issue date ソニーフィナンシャルホールディングス調査レポート 2017/02/20 尾河眞樹 米株価とドル円の関係 石川久美子 ブラジルレアル:目先はブラジル中銀の利下げ幅とト ランプ税制案が鍵 米株価とドル円の関係 ソニーフィナンシャルホールディングス 金融市場調査部長 今週のドル円予想レンジ 尾河 眞樹 111.50-114.00 為替市場ではトランプ・ラリーに一服感がみられるなか、一部米議員が「中国の為替操作国 認定」について発言。トランプ政権の財政政策に対する期待と、保護主義に対する懸念の綱 引きは続く。今週はイベントも少なく、ドル円の方向感は出にくいと予想。 先週14日、米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長が米上院銀行 委員会で半期に一度の証言を行い、「3月、5月、6月のいずれにせ よ、注目されているのは当局が行動を起こす正確な時期だというこ とはわかっている」「全ての会合が予断を持たずに協議するライブ な会合」と述べた。市場では3月利上げの可能性を示唆したと受け 止められ、ドル円は一時114円台後半まで上昇。しかし、週末にか けてドル円は反落。先週発表された1月の小売売上高(前月比0.4% 増)や1月の消費者物価指数(コアが前年比2.3%上昇)、2月の フィラデルフィア連銀景況指数(43.3)など、米国の重要な経済指 今週の注目材料(いずれも現地時間) 【米】2月20日:休場・プレジデンツデー 【日】2月20日:1月貿易収支 【独】2月22日:2月Ifo景況感指数 【米】2月22日:1月中古住宅販売、 FOMC議事要旨 【米】2月24日:1月新築住宅販売 標が軒並み良好な結果で、米株も連日高値を更新したにも関わらず、 米長期金利がじわり低下したことがドルの重しとなった。 ■図表1:米株価とドル円 米大統領選でトランプ氏が勝利して以降、トランプ政権の政策によ る米景気拡大とインフレの加速が期待され、米株価とドルがパラレ ルに上昇、いわゆる「トランプ・ラリー」が続いた。しかし、1月 20日の大統領就任式以降、米株価は上昇し続ける一方で、ドル円は 軟調に推移し、両者の相関性が低下した(図表1)。株式市場では、 トランプ政権の減税など財政政策に対する期待が続く一方で、就任 以降トランプ大統領の保護主義的な発言が目立ったことで、為替市 場ではこれが嫌気されドル円の上値を抑えている。こうしたなか、 トランプ・ラリー 20日に米上院外交委員会メンバーのグラム議員とシャヒーン議員が 「トランプ大統領が大統領選中の公約通り中国を為替操作国に認定 出所:Bloomberg した場合、議会は支持するだろう」と指摘。4月に米財務省が議会 に提出する「為替報告書」で、中国が「為替操作国」に認定される かどうかが次の注目材料として浮上していることも、しばらくドル ■図表2:米10年債利回り 円の重しとなりそうだ。13日にムニューチン米財務長官が就任し、 早速中国の汪洋副首相、ハモンド英財務相、麻生太郎財務相、ショ イブレ独財務相らと相次いで電話会談するなど積極的に外交を行う なかで、いくら公約とはいえ中国が4月に為替操作国に認定される 可能性は低いだろう。ただ、「中国と韓国が認定されるのでは」と の一部観測報道もみられるなか、仮に実現すればこれに巻き込まれ る形で円高となるリスクはあるため、これに対する警戒感がしばら くドル円の上値を抑えよう。今週は目立った材料に欠けるため、ド ル円相場には方向感が出にくい。ただ、良好な米経済指標にも関わ らず米長期金利の低下傾向は気がかり(図表2)。市場では既に米 国のインフレ加速が相当程度織り込まれており、米債券市場でも売 りポジションが積みあがっている可能性は高い。今週のようにイベ ントが無いときほど、突然のポジション調整には警戒したいところ。 出所:Bloomberg 1 ソニーフィナンシャルホールディングス調査レポート 【今週の注目通貨:ブラジルレアル】 目先はブラジル中銀の利下げ幅とトランプ税制案が鍵 ソニーフィナンシャルホールディングス 金融市場調査部 為替アナリスト 石川 久美子 今週のレアル円予想レンジ 35.70-37.50 ブラジルは米保護主義の悪影響を比較的受けにくく、また商品高や財政緊縮、利下げなどが 国内経済にプラスと受け止められ、昨年末からレアルは堅調だ。22日に大幅な追加利下げが あればレアルには追い風となるが、一方で米税制改革案が波乱材料になり得る点には要注意。 