門 野 夕 峰 AS︶ 強直性脊椎炎︵ ankylosing spondylitis は、仙腸関節炎や脊椎など体軸を構成する部位 が多く、ほとんどは 歳までに発症すると考え ている。 ∼ 歳代の若い男性に発症すること ASの診断と治療 の 分の1以下であるとされ、患者数はおおよ の付着部炎を主症状とする炎症性疾患である。 られている。 そ3万人前後と推測されるため難病指定を受け 免疫異常が背景にあると考えられており、ヒト はじめに 10 40 10 1) 20 白血球抗原︵ human leukocyte antigenHLA︶ 主な症状としては、 歳までに潜行性に発症 のうちHLA B との関連性が示されている。 して増悪軽快を繰り返しながら持続する炎症性 27 45 人の0・5∼1%と関節リウマチと同程度の罹 るため人種によって大きく異なる。欧米では成 全身のこわばりや 怠感を感じたり、発熱した 運動すると改善するのが特徴的である。その他、 などとは異なり、安静にすると増悪して、逆に 27 患頻度であるが、日本における罹患頻度は欧米 − 罹患頻度はHLA B の保有率の影響を受け ASは男女別に見ると約3 1と男性に多いが、 腰背部痛︵ inflammatory back painIBP︶が 見られる。IBPではギックリ腰や疲労性腰痛 − 56 CLINICIAN Ê16 NO. 652 (974) RA 領域 grade 4 :完全な強直 1 .確実例:X 線基準と、 1 つ以上の臨床基準を満たす 2 .疑い例: a)X 線基準を満たさないが、臨床基準 3 つを満たす b)X 線基準を満たすが、臨床基準を満たさない (文献 2 より引用作成) ASの診断 ASの診断は、臨床基準と単純X 線撮影画像所見から構成されている 1984年の改訂ニューヨーク診断 基準が用いられている︵表①︶ 。臨床 CLINICIAN Ê16 NO. 652 基準①3カ月以上続く腰背部痛とこ わばり、②腰椎可動性の低下、③胸 郭拡張の制限のうち1つを満たし、 単純X線撮影画像において両側でグ レード2または片側でグレード3以 上の仙腸関節炎が見られると確実例 と診断する。しかしながら、基準を 満たすためには不可逆的な仙腸関節 の破壊がおきていることが必要であ 57 2) まう。骨関節以外にも、虹彩炎などのぶどう膜 grade 3 :中等度の仙腸関節炎 (骨侵食、硬化、裂隙の拡大や狭小化、部分的な強直を伴う) りもする。進行すると仙腸関節や脊椎の可動性 grade 2 :軽度の仙腸関節炎 (関節裂隙の変化を伴わない限局的な骨侵食や硬化) 炎による眼症状、乾癬などの皮膚症状、クロー grade 1 :疑わしい変化 が徐々に低下し、強直して不可逆的に可動性が X 線基準の grade grade 0 :正常 ン病や潰瘍性大腸炎などの消化器症状を合併す 仙腸関節炎 両側 grade 2 または 片側 grade 3 以上 失われ、日常生活に多大な支障をきたすように B)X 線所見 ることがある。 a. 3 カ月以上続く腰背部痛とこわばり (炎症性腰背部痛) b.腰椎可動性の低下 c.胸郭拡張の制限 なる。脊椎以外にも股関節など大関節が強直す A)臨床基準 ることもあり、座ることさえも困難となってし ①AS(強直性脊椎炎)の1984年改訂ニューヨーク 診断基準 (975) るため、発症から診断がつくまで9年前後かか るとの報告もある。 家族歴、HLA B 陽性、CRP陽性などが 挙げられる。 27 行を抑制できるとの期待が高まっている。乾癬 て、MRIのSTIR画像で高信号として描出 所見のうち2つ SpA 性関節炎や反応性関節炎などASと類似した疾 もHLA B 陽性で他の 4) ︶ 患を含む脊椎関節炎︵ Spondyloarthritis SpA という包括的な疾患概念が定着しつつあり、こ 所見のうち1つ される仙腸関節炎に加えて SpA が見られるか、またはMRI画像所見がなくて ら治療介入することによって、骨関節破壊の進 近年、TNF阻害薬などの治療薬が開発され、 2009年に示された Assessment of Spondylo単純X線画像で所見が明らかになる前の段階か ︵ASAS︶の axSpA Arthritis International Society の分類基準では、IBPの存在をスタートとし − 27 着部炎、虹彩炎などのぶどう膜炎、ソーセージ AIDsまたはシクロオキシゲナーゼ2︵ Cyclo- うに運動療法を行う。治療薬の第一選択はNS 性大腸炎など腸炎、非ステロイド性消炎鎮痛剤 ︵ Non-steroidal anti-inflammatory drugsNSA IDs︶に対する良好な反応性、2親等以内の だけでなく、CRP陽性例においては継続的に ︶阻害剤である。消炎鎮痛剤 oxygenase 2 Cox2 であるNSAIDsは、疼痛対策の面で重要な 様に腫脹する指趾炎、乾癬、クローン病や潰瘍 と分類する︵図②︶ 。 が見られれば axSpA のうち病変の主体が仙腸関節や脊椎など体軸に ︶ あるものを軸性脊椎関節炎︵ axial SpA axSpA ASの治療 に特徴的な共通の臨 と呼ぶようになった。 