第6回天文宇宙検定1級問題・解答 No. 問題 正答 1 活動銀河核などで見られる電波ジェットでは、放射源が移動する見 かけの速度が光速を超える現象が観測される。真の移動速度のほ かに、見かけの速度を決める量は何か。以下から最も適切なものを 選べ。 解説 ④ 問題文で説明されている、いわゆる「超光速運動」は放射源 の運動と幾何だけで決定し、観測手段や放射源内部の状態 には依存しない。 ①観測する波長 ②観測に使う望遠鏡の口径 ③放射源の温度 ④放射源の進行方向 2 重力波観測では解明できないものを選べ。 ③ 重力波とは、時空の歪みが波として光速で伝わっていく現象 である。光速で伝播するので、ブラックホール内部から外部 へ情報伝達することはできない。重力波はアインシュタインの 一般相対論の研究において理論的に予言されていたが、 2016年の2月に米国の観測チームによって検出されたと報道 された。このことは、一般相対論が強重力環境においても成 立していることを意味する。今回検出された重力波は、2つの ブラックホールの合体に伴い放出されたものだったが、その 波形の時間変動の様子より、ブラックホール近傍の強重力場 について知ることができる。重力波には物質中を減衰するこ となく伝搬する性質があるが、今後の重力波研究において は、宇宙誕生“直後”に発生した重力波も観測されると期待さ れている。宇宙マイクロ波背景放射がビックバンの約40万年 後の「宇宙の晴れ上がり」の時期の情報をもたらすのに比べ て、宇宙のより原始的な時期の情報が得られることになる。 ①アインシュタインの一般相対論の検証 ②非常に強い重力場での天体物理現象の観測 ③ブラックホール内部状態の観測 ④宇宙重力波背景放射の検出 3 民間のスペースX社がファルコン9ロケットで打ち上げる宇宙船の名 前はどれか。 ①セイレーン ②ウンディーネ ③ドラゴン ④リヴァイアサン 4 惑星磁気圏について述べた以下の文のうち、誤っているものを選 べ。 ①金星磁場は、強度は地球と同程度であり、形状もほぼ双極磁場 であるが、N極とS極は逆である ②磁気圏は、木星・土星・天王星・海王星にも存在する ③水星には磁気圏が存在するものの、電離層は形成されていない ④火星は固有の磁場をもたないか、もっていても極めて小さい 5 重力レンズの重力源はレンズ天体と呼ばれる。重力レンズについて 述べた次の文のうち、正しいものを選べ。ただし、レンズ天体は点源 であるとする。 ①遠方天体の像の個数は3つまたは5つである。個数は遠方天体と レンズ天体の配置に依存する ②遠方天体の像の明るさは、レンズ天体がない場合と比べて明るく なる ③遠方天体からの光線の屈折角は、波長が短いほど大きくなり色 収差が見られる ④遠方天体の色は、レンズ天体がない場合の色と比べて赤みが かって観測される 1 ③ セイレーンはギリシア神話に出てくる海の怪物、ウンディーネ は水の精霊、リヴァイアサンは海の怪物で、ドラゴンと同様、 ファンタジーやRPG(ロールプレイングゲーム)ではよく出てく るモンスター。 ① 金星は固有の磁場をもたないか、もっていても極めて小さ い。このことは、1974年のマリナー10号によって確認された。 水星は弱いながらも磁化しており、磁気圏がある。ただし、大 気がないため電離層は形成されない。火星は現在では磁場 が存在していないが、永久磁石化した岩脈が見つかってお り、かつては磁場が存在したとされている。4つの巨大惑星 は、いずれも地球よりもかなり強い磁場をもつことがボイ ジャー2号などによって確認されている。 ② レンズ天体が点状の場合、レンズ像の個数は2つである(レ ンズ天体が点状でなく広がりをもつ場合には、レンズ天体の 内部を通過してくる光線も存在し得て、像の数は3つあるいは それ以上になることもある)。遠方天体の見かけの明るさは、 重力レンズが光線を集める作用があるため、2つの像の明る さの和としては、元の光源の明るさよりも大きくなる。重力レ ンズの効果は、時空の歪みに原因があり電磁波の性質(光 の波長)には依存しない。遠方天体からの光線は、重力場が 強い時空中を通過するので一般相対論の効果を受ける。