2016年末以降、ブラジルレアルは上昇傾向で、2月16日には対ド ルで3.0411レアルと、2015年6月以来の安値を付けた。昨年11月 ■図表1:米国の対ブラジル貿易収支 9日にトランプ氏が大統領に当選確実になった後、ドルが全面高と なり、ブラジルレアルも他の中南米通貨と同様に対ドルで下落した。 しかし、他の通貨に比べてレアルが早々に落ち着きを取り戻し、 12月以降はレアル高に転換。これは、他の中南米国家に比べて、 ブラジル経済の対米依存度が非常に低いことが背景にある。米国の 対ブラジル貿易収支は黒字であり、トランプ米大統領の保護主義的 な政策の影響を受けにくい(図表1) 。米景気刺激策への期待か ら主要国株価が上昇するリスク・オンムードのなかでブラジルレア ルは選好され、レアル高が進んだ格好だ。また、国際商品価格が堅 調に推移していることも資源国通貨のブラジルレアルにはプラスに 寄与(図表2)。政治面についても、2016年8月からはテメル大統 領が就任し、これまでの左派政権によるバラマキ政治から一転して 緊縮財政に動きだしたこと、10月・12月・1月と3回連続でブラジ ル中銀が利下げを行い、これが「景気にプラスである」と市場で受 出所:Bloomberg ■図表2:ブラジルの輸出品目 (2251億ドル、2014) け止められたことなどもレアルの追い風となっている(図表3)。 22日、ブラジル中銀は政策金利を発表する。市場では1月と同様 に0.75%利下げし、12.25%にするとの見方が大勢だ。1月の利下 げの際の声明では「金融緩和サイクルを進めることが適切となって おり、新たな緩和リズムを設定することが可能だ」としており、同 じ幅での利下げが見込まれている。これが実現されるかにまずは注 目したい。もし、市場予想以上の下げ幅であれば、大幅なブラジル 株高・レアル高となりそうだ。なお中期的にも、コンスタントな利 下げが行われ、これがブラジル経済にプラスと受け止められる状況 が続けば、基調としては上昇傾向が続くものと考えられる。 ただし、足元の為替市場全体の関心は、2月下旬から3月初めに出 てくるとみられるトランプ米大統領の税制改革案に集まっている。 出所:JETRO ■図表3:ブラジルの政策金利 短期的にはこれがレアル相場にとっても波乱要因になりそうだ。ト ランプ大統領の表現通り「驚異的な計画」だと市場が受け止めれば、 初動はドル高の影響で相対的にレアル安が進むこともあり得るが、 米国株が主導する形でリスクオンムードが広がればレアルが上昇に 転じる可能性がある。一方、トランプ税制改革案を市場が「期待外 れ」とした場合、2016年11月から続くトランプラリーの反動で急 激にリスクオフに転じるだろう。その場合、初動はレアル売りとな りそうだが、これによって一旦織り込みが進んだ「米国の3月利上 げ観測」が急速に萎めば、ドル安・レアル高に転じよう。いずれに せよ、荒い値動きになる可能性が高い点に留意しておきたい。 出所:ブラジル中銀 2 ソニーフィナンシャルホールディングス調査レポート ソニーフィナンシルホールディングス 金融市場調査部・研究員紹介 尾河 眞樹(おがわ まき) ソニーフィナンシャルホールディングス 執行役員 兼 金融市場調査部長 チーフアナリスト ファースト・シカゴ銀行、JPモルガン証券などの為替ディーラーを経て、ソニー財務部にて為 替リスクヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部 門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。 2016年8月より現職。 テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、日経CNBCなどにレギュ ラー出演し、金融市場の解説を行っている。著書に『為替がわかればビジネスが変わる(2014 年日経BP社)』、『富裕層に学ぶ外貨投資術(2015年日経新聞出版社)』、『〈新版〉本当に わかる為替相場(2016年日本実業出版社)』などがある。 渡辺 浩志(わたなべ ひろし) ソニーフィナンシャルホールディングス 金融市場調査部 エコノミスト 1999年に大和総研に入社し、経済調査部にてエコノミストとしてのキャリアをスタート。 2006年~2008年は内閣府政策統括官室(経済財政分析・総括担当)へ出向し、『経済財政白 書』等の執筆を行う。2011年からはSMBC日興証券金融経済調査部および株式調査部にて機関 投資家向けの経済分析・情報発信に従事。2017年1月より現職。内外のマクロ経済についての 調査・分析業務を担当。