5. - 宮城県

87
宮城県古川農試報(Bull. Miyagi Pref. Furukawa Agric. Exp. Stn.)No.9:87 -94 (2011)
宮城県のダイズ主要病害虫の IPM 体系に関する研究
5.宮城県の主要ダイズ品種におけるべと病の被害と
葉および子実における発生
大場淳司,滝澤浩幸 1)
Studies of Integrated Pest Management System of the Major Insect Pests and
Diseases of Soybean in Miyagi Prefecture
5.Damaged by Downy Mildew and Infestation of Compound Leaves and Grains of Soybean Cultivars and
Strains in Miyagi Prefecture
Atsushi OHBA, and Hiroyuki TAKIZAWA
抄
録
宮城県では,水田転換作物としてダイズが広く栽培されており,べと病のほか紫斑病,立枯性病害およびウイルス性病
害が発生予察調査の対象病害となっている.このうち,べと病は最も広範囲で発生が確認されているが(過去 10 年の平均
発生地点率 46%,宮城県病害虫防除所調査),栽培現地において本病を対象にした薬剤防除はほとんど行われていない.
その一方で,近年,複数のダイズ栽培地域において本葉での本病多発が確認され,防除要否の判断が求められている.し
かし,本病に関する知見や防除体系の確立例は少ないうえに,発生には大きな品種間差があることが知られていることか
ら,本県における品種あるいは育成系統(以下,品種・系統)について,本葉または子実での発生が 100 粒重に与える影
響,そして発生の品種・系統間差および本葉と子実における発生の関係を調査した.その結果,本病の子実における被害
は 100 粒重に影響することが示唆された.また,罹病株から採取した外観健全粒の 100 粒重は健全株のものと同等かそれ
以下であり,本葉の罹病による収量への影響が確認された.また,本葉および子実におけるべと病の発生には大きな品種・
系統間差が認められたが,粒厚区分によりその傾向は異なった.
〔キーワード〕ダイズ,べと病,被害粒,収量,品質
Key words: soybean,Downy mildew,dameged grain,yield,quality
葉および子実に発生する.本県で発生する主な子実
諸 言
ダイズは,植物性タンパク源として,古くから日
病害には,べと病のほか,紫斑病やモザイク病があ
本国内で栽培されてきている。宮城県では,水田の
るが,宮城県病害虫防除所調査による過去 10 年(平
転換作物として重要な位置を占め,2009 年度の作付
成 12 年~同 21 年)の平均発生面積は,べと病が
面積は 11,500ha に達し 1),基幹作物の一つとなって
1,101ha,紫斑病が 874ha,モザイク病が 18.3ha で
いる。実需者からは安全でより品質の良いダイズが
あり,本県のダイズ病害ではべと病が最も多発して
求められているが,ダイズは病害虫の発生が多い作
いる 1).
物であり,品質を維持しながら効果的でかつ効率的
本病に侵されると早期落葉につながるほか,種子
な防除体系を確立することは,栽培現地にとって重
が汚染され商品価値が低下する.加えて,べと病に
要な課題である.
よる汚染粒(以下,汚染粒)は粒厚が小さくなり,
ダ イ ズ べ と 病 は , 絶 対 寄 生 菌 Peronospora
manshurica によって起こる種子伝染性の病害
平成 23 年 2 月 1 日受理
1) 現大河原地方振興事務所
2)で,
収量にも影響を及ぼすことが明らかとなっており,
感受性品種の無防除では,本病により 10~20%減収
94
大場・滝澤:宮城県のダイズ主要病害虫の IPM 体系に関する研究 5.宮城県の主要ダイズ品種におけるべと病
するとの報告もある 3).
また,本病害には抵抗性品種の存在が確認されて
おり,これまで多くの品種で本病抵抗性が調査され
ている
4) 5).このように,本病については,伝染経
路や発生生態,抵抗性機作などについての研究は行
根白石地区)および同市若林区七郷地区(以下,七
郷地区)で行った.供試品種は,前者ではタンレイ
およびミヤギシロメ,後者ではミヤギシロメとした.
いずれも県内の主要作付け品種である.栽培管理は
現地慣行とした.
