谷区行政財産使用許可に基づき、平成19年5月1日から神宮
前小学校施設を無償使用し、「神宮前国際交流学級」を運営していたが、その実態
はインターナショナルスクールであった。
ホライゾン学園は、平成15年4月1日に、HJISとの名称でインターナショ
ナルスクールを運営することを目的として設立された学校法人であり、平成15年
2月3日付けの神奈川県知事による学校設置認可を得て、設立と同時に神奈川県横
浜市鶴見区東寺尾
にてHJISを開校している。
加えて、上記のとおり神宮前小学校施設の無償使用が許可されたことにより、平
成19年5月1日には同所にてHJISを開校した。2校を区別するため、横浜市
鶴見区所在のHJISを「横浜校」と称し、神宮前小学校施設のHJISを「渋谷
校」と称していた。
すなわち、「神宮前国際交流学級」の実態は、運営主体であるホライゾン学園自
らが公然と明示していたとおり、「HJIS渋谷校」であった。
しかも、「神宮前国際交流学級」すなわち「HJIS渋谷校」は、高額な入学金
及び学費を支払えるだけの裕福な家庭の児童のみを対象とし、北米式カリキュラム
による英語教育を行うインターナショナルスクールであり、トルコ共国とのつなが
りは唯一、実質的経営者がトルコ人であるというだけであった。
(2)ところで、ホライゾン学園による「神宮前国際交流学級」すなわち「HJI
S渋谷校」の運営は、寄附行為に基づかない活動であり私立学校法30条1項に違
反していた。それゆえ、ホライゾン学園は、認可庁である神奈川県から「速やかに
4
活動を中止するか、学校法人ホライゾン学園から(神宮前国際交流学級を)切り離
す等の手続を行ってください。」との行政指導を再三にわたり受けていた。
すなわち、教育委員会は、ホライゾン学園による違法行為のために神宮前小学校
施設を無償使用させていたのであり、その使用許可が違法であることはこの点から
も明らかであった。
そこで、教育委員会とホライゾン学園は、ホライゾン学園が平成21年3月31
日をもって「神宮前国際交流学級」の運営から離れることになったため、設立準備
会がこれに代わって運営主体になるとの建前を作り出し、設立準備会を名宛人に変
更した本件使用許可を出したのである。
しかし、実態は何も変わっていない。
すなわち、「神宮前国際交流学級」は、「HJIS渋谷校」と称されていた平成
19年5月1日から平成21年3月31日までと教育内容も教職員も学費もほぼ
同一のまま継続しているのであり、設立準備会の代表者である
X
氏は、
ホライゾン学園の設立時の理事であり、「神宮前国際交流学級」すなわち「HJI
S渋谷校」開校時の副校長であり、校長なのである。
設立準備会は、ホライゾン学園による「神宮前国際交流学級」すなわち「HJI
S渋谷校」の運営が違法であるがゆえに、その実態を隠蔽し、ホライゾン学園によ
る実質的な運営を可能にするために作られたものにすぎない。
教育委員会は、ホライゾン学園による「神宮前国際交流学級」の運営が違法であ
ることも、そのために設立準備会が作られたことも、「神宮前国際交流学級」の実
態が「HJIS渋谷校」であることもすべて承知していながら、設立準備会を名宛
人に変更して本件使用許可を出しているのである。
第2 本件使用許可の違法性
1
地方自治法第238条の4第7項違反
(1)本件使用許可は、設立準備会に対し、行政財産である神宮前小学校の校舎の
一部490.40㎡を専用させる他、運動場、体育館、プール、和室等を神宮前小
学校と共用させるものである。
地方自治法第238条の4第7項は、「行政財産は、その用途又は目的を妨げな
い限度においてその使用を許可することができる。」と定める。すなわち、行政財
産は、本来の用途又は目的のために適正に使用されるよう管理しなければならな
5
い。
そもそも公立小学校の「用途又は目的」は、教育基本法第1条(教育の目的)・
第4条(教育の機会均等)、学校教育法第21条(教育の目標)等教育法令に従っ
てなされる初等義務教育にあり、広く等しい教育環境を提供することにある。
とすれば、授業料無料の義務教育課程の児童約120名と、年額約160万円も
