BGM文脈手がかり強度におよぼす楽曲の熟知性の効果

BGM文脈手がかり強度におよぼす楽曲の熟知性の効果
○漁田 武雄1
陳暁蕾1
1
静岡大学大学院情報学研究科
漁田 俊子2
2
静岡県立大学短期大学部
key words: context-dependent memory, background music, music familiarity
BGM文脈依存効果とは,符号化時と想起時のBGMが一致する場
合に,不一致の場合よりも,よく想起できる現象である(e.g., Balch,
ースが見えないブースに,移動させた。
そのブースでは,クレペリン検査に類似した連続加算課題を 4 分
Bowman, & Mohler, 1992; Smith, 1985)。今までのBGM文脈依存効果
間行わせた。加算課題が終わると,PC で提示した項目の口頭自由
の研究は,ほとんどが未知の楽曲を研究対象としてきた。そんな中
再生の教示をした。教示開始と同時に,BGM 提示を開始した。ブー
で,沈・漁田(2006)と漁田・漁田(2008)は,既知楽曲でも文脈依存効
スの移動と加算課題と自由再生の教示を含めて,保持期間が 5 分と
果が生じることを報告した。これらの研究では,未知楽曲と既知楽
なるよう調整した。すべての条件では,テストにおいても学習時と
曲の単純比較を行った。けれども,未知楽曲は未知という点で一様
同じ曲を提示した。自由再生テスト終了後,BGM の熟知性などに関
であるが,既知楽曲の既知の度合いは多様と想定される。そこで,
する内省報告アンケートを実施した。
陳・漁田・漁田(2013)は既知楽曲の熟知性を2水準設定し,それ
結果と考察
ぞれが文脈依存効果に与える影響を調べた。その結果,熟知性の低
Figure 1に,熟知度の関数としての再生率を示す。1要因分散分析の
い既知楽曲ではBGM文脈依存効果が生じたが,熟知性の高い既知
結果,熟知度の要因が有意であった [F(3, 56) = 6.94, MSE = 2.30, p
楽曲では,BGM文脈依存効果が消失した。
< .001]。次に,Figure 2に,熟知度の関数としての熟知度評定値を示す。
本研究は,既知楽曲を3水準設定し,さらに未知楽曲も加えて,
各条件の楽曲の手がかり効果を調べた。また,異文脈(DC)条件
では,楽曲の手がかり効果が生じないため,熟知性が影響しない。
このため,同文脈(SC)条件のみを調べた。
方 法
実験参加者
心理学関連科目を受講する静岡大学学生 60 名が実
1要因分散分析の結果,熟知度の要因が有意であった [F(3, 56) =
20.77, MSE = 2.62, p < .001]。
本研究結果は,楽曲の熟知度が上がるとともに,楽曲の手がかり効
果が減少することを意味している。楽曲の熟知度が高くなるほど,様々
な過去のエピソード画素の楽曲と連合しているため,実験エピソード
の手がかりとなりにくくなるのであろう。
験に参加した。
0.5
学習項目として小川・稲村(1974)の有意味度 3.80 以上の漢
字 2 文字綴り 16 個を,相互に無関連となるように選出した。
以下の方法で,BGM を選定した。実験に参加しなかった 12 名の
大学生が,熟知度を評価した。評価対象の楽曲として,陳・漁田・
漁田(2013)で使用した 8 つの既知楽曲に,さらに 5 つの既知と思
われる楽曲と,漁田・漁田(2008)が使用した 4 つの未知楽曲を加え
Proportion Correct
材料
0.4
0.3
た 17 曲を使用した。そして,4 段階の熟知度に,それぞれ 3 曲ず
つの楽曲を選定した。選定楽曲は,熟知度1(M = 2.1)は,トリ
ステーザ(バーデンパウエル)
,ムーランルージュ(マントバーニ
楽団)
,ヘッドライト(オリジナルサウンドトラック)
;熟知度2(M
= 4.1)は,白鳥(サンサーンス)
,セレナーデ(ハイドン)
,トロイ
メライ(シューマン)
;熟知度3(M = 5.3)が,フィガロの結婚(モ
0.2
1
2
3
4
Familiarity
Figure 1. Proportion of items recalled as a function of
Familiarity. Error bars represent standard errors of the
mean.
6
熟知度4(M = 6.8)が,エリーゼのために(ベートーベン)
,トル
5
コ行進曲(モーツァルト)
,結婚行進曲(メンデルスゾーン)とな
った。
実験計画
楽曲の熟知度(1,2, 3, 4)による1要因実験参加者間計
画を用いた。各群に,実験参加者を 15 名ずつランダムに割り当てた。
手続き 手続き 実験参加者は,
個別に 15 分間のセッションに参
加した。教示に引き続いて,BGM 開始から 10 秒後に,4 秒/項目(提
示時間 3.5 秒,提示間隔 0.5 秒)の提示速度で 16 個の項目を,17 イ
ンチの PC 画面に提示した。実験参加者には,現在提示されている
項目から連想される言葉を,いくつでも,口頭で報告させた。自由
再生テストについては,知らせなかった。全部の項目を提示すると
BGM を止めた。そして,実験参加者を,学習セッションを行ったブ
Mean Ratings
ーツァルト)
,愛の挨拶(エルガー)
,英雄のポロネーズ(ショパン)
;
4
3
2
1
0
1
2
3
4
Familiarity
Figure 2. Mean ratings as a function of Familiarity.
Error bars represent standard errors of the mean.
(ISARIDA Takeo CHEN Xiaolei ISARIDA Toshiko)