われてきているが,防除に関する知見は少なく,ま
成熟期に各圃場(根白石地区は両品種ともに各 5
た,栽培現地でも本病を対象とした薬剤防除は行わ
圃場,七郷地区は 3 圃場)から任意に 10 茎,5 反復
れていないのが現状である.その一方で,近年,本
の計 50 茎をそれぞれ抜き取り,自然乾燥後,全子
県の複数のダイズ栽培地域において本葉での本病の
実をそれぞれの粒厚に合わせたふるい目(中粒
多発が確認され,子実での発生を抑制すべく防除要
7.3mm,大粒 8.5mm)で選別し,ふるい目上およ
否の判断が求められている.要防除水準については,
びふるい目下の汚染粒の割合を調査した.
近年では,齋藤らの報告 6)があるのみで,本県の栽
2)本葉での発生が健全粒の 100 粒重に与える影響
培品種における知見はない.
そこで,本県における品種あるいは育成系統(育
成系統とは本県で育成された系統ではない,以下,
試験は 2007 年,場内圃場で行った.供試品種や
栽培管理等は 1-1)と同様とした.
開花期頃の 8 月 22 日に,調査株の全葉を,上位
品種・系統)について,収量及び品質を考慮した要
葉,中位葉および下位葉に分け,それぞれ 3 複葉に
防除水準の確立のための基礎データを得る目的で,
ついて,べと病の病斑数を計測した.調査株は各区
本葉または子実での発生が 100 粒重に与える影響,
10 株とした.また,本葉での本病発生のない健全株
そして発生の品種・系統間差および本葉と子実にお
を得るため,薬剤防除区を設け,同区内で,8 月 22
ける発生の関係を調査したので,ここに報告する.
日の調査で本葉における本病発生が認められなかっ
報告に先立ち,現地試験にほ場を提供していただ
た株をチェックし,その後の感染を防ぐため,8 月
いた,仙台市七郷地区および同根白石地区の生産者
23 日にシモキサニル・ファモキサド水和剤 2,500 倍
の方々に対し,感謝の意を表する.
液を,10a あたり 300L 換算で散布した.その後,
1-1)と同様に収穫作業を行い,罹病株(薬剤無防除
材料および方法
区内株)および健全株(薬剤防除区内株)からサン
1.本葉または子実での発生が収量に与える影響
プリングした健全粒について 100 粒重を測定し,本
1)子実での発生が収量に与える影響
葉での本病発生の有無が健全粒の 100 粒重に与える
試験は 2007 年,古川農業試験場内圃場(以下,
影響について調査した.また,本葉での発生が認め
場内圃場)および県内の主要ダイズ栽培現地圃場
(以
られた株については,病斑数と健全粒の 100 粒重と
下,現地圃場)で行った.
の関係を解析した.
場内圃場試験では,奨励品種決定調査圃場(晩播
2.べと病発生に対する品種または系統間差の検討
区)に作付けされている品種・系統(6 品種 12 系統,
試験は 2006 年および 2007 年の 2 か年,場内圃
以下,系統については A~L で表示)を供試した.
場で行った.試験圃場および供試品種または系統は
このうち,粒度については,1 品種(コスズ)・3
1-1)と同様に,奨励品種決定調査圃場(晩播区)に
系統は極小粒,4 品種(トモユタカ,タンレイ,あ
作付けされている品種・系統とした.なお,供試品
やこがね,タチナガハ)・9 系統は中粒,1 品種(ミ
種または系統数は,2006 年は 6 品種・10 系統,2007
ヤギシロメ)は大粒種である.栽培期間を通して殺
年は 6 品種・12 系統とした.
菌剤は使用せず,除草および中耕培土等の栽培管理
は場内慣行とした.
成熟期に,各区から任意に 10 株をそれぞれ抜き
調査は,各品種・系統あたり 5 株とした.本葉で
の調査方法は 1-1)と同様とし,両年ともに開花期に
当たる 8 月 22 日に行った.収穫後の子実における
取り,自然乾燥後,全子実を健全粒と汚染粒に分け,
調査についても,以下のとおりとした.すなわち,
それぞれの 100 粒重を測定した.