の高額な授業料を支払う私立学校の外国籍の児童31名(3歳から11歳)とを同
じ校舎で学ばせることは、授業料無料の義務教育課程の児童に対する教育的配慮に
欠けるのみならず、極めて高額の授業料を支払えるだけの経済力のある家庭の児童
にしか門戸を開かない私立学校を公立小学校内で経営させること自体、広く等しい
教育環境を提供すべき公立小学校の理念及び上記法令に著しく違反する。
(2)これに対し、本件監査結果は、本件使用許可によって財産上の具体的な支障
が生じている事実はなく、教育委員会の進める国際理解教育、日本伝統文化教育、
英語教育の推進に貢献し、国際社会で活躍できる児童の育成にも合致しており本件
使用許可を与える相当な理由があるとして、本件使用許可の違法性を否定する。
しかし、「神宮前国際交流学級」は、神宮前小学校の児童らに対し、国際理解教
育、日本伝統文化教育、英語教育を行うために設置されたものではない。高額の授
業料を支払えるだけの経済力のある家庭の児童のみを対象とするインターナショナ
ルスクールを民間の事業者であるホライゾン学園および設立準備会に運営させるた
めに無償使用させているにすぎない。
もし仮に、教育委員会が主張するとおり国際交流学級を創設したのだとしても、
区立小学校でありながら入学の初年度には約220万円、その後も毎年約160万
円もの高額の学費を徴収する事業者に運営を任せ、極めて裕福な家庭の児童にしか
門戸を開かず、裕福でない家庭の児童は閉め出して教育も国際交流の機会も与えな
いのであるから、公立小学校の用途又は目的に著しく違反することは明らかであ
る。
(3)ところで、ホライゾン学園による「神宮前国際交流学級」の運営が違法であ
ることは上記のとおりであるが、設立準備会は、ホライゾン学園による「神宮前国
際交流学級」の運営が違法であるがゆえに、その実態を隠蔽し、ホライゾン学園に
よる実質的な運営を可能にするために作られたものである。
とすれば、設立準備会による運営もまた違法である。
教育委員会は、神宮前小学校内において違法な教育施設を運営させているのであ
6
り、この点に鑑みても本件使用許可は違法である。
(4)以上のとおり、本件使用許可は、公立小学校本来の「用途又は目的」を妨げ、
少なくとも「用途又は目的を妨げない限度」を超えており、違法であることは明ら
かである。
従って、本件使用許可は、地方自治法第238条の4第7項に違反するものであ
るから、教育委員会により取り消されなければならない。
2
憲法第89条違反
「神宮前国際交流学級」はインターナショナルスクールであり、私塾である。そ
して、その運営主体である設立準備会は、一民間団体であり、学校法人のような認
可を受けておらず、法令による規律にも所轄庁による監督にも服していない。
とすれば、設立準備会に対して公立小学校内施設を提供する本件使用許可は、行政
財産を「公の支配に属しない教育の事業」の利用に供したものであり、憲法第89
条に違反するものである。
従って、教育委員会により直ちに取り消されなければならない。
3
渋谷区行政財産使用条例第5条違反
もし仮に、神宮前小学校施設を設立準備会に使用させることが適法であるとして
も、使用料免除(無償)としたことには正当な理由がなく違法である。
渋谷区行政財産使用条例第5条は、行政財産の使用料を減免できる場合を定めて
おり、教育委員会は、同条第3号の「前各号のほか、特に必要があると認めるとき」
に該当するものとして使用料免除の条件を付したようである。
しかし、同条は、行政財産の使用料を減免できる場合として、「国または地方公
共団体その他公共団体において、公用または公共用に供するため使用するとき」
(同
条第1号)と「既に貸し付けられた行政財産が、地震、水災、火災等の災害のため、
当該財産の使用目的に供し難いと認めるとき」(同条第2号)を列挙して定めてい
るのであるから、「前各号のほか、特に必要があると認めるとき」(同条第3号)
とは、「公共用に供するため使用するとき」や「災害のため使用目的に供し難いと
き」に匹敵する程度の必要性が要求される。しかも、減額ではなく敢えて免除とす
