本書の利用法 本書は,日建学院の“合格ノウハウ”を凝縮した,宅建受験生のための 基本テキストです。いたるところに,効率よく知識をインプットし,“合 格ライン”にムリなく到達するための工夫がなされています。 ▶ 優先学習のための『重要度』 第5編 免除科目 第1章 A 住宅金融支援機構 …… こ の 章 の 必 勝 ポ イ ン ト …… この 重要度 ▶ 学習ポイントを指南! 『アプローチ』 4 住宅金融支援機構の役割 住宅金融支援機構の業務の内容 マイホームにローンは付き物だけど,少しでも金利が安くて 安心できるものを借りたいよね。ただ,銀行だって商売だから,長 期・低利の住宅ローンはなかなか難しいし,だからといって 国が直接安い住宅ローンを行うと, “民業圧迫”と批判さ れてしまうんだ。そこで,銀行の住宅ローンを側面的に バックアップすることによって,長期・低利の住宅ロー ンを実現するのが,住宅金融支援機構の役割なんだ。 第1章 住宅金融支援機構 1 証券化支援業務 H21.22 住宅ローンは,一般的に金額が大きいため,顧客からすれ ば,長期・低利の固定金利のローンが理想的です。しかし, そのようなローンの提供を銀行などの民間の金融機関が行う 機構のホームページ (http://www.jhf. go.jp/)をぜひ一度 見てみましょう。 には,金利の上昇等のリスク負担の大きさから,困難がとも ないます。そこで,独 立 行 政 法 人 住 宅 金 融 支 援 機 構(以下 「機構」といいます)は,民間の金融機関を具体的に支援す る「証券化支援業務」によって,銀行によるスムーズな貸付 機構の業務として, 自己所有のための新 築住宅の融資など, 591 ▶ ひと目でわかる! 『出題年度』 ▶ ポイントを確実に把握!『要点整理』 ▶『イラスト&図解』 イメージをつかもう 要点整 居住用財産の買換え特例 ●所有期間が10年超で,かつ,居住期間が10 年以上のもの 譲渡資産 ●譲渡金額が2億円以下であること ●居住しなくなった日以降3年経過後の12月 31日までに譲渡したものであること ●譲渡資産の譲渡の前年1月1日∼譲渡の翌年 買換資産 12月31日の間の取得であること ●家屋の床面積50㎡以上 土地(敷地)の面積500㎡以下 5 特例の併用関係 H15 うまく活用すると おトクだよ! 譲渡所得について,特例の併用関係をまとめると,次のよ うになります。10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減 税率の特例は,収用の5,000万円特別控除または居住用財産 の3,000万円特別控除と併用できる点に注意し,その他は原 則として併用できないと覚えておきましょう。 [主な特例の併用関係のまとめ] (○=併用できる,×=併用できない) 5,000万円特別控除 3,000万円特別控除 買換え特例 562 居住用財産の 軽減税率 優良住宅地の ための軽減税率 ○ × × × ▶ 知識を定着! 『重要チェック問題』 第2編 宅建業法 問 題 *理解度を『重要チェック問題』で確認してみよう* ❶ 宅建業者A(消費税課税事業者)が売主B(消費税課税事業者)からB所有の 土地付建物の媒介依頼を受け,買主Cとの間で売買契約を成立させた場合,Aが Bから受領できる報酬の限度額(消費税を含む)は,いくらか。なお,土地付建 物の代金は5,100万円(消費税100万円を含む)とする。 第 ❷ 宅地建物取引業者Aが,貸主・借主双方から媒介の依頼を受けて,賃料月額 20万円の宅地の賃貸借契約を成立させた場合,貸主,借主の双方からそれぞれ 20万円ずつ,報酬を受領することができる。 章 ❸ 居住用建物の賃貸借の媒介の場合には,権利金を売買代金とみなして報酬計算 をすることができる。 10 報 酬 解 答 ❶ 売買契約の媒介なので,「物件の本体価額(税抜き)×3%+6万円」で報酬額 (税抜き)の上限を求めることができます。つまり, の上限を求めることができます。つまり,5,000万円×3%+6万円= 156万円となります。 なります。 そして,宅建業者Aは消費税課税事業者なので,消費税分を加算したものが受領 宅建 できる報酬の限度額となりますので, 「156万円×1.05=163万8,000円」となり の限 ます。 ❷ × 賃貸借の媒介に関し,貸主・借主の双方から受領できる報酬の限度額は,合算 の媒 4 して1ヵ月分の賃料の範囲内です。 月分 報酬額の掲示 H17.18.21 ❸ × 賃貸借の媒介において,権利金を報酬の算定基準とできるのは,居住用建物以 の媒 宅建業者は,事務所ごとに公衆の見やすい場所に,国土交 借の 外の賃貸借の場合です。 通大臣の定めた報酬の額を掲示しなければなりません。なお, 掲示をしなければならない場所は,事務所に限られています。 報酬その他 ❶ 「広告費用」は契約不成立でも請求できる? 宅建業者の報酬は,成功報酬です。例えば,売却の依頼を受けたため, 広告費用などの経費を支出して一所懸命に相手方を探索しても,結局契約 を成立させることができなければ,報酬は一切請求することができませ ん。ただし,こうした広告費用などのうち,依頼者からの依頼で行ったこ とによって生じた費用で依頼者の承諾を得ているものは,契約が成立する かしないかにかかわらず,報酬とは別に請求することができます。 373 ❷ 売却できなかった場合の「下取り特約」は有効? 媒介や代理の依頼を受ける際に,一定の期間中に目的物件の売却ができ なかった場合に,宅建業者が媒介価額を下回る価額で買い取る旨の特約を することは,有効となります。 宅建業者に安く売ることを依頼者である売主に義務づけず,もし売主の ステップ・アップしよう! 希望があれば,宅建業者が買い取ることを定めたのであれば,差し支えは ありません。売主には,そのような安い価格で売却することを拒否できる 余地があるからです。 ▶ 『発展コラム』 372 ▶“ニャカ先生”が詳しくレクチャー! 『プチ講義』 第1編 権利関係 履行の着手とは,売主が移転登記のための測量をした とか,実際に買主が中間金を支払った,という 場合をいい,単に中間金を準備しただけでは履 行の着手とはいえないんだ。 [手付解除の可否] (解除できる=○,解除できない=×) × × ○ AもBも,履行に着手していない ○ ○ AもBも,履行に着手した × × 売買契約 A B 手付 売主 買主 㩯 13 買 ○ Aは履行に着手していないが, Bは履行に着手した Aは履行に着手したが, Bは履行に着手していない 売主が手付による解 除をするためには, 買主に対し単に手付 の倍額を償還する旨 を告げる等では足り ず, 倍 額 に つ い て 『現実の提供』を行 うことが必要です。 売 B 章 A 第 事 例 同時履行 Aの登記・引渡し 在 Bの残代金支払い 現 Bが手付を交付 B が代金の一部を 支払った 売買契約 手付の交付がされて いても,相手方に債 務不履行があれば, これを理由として, 契約の解除をするこ とができます。 この場合,手付は原 状回復として返還し しなければならず, また,これとは無関 係に,債務不履行に よる損害賠償請求が できます。 ●現在, Bは,手付を放棄して解除できますが, Aは,Bが履 ▶ 学習をフォロー! 多彩な『アイコン』 行に着手しているので,手付の倍返しをしても解除でき ません。 ●また, Bは,手付による解除をした場合,支払った代金の 一部(中間金)の返還を求めることができます。 要点整 手付解除の 方 法 解除の時期 効 果 解約手付 買主は手付を放棄し,売主は手付の倍額を返 還すれば,契約を解除することができる。 相手方が履行に着手するまで。 ●契約は,さかのぼって消滅する。 ●損害賠償請求はできない。 3 第1編 権利関係 権利関係は,実は最も“ドラマチック”な科目です。資産家の 老人を保護する制度や,欠陥住宅の購入者がとれる対応,果ては 死亡した場合の相続の方法というように,テーマごとに登場人物 が多彩なドラマを演出します。 さぁ,それらを具体的にイメージしながら,楽しく学習を進め ていきましょう! 