た だし、そのスペクトルについては、レンズ天体がある場合とな い場合で差は生じない(遠方天体からレンズに至るまでの間 は重力青方偏移を受けるが、レンズ天体から我々に至るま での間は重力赤方偏移を受けることになる。これらの効果は 相殺され、レンズ天体がない場合とおなじスペクトルを示すこ とになる)。 第6回天文宇宙検定1級問題・解答 No. 問題 正答 解説 6 1932年、宇宙からの電波を初めて受信したのはカール・ジャンス ① グロート・リーバーは、1937年に自宅の裏庭に自作の電波望 キーであるが、それは20MHzという周波数であった。これに刺激を受 遠鏡を設置し、初めて電波による観測を行った。 けたグロート・リーバーは、まず3300MHzという周波数での検出を試 リーバーは、恒星のような数千度以上の天体の場合、熱放 みた。彼はなぜ、これほど大きな周波数を選んだのだろうか。 射による電波は大きな周波数(短い波長)ほど強いと考え、 まず3300MHzの周波数で観測を行った。しかし、電波を受信 できなかったので、周波数を低くしていき、160MHzまで下げ ①熱による放射では電波の範囲では周波数が大きいほど強いから ることによって銀河系からの電波をとらえることができ、銀河 ②電波の中では地球大気はこの周波数で特に透明だから 面の電波地図の作成を行っている。 ③水素原子からの輝線がこの周波数付近で予言されていたから ④周波数が小さくなると分解能の点で、望遠鏡の直径が巨大になり すぎるから 7 変光星の種類のなかには、2つのものが同じ天体で観測されること もある。以下の組み合わせのうち、同じ天体で観測される可能性が ない組み合わせはどれか。 ①新星と矮新星 ②食変光星と矮新星 ③セファイドと食変光星 ④セファイドと超新星 ④ 新星と矮新星は共に激変星の一種で、白色矮星と通常の恒 星からなる連星である。降着円盤に起因する矮新星アウト バーストと、白色矮星への質量降着に起因する新星爆発は 同じ天体で観測される可能性があり、実際にぺルセウス座 GKなどの例がある。また、矮新星は連星であるため、伴星に よる白色矮星もしくは降着円盤の食が観測されることもある。 食変光星は連星の幾何学的な効果であり、連星を構成する 恒星の種類には制限が弱い。実際にセファイドを含む食連星 も見つかっている。超新星は大質量星の重力崩壊か、臨界 質量に達した白色矮星の爆発だと考えられており、セファイド が超新星爆発することはない。 8 地球軌道上を公転するマイクロメートルサイズの宇宙塵(ダスト) ② 重力が4/5に減少するということは、万有引力定数が実効的 は、太陽からの輻射を受け、太陽から受ける重力がおおよそ4/5に に4/5になると考えればよい。 減少する。このダストの公転周期は何カ月か。最も近いものを選べ。 つまり、G eff=(4/5)G である。このとき、ケプラーの第三法則 より ①5カ月 P 2=(4π2/G eff/M )×a 3 ②13カ月 =(G /G eff)×[(4π2/G /M )×a 3] ③21カ月 ここで、a =1au、M =1M ☉、G =普通の万有引力定数のと ④29カ月 き、右辺の[ ]は当然1[yr]を与えるので P =(G /G eff)1/2 =(5/4)1/2=1.12 [yr]=13.4カ月 9 2016年2月、アメリカのLIGO(ライゴ)グループが、重力波の直接検 出に初めて成功したと発表し、大きく報道された。初検出のイベント はGW150914と名付けられ、このときの重力波源は、太陽質量の36 倍と29倍のブラックホールが合体して生じたものだ、とされている。 合体後のブラックホールの質量はどうなっていると考えられるか。 ④ 重力波の放出によってエネルギーを失うため、太陽質量の65 倍より小さくなる。GW150914では合体後のブラックホールの 質量は太陽質量の62倍と見積もられ、太陽質量の3倍ものエ ネルギーが重力波放出によって宇宙に飛び出した、とされ る。このエネルギーの見積もりと、実際に観測された重力波 の振幅から、波源までの距離が13億光年と推定された。