る以上は、より高度な必要性が要求される。
「神宮前国際交流学級」の実態は、運営主体が形式的に設立準備会に変更になっ
て以降もインターナショナルスクール(HJIS渋谷校)である。神宮前小学校施
設を無償使用できるからといって、学費を低額にするなどして裕福でない家庭の児
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童にも広く門戸を開放するわけでもなく、極めて高額の学費を徴収して利益を得て
いる。むしろ、高額の学費を支払えない家庭の児童は締め出しているのである。そ
のようなインターナショナルスクールを運営して営利活動を行う団体に対し、原宿
表参道の一等地にある区立小学校内施設を使用させること自体、多大な便宜・利益
の提供である。それに加えて、使用料全額免除という破格の便宜・利益を与える必
要性はまったく認められない。
ゆえに、もし仮に、神宮前小学校施設を設立準備会に使用させることが適法であ
るとしても、使用料免除(無償)とすることは渋谷区行政財産使用条例第5条に違
反し、行政裁量を逸脱した財務会計上の違法行為である。
教育委員会は、これを直ちに取り消し、同法第2条に基づく適正な使用料条件を
付加しなければならない。
第3 損害賠償請求
1
本件使用許可は違法であり、あるいは、少なくとも本件使用許可に係る使用料
免除の条件は違法であるから、教育委員会は、平成21年10月1日から平成22
年3月31日まで神宮前小学校施設を設立準備会に無償使用させることにより渋
谷区民に多大なる損害を与えている。
教育委員会が設立準備会に無償使用させている神宮前小学校の校舎面積は
490.40㎡である。
周辺の家賃相場からすれば、神宮前小学校の校舎1階の家賃相当額は少なくとも
1㎡あたり月額1万円であるから、設立準備会が使用している神宮前小学校施設の
使用損害金は少なくとも月額490万4000円である。
とすれば、平成21年10月1日から平成22年3月31日までの6ヶ月分の使
用料相当損害金は少なくとも2942万4000円となり、渋谷区長桑原敏武氏及
び教育委員会委員5名は、自らの違法行為により少なくとも同額の損害を渋谷区民
に与えている。
2
以上からすれば、渋谷区長は、渋谷区長の地位にある桑原敏武氏、教育委員会
委員の地位にあった原秀子氏、大高満範氏、椿滋男氏、佐藤喜彦氏及び池山世津子
氏に対し、違法行為によって渋谷区に与えた損害を補填させるため、個人の資格に
おいて連帯して、神宮前小学校施設を設立準備会に無償使用させることによる平成
21年10月1日から平成22年3月31日まで6ヶ月分の使用損害金2942
万4000円を支払うよう請求すべきである。
8
第四 結語
以上の次第であり、請求人らは、地方自治法242条第1項に基づき、請求の趣
旨記載のとおり請求する。
以 上
4
請求の要件審査
本件監査請求は、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)
第242条所定の要件を具備しているものと認めた。
第2
1
監査の実施
監査対象事項
請求人らの本件監査請求のうち、渋谷区教育委員会(以下「教育委員会」とい
う。)が、国際交流学級設立準備会(以下「準備会」という。)に対して行った、
平成21年3月16日付け許可第36号の渋谷区行政財産使用許可(期間:平成
21年4月1日から同22年3月31日まで。以下「本件使用許可」という。)
の取消し及び本件使用許可に係る同月23日付けの使用料免除(期間:平成21
年4月1日から同22年3月31日まで。以下「本件使用料免除」という。)の取
消しを求める各請求部分は、請求人らが、同21年10月1日付けで提出した渋
谷区職員措置請求書(以下「前回監査請求」という。)の当該請求部分と同一内容
である。これに対する監査委員の判断は、同年11月30日付け渋監収第31−
6号(以下「前回監査結果」という。)で示したところである。
同一住民が先に監査請求の対象とした財務会計上の行為又は怠る事実と同一の
行為又は怠る事実を対象とする監査請求を重ねて行うことは許されないものであ