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 制限行為能力者 意思表示 代 理 時 効 不動産物権変動 物権関係 抵当権 保証・連帯保証 連帯債務 債権譲渡 債務不履行と解除 弁済・相殺 売 買 賃貸借 委任・請負・その他の契約 不法行為 相 続 借地借家法 ①借地関係 借地借家法 ②借家関係 区分所有法 不動産登記法 第1編 権利関係 時 効 第4章 A …… この章の必勝ポ こ の 章 の 必 勝 ポイ ン ト …… 重要度 7 所有権の取得時効が成立するための要件 消滅時効が成立するための要件 時効を阻止する方法 に,ある日突然,隣りに住む人から「その土地は実は私のものだか ら返してね」といわれたら,間違いなくもめるよね。 そこで,そのようなトラブルに備えて,民法は,たとえ 真実と異なっていても,長期間続いてきた事実を保護し ようとする「時効」という制度を認めているんだ。 1 時効とは 例えば,Aが親の代から50年間継続して使用した土地を Bに売却した後,真実の所有者Cが,「その土地はもともと 自分のものだという証拠がある」と主張したことによって, すべてがひっくり返ってしまったら,たまったものではあり 「時」間の経過に よって法的な「効」 力が変わる(発生・ 消 滅 す る ) の で, 「時効」といいます。 ません。 そこで,真の所有者が誰かという点よりも,長年にわたっ てAが所有者として使用していたという事実状態をより重視 することによって,あるがままの状態を「権利」として認め ることにしました。これを取得時効といいます。 ある事実状態が 一定期間継続 時効の完成 + 援用 時効の効果が発生 ●取得時効➡権利の取得 ●消滅時効➡権利の消滅 取得時効によって取 得できる権利には, 所有権のほか,地上 権,地役権,不動産 賃借権等がありま す。 時 効 えば,庭先の土地を畑にして,数十年にわたって耕作して暮らしてきたの 第4章 社会生活で,物事を争いなく丸くおさめるためには,真実よ りも,長期間続いていた事実を重視したほうがいい場合ってあるよね。例 また,時効によって権利が消滅することを,消滅時効とい います。 例えば,Aが,友人のBに1万円を貸したとします。Aは, 返済期限が到来すれば, 「1万円を返して」とBに請求する ことができます。 ところが,返済期限が到来したのに,Aが請求をしないま まに10年が経過すると,Aの「貸したお金を返して」とい う,Bに対する権利が消滅してしまいます。 このような消滅時効は,長い期間権利を行使しないような “権利の上に眠る者”は保護しないという考え方によります。 2 所有権の取得時効 H16.19.22 所有権の取得時効は,「所有の意思」をもって,平穏に, かつ,公然と「一定期間」,他人の物を「占有」することに よって成立します。 1 「所有の意思」 自分が所有者であるという意思のことで,その意思の有無 は,権利の性質によって客観的に判断されます。 賃借権を有しないの に,賃借人であるか のように賃料を支払 い,一定期間不動産 を占有すると,不動 産賃借権を時効で取 得することができま す。 例えば,マンションを賃借している賃借人には,第三者 から見て所有の意思が認められないので,たとえ本人が所 有の意思を持っていたとしても,何年経っても 所有権を時効で取得することはできないんだ。 2 「一定の期間」 「占有を始めた時」 のみを考えましょ う。たとえ途中で悪 意,または有過失と なっても占有開始時 に善意無過失であれ ば,10年 で 時 効 が 完成します。 取得時効に必要な期間は20年ですが,占有を開始した時 (起算日)に自分の所有物であると過失なく信じていた(善 意無過失)のであれば,10年で成立します。 第1編 権利関係 第4章 3 「占有」 し,必ずしも自分自身で所持(=直接占有)する必要はなく, 賃貸借契約により賃借人に占有させる場合のように,他人に 所持させることにより間接的に占有(=間接占有)すること もできます。 例えば,下の図で,Bは賃借人のCを通じて間接的に家 を占有しているから,一定期間を経過すれば,Cではな く, Bが,家の所有権を時効で取得することになるんだ。 他人物賃貸 A所有 B占有 土地の取得時効で実 務上も多く問題とな るのが,いわゆる越 境 建 築 で す。 こ れ は,自分の敷地境界 線を誤認して,隣地 にはみ出して建物を 建築してしまった場 合に,そのはみ出し た部分について取得 時効の成立を認める ものです。このよう に,一筆の土地の一 部についても,取得 時効は成立します。 