成熟期に,各区から任意に株を抜き取り,自然乾燥
現地圃場試験は,仙台市泉区根白石地区(以下,
後,全粒について被害粒調査を行い,品種または系
93
宮城県古川農業試験場研究報告 第 9 号(2011)
統ごとに被害粒率を算出した.
の本病の発生が多いほど,その株における健全粒の
3.本葉および子実におけるべと病発生の関係
100 粒重低下は顕著であった(第 3 図)
.
1)場内圃場試験
50
健全粒
2.で得られたデータを用い,本葉における発生
汚染粒
40
から子実における発生が予測できるか否かを明らか
にすることを目的に,両者における発生の関係を解
析した.
100 30
粒
重
(g) 20
なお,解析には,本葉での発生があった品種また
10
は系統を用いた.
0
2)現地圃場試験
C
コスズ
1.と同様の現地圃場で行った.供試品種は以下の
第1図
とおりとした.すなわち,2006 年は,両地区ともに
1)
タンレイおよびミヤギシロメを,2007 年については,
割
合
%
がねとした.
)
本葉における病斑の計測は,農作物有害動植物発
J
ミヤギシロメ
中粒
大粒
健全粒および汚染粒の 100 粒重(2007)
アルファベットは系統
ふるい下
100
(
を,七郷地区についてはミヤギシロメおよびあやこ
I
極小粒
同様の試験を,2006 年および 2007 年の 2 か年,
根白石地区についてはタンレイおよびミヤギシロメ
タンレイ
ふるい上
80
60
40
20
0
6
生予察事業調査実施基準 7)に従い,病斑面積率を調
7
8
9
根白石
査した.
10
1
2
3
タンレイ
第2図
4
5
1
根白石
2
3 全体
七郷
平均
ミヤギシロメ
ふるい目別汚染粒の割合(2007,現地)
結 果
1.本葉または子実での発生が収量に与える影響
1)子実での発生が収量に与える影響
場内試験では,3 品種・3 系統,すなわち,品種
では,コスズ,タンレイおよびミヤギシロメ,系統
では C,I,J について,子実における汚染粒の発生
が認められた.
それぞれの健全粒および汚染粒の 100 粒重を第 1
第1表
健全株または罹病株における健全粒の100粒重(2007)
健全粒の100粒重(g)
粒度 品種・系統
罹病株1) 健全株2)
極小粒 C
10.50
11.00
コスズ
9.00
10.00
中粒
タンレイ
29.00
29.00 I
26.80
28.20
J
41.00
41.00
大粒
ミヤギシロメ
40.00
41.00
1)薬剤防除区よりサンプリング(子葉における病斑なし)
2)無防除区よりサンプリング(子葉における病斑あり)
図に示した.いずれの品種または系統でも,健全粒
と比較して汚染粒の 100 粒重が低く,汚染粒の 100
粒重は健全粒の 55~88%であった.また,その程度
は,粒度が小さくなるほど顕著である傾向が認めら
れた.
同様の傾向は現地試験でも認められ,13 圃場中 9
圃場からのサンプルで,ふるい目下に汚染粒が多か
った(第 2 図).