り(最高裁昭和62年2月20日判決。民集41巻1号122頁)、請求人らの上
記請求部分は、一事不再理の原則により、監査対象事項としない。
本件監査請求は、以上の点を踏まえ、監査対象事項を次のとおりとした。
9
渋谷区長(以下「区長」という。
)は、違法、不当な財産の管理及び公金の徴収
を怠ったことにより、渋谷区(以下「区」という。
)に損害を与えたとして、桑原
敏武、大高満範、原秀子、椿滋男、佐藤喜彦及び池山世津子に対し、本件使用料
免除の期間中、平成21年10月1日から同22年3月31日までの使用料免除
相当額を連帯して支払うよう請求する必要があるか。
2
監査対象部
教育委員会事務局
3
請求人の証拠の提出及び陳述
請求人らに対し、法第242条第6項の規定に基づき、平成22年4月14日
に証拠の提出及び陳述の機会を与えた。請求人らからは、新たな証拠の提出はな
く、陳述の必要はない旨の意思表示があり、陳述を実施しなかった。
4
監査対象部の見解
監査対象部より、本件監査請求に関する見解が示されたので、以下、その要旨
を掲載する。
(1)前回監査請求が提出された平成21年10月1日から、本件監査請求が提出
された同22年3月29日までの間における事実の変更について
教育委員会は、平成21年3月16日付け許可第36号で、準備会に対して、
渋谷区立神宮前小学校(以下「神宮前小学校」という。)への国際交流学級の設
置についての行政財産使用許可をした。
教育委員会は、準備会が「特定非営利活動法人国際交流学級」の設立前の準
10
備組織であり、同年4月7日付けで、東京都知事(以下「都知事」という。)
に対して「特定非営利活動法人国際交流学級」の設立認証申請がなされたと認
識していた。
その後、同年10月29日に都知事より、認証書が送達され(認証日、平成
21年8月6日)、特定非営利活動法人国際交流学級より、同年11月10日
付けで法人成立した旨の通知があったため、これを確認した。
教育委員会は、同年12月10日、法人成立を確認し、「平成21年度中に
特定非営利活動法人の認証が得られない場合は、使用開始時に遡って使用料免
除を取り消すことができるものとする。」という行政財産使用料免除の条件を
解除した。
(2)平成21年10月1日から同22年3月31日までの6か月間における、神
宮前小学校と国際交流学級との交流について
神宮前小学校と国際交流学級との交流は、休み時間を合わせるなどして日々
の交流を図るほか、主なものは以下のとおりである。
平成21年
10月16日、30日
健康マラソン
10月19日
2年生生活科合同授業
10月29日
トルコ共和国イスタンブール市ウスキュダル区の区長
及び区議会議員訪問団歓迎会にて合同で合唱
10月31日
くみんの広場パレード参加
11月
4日
体育朝会大縄大会
11月
5日
研究発表会アトラクション練習
11月
6日、26日
11月
9日
11月13日
健康マラソン
避難訓練
平成21年度国立教育政策研究所教育課程研究センタ
ー関係指定事業
「我が国の伝統文化を尊重する教育に関するモデル校」
研究発表会アトラクション最終リハーサル
研究発表会2年生研究授業参加「連凧をつくろう」
11
11月20日
地域清掃活動、町会とともに表参道を清掃
11月28日
フェスタ原宿 (地域・保護者・神宮前小学校・国際交
流学級とともに地域のお祭りを実施)
12月
4日、11日
12月
4日
健康マラソン
東京都教職員研修センター主催「日本の伝統文化理解教
育」推進者養成研修
12月
7日
避難訓練
平成22年
1月
8日
1月14日
もちつき大会
保護者・地域の方も協力(およそ50人)
避難訓練
1月15日、22日
健康マラソン
1月29日
地域清掃活動、昼食会
1月30日
地域交流スポーツ大会(地域・保護者・神宮前小学校・
国際交流学級の4者での交流)
2月
4日
避難訓練
2月8日∼12日
交流読書週間(英語による読み聞かせ等)
2月12日、19日、26日
3月5日、12日
3月12日
健康マラソン
健康マラソン
屋上庭園開園式
(3)準備会について