時 効 占有とは,物を事実上所持していることをいいます。しか C賃借 この場合, CはBの「占有代理人」であると 表現されることがあるよ。 4 占有の承継 占有期間中に不動産を売却したり,相続が発生したりし て,占有者が変わる場合があります。このようなケースで占 有を引き継いだ承継人は,自らの意思で,自分の占有のみを 主張することも,自分の占有と前主の占有を合わせて主張す ることもできます。しかし,前主の占有を合わせて主張する ときは,前主の瑕疵(悪意であること等)も承継することに なります。次の❶,❷で,具体的に理解しておきましょう。 5 (占有開始) 8年間 3年間 8年間 3年間 ❶ A B 善意無過失 悪意 ︵現在︶ 右の図のBのように 占有を承継する者に は,特定承継人(物 件の買主等)の場合 も一般承継人(相続 人等)の場合もあり ます。 Bは,B自身の占有(3年)にAの占有(8年)を合わせ て主張すれば,Aの善意無過失も承継しますので,合計11年 の占有となり,10年を超えているため時効取得ができます。 (占有開始) ❷ 8年間 3年間 8年間 3年間 A B 悪意 善意無過失 ︵現在︶ 取得時効が10年で 成立する「善意無過 失」とは,自分の所 有物であると過失な く信じていたことを いい,「悪意」とは, 自分の所有物ではな いと知っていたこと をいいます。 Bは,B自身の占有(3年)にAの占有(8年)を合わせ て主張すると, Aの悪意も承継するため,20年の占有が必要 となります。ですから,あと9年間占有を続けないと時効取 得できませんが,B自身の占有だけを主張すると,さらに7 年占有を続ければ善意無過失で10年の占有となるため,時 効取得できます。 要点整 所有権の取得時効の成立要件 ❶ 所有の意思をもって平穏に,かつ,公然と占有すること ❷ 占有の開始時に善意無過失であれば 10 年,それ以外 なら 20 年占有を継続すること ●占有開始時に善意無過失であれば,後に悪意となっても, 10 年で時効取得できる。 ●占有代理人による間接占有により,本人は所有権を時効 取得できる。 ●占有を承継した者は,前主の占有期間と自己の占有期間 を合わせて主張できる。ただし,前主が悪意だと,占有 の開始時に悪意だったこととなる。 6 第1編 権利関係 3 消滅時効の成立要件 不動産の売買契約をした売主が有する代金請求権のような 債権は,以下の1・2のように,債権者が「権利を行使でき る時」から「一定期間」,その権利を行使しないと,時効に よって消滅します。 権利を行使できる時とは,例えば「7月1日に借金を返済 する」というように確定期限があるときは,その期限が到来 した時,つまり7月1日ということになります。 対して,返還の期限を定めないで本を貸したような場合 は,いつでも返還請求することができるため,その本を貸し た日,つまり債権が成立した日が,権利を行使できる時,と いうことになります。 [権利を行使できる時] 債権の種類 時効の起算日 確定期限, 不確定期限のある債権 期限が到来した日 期限の定めのない債権 債権が成立した日 所有権は,物を自由 に支配できる権利 で,その物を放置す るのも所有権の行使 の1つといえます。 ですから,所有権は 消滅時効にかかるこ とがありません。 なお,地上権や地役 権などは,消滅時効 にかかります。 時 効 1 「権利を行使できる時」 (時効の起算日) 用語解説 債権: 特定の人に対して特 定の物や金銭等を請 求できる権利のこと で,この権利を有す る者を債権者とい い,債権者に対して 義務を負う者を債務 者といいます。 第4章 時効なんて 期待しないで, 飲み代くらいは キチンと払おうよ∼ H17.22 2 「一定期間」 消滅時効の完成に必要な期間は,原則として10年です。 ただし,地上権や地役権などは,20年で消滅時効にかかり ます。 [消滅時効の期間] 一定の日常性を有す る債権については短 期間(1年∼5年 ) で時効消滅すること が定められています (診療代は3年,飲 食料は1年,など) 。 権利の種類 期 間 債権(原則) 10年 地上権,地役権等 20年 なお,10年より短期間で消滅する債権でも,裁判が確定 して権利の内容が確定すると,一般の債権と同様に,判決確 定の日から10年間の時効期間になります。 