ロジカルかつデータの裏付けを重視した分析を行っている。 石川 久美子(いしかわ くみこ) ソニーフィナンシャルホールディングス 金融市場調査部 為替アナリスト 商品先物専門紙での貴金属および外国為替担当の編集記者を経て、2009年4月に外為どっとコ ムに入社し、外為どっとコム総合研究所の立ち上げに参画。同年6月から研究員として、外国為 替相場について調査・分析、レポートや書籍、ブログ、Twitterなどの執筆、セミナー講師、テ レビやラジオなどのコメンテーターとして活動。2016年11月より現職。外国為替市場の調査・ 分析業務を担当。 3 Weekly Market Focusについてのご注意 本レポートは、ソニーフィナンシャルホールディングス株式会社(以下「当社」といいます)が経済情勢、市況などの投 資環境に関する情報をお伝えすることを目的としてお客様にご提供するものであり、金融商品取引法に基づく開示資料で はなく、特定の金融商品の推奨や売買申し込み、投資の勧誘等を目的としたものでもありません。 本レポートに掲載された内容は、本レポートの発行時点における投資環境やこれに関する当社の見解や予測を紹介するも のであり、その内容は変更又は修正されることがありますが、当社はかかる変更等を行い又はその変更等の内容を報告す る義務を負わないものといたします。本レポートに記載された情報は、公的に入手可能な情報ですが、当社がその正確 性・信頼性・完全性・妥当性等を保証するものではありません。本レポート中のグラフ、数値等は将来の予測値を含むも のであり、実際と異なる場合があります。 本レポート中のいかなる内容も、将来の投資環境の変動等を保証するものではなく、かつ、将来の運用成果等を約束する ものでもありません。かかる投資環境や相場の変動は、お客様に損失を与える可能性もございます。 当社は、当社の子会社及び関連会社(以下、「グループ会社」といいます)に対しても本レポートに記載される内容を開 示又は提供しており、かかるグループ会社が本レポートの内容を参考に投資決定を行う可能性もあれば、逆に、グループ 会社が本レポートの内容と整合しないあるいは矛盾する投資決定を行う場合もあります。本レポートは、特定のお客様の 財務状況、需要、投資目的を考慮して作成されているものではありません。また、本レポートはお客様に対して税務・会 計・法令・投資上のアドバイスを提供する目的で作成されたものではありません。投資の選択や投資時期の決定は必ずお 客様ご自身の判断と責任でなされますようお願いいたします。 当社及びグループ会社は、お客様が本レポートを利用したこと又は本レポートに依拠したこと(お客様が第三者に利用さ せたこと及び依拠させたことを含みます)による結果のいかなるもの(直接的な損害のみならず、間接損害、特別損害、 付随的損害及び懲罰的損害、逸失利益、機会損失、代替商品又は代替サービスの調達価格、のれん又は評判に対する損失、 その他の無形の損失などを含みますが、これらに限られないものとします)についても一切責任を負わないと共に、本レ ポートを直接・間接的に受領するいかなる投資家その他の第三者に対しても法的責任を負うものではありません。 本レポートに含まれる情報は、本レポートの提供を受けられたお客様限りで日本国内においてご使用ください。 本レポートに関する著作権及び内容に関する一切の権利は、当社又は当社に対して使用を許諾した原権利者に帰属します。 当社の事前の了承なく複製又は転送等を行わないようお願いします。 本レポートに関するお問い合わせは、お客様に本レポートを提供した当社グループ会社の担当までお願いいたします。 ソニーフィナンシャルグループ 東証第一部上場(銘柄コード8729) 100%出資 100%出資 100%出資 生命保険事業 ソニーフィナンシャルホールディングスは、ソ ニー生命保険株式会社、ソニー損害保険株式会 社、ソニー銀行株式会社の3社を中核とする金 融持株会社で、東京証券取引所第一部に上場 (銘柄コード8729)しています。 損害保険事業 当社グループの各事業は、独自性のある事業モ デルを構築し、合理的かつ利便性の高い商品・ サービスを個人のお客さまに提供しています。 銀行事業 当社グループの基本情報、業績、グループ各社 の事業内容などにつきましては、当社ホーム ページでご覧いただけます。 http://www.sonyfh.co.jp 100%出資 介護事業
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