音楽文化論第二 第一回課題 (05 11456 佐藤巨崇) 1 私の一番好きな「音楽」は、「ゲームミュージック」1 という名前で呼ばれるジャンルである。 これについて述べる前に、本レポートにおける「音楽」の扱いについて間単に述べておく。紙面の制約 上、今回はこの「GM」というものが何故「音楽」と呼べるのか、どこが面白いのかという点についての み言及することとし、その他のジャンルについては、何が「音楽」と呼べ、何はそう呼べないか等といっ た一般論には踏み込まないものとする。従って、「クラシック」や「ジャズ」といった他のジャンル名を 説明のために用いることがあるが、これらが「音楽」として多くの人に了解されていることは既知として 扱う。また、 「音楽」のジャンル分けの仕方にも、着目する特徴などによって様々な分類方法があるため、 私が「GM」と呼ぶ「音楽」にも、観点を変えれば他の名前で呼ばれるジャンルに含まれることは多々あ る点も、ここで述べておきたい。2 それでは、早速 GM について述べていこう。名前の通り、 「ゲーム」の音楽なのだが、ここでいう「ゲー ム」とは、家庭用 TV ゲームやゲームセンターのゲーム機などといった、所謂「電子ゲーム」や「コン ピュータゲーム」のことである。ここでは、特に家庭用 TV ゲーム3 を扱う。TV ゲームとは、本体をテ レビと接続し、専用の記録媒体に記録されているゲームのデータを読み込ませることによって、オセロや 将棋などといったボードゲームから、テレビ画面に映し出された車を操作して遊ぶレーシングのシュミ レーションや、小説やファンタジーの世界の主人公となってゲームの中の世界を冒険するシュミレーショ ン(RPG と呼ばれる)などの、様々なゲームを遊ぶことの出来る機械である。 この TV ゲームではゲーム中、常に何らかの音がテレビから発せられるようになっている。たとえば、 将棋の対局中に BGM や駒を置いた「パチン」という効果音が流れてきたり、RPG においても洞窟の中 を探検している時や、町を歩いているときなどには常に BGM が流れるようになっている。 「GM」とは、 これらのゲーム中にテレビから発せられる「音」のことである。一般に「GM」と言ったときには、これ らの BGM のみをさして言う場合と、BGM と効果音を合わせて、ゲーム中の「音」の完全な再現をさし て言う場合とがあるが、今回は前者について述べていこう。 初期のゲーム機では、ゲーム機本体に内蔵された音源チップにより、矩形波、三角波、ノコギリ波、ノ イズなどの組み合わせによって音を発しており、これに初めてメロディを奏でさせたのはエキシディの 「サーカス」 (1997年)である。所謂、 「ピコピコ音」がこれにあたる。その後、FM 音源や PCM 音源 が搭載されるようになり、現在では PCM 音源と WAVE による発音が一般的になっている4 。これらを、 音楽として認めるかどうかについては、やはり賛否両論があるところなのだが、ゲームの製作者たちがこ の電子音の連なりを「音楽」として用いて、ゲームの1シーンや世界観の表現を託している以上、ゲーム 機が奏でるメロディも、立派にひとつの音楽である、というのが私の見解である。最も、作り手がこの音 を音楽と思っているかどうか以前に、聴く私自身が音楽と感じているという事実が、私にとって一番の判 断基準ではあるが。 さて、GM を私が好きな理由として、そして、これを人に勧める理由として最も大きなものに、「独特 で洗練されたメロディの豊富さ」と「音楽としてとらえた際の幅の広さ」が挙げられる。後者は簡単なこ とで、GM には旋律やリズムの上で、クラシック調の曲もあれば、ジャズやロック、テクノなどと言った ジャンルの曲もあるということである。これはゲームの内容が多岐に渡るために、それを表現する音楽の ジャンルも豊富になるためである。そのため、クラシック好きの人にもラテン好きの人にもそれぞれに自 分が楽しめる曲が見つけられるという点が魅力的だと考える。 前者については、GM の生い立ちに起因するところがある。初期のゲーム5 では音楽は重要視されてい なかった。機器の能力とメディア容量の制約で長さも作曲者の自由に長くは出来なかったし、和音数も3 和音程度であった。しかし、その少ない和音と小節数でゲームの中のシーンや世界観を再現しようという 試みと、ゲーム中何度も繰り返して聴かれるというゲームミュージックの性格が、逆にメロディを洗練さ れたものにして行く結果となった。すぎやまこういち氏をはじめ、多方面において有名な作曲家たちが、 ゲーム音楽の作曲に熱心にはまっていった理由もここにあった。この短さと和音の少なさで、そしてなに 1 以下では、 「GM」と略記する。 2 以下、 「音楽」の定義は本レポート中に限りこの意味で用いるものとし、これを括弧付きでなく、単に音楽と記すこととする。 3 以下、TV ゲームと記す。 