4 取得時効・消滅時効の共通ルール 被保佐人や被補助人 が,保佐人や補助人 の同意を得ないで承 認をした場合も,時 効の中断の効力が生 じます。 H17.21.22 1 時効の中断 時効は,一定の事実状態が継続することによって成立しま すので,この継続が途絶えると,時効はご破算になります。 これを時効の中断といいます。 請求や承認などの中断事由が発生すると,過去の時効期間 は無意味となり,改めて,はじめから時効の期間が進行します。 起算日 中断 0からやり直し 2 時効の中断事由 催告の後,6ヵ月以 内に裁判上の請求を したときは,催告の 時にさかのぼって時 効の中断の効力が生 じます。 ① 裁判上の請求(訴えの提起) 訴えを提起したり,支払督促の手続きをすることによっ て時効は中断します。ただし,後日に訴えの却下や取下げ があったときは,中断の効力が失効します。なお,単に内 容証明郵便で履行等を請求(催告といいます)しても,そ れだけでは時効は中断しません。 第1編 権利関係 ② 承認 承認とは, 「確かに私は債務を負っています」というよ 土地の所有者が担保 のため抵当権を設定 していても,取得時 効が完成すると,抵 当権の制限を伴わな い完全な所有権を取 得できます。 す。また,このような意思表示がなくても,利息を支払っ たり,債務の一部の弁済をすると,債務全部を承認したと みなされ,時効は中断します。 3 時効完成の効力 時効完成の効力は,完成した時点ではなく,時効の期間を 起算日は,客観的に決まるため,援用権者は,時効の効力 が生ずる起算日を選択して,時効完成の時期を早めたり遅ら せたりすることができません。 4 時効の援用 時効は当事者が援用(主張)しなければ,効力を生じません。 時効は,真実に反して他人の権利を取得したり,義務を免 れたりするなど,やや不道徳な側面もありますので,時効を主 用語解説 援用: 取得時効の成立や消 滅時効の成立によっ て,時効の利益を受 ける旨の意思を表明 すること。 張したくないという当事者の意思も尊重して,取得時効や消 滅時効は,時効期間の経過によって当然に生ずるのではなく, その援用によって,初めて効力が生じるものとなっています。 このような時効の援用をすることができる者は,時効に よって直接に利益を受ける者です。 消滅時効が完成して いたのを知らないで 債務を弁済した者 は,あとから時効の 完成を主張して,弁 済した金銭を取り 戻すことができませ ん。 時 効 つまり,取得時効の場合であれば,占有の開始時から 所有者だったことになり,消滅時効であれば,初めから 債務を負っていなかったことになるんだ。だから,売買 代金債権が時効で消滅すると,起算日以降に発 生した利息も,原則として消滅することになる んだよ。 うに,債務者が自分の債務の存在を認めることをいいま 第4章 数え始めた時点である起算日にさかのぼって生じます。 金銭等を取り立てる ため,債権者は,裁 判所に支払督促を申 し立てることができ ま す。 支 払 督 促 が 債務者に送達され た後,一定期間経過 後に債権者の申立て により支払督促に仮 執行宣言が付される と,その支払督促は 確定判決と同様の 効果が生じ,これに よって時効が中断し ます。 特に,次の者が時効の援用権を有する点に注意しましょう。 ●連帯債務者 ●保証人,連帯保証人 ●物上保証人,抵当不動産の第三取得者 例えば,他人の債務を担保するため自己所有の不動産 に抵当権を設定した者(物上保証人)は,その 債務の消滅時効を援用して,抵当権の消滅を主 張することができるんだ。 5 時効利益の放棄 一定の期間が経過して時効が完成した場合であっても, その時効の利益を放棄することができます。ただし,時効 が完成する前に放棄することはできません。 時効が完成する前の 放棄を認めると,例 えば,貸金契約など では必ず事前に時効 の利益を放棄する特 約が入れられると想 定され,結果的に債 務者の利益を害し, また,時効制度を否 定することになるか らです。 