湿気反応性高速硬化型樹脂化合物

湿気反応性高速硬化型樹脂化合物
−自動車部材・建材用途を指向して−
山口大学大学院 創成科学研究科
地球圏生命物質科学系専攻(化学)
准教授 安達健太
1
本発明の概要
本発明に関する技術背景
• 分子内に加水分解性シリル基等の含ケイ素基を有する樹脂は、空気中の水分と反
応して室温で硬化
• シラン硬化反応に伴う揮発性有機化合物(VOC)はない
(副生成物は水(水蒸気)のみ)
• より速く硬化する樹脂が望まれており、硬化速度を上げる改善が試みられている
VOCフリーな室温湿気硬化性(RTV)樹脂としての利用研究
• 硬化触媒として有機スズ化合物が汎用
人体に対する危険性や有害性が指摘、環境負荷も大きい
本発明の技術内容
• 新規硬化触媒を用いた含ケイ素基を有する硬化性樹脂組成物
【新規硬化触媒】金属錯体とアミン化合物からなる複合錯体
環境負荷等が小さい・常温で極めて速く硬化
自動車部材・建材用途の接着剤やシーリング材等に適用可能
2
当該研究分野の概要
3
プラスチックについて
その他
熱硬化性樹脂 4%
9%
ポリエチレン
25%
熱可塑性樹脂
11%
ポリカーボネート
3%
ABS
3%
PET
4%
2014年
生産量
1,061万㌧
ポリスチレン
7%
ポリプロピレン
21%
塩化ビニル
14%
出典 : 日本プラスチック工業連盟集計値(2014年)
ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン・ポリプロピレン・それら共重合体)が全体の約50%を占める
ポリオレフィン樹脂の用途は近年拡大している
自動車用途(インテリア、ワイヤーハーネス)・建材・構造用プラスチック
高い物理特性が要求される
4
架橋ポリオレフィン樹脂の必要性
市場要求
・物理特性
・耐熱性
・化学耐性
架橋性ポリオレフィンの必要性
物理架橋
化学架橋
結晶(擬似架橋点)の制御
架橋化学反応の制御
非晶相
非晶相
結晶相
(擬似架橋点)
最大のウィークポイント
架橋点
耐熱性
5
従来技術とその問題点
6
ポリオレフィン樹脂のシラン架橋について
 水分存在下、シロキサン結合による高次ネットワークを構築
機能性向上(物理特性、耐溶媒、耐熱性など)
(シラングラフトポリオレフィン)