4 FM、PCM、LA、WAVEなどのコンピュータミュージックに関する用語の解説は、本レポートでは略する。 5 ここでは、任天堂ファミリーコンピュータ時代のゲーム機を指す。ファミリーコンピュータ、ファミコンは任天堂の商標である。 よりこの「ピコピコ音」でどう自分の音楽を表現していくかの試行錯誤が何より楽しかったと語る作曲家 は多い。1000 を超えるゲームソフトが発売される中、他に埋もれないためにもメロディやリズムにかな り独特な、洗練された特徴が与えられたのは必然の流れであったのかもしれない。何度も流れる曲だか ら、聴いている内に知らずと口ずさむような、印象に残る良いメロディを作るようにしている、という意 見は、ゲーム音楽の作曲者たちの中からよく聞かれる。その後ゲーム機の能力も進歩していき、音色や和 音数の表現力においても、曲数や小節数といったメディアの容量の上においても格段に向上されたが、こ うした流れを継承してきた最近の GM も、当時と変わらずにメロディやリズムのユニークなものが多い。 TV ゲームの音楽スタイルは、この「ピコピコ音」の時代にある程度確立されてきたものと言っても良い だろう。また、演奏技術上や楽器の構造上の理由からだが、実際の演奏では実現できないような音の使い 方もよく見かけられ、これはこれで楽しめる。 (「音楽」と言ったらクラシックしか認めない!という人に はこれは良いとは感じられないかもしれないが) 最近では、開発者にも、音楽はゲームのよさを決める重要な要素の一つとして認識されるようになり、 シナリオやキャラクターといった要素と並んで語られることも少なくない。ゲームの音楽を作ることを専 門にしているクリエイターも数を増してきた。これらは、GM への理解の仕方が変わってきていることの ひとつの証拠と言えるだろう。しかし一方で、多くの人にとってはまだ GM は音楽の一ジャンルである という認識は薄い。その最大の原因は「ゲーム」であること。すなわち、ゲーム機とは子供の遊具である から、それで大人が遊ぶなど、ましてや、ゲームのために作られた音楽に熱心に耳を傾けることなど、と ても出来ない、という暗黙の意識によるようである。確かに、「ゲームミュージック」という名前は、敬 遠したくなる呼び名にも感じられる。少なくとも、 「クラシックを聴く」と言う方が、 「ゲームミュージッ クを聴く」と言うよりも格調高く、高級に聞こえると思われることは事実である。また、いまだに「ピコ ピコ音」時代のチープな音の印象が拭われていないことも原因のひとつである。確かに、ゲームをより快 適にするために「ピコピコ音」で作られた曲は、ゲームから切り離してかき集めても「音楽」として聴く には物足りないと言わざるを得ない。それでも、私は多くの人により GM を知ってもらいたいと思う。確 かにゲームのために作られた音楽ではあるが、それでもその音楽を作っているのは一人の大人であるし、 一人の作曲家である。ゲームをより楽しくしたり、シーンや世界観の理解に貢献するという役割を担う点 では、映画における「音楽」と同じとも言える。特に、最近の TV ゲームにおいては、音楽もオーケスト ラの録音を用いたり、プロの歌手の歌声を用いたりと多様である。私は、「ピコピコ音」を嫌う人たちに も、音楽として聴くに足る内容であると確信している。GM のことを全く知らない人にも、「ゲーム」と いう名前だけで敬遠せずに一度聴いてみてほしいと考える。 最近では、高い CD を買わずとも、手軽にレンタルして聴くことが可能になってきた。TSUTAYA な どでは、ゲームミュージックの CD 専用の棚も設けられている。いままでゲームの曲なんてまともに耳を 傾けて聴いたことはないという人にも、気楽に手にとって聴いてみることが出来るチャンスは増えてきて いる。こういった機会を利用して、多くの人に、もっと GM の良さを知ってもらいたいと思う。 参考文献:マイクロマガジン社発行『そうだ、ゲームミュージックを聴こう!』6 毎日コミュニケーションズ発行『ゲーム・マエストロ VOL3 コンポーザー編』7 —————————————————————————————————————————— ※授業の感想などを一言・ ・ ・ 第一回の授業での先生のお話しと教科書を見て、私の興味を持っている内容が多く、講義内容にとても 期待しています。特に、音楽とは何か?レコードに記録されているものは音楽なのか?電子音は音楽と呼 べるのか?といったテーマには、私の音楽に対する興味の中でもここ数年最も大きいものでした。今後の 授業を楽しみにしています。 6 2002 7 2001 年 10 月 10 日発行。現在では書店での入手は困難と思われるが、Web 上でなら在庫は僅少ながらまだ見つかる。 年 5 月 20 日発行。こちらも、既に絶版ながら Web 上でならまだ見つかるようである。
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