ブ ラックホールの表面積は、質量の2乗によって決まるので、合 ①質量保存則により、合体前の2つのブラックホールの和として、太 体前の質量の2乗和と合体後の質量の2乗を比較すると、表 陽質量の65倍 面積増大則と矛盾していないこともわかる。 ②合体後に周囲の物質をさらに引き込むので、太陽質量の65倍より 大きい ③ブラックホールの表面積増大則により、太陽質量の65倍より大き い ④重力波の放出によって、太陽質量の65倍より小さい 10 活動銀河について述べた次の文のうち、正しいものを選べ。 ①中心核の光度が通常の銀河に比べて100倍から1万倍も明るい ②電波帯では弱いものの、X線帯では強力なベキ乗型スペクトルの 放射を示す ③超光速の宇宙ジェット現象を伴う ④数ミリ秒~数分のタイムスケールで激しく変光する 2 ① 活動銀河核からの膨大なエネルギー放射は、電波からX線 にいたる幅広い波長帯でみられる。その放射は数十日から 数百日のタイムスケールで時間変動する。膨大なエネルギー 放射を可能とするためには膨大な量の物質(質量)が関与し ていると思われるが、時間変動が(それらの物質が収まって いると思われる空間サイズにしては)極めて短いため、活動 的な領域のサイズは極めて小さい(コンパクト)であるとわか る。巨大ブラックホールの存在が示唆される所以である。活 動銀河核からの宇宙ジェットはしばしば観測されるが、超光 速現象(宇宙ジェットの速さが見かけ上、光速度を超えて観 測されることがある)が観測されるのは「ある条件が満たされ ている場合」である。宇宙ジェットそのものは、光速を超える ことはない。 第6回天文宇宙検定1級問題・解答 No. 問題 正答 11 水素の核融合反応により恒星中心部にヘリウムが増えてくると、水 素の核融合反応は中心付近のヘリウム核を取り囲む殻状の領域に 移り、赤色巨星へと進化する。このことに関連した次の文のうち、 誤っているものを選べ。 ①中心領域のヘリウム核は自己重力によってゆっくりと収縮していく ②生成されるエネルギー量が増大するため、表面温度は高温にな る ③大質量の星の場合は、光度をあまり変えないまま赤色化していく ④外層のガスは大きく膨張し、星の半径は太陽半径の100倍から 1000倍にもなる 12 直径20kmの円筒型スペースコロニー内部に自転によって1G(= 9.8m/s2)の擬似重力加速度を生じさせるためには、1回の自転にか かる時間をどのくらいにすればよいか。最も近い数値を選べ。 ①1分 ②3分 ③10分 ④30分 13 熱放射とは著しく異なった放射機構としてメーザー放射がある。星間 空間においては、すでにいくつかの分子からのメーザーが検出され ている。誤っている記述はどれか。 ①最初に発見されたのはOHメーザーである ②メーザーはレーザーと同じ原理で放射される ③メーザーは主に主系列星の近辺の空間から放射される ④VLBIによる観測はメーザーの研究に有効である 解説 ② 水素の核融合反応により生成されたヘリウムは星の中心領 域に溜まっていくが、ヘリウム核内部では核エネルギーが発 生しないので、自己重力が勝りゆっくりと収縮していく。すると 内部での圧力勾配を調整するようにヘリウム核を取り巻く水 素の層は大きく膨張する。膨張によりガスの温度は低下して 赤色で輝くようになる。太陽程度の質量の星の場合だと、こ のような変化に際して光度が増大するが、大質量の星の場 合にはほとんど変わらない。中心のヘリウム核の収縮が進 むと、やがてヘリウムが核融合反応を起こすようになる。 ② 角速度をωとすると、重力加速度=遠心力(半径× ω2)なので、具体的な数値で概算すると、10(m/s2)= 10000m×ω2を計算して、ω=0.03rad/sとなる。したがって、 2π=6.28radの回転に要する時間は6.28/0.03=210s=3.5 分である。オニールによる円筒型スペースコロニー島3号は 直径6.5kmほどなので回転周期は2分程度(アニメの「機動戦 士ガンダム」はこれをモデルにしているので同様)。直径20km はクラークの小説『宇宙のランデブー』に出てくるラーマのサ イズ。 ③ 光のレーザー放射と同じ原理に基づいて電波(マイクロ波)で 放射されるメーザー放射は1965年に星間分子(水酸基 OH) で発見された。次いでH2O、SiOなどの分子においても見つ かっている。いずれも主に若い星や老齢な星の近傍で観測さ れており、高い角分解能が達成できるVLBIの格好の対象で ある。 ④ 星の光度L は、おおよそμ4M 3に比例する。ここでμは平均 分子量、M は質量。星が進化すると、質量放出でM は僅かず つ減少するが、核融合反応でヘリウムの割合が増加するた め、平均分子量が上がる。その結果、星の光度が増加する。 昔の太陽では平均分子量が小さかったため、光度が小さ かったと考えられている。ZAMS(zero age main sequence ; ゼロ歳主系列星、つまり生まれたての主系列星)以後は、質 量放出によって太陽の質量は減少していく。よって①は不正 解。赤色巨星段階に入るまで、半径に大きな変動はない。 よって②は不正解。太陽の質量損失率と光度の間に直接的 なつながりはない。加えて、40億年前の太陽の質量損失率 は、現在よりも大きかったことが、他の若い太陽型星の観測 から示唆されている。よって③は不正解。 14 恒星の進化理論から、40億年前の太陽は、現在よりも30%ほど暗 かったと考えられている。その要因として最も適切なものを選べ。 ①太陽の質量が現在よりも小さかったため ②太陽の半径が現在よりも小さかったため ③太陽の質量損失率が現在よりも小さかったため ④太陽の平均分子量が現在よりも小さかったため 15 写真は国際宇宙ステーションへ物資を補給する宇宙ステーション補 給機だが、どこの国の何という名前の補給機か。 ①日本の「こうのとり」 ②アメリカの「シグナス」 ③フランスの「ナポレオン」 ④ロシアの「プログレス」 ©JAXA/NASA 3 ① 国際宇宙ステーション計画(ISS)は15カ国が協力する国際プ ロジェクトで、水、食料、衣料などの生活物資や、実験装置、 実験用サンプルなどの研究用資材、そして、バッテリのように 定期的に交換が必要な機器など補給する必要がある。これ らISS運用に必要な物資の輸送は、ISS計画の参加各国が分 担して行っている。日本は、H-ⅡBロケットで打ち上げる宇宙 ステーション補給機「こうのとり」(HTV:H-Ⅱ Transfer Vehicle)を開発・運用している。 第6回天文宇宙検定1級問題・解答 No. 問題 正答 16 超新星残骸は、時間経過に伴い膨張の仕方が変化していく。次のう ち、正しい順序に並べられているものを選べ。 ①超新星爆発→断熱膨張期→輻射冷却期→自由膨張期→晩期 ②超新星爆発→自由膨張期→輻射冷却期→断熱膨張期→晩期 ③超新星爆発→輻射冷却期→自由膨張期→断熱膨張期→晩期 ④超新星爆発→自由膨張期→断熱膨張期→輻射冷却期→晩期 17 「逆コンプトン散乱」とはどのような放射機構か。次のうち、正しいも のを選べ。 ①非常に高いエネルギーの電子がエネルギーの低い光子に衝突し て、光子を高エネルギー状態に叩き上げる機構 ②非常に高いエネルギーの光子がエネルギーの低い電子に衝突し て、光子が低エネルギー状態になる機構 ③原子内に束縛された電子が、外部との相互作用によって別のエ ネルギー準位に遷移する際に、光子を吸収したり放出したりする機 構 ④光学的に薄いガスにおいて自由に運動していた電子が原子核の 近傍で軌道を曲げられる際に光子を放出する機構 18 英語で曜日を表すSunday、Monday、Saturdayはそれぞれ太陽、月、 土星にちなんでいるが、それ以外の曜日は何にちなんで付けられて いるか。 ①北欧神話の神々の名前 ②古代ギリシャ神話の神々の名前 ③キリスト教にゆかりのある人物の名前 ④番号を表すギリシャ語にちなんだ名前 解説 ④ 超新星爆発によって吹き飛ばされた星外層のガスは、爆発 前に先立って放出されていた星周ガスや星間ガスとも混じり 合って膨張していく。爆発直後の自由膨張期には、ガスには 勢いがあって(ガスの運動量は大きく)減速をさほど受けるこ となく自由に膨張する。やがて周囲のガスから減速を受ける ようになるが、衝撃波内外の熱の出入りはなく断熱的に膨張 する断熱膨張期に入る。