ポリアルコキシシラン
 室温硬化可能・VOCフリー
HO Si OH
Hydrolysis
RO Si OR
+ 3H2O
OR
シラン架橋触媒
Catalyst
HO Si OH + 3ROH
OH
OH
OH
Condensation
HO Si OH
O
Catalyst
+ H2O
HO Si OH
HO Si OH
 ポリアルコキシシランの架橋速度・架橋密度をコントロールする上で重要
有機スズ化合物
三フッ化ホウ素アミン錯体
O
F
O
Sn
O
O
J. Toynbee, Polymer 1994, 35, 438.
環境に対する影響・脱スズ触媒への機運
※EXTEND2010, REAcH規制, PRTR制度, ロッテルダム条約
触媒使用
法的規制
NH2 B
F
F
S. Sato et al., PCT application WO2006016568, 2006
K. Adachi et al. Macromol. React. Eng., 2007, 1, 313.
加水分解時(特に高温使用時)に
有毒ガス(フッ化水素酸)が発生
7
ポリアルコキシラン用架橋触媒の種類
酸系触媒
・
・
・
・
塩基系触媒
アルキルカルボン酸化合物
アルキルスルホン酸化合物
有機金属化合物(有機スズなど)
金属錯体(β-ジケトン金属錯体など)
【特徴】硬化速度が速い・架橋密度が低い
・ アルキルアミン化合物
【特徴】架橋密度が高い・硬化速度が遅い
酸-塩基複合系触媒
・ 三フッ化ホウ素-アミン錯体
・ β-ジチオケトン金属錯体-アミン錯体
【本発明技術】
8
新技術の内容と特徴・実験結果
9
β-ジチオケトン錯体-アミン錯体の特徴
S
S
M
S
S
axial
coordination
+ 2 RNH2
アミン化合物
H
H
S
S
R N
M
N R
S
S
H
H
βージチオケトン金属錯体
・ ポリアルコキシシラン(マトリックス樹脂)との相溶性良好
 βージ(チオ)ケトン金属錯体、三フッ化ホウ素-アミン錯体 相溶性悪い
・ β-ジチオケトン錯体とアミン化合物を複合錯体化することで触媒活性増加
・ これまでの架橋触媒よりも高速な硬化が可能。
 市場ニーズ(常温でより速く硬化するものが望まれる)
環境負荷が小さい(有機スズ化合物・三フッ化ホウ素-アミン錯体との比較)
・
 法規制(有機スズ化合物)、有毒ガス発生(三フッ化ホウ素-アミン錯体)
10
シラン架橋反応測定サンプル
 ビニルトリメトキシシラン(5 phr*)グラフト
非晶性ポリ-アルファ-オレフィン(APAO-g-VTMS)
H3CO
Si
OCH3
OCH3
※フリーラジカル反応により調整
APAO-g-VTMS
Table Poly(ethylene-propylene) copolymer characteristics.
Mw(a) / kg/mol
Mn/Mw(a)
Ethylene content(c) / mol%
27.7
2.3
10.1
(a) Number (Mn)- and weight (Mw)-averaged molecular masses,
(b) Determined by 13C-NMR.
※phr [per hundred resin]:樹脂重量100に対する各種配合剤の重量部)
 シラン架橋触媒(β-ジチオケトン銅(II)錯体-オクタ
デシルアミン錯体[Cu(sacsac)2-C18A])
:5.0×10-4 mol/100g resin
H
S
S
C18 N
Cu
S
S
H
Cu(sacsac)2-C18A
11
FTIRによる架橋反応モニタリング
Si-O stretching
1095cm-1
-CH2- bending
1460cm-1
1120cm-1
Si-C stretching
1193cm-1
1048cm-1
<測定サンプル>
5phrビニルトリメトキシシラングラフトAPAO
(5.0×10-4 mol/100g resin 硬化触媒含む)
Si-O bending
803cm-1
Time cource
1400
1200
1000
800
OCH3
OCH3
OCH3
CHSi
OH
OCH3
OCH3
CHSi
OCH3
OCH3
O
 シラン架橋反応を確認
架橋反応をモニタリングすることで
触媒能を評価
Wavenumber / cm-1
CHSi
反応時間の増加に伴い
1193, 1095, 803cm-1 ↓減少↓
1120, 1048cm-1
↑増加↑
OH
OH
OCH3
CHSi
OH
OH
OH
803, 1095, 1193 cm-1
CH Si
O Si
OCH3
CH
OCH3
1048 cm-1
CH Si
O
O Si
OCH3
CH
CH Si
O Si
O
OCH3
1120 cm-1
CH
A. Gazel, J. Lemarre,
Makromol. Chem., Rapid
Cominun.