SpA ASの治療は、まず腰背部痛の軽減を図ると 床所見として、IBP、仙腸関節や脊椎など体 ともに、脊椎や大関節の可動性が低下しないよ 軸系の関節炎、アキレス腱や前縦靭帯などの付 − 58 CLINICIAN Ê16 NO. 652 (976) 3) ② axSpA(軸性脊椎関節炎)の ASAS 分類基準 ബசưႆၐƠƨǫஉˌɥዓƘᏑᢿၘ 45歳未満で発症した 3 カ月以上続く背部痛が見られ、かつ図に示す項目を満たすときに軸性 (文献 4 より引用作成) 脊椎関節炎と分類する。 内服することによって靭帯骨棘の形成を抑制す る疾患修飾薬としても機能することが知られて 阻害剤を、 いる。2種類のNSAIDsまたは Cox2 少なくとも合わせて4週間以上投与しても、症 状の改善効果が不十分な場合には、腫瘍壊死因 子︵ tumor necrosis factorTNF︶に対する阻害 剤を使用することが推奨されている。関節リウ AS患者を対象として、プラセボ︵ placeboP BO︶を投与した107例と隔週でADA ㎎ 40 ƭˌɥƷ5R#ᙸ ƭˌɥƷ5R#ᙸ マチに用いるような疾患修飾性抗リウマチ薬は、 年を 10 超えNSAIDsを投与しても疾患活動性の高い 試験︵ATLAS試験︶では、罹病期間 インフリキシマブとアダリムマブ︵ adalimumab ADA︶の2剤だけである。ADAの第3相臨床 欧米では各種TNF阻害剤が使用されているが、 日本ではASに対する保険適用を有するものは ASに対しては効果が少ないと考えられている。 5) 6) 40 を投与した208例とで 週間の効果を比較し 12 (977) CLINICIAN Ê16 NO. 652 59 24 ている。 週後の時点で、疾患活動性が %改 7) LJƨƸ *.#$ࣱᨗ ˅ᐂ᧙ራ໒ 5R#ᙸᲴ • ᧙ራ໒ • ˄ბᢿ໒ᲢǢǭȬǹ᐀Უ • ƿƲƏᐏ໒ • ਦឳ໒ • ʑႁ • ǯȭȸȳ၏Ŵၨࣱٻᐂ໒ • 05#+&UƴݣƢǔᑣڤƳӒࣱࣖ • ܼଈഭ • *.#$ࣱᨗ • %42ࣱᨗ 善したASAS を達成した割合はPBO群 ・1%に対してADA群 ・9%、部分的な寛 してADA群 ・7%と、ADA投与群でいず ︵ASAS 解基準である ASAS partial remission PR︶を達成した割合はPBO群3・7%に対 39 ︶ れも有意に疾患活動性を改善させた︵ p<0.001 ︵図③︶ 。また 週後の時点では、ASAS 達 ᡵ ᡵ AS のニューヨーク基準を満たし、かつ BASDAI ≧ 4 、背部痛 VAS ≧ 4 、朝のこわばり≧ 1 時 間のうち 2 項目を満たす症例に対して、ADA 40mg またはプラセボを隔週投与して 24週観察 した。ASAS40、ASAS PR を達成した割合が ADA 投与群において有意に高かった。*p<0.001 (文献 7 より引用作成) 13 成率はPBO群 ・1%に対してADA群 ・ 4%、ASAS PR達成率はPBO群5・6% に対してADA群 ・1%とADA投与群でい ︶ ずれも有意に疾患活動性を改善させた︵ p<0.001 ︵図③︶ 。両群ともに 週以降はオープンラベル 22 投与した症例の両群合わせたASAS 達成率 でADAを投与した延長試験が行われ、2年間 24 は ・6%、ASAS PR達成率は ・5% 33 40 週でASAS は ・4%、ASAS PRは であった。日本においてもADA投与開始後 8) 60 43 S PRを達成したとの報告がある。 9) ・0%で達成し、 週では ・9%でASA 63 60 CLINICIAN Ê16 NO. 652 (978) 40 20 24 13 40 #5#524 #5#5 #5#524 #5#5 Ფ Ფ Pearson s chi-square test Ფ Ფ ǢȀȪȠȞȖ ȗȩǻȜ 39 40 12 50 39 ોծؕแǛᢋƠƨлӳ ③ AS(強直性脊椎炎)に対する ADA(アダリムマブ)の有効性 おわりに ASの診断基準に加えて、早期の病態と考え の分類基準が定められた理由 られている axSpA の一つとして、MRIをはじめとする画像診断 技術の進歩が挙げられる。MRIによって炎症 の存在を示唆する骨髄浮腫がSTIR画像で高 信号として描出可能となり、単純X線画像で骨 性変化が明らかになる前に仙腸関節炎の存在を 確認できるようになったことが大きな意味を持 っている。画像診断技術の進歩にTNF阻害剤 の開発が伴ったことによって、発症早期から治 療介入を行って骨性変化の進行を抑制できる可 の病態形成にヘ 能性が拡がった。ASなど SpA 細胞の関与が明らかと ルパーT細胞である なっており、新たな病態の解明とともに新たな 薬剤が開発されて治療の選択肢が増えることが 期待される。 ︵埼玉医科大学 整形外科 教授︶ 文献 Akkoc N : Are spondyloarthropathies as common as rheumatoid arthritis worldwide? 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