本件使用許可は、準備会からなされた、平成21年4月1日から同22年3
月31日までの国際交流学級の設置に係る行政財産の使用許可申請に基づき、
使用許可したものである。
準備会からの使用許可申請は、前回監査請求に伴う事情聴取で述べたとおり、
学校法人ホライゾン学園が法人運営上の理由で国際交流学級の運営から離れる
こととなったため、国際交流学級の存続を強く望む国際交流学級の児童の保護
者及び教職員らが国際交流学級を存続させるために、特定非営利活動法人国際
交流学級の設立を発起したことによるもの、と認識している。
12
5
事実の確認
関係書類の調査により、次の事実を確認した。
(1)行政財産使用許可及び使用料免除について
ア
教育委員会は、準備会に対して、平成21年3月16日に、神宮前小学校
東側棟1階多目的室、廊下及び便所(490.40㎡)の使用許可(許可第
36号。期間:平成21年4月1日から同22年3月31日まで)を行った。
イ
教育委員会は、準備会に対して、平成21年3月23日に、同月16日付
け行政財産使用許可に係る使用料を「平成21年度中に特定非営利活動法人
の認証が得られない場合は、使用開始時に遡って使用料免除を取り消すこと
ができるものとする。」という条件を付し、免除した。
(期間:平成21年4
月1日から同22年3月31日まで)
ウ
教育委員会は、準備会に対して、平成21年12月10日に、上記イに係
る使用料免除に付していた条件を、条件成就のため解除した。
(2)準備会から特定非営利活動法人設立までの経緯について
平成21年
3月14日
・特定非営利活動法人国際交流学級設立総会の開催
準備会発足
3月16日 ・在日トルコ大使は、区長に国際交流学級の運営者
として準備会を紹介
4月
7日 ・特定非営利活動法人設立について都知事へ認証申
請
8月
6日
・特定非営利活動法人設立について都知事が認証
10月29日
・都知事から準備会へ認証書送達
11月10日
・特定非営利活動法人の登記
12月 2日 ・特定非営利活動法人国際交流学級から教育委員会
13
へ設立登記完了の通知
第3
1
監査の結果
判断
本件監査請求については、合議により、次のとおり決定した。
「監査対象事項」については、棄却する。
よって、区長は、桑原敏武、大高満範、原秀子、椿滋男、佐藤喜彦及び池山世
津子に対し、本件使用料免除の期間中、平成21年10月1日から同22年3月
31日までの使用料免除相当額を請求する必要はない。
2
判断理由
本件監査請求については、国際交流学級の設置のための渋谷区行政財産使用許
可等に係る過去3回の監査請求に続き、4回目となるものであり、1回目の平成
20年8月29日付け渋監収第8−9号、2回目の同21年9月4日付け渋監収
第17−6号及び3回目の前回監査結果でそれぞれ監査結果を示したところであ
る。
本件監査請求は、3回目として提出された前回監査請求(ただし、平成21年
4月1日から同年9月30日までの6か月分の使用料免除相当額の使用損害金の
支払いを請求するもの)に引き続く、平成21年度中の同年10月1日から同
22年3月31日までの同一の行政財産に係る使用料免除相当額を対象としたも
のであるから、前回監査結果を前提に判断するものである。
なお、前回監査請求日以後、本件監査請求日までの期間で、監査委員が確認し
た事実の変更としては、準備会が東京都に特定非営利活動法人設立の認証申請し
ていたことに対して、東京都から特定非営利活動法人設立の認証を受け、その登
記を了した点である。
14
この点について、教育委員会は、前回監査請求の監査対象部の見解の中で、準
備会は、学校法人ホライゾン学園が国際交流学級の運営から離れることとなった
ため、新たな国際交流学級の運営者として、国際交流学級存続のために活動する
保護者らが、特定非営利活動促進法(平成10年法律第7号)に基づき設立しよ
うとする特定非営利活動法人国際交流学級の設立前の準備組織であると述べてい
る。
また、教育委員会は、使用料を免除するにあたって、「平成21年度中に特定
非営利活動法人の認証が得られない場合は、使用開始時に遡って使用料免除を取