5, 235-240 (1985)
12
触媒能評価 (アレニウスプロット)
アレニウスプロットにより活性化エネルギーを算出
0
ln |rcrk
|
4
 Ea

r  A exp 
RT 

2
0
-2
-4
:
:
:
:
:
Arrenius plots
2.8
3
3.2
3
1/T ×10 / K-1
Cu(sacsac) 2-C18A
Cu(sacsac) 2
C18A
DBTL
No catalyst
Ea :
r :
A :
R :
T :
3.4
Activation enegry
-1
E a(crk) / kJmol
Averege mollecular weight
between crosslinks (M c) / gmol-1
38.7±1.2
(3.0±0.3)×103
39.5±2.2
(4.1±0.4)×103
50.4±3.1
(3.3±0.3)×103
Cu(sacsac)2
45.7±1.7
(4.5±0.3)×10
3
No catalyst
84.8±3.2
(5.5±0.3)×103
catalyst
Cu(sacsac)2-C18A
本発明
DBTL
C18A
従来技術
架橋反応活性化エネルギー kJ/mol
架橋反応速度 (hour-1)
任意定数
気体定数
絶対温度(K)
活性化エネルギー
&
架橋点間分子量(架橋密度)
共に
有機スズ触媒(DBTL)
を上回る結果
O
O
Sn
O
O
DBTL
13
硬化物耐熱性評価手順
重りが落下した温度を軟化温度とする
14
硬化物耐熱性測定結果
本発明
従来技術
触媒の種類
Cu(sacsac)2- Zn(sacsac)2C18A
C18A
2,4-ペンタンジチ
触媒なし
オオン亜鉛錯体
Zn(sacsac)2
反応時間
2,4-ペンタンジチ
n-オクタデシルアミン
オオン亜鉛錯体
C18
及びn-オクタデシ
ジブチル錫(II)ジ
ルアミン
ラウレート
DBTL
三フッ化ホウ素モノ
エチルアミン錯体
軟化温度(℃)
【温度25℃, 湿度50%】
10分
60
60
×
×
×
×
×
×
2時間
66
65
×
×
×
×
×
49
※ ×印は硬化していないことを示す
β-ジチオケトン金属錯体-アミン錯体がシラン硬化触媒として有効に作用
従来の触媒と比較して硬化速度を速めており
密な架橋構造を形成している
15
想定される用途
16
シラン架橋ポリオレフィン樹脂(硬化性樹脂組成物)の市場価値について
シラン架橋ポリオレフィン樹脂の需要分野
電力ケーブルの接着被覆材としての市場規模はとりわけ大きい。
(米国:110 億ドル [2009年])
今後も更なる電力需要増加、自動車産業(電気自動車・水素自動
車)への展開が見込まれており、電力ケーブルの世界市場は急速
に拡大する予想【2010年6月・日刊工業新聞】
想定する需要国一覧
・アメリカ:
自動車の高機能化が進むと、構成部品のエレクトロニクス化が求められる。複
雑な回路を結ぶ自動車用ワイヤーハーネスの市場は拡大する
・ヨーロッパ諸国: ハイブリッド自動車・電気自動車・水素自動車の更なる普及が想定される。本
発明の技術は、RoHS指令とREACH規則に該当しない環境毒性のない高活性な
触媒を使用している点で環境保全の意識が強いヨーロッパ諸国に対するインパ
クトが高い。
・中国:
自動車産業の発展が期待される。近年環境意識が高まっている中国にも本特許
技術の広がりを推測する。
17
シラン架橋ポリオレフィン樹脂(硬化性樹脂組成物)の市場価値について
ポリオレフィン樹脂用途の拡大によって露呈した問題点
ポリオレフィン樹脂は難接着性物質
汎用性・機能性に優れた接着剤が存在しない!
反応性接着剤としてのシラン架橋ポリオレフィン樹脂の利用
(基剤がポリオレフィン樹脂であるため接着性が高い)
難接着物用接着剤(オレフィン)市場:71.0万トン/年、2,591億円(2014年)
※高付加価値接着剤であり今後世界規模で更なる市場の発展が見込まれる
需要分野一覧
・自動車分野:
ピラー、モール、ドアトリム、スポイラー、ルーフなどの内外装部材(金属/
樹脂からなる外装材の接着、本皮革、ファブリック、インパネ発泡シート、加
飾シートと基材の接着)
・家電分野:
モバイル機器、テレビ筐体、白物家電筐体(加飾シート貼り付けによる加飾、
金属と樹脂の接着、電子部品の封止用途)
・産業分野:
工業用包材、バリアーフィルムなどの多層フィルムのフィルム間の接着層
・鉄道・航空分野: 客室向け意匠パネル
・その他:
物流資材、住建材、日用雑貨、スポーツ用品の接着用途
18
実用化に向けた課題・企業様への期待
19
未確認事項
•
実際の接着剤・シール材フォーミュレーション
による触媒能・物理特性評価
触媒毒要素の抽出
20
本技術に関する知的財産権
•
•
•
•
発明の名称 :硬化性樹脂組成物
出願番号 :特願2015-234907
出願人
:国立大学法人 山口大学
発明者
:安達健太、ほか2名
21
お問い合わせ先
山口大学
産学公連携センター
コーディネータ 松崎 徳雄
TEL:0836-85-9961
FAX:0836-85-9962
e-mail:yuic@yamaguchi-u.ac.jp
22