100
健
全
粒
の
100
粒
重
割
合
1)
98
96
94
90
88
0
2)本葉での発生が収量に与える影響
本葉でべと病の発生が認められた株から得られた
y = -0.0253x + 101.41
R 2 = 0.877
92
100
200
300
400
べと病病斑数(無防除区,上中下各3複葉合計)
第3図
本葉におけるべと病病斑数と健全粒の 100 粒重
健全粒の 100 粒重は,発生が認められなかった株か
との関係(2007)
ら得られた健全粒と比較し,100 粒重が同等か小さ
1)防除区(本葉における病斑なし)健全粒 100 粒重に対
い傾向が認められ,傾向が最も顕著であったコスズ
する無防除区(同病斑あり)健全粒 100 粒重の割合
で 10%程度小さくなった(第 1 表).また,本葉で
94
大場・滝澤:宮城県のダイズ主要病害虫の IPM 体系に関する研究 5.宮城県の主要ダイズ品種におけるべと病
2.べと病発生に対する品種または系統間差の検討
下位葉
本葉における病斑が確認された品種または系統に
年は 1 品種・4 系統,2007 年は 3 品種・6 系統につ
36
43
87
C コスズ D
E
トモ
上位葉
1255
2
シロメ
20%
0%
第4図
く,2006 年は系統 C で 3,592 個,2007 年はコスズ
1) アルファベットは系統
で 1,857 個と最も多かった.反対に最も少なかった
2)nは病斑数(9 複葉×5 株)
のは,2006 年はあやこがねで 2 個,系統 D で 12
3)開花期調査
品種または系統別病斑数率(2006)
下位
100%
コスズ,タンレイおよびミヤギシロメでは病斑数が
病
斑
数
率
(%)
タン あや J
n=1575 1857
複葉
中位3複葉
12
740
230
上位
1300
183
複葉
22
858
ミヤギシロメ
個であった.現在の本県奨励品種では,2006 年は,
75%
50%
25%
J
I
E
タンレイ
れなかった. 両年とも,小粒品種・系統における
D
コスズ
0%
C
チナガハおよび「あやこがね」では病斑が認めら
K
40%
れた品種または系統についても,病斑数の差は大き
く,タンレイおよびミヤギシロメでは中程度,タ
1577
60%
A
極少であった。2007 年は,コスズでは病斑数が多
170
80%
いては発生が全く認められなかった.病斑が認めら
多かったが,タチナガハおよび「あやこがね」では
600
病斑数が多い傾向があった.
第5図
一方,両年ともに,大部分の病斑は中位葉に集中
品種または系統別病斑数率(2007)
する傾向にあり,病斑数が少ない品種または系統(9
1) アルファベットは系統
複葉×5 株の総病斑数が 50 個以下)を除くと,最も
2)nは病斑数(9 複葉×5 株)
低い品種で約 50%(2007 年:品種コスズ)
,最も高
3)開花期調査
第6図
1) アルファベットは系統
ち,最も被害粒率が低かったのは,2006 年は系統 K,
2)収穫後調査
は,2006 年は,タンレイおよびミヤギシロメでは被
害粒率が比較的高かったが,タチナガハおよび「あ
やこがね」では発生が確認されなかった.2007 年は,
ミヤギシロメでは 2006 年と同様被害粒率が高く,
次いでタンレイおよびコスズであり,2006 年と
同様,タチナガハおよびあやこがねでは発生が認
められなかった.
タチ
J
品種・系統別汚染粒率(2006)
年は系統 I であった.反対に,発生が確認されたう
2007 年は系統 C であった.現在の本県奨励品種で
H
タン
G
品種(系統)
は 3 品種・3 系統でそれぞれ発生が認められた.最
も汚染粒率が高かったのは,2006 年は系統 J,2007
あや
差が大きく,2006 年は 4 品種・3 系統で,2007 年
トモ
0.0
F
した.本葉における発生と同様,品種または系統間
E
1.0
A
子実における発生状況を第 6 図および第 7 図に示
D
も中位葉における病斑数を用いることとした.
汚 4.0
染
粒 3.0
率
(%) 2.0
C
簡便性を考慮し,汚染粒との関係解析には,いずれ
5.0
コスズ
斑が中位葉に集中していた.このことから,調査の
B
い品種では 100%(2006 年:品種トモユタカ)の病
K
発生には大きな品種・系統間差が認められ,2006
中位葉
3592 1839
シロメ
4 図および第 5 図に示した.本葉におけるべと病の
病
斑
数
率
(%)
n=2
M
ついて,試験を行った両年の葉位別の病斑数率を第
100%
93
宮城県古川農業試験場研究報告 第 9 号(2011)
8.0
被害粒率
4
6.0
汚
染
4.0
粒
率
(%) 2.0
被 3
害
粒 2
率
(%) 1
0.0
0
A
C
コスズ
D
E
F
トモ
G
タンレイ
あや
H
I
J
タチ
L
M
N
シロメ
A B C コスズ D E F トモ G タンあや H J タチ K シロメ
極小粒
品種(系統)
第7図
品種・系統別汚染粒率(2007)
第 8 図
中粒
(2006)
2)収穫後調査
1) アルファベットは系統
被害粒率
7
3.本葉および子実におけるべと病発生の関係
試験に供試したすべての品種・系統について,中
位 3 複葉における株あたり病斑数と被害粒の関係を,
第 8 図および第 9 図に示した.両年ともに,本葉で
被
害
粒
率
(%)
5
4
3
2
1
0
A Cコスズ D E F トモ G タンあや H I J タチ L M N シロメ
極小粒
中粒
いずれでも子実での発生も認められなかった.しか
第 9 図
し,本葉での病斑が多かったにもかかわらず,子実
(2007)
での発生が比較的少なかった品種・系統が認められ,
1) アルファベットは系統
よび大粒品種では,本葉における病斑数と被害粒と
の間には一定の傾向が認められた.