り消すことができるものとする。」という免除の条件を付していたが、特定非営
利活動法人としての認証を確認し、その条件を解除している。
以上の点を踏まえ、監査対象事項について判断する。
請求人らは、前回監査請求と同様、「本件使用許可は違法であり、あるいは、
少なくとも本件使用許可に係る使用料免除の条件は違法であるから、教育委員会
は、平成21年10月1日から平成22年3月31日まで神宮前小学校施設を設
立準備会に無償使用させることにより渋谷区民に多大なる損害を与えている」と
主張する。
しかし、前回監査結果で述べたとおり、国際交流学級は、国際社会で活躍でき
る児童の育成を目指す渋谷区の教育重点施策に合致するものであり、各種の交流
事業や教育の実践を通して、国際理解教育、日本伝統文化教育、英語教育の推進
に貢献しているのである。
したがって、前回監査結果で述べたとおり、国際交流学級が、前述の「第2
査の実施
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監
監査対象部の見解(2)」で示しているとおり、区とトルコ共和
国イスタンブール市ウスキュダル区との友好都市協定に基づき行われた事業など、
神宮前小学校と国際交流学級との様々な交流事業や教育の実践を通して、トルコ
共和国との国際親善に役立っているばかりでなく、上記のような教育効果が期待
される以上、本件使用料免除は、教育委員会の裁量の範囲であると認められる。
また、特定非営利活動法人国際交流学級は、平成21年11月10日設立登記
を了して同日成立したものである(特定非営利活動促進法第13条第1項)。
ところで、準備会は、上記特定非営利活動法人国際交流学級の設立を目的とし
て、組織、運営されているものであり、かかる準備会に対する本件使用許可及び
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本件使用料免除もこのことを前提としてなされている。
したがって、特定非営利活動法人国際交流学級の成立時期の前後を問わず、準
備会から監査請求に係る期間の平成21年10月1日から同22年3月31日ま
での間の使用料を徴しないことが、違法、不当な財産の管理及び公金の徴収を怠
ったことには当たらず、区に損害を与えたとはいえない。
よって、請求人らの主張を認めることはできない。
なお、準備会に対する本件使用許可の取消し及び本件使用料免除の取消しを求
める各請求部分は、前述の「第2
監査の実施
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監査対象事項」で示してい
るとおり一事不再理の原則により許されない以上、その期間中の一部である準備
会に対する平成21年10月1日から同22年3月31日までの6か月分の使用
料免除相当額の使用損害金の支払いを求める請求部分も、本来は、併せて許され
ないというべきものである。
また、住民訴訟の対象となる行為又は事実は、監査請求に係る行為又は事実と
厳密に同一のものに限定されるものではなく、これから派生し、又はこれを前提
として後続することが当然に予測される行為又は事実を含むと解される(広島高
裁岡山支部昭和56年1月20日判決。行裁集32巻1号1頁)。
したがって、今後とも、同一住民から、同一人に対する同一の使用許可期間、
同一の使用料免除期間につき、重ねて使用許可の取消し及び使用料免除の取消し
を求める請求はもとよりのこと、上記期間を二分するなどして、その期間中の一
部期間に係る使用料免除相当額の使用損害金の支払いを反復して住民監査請求を
する場合には、上記理由により、後の住民監査請求部分は、却下され得べきもの
であるところ、今回は、請求人らの所論に鑑み、実体判断を念のため行ったもの
である。
以上、請求人らの主張及び監査対象部の見解を斟酌し、監査委員の判断を示し
たものである。
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本書は、請求人に通知した監査結果に、個人情報の保護等の観点から、一部省略等を行ったものである。