2016 年度前期 有機化学演習 第13回 酸化と還元 1. トルエンと臭素を

2016 年度前期 有機化学演習 第13回 酸化と還元
1. トルエンと臭素を反応させるとき、側鎖置換と環置換の2通りの反応が起き
る可能性がある(下図)。選択的に反応させるために、次の条件のいずれかを
用いる。(1) 酢酸溶媒, Br2, FeBr3, 光を遮断。(2) CCl4 溶媒, Br2, 光照射。どち
らの条件がどちらの生成物を与えるか答え、その根拠を説明しなさい。
Br
CH3
Br
CH2Br ,
CH3 +
CH3
(1) は極性溶媒中で、ルイス酸 FeBr3 を使っているため、Br–Br 結合の分極が
促進される。また、光がないためラジカルが発生しない。従って、Br2 は求電
子剤として働き、環置換が起きる。(2) は無極性溶媒中なので Br–Br 結合は分
極しにくい。一方、光が照射されているため Br• ラジカルが発生する。従って、
この場合はラジカル連鎖反応が起こり、側鎖置換になる。
2. (1) PCC 酸化、Swern 酸化についてそれぞれ説明しなさい。(2) (1) の2つが
H2CrO4 や KMnO4 による酸化と比べてどのような特徴を持つか述べなさい。
(1) PCC 酸化:
R CH2OH
ClCrO3–
N
H
R CHO
O
Swern 酸化:
R CH2OH
H3C
O
S
Cl
CH3 ,
Cl
O
R CHO
(2) 一級アルコールを酸化した場合、H2CrO4 や KMnO4 を使った場合はカル
ボン酸まで酸化が進行するが、上の2つではアルデヒドで止まる。また、
Swern 酸化は重金属を使わないという利点もある。
3. (1) オゾン分解について説明しなさい。(2) 下の化学変換を行う方法を述べな
さい。途中でオゾン分解を用いること。
O
CHO
O
OH
OH
(1)
C
H2O2
C
O
O
C O
O3
C
CH3SCH3
C O +
(2)
O C
O
CHO
O
OH
(1)NaBH4
(2)H+
(1) O3
(2) CH3SCH3
O
Cl
Et3N
O
O
CHO
O
O
OH
(1)NaBH4
(2)H+
OH
CHO
4. (1) Baeyer–Villiger 反応について説明しなさい。(2) 下の反応は、Corey によ
るプロスタグランジン F2αの全合成の一部である(前回5の続き)。A の構
造を書き、2つの反応についてそれぞれ説明しなさい。
(二段階目は、明記さ
れていないが後処理で H+ を加えるものとする。)
CH3O
COOH
mCPBA
NaOH
A
O
(1)
R
O
C
mCPBA
R
R'
(2) CH O
3
O
C
O
R'
COOH
mCPBA CH3O
O
OCH3
HO
NaOH
O
O
HO
OCH3
一段階目:Baeyer–Villiger 反応。より電子豊富な二級アルキル基が転位する。
二段階目:アルカリ加水分解で開環する。三つの置換基の立体配置は出発物
質と同じになる。
5. 安息香酸メチルを LiAlH4 で還元してベンジルアルコールを得た。 (1) 反応機
構を書きなさい。
(遷移状態の構造は省略してよい。)(2) この反応の後処理で
は、薄い酸 (H3O+) を加える前に、未反応の LiAlH4 を分解するため酢酸エチ
ルを加えることがある。酢酸エチルが LiAlH4 と反応するとどうなるか説明し
なさい。(3) (2) の過程で、酢酸ベンジルが副生することがある。なぜこれが
生成するか説明しなさい。
(1)
H
O
H
OCH3
O
Al H
H
H
OCH3 +
H
Al
H
– –OCH3
H
H
O
H
H
H
HO
H
O
Al H
H
H
H
Al
+
H
H+
H
H
(2) エタノールになる。
O
LiAlH4
H+
2
OH
O
(3) 酢酸エチルとベンジルアルコキシドによるエステル交換が起きる。
O
H
H
O
O
+
O
H
H
O
O
O
H
H
O
+
O