次に,現在の本県奨励品種について,中位葉で
の病斑数とべと病粒率との関係をみると,極小粒
品種であるコスズについては同様の関係は認め
られなかったが,他品種に限れば,両者には高い
y = 0.013x + 0.0214
R 2 = 0.9958
4.0
被
害 3.0
粒
率 2.0
(%)
1.0
コスズ
(極小粒)
0.0
0
第 10 図
5.0
R2=0.9796 の関係式が得られた(第 10 図,第 11
4.0
両地区の結果を総合し,品種別の結果を第 12
図および第 13 図に示した.
400
県奨励品種の本葉におけるべと病病斑数と被害
y = 0.0334x - 0.1033
R 2 = 0.9796
被
害 3.0
粒
率 2.0
(%)
1.0
コスズ
(極小粒)
0.0
両年ともに,株あたりの病斑面積率と被害粒率と
0
の間にはやや高い正の相関関係が認められた.しか
し,品種間差が認められ,両年ともにタンレイでの
相関係数は比較的高く(2006
100
200
300
病斑数/中位3複葉/株
粒率の関係(2006)
(0.0334×株あたり中位3複葉病斑数)-0.1033,
2)現地圃場試験
大粒
5.0
0.0214 , R2=0.9958 , 2007 年 は , 被 害 粒 率 =
図).
350 病
300 斑
数
250
/
200 中
150 位
3
100 複
50 葉
/
0
株
本葉におけるべと病病斑数と被害粒率の関係
正の相関が認められた.すなわち,2006 年は,
被害粒率=0.013×(株あたり中位3複葉病斑数)+
病斑数
6
の発生が認められなかった品種・系統については,
これらは極小粒品種・系統に集中していた.中粒お
大粒
本葉におけるべと病病斑数と被害粒率の関係
1) アルファベットは系統
1)場内圃場試験
病
600 斑
数
/
400 中
位
3
200 複
葉
/
0
株
中位葉病斑数
年:R2=0.957,2007
年:R2=0.7096),ミヤギシロメでは低かった(2006
年:R2=0.4285,2007 年:R2=0.4598).
50
100
150
200
病斑数/中位3複葉/株
第 11 図
県奨励品種の本葉におけるべと病病斑数と被害
粒率の関係(2007)
94
大場・滝澤:宮城県のダイズ主要病害虫の IPM 体系に関する研究 5.宮城県の主要ダイズ品種におけるべと病
る品種・系統について,収量および品質を考慮した
2.0
被 1.5
害
粒 1.0
率
(%)
0.5
要防除水準の確立のための基礎データを得る目的で,
●:タンレイ
○:ミヤギ
メ
本葉または子実での発生が 100 粒重に与える影響,
y = 0.288x + 0.1932
2
R = 0.4285
そして発生の品種・系統間差および本葉と子実にお
ける発生の関係を調査した.
y = 0.5422x - 0.3862
その結果,これまでの知見と同様,いずれの品種・
2
R = 0.957
0.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
く,汚染粒は品質だけでなく収量にも影響すること
株あたり病斑面積率(%)
第 12 図
系統でも,健全粒と比較して汚染粒の 100 粒重が低
が明らかとなった.そして,多くの汚染粒はふるい
現地圃場における株あたり病斑面積率と被害粒
目選別により除去できることも明らかになった.加
えて,その程度は,粒厚が小さいほど顕著であり,
率の関係(2006)
1)現地:仙台市泉区根白石および同市若林区七郷
特に,極小粒品種については,本病の収量に対する
影響がより大きいことが示唆された.