要点整 時効の通則 中 断 請求・承認・差押え等により,時効は中断する ●援用して初めて時効の効果が発生する 援 用 ●保証人・物上保証人・第三取得者も援用できる ●消滅時効の完成を知らずにいったん弁済すると, もはや援用できなくなる 効 果 時効は起算日にさかのぼって効力を生じる 放 棄 ●時効完成前には時効の利益を放棄できない 5 第1編 権利関係 条件・期限 第4章 H15.18 ●停止条件と解除条件 ある条件が成就すれば「効力が発生」する場合を,停止条件といいます。 例えば, 「宅建試験に合格できたら,お祝いに時計をプレゼントする」とい う場合,試験に合格という条件が成就すると,時計の贈与契約の効力が発生 します。 対して,ある条件が成就することによって「効力が消滅」する場合を解除 条件といいます。例えば,「大学を卒業したら仕送りをやめる」という場合, 大学の卒業という条件が成就することによって,仕送りという定期的な贈与 契約の効力が消滅します。 時 効 ●条件付き権利の侵害 条件付契約の当事者は,条件の成否未定の間は,その契約を一方的に解除 することはできず,また,条件の成就によって生じる相手方の利益を侵害す ることはできません。条件付きの権利 を侵害した者は,賠償責任を負います。 例えば,合格したらお祝いにプレゼ ントすると約束した者が,合格されて は困ると,合格のジャマをした場合の ように,条件の成就により不利益を受 ける者が,故意にその条件の成就を妨 げると,相手方は,条件を成就したも のとみなすことができます。 なお,条件の成否未定の間における 当事者の権利・義務は,通常の権利・ 合格すれば,だよ! 義務と同様に,処分,相続,保存また は担保とすることができます。 ●期限 期限とは,「4月末日までに申込みをする」 ,というように,将来確実に発 生する事実をいい,そのうち,確実に発生するが,その時期が定かでないも のを特に不確定期限といいます。 例えば,借金をしている人は返済期限まで返済を拒否できますが,これを 期限の利益といいます。期限の利益を放棄して,即時に借金を返済すること もできますが,期限までの利息をもらえるという相手方の利益を一方的に害 することはできませんから,原則として,利息全額をつける必要があります。 5 問 題 *理解度を『重要チェック問題』で確認してみよう* ❶ Aが善意無過失でBの所有地の占有を開始し,所有の意思をもって,平穏に, かつ,公然と7年間占有を続けた後,その土地がB所有のものであることを知っ た場合,Aは,その後3年間占有を続けても,その土地の所有権を時効取得する ことができない。 ❷ A所有の建物を,Bが自己のものであると過失なく信じて7年間占有し,その 後BがCに当該建物を賃貸して3年を経過したとしても,Bは,建物所有権を時 効取得することができない。 ❸ Aが,賃借権に基づいてBの土地の占有を20年継続した場合において,Aが 賃料の請求を一度も受けなかったとしても,Aは,当該土地の所有権を時効取得 することはできない。 ❹ AのBに対する債権に関して,AがBに対して訴訟により弁済を求めた場合, Bの債務には,時効中断の効力は生じない。 ❺ Aは,BのCに対する金銭債務を担保するため,A所有の土地に抵当権を設定 し,物上保証人となった。この場合,Aは,この金銭債務の消滅時効を援用する ことができる。 ❻ 時効が完成する前に,時効の利益を放棄することはできない。 解 答 ❶ × × 占有者は,占有の開始時点で善意無過失であれば,占有の途中で悪意となって も,10年間占有を継続すれば,所有権を時効取得することができます。 ❷ × × 賃貸しても,間接的に占有している状況であり自らの占有は失われないため, 善意無過失で始めた占有が10年間継続すれば,所有権を時効取得できます。 ❸ ○ ○ 賃借人の占有は,所有の意思のない占有であるため,所有権を時効取得するこ とができません。 ❹ × × 債権者が債務者に「請求」した時点で,時効が中断します。 ❺ ○ ○ 時効の援用ができるのは,時効によって直接に利益を受ける者です。物上保証 人は被担保債権の消滅により負担を免れますので,消滅時効を援用することがで きます。 ○ 時効完成後に,その利益を放棄することはできますが,時効が完成する前に時 ❻ ○ 効の利益を放棄することはできません。 52
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