一方,本病に罹病していない健全粒であっても,
3
被
害 2
粒
率
1
%
●:タンレイ
○:ミヤギシロメ
●:あやこがね
y = 1.267x - 0.7874
2
R = 0.4598
本葉で病斑が形成された株(罹病株)から採取され
たものについては,そうでない株から採取された健
全粒と比較して 100 粒重が小さく,その程度は本葉
(
y = 1.3915x - 1.7299
での発生に比例して顕著であり,極小粒品種である
2
R = 0.7096
)
コスズで最も顕著であった.このことは,本病の本
0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
株あたり病斑面積率(%)
第 13 図
現地圃場における株あたり病斑面積率と被害粒
葉での発生は,株内における健全粒の粒厚に影響を
及ぼしていること,すなわち,本病による減収を防
ぐためには,本葉における発生も抑制する必要があ
ることを示すものである.
率の関係(2007)
1)現地:仙台市泉区根白石および同市若林区七郷
また,極小粒品種において,本葉におけるべと病
が多発することは,報告してはいないものの以前か
考 察
ら栽培現地で確認されており,本試験でも同様の結
ダイズべと病は,これまで,主に葉に発生する病
果が得られた.べと病の被害として,発病が激しい
害であり,収量には大きく影響しないとされてきた
ときは,葉は萎ちょうして落ちることが知られてい
ことから,大きくクローズアップされることのない
るが,極小粒品種では,この現象により,特に子実
病害であった.そのため,本病害に関する知見は決
への養分供給が不十分となり,健全粒の肥大を抑制
して多いとはいえない状況であった.
していることも推察された.
しかし,これまでの研究で,卵胞子と菌糸が表皮
ただし,それらのメカニズムについては今のとこ
に付着し汚染粒となり商品価値が著しく下がること,
ろ不明であり,過去にも報告例がないことから大変
被害粒は健全粒に比べて粒厚が小さいこと等が明ら
興味深く,今後詳細な研究が必要であると考えられ
かとなり,安全で特に品質の良いダイズを求められ
た.
る現在,特に品質については,より商品価値の高い
また,前述したように,本病に対するダイズの品
黒大豆などでは,本病による商品価値の低下がクロ
種抵抗性に関する報告はいくつかあるが(5,8),
ーズアップされてきている.
本県で栽培を奨励している品種,そして今後奨励す
また,本病害に対しては品種間差が大きいことが
る可能性のある系統に関する知見はなかったことか
知られている(5,8).これらの知見を合わせ,一
ら,本葉および子実における本病の発生調査を行っ
部品種では,本葉での発生と汚染粒の発生の関係が
た.その結果,やはり品種・系統間差が大きく,全
明らかにされ,要防除水準も確立されている(6,9).
く発生しない品種・系統から,激しく発生する品種・
本研究では,これらの知見をもとに,本県におけ
系統まで確認され,発生程度は大きく異なった.中
93
宮城県古川農業試験場研究報告 第 9 号(2011)
でも,現在県内で栽培されている品種について,子
ける発生の関係を調査したところ,本病の子実にお
実での汚染粒割合を見ると,ミヤギシロメ,タンレ
ける被害は収量に影響することが明らかとなった.
イ,コスズの順で発生が多く,タチナガハおよび「あ
また,本葉の罹病による収量への影響が確認された.
やこがね」では発生が認められなく,明らかな品種
本葉および子実におけるべと病の発生には大きな品
間差が認められた.この結果は,今後,現地で栽培,
種・系統間差が認められたが,粒厚区分によりその
そして奨励するダイズ品種を選択する上での一助と
傾向は異なった.
なると考えられる.
前述のとおり,本病害に対しては一部品種について
引用文献
要防除水準が確立されているが,本県で栽培されて
1)宮城県病害虫防除所.2010.平成 21 年度宮城県
いる品種,あるいは栽培される可能性がある系統に
植物防疫年報.pp.4.
ついては,その知見はなかった.そこで,各品種・
2)稲葉忠興.1982.ダイズべと病の伝染経路.植
系統の本葉における発生と子実における発生との関
物防疫
係について解析した.その結果,多くの品種・系統
3)Dunleavy , J . M.1987.Yield reduction in
では,両者の発生に正の相関関係が認められたが,
soybeans caused by downy mildew.Plant Dis.
極小粒品種ではその傾向が認められなかった.すな
71:1112-1114.
わち,極小粒品種では,本葉での病斑が多かったに
4)村上昭一・橋本鋼二・柚木利文.1977.ダイズ
もかかわらず,子実での発生が比較的少なかった品
べと病に対する抵抗性の品種間差異.東北農試研報
種・系統が多く認められた.このことも,前述のよ
55:229-234.
うに極小粒品種では本葉における病斑数が極端に多
5)杉山
いことが影響していることが考えられた.すなわち,
ズべと病に対する品種の反応について.北日本病虫
極小粒品種では,発生初期の段階から急激に病斑が
研報
蔓延し,病斑数を調査した開花期の調査では落葉し
6)齋藤美奈子・石川岳史・小松
た葉もあり,他品種との比較評価には適していなか
ズべと病の要防除水準の設定とそれに基づいた防除.
ったことも考えられたが,詳細は明らかではない.
北日本病虫研報
本研究の最終目的は,現地から求められている要
36 : 403-406.
悟・福島千万男・鷲尾貞夫.1980.ダイ
31:67-68.
勉.2000.ダイ
51:33-36.
7)宮城県.2002.農作物有害動植物発生予察事業
防除水準の確立であったが,本病に関するこれまで
調査実施基準.pp.116-117.
の知見が少なく,同水準を確立する前提として,本
8)齋藤美奈子・石川岳史.1999.ダイズ品種のダ
病害の実害について明らかにし,品種間差を明らか
イズべと病抵抗性の比較(講要)
.日本植物病理学会
にする必要があった.そのため,現段階では,極小
報
粒品種を除き,本葉での発生と子実での発生に高い
9)小松
正の相関関係が認められたが,年次間差および品種
におけるべと病の発病と汚染発生との関係.
(講要)
.
間差が大きく,品種・系統すべてに共通した要防除
日本植物病理学会報
水準は確立できなかった.
今後は,今回得られたデータを基礎データとし,
各品種・系統の抵抗性をランク分けし,
ランクごと,
そして可能であれば熟期ごとに要防除水準を確立す
ることが不可欠であると考えられる.
要 約
本県で栽培されているダイズ品種・系統について,
本葉または子実での発生が 100 粒重に与える影響,
そして発生の品種・系統間差および本葉と子実にお
65:698.
勉・竹内
徹・向原元美.1998.黒大豆
64:334.
94
大場・滝澤:宮城県のダイズ主要病害虫の IPM 体系に関する研究 5.宮城県の主要ダイズ品種におけるべと病
Studies of Integrated Pest Management System of the Major Insect Pests and
Diseases of Soybean in Miyagi Prefecture
5.Damaged by Downy Mildew and Infestation of Compound Leaves and Grains of
Soybean Cultivars and Strains in Miyagi Prefecture
Atsushi OHBA, and Hiroyuki TAKIZAWA
Summary
The reaction of various soybean varieties and strains grown in Miyagi Prefecture to downy mildew was examined in
a by field test for two years. The test was to determine the relationships of lesions in compound leaves with grain
weight and grain disease level. Downy mildew reduces not only disease grain particle size to but also healthy grain
particle size in diseased hills.
The damage of grains and disease manifestation in compound leaves affected the yield. The compound leaves showed
lesions for five varieties (i.e. Kosuzu, Tomoyutaka, Tanrei, Ayakogane and Miyagisirome) and eight strains (i.e. strains
A, C, D, E, I, J, K and M). The small-grain variety and strain (Kosuzu and strain C , respectively) showed severe
lesions on the compound leaves. Among the varieties, only Tomoyutaka showed no symptoms on its compound leaves.
The damaged grains were observed in three varieties (i.e. Kosuzu, Tanrei and Miyagisirome) and four strains (i.e.
Strains C, I, J and K). Among the varieties, Ayakogane, Tatinagaha, and Tomoyutaka showed no damaged grains. The
lesions concentrated in compound leaves during the flowering stage.