後期に近づくとガスの放射冷却が効 き始め、衝撃波面内のガスのエネルギーは逃げ出すように なり、やがて衝撃波面の形状も球殻状の形状から崩れてフィ ラメント状になる。 ① ②はコンプトン散乱である。③は束縛-束縛遷移であり線ス ペクトルを示す。④は、熱制動放射である。①は、コンプトン 散乱(②)の逆過程であり、逆コンプトン散乱と呼ばれる。 逆コンプトン散乱では、赤外線や可視光の光子が、高いエネ ルギー状態に叩き上げられてX線などの光子になる。ブラック ホール周辺など高エネルギー現象では重要な過程である。 ① 英語の火曜日から金曜日は北欧神話の神々にちなんだ名前 である。火曜日の“Tuesday”は軍神ティル (チュール) の日、 水曜日の“Wednesday”は主神オーディンの日 (“Odin”が “Woden”または“Wenden”に変化)、木曜日の“Thursday”は 雷神トールの日、そして金曜日の“Friday”は愛と美の女神と されるフレイア(フレイヤ)の日である。 Ref.作花一志『天変の解読者たち』恒星社厚生閣(2013)、 P138~140 19 星誕生の過程は、さまざまな波長帯での観測で明らかにされてき た。「分子雲」「原始惑星系円盤」「Tタウリ型星」は、それぞれどの波 長で最も明るく輝くか。その組み合わせとして最も適当なものを選 べ。ただし、これらの天体は主として黒体放射で輝いているとする。 ①分子雲:電波 原始惑星系円盤:可視光線-近赤外線 Tタウリ型星:赤外線 ②分子雲:赤外線 原始惑星系円盤:可視光線-近赤外線 Tタウリ型星:電波 ③分子雲:電波 原始惑星系円盤:赤外線 Tタウリ型星:可視光線-近赤外線 ④分子雲:赤外線 原始惑星系円盤:電波 Tタウリ型星:可視光線-近赤外線 4 ③ 分子雲の温度は~10K、原始惑星系円盤は~300K、Tタウリ 型星~4000Kである。黒体放射が最大となる波長は、それぞ れ 0.290mm(電波)、9.67μm(赤外線)、725nm (可視光線- 近赤外線)である。 第6回天文宇宙検定1級問題・解答 No. 問題 正答 解説 20 スーパーカミオカンデにおいて、ニュートリノが中性子に衝突した際 の電子、または反ニュートリノが陽子に衝突した際の陽電子によっ て放出される青いチェレンコフ光を光電子増倍管で捉えることで、 ニュートリノ観測が行われている。このときのチェレンコフ光の放射 の様子を最もよく表しているものを次の模式図から選べ。 ② チェレンコフ光は水中での光の速度c が荷電粒子の速度v よ り遅い場合(c <v )に放出される。このとき、電場は荷電粒子 の後方のみに存在し、半径ct の球形状の電場が重なりあう ことによって<型の電場の波面が形成される。この<の上側 の/と下側の\の波面が伝播することによって、チェレンコフ 光は円錐状に放出される。これは、水面上で波の速度よりも 船の速度の方が大きいときに<の字型の波が生じるのに似 ている。 21 2016年は、シュバルツシルトがブラックホール解を発見してから、 ちょうど100年になる。シュバルツシルト解はアインシュタイン方程式 の数学的な解として発見されたものだが、ブラックホールが実際の 天体として直接確認されたのは、次のどの時点か。 ④ 重力波の波形から、ブラックホールの存在が直接確認され た。①と③もブラックホール候補天体であるが、①は伴星の ガス降着からの間接的な確認、③も周囲の天体の動きから の間接的な確認である。②は中性子星の発見である。 ブラックホールの合体によって生じた強重力場の非線形現象 として、重力波の波形が解釈できることから、今回の重力波 イベントは、ブラックホール時空構造の直接検出と考えてよ い。 ①1962年、はくちょう座にある強力なX線源X-1の発見 ②1967年、パルサーPSR B1919+21の発見 ③1974年、いて座にある強力な電波源A*の発見 ④2015年、重力波イベントGW150914の検出 22 すばる望遠鏡などで採用されている「補償光学」の役割として正しい ものを選べ。 ①大気の散乱による星像位置のずれを補正する ②大気の分散による電磁波の波長の乱れを補正する ③大気のゆらぎによる電磁波の波面の乱れを補正する ④大気の吸収による電磁波の強度減少を補正する 23 原子核の周りの電子の状態変化について、特定の波長の光子が吸 収または放出されるのは、どのような遷移あるいは状態か。 ①束縛-束縛遷移 ②束縛-自由遷移 ③自由-自由遷移 ④基底状態 5 ③ 天体からくる電磁波は、大気のゆらぎにより波面が乱され、 ぼやけた像として観測される。補償光学は、可変鏡を用いて 波面を元に戻し、望遠鏡本来の解像度を達成するために使 用される。 ① ①原子に結合している電子は、とびとびで離散的なエネル ギー準位をとる。ある状態のエネルギー準位から別の状態 のエネルギー準位に遷移する際には、そのエネルギー差に 相当する特定の波長の光子を吸収または放出する。 ②一方で、原子と結合していない電子(自由電子)が、原子 のあるエネルギー準位に遷移することも可能である。この場 合、自由電子は特定のエネルギーに限定されず任意の値を もちうるので、あるエネルギ準位への遷移に際しても特定の 波長の光子を放出することにはならない。あるエネルギー準 位にある電子が自由電子となる(電離する)場合についても 同様に、特定のエネルギーの光子を吸収するわけではない。 ③自由電子が別の状態の自由電子に遷移する場合も、その エネルギー差は任意であるので、特定の波長の光子の放 出・吸収とはならない。 ④基底状態とは、もっともエネルギーの低い電子の状態であ るが、この状態に留まるうちは光子を放出・吸収しない。 第6回天文宇宙検定1級問題・解答 No. 問題 正答 24 宇宙空間に到達するロケットの飛翔安定方法として不適切なものは どれか。 ①尾翼による空気力を利用した安定法 ②ガスジェットによる姿勢制御法 ③ノズルを動かすジンバル制御による安定法 ④磁石を用いた地磁気を利用する安定法 25 次の図の横軸は木星質量を単位とした系外惑星の質量だが、縦軸 は何を表しているか。 解説 ④ ロケットの打ち上げにおいて、小型の固体ロケットなどは尾 翼による空力による安定とスピンを用いた安定法を併用して いる。また大型の液体ロケットなどはガスジェットを噴射する ことによる姿勢制御とロケットのエンジンのノズルを動かすジ ンバル制御を行っている。磁石を用いた地磁気を利用する姿 勢安定法は姿勢制御に必要な力は非常に小さいため、主に 人工衛星の姿勢安定法に用いられている。 ④ 系外惑星の密度が一定だと仮定すると、半径は質量の1/3 乗に比例し、対数グラフでは1/3の傾きの直線となるが、図の 様子に合う。発見数は質量が大きいほど多いものの、はるか に個数は多いし、またこの図のような関係はない。密度は質 量が大きいほどむしろ小さくなる傾向にある。軌道長半径に はもっと大きなバラツキがある。 ①各質量での発見された系外惑星の個数 ②水を1とした系外惑星の密度 ③年で表した系外惑星の公転周期 ④木星半径を単位とした系外惑星の半径 26 褐色矮星の説明として誤っているものを選べ。 ② 水素の核融合反応が点火するための臨界温度は300万~ 400万度である。星の中心核がこの温度を超えるためには、 質量が太陽質量の8%以上でなければならない。褐色矮星 は太陽質量の8%以下の質量しかもたないため中心部で水 素の核融合反応が生じず、主にその収縮にともなう重力エネ ルギーの解放で輝いていると考えられている(ただし重水素 の核融合反応は起きている可能性がある)。 褐色矮星は主系列星と比べて温度が低い一方、その半径は 白色矮星と比べて大きいため(木星と同程度かそれ以上)、 白色矮星と同程度の明るさをもつ。よってHR図上では最も暗 い主系列星の右下に存在する。褐色矮星は暗いため観測が 十分進んでおらず、宇宙にどの程度の量が存在しているか わかっていない。その全質量が銀河や宇宙の進化を考える うえで無視できないものになる可能性もあるため、ダークマ ターの候補の一つに挙げられている。 褐色矮星が恒星より暗い一方、白色矮星と同程度の明るさ であることがわかっていれば②が誤りであることはわかるは ずである。 ①主に収縮に伴う重力エネルギー解放で輝いている ②HR図上では最も暗い主系列星の左下に存在する ③その質量は太陽質量の8%以下である ④ダークマターの候補の一つである 27 『明月記』の客星の記載を欧米の天文学者に紹介した人はだれか。 ①射場保昭 ②山本一清 ③野尻抱影 ④萩原雄祐 6 ① 神戸の貿易商でアマチュア天文家である射場保昭が、 「Popular Astronomy」(Vol.42 pp.243-251,1934)に寄稿した 記事による。 第6回天文宇宙検定1級問題・解答 No. 問題 正答 28 温度T で黒体放射をしている天体が赤方偏移をすると、見かけの 温度が変化する。赤方偏移をz 、観測される温度をT' としたとき、T とT' の関係を正しく表した式を選べ。 ①T' =T ×z ②T' =T /z ③T' =T ×(1+z ) ④T' =T /(1+z ) 解説 ④ 赤方偏移z は、天体が放つ電磁波の波長をλ、観測される波 長をλ'とすると、z =(λ'-λ)/λと定義される。一方、黒体 放射が赤方偏移をすると、波長が赤方偏移すると同時に、各 波長でのスペクトル強度も変化するので、結果的にはスペク トル全体が黒体放射となる。ウィーンの変位則より、ピーク波 長は黒体放射の温度に反比例(λ∝1/T )するため、z の定義 より④の関係式が導かれる。 29 Ⅰa型超新星の説明として正しいものを選べ。 ③ ①は重力崩壊型超新星の説明であり誤り。②も重力崩壊型 超新星の説明であり、しかも鉄コアの質量はおおよそ太陽質 量の1.5倍程度である。④はⅡ型超新星の説明であるため誤 ①太陽質量の8倍程度以上の恒星が進化し重力崩壊することで生じ り。 る 白色矮星(炭素と酸素からなる縮退星)の質量がチャンドラセ ②爆発直前の星の中心部には太陽質量の8倍程度の鉄のコアが存 カール限界(1.4M ☉:電子の縮退圧で支えられる臨界質量) 在する ③爆発後、その中心部には何も残らない を超え、爆発的な核融合反応を起こし、星全体が燃え尽きた ④そのスペクトルには顕著な水素の吸収線が見られる 結果生じるのがⅠa型超新星である。よって、爆発後には何 も残らない。チャンドラセカール限界まで白色矮星の質量が 増加する要因は、伴星からの質量降着や、白色矮星同士の 合体などが候補として考えられている。 白色矮星が崩壊する臨界質量は物理的に決まっているた め、Ⅰa型の爆発エネルギー・絶対等級はほぼ一定である。 この性質を利用して、Ⅰa型超新星の視等級から、その母銀 河までの距離を測定することができる。このようにⅠa型超新 星は、セファイド変光星と同様に、宇宙の標準光源としての 役割を果たしている。 30 木星探査機「ジュノー」の観測ターゲットの一つに、木星の固有磁場 がある。木星磁場の性質として誤っているものを選べ。 ①木星の磁場は地球の磁場の1万倍の強さをもつ ②木星の磁場は地球の磁場と同様、自転軸に対して傾いている ③木星の磁場に起因して木星でもオーロラが見られる ④木星の磁場は地球と同様、内部の液体鉄が運動することで生じ ている 31 次の3つの図(A、B、C)は、3つの散開星団の色等級図である。この 中で年齢の若い順に並べたものとして最も適当なものはどれか。 ①A-B-C ②A-C-B ③B-A-C ④B-C-A 7 ④ 2016年7月5日にNASAの木星探査機「ジュノー」が、打ち上げ から5年の歳月を経て、木星の周回軌道に入った。「ジュ ノー」の目的は、厚い大気に覆われた木星の内部構造とその 進化を明らかにすることである。 木星の磁場は液体鉄ではなく、金属水素の対流運動で維持 されていると考えられている。 ①10時間という非常に短い木星の自転周期が極めて強い磁 場の原因だと考えられている。 ②おおよそ10度の傾き(例えば地球も磁軸と自転軸の間に 約10度のずれが存在するが、土星は磁軸と自転軸のずれが ほとんどない)。 ③光速に近い速度の酸素や硫黄イオンが大気に衝突し、X 線波長域でオーロラが観測される。 ③ 星団の色等級図で、左上から右下にかけて帯状に並んでい る部分の恒星は主系列星である。質量の大きい(色指数の 小さい)星ほど寿命が短いため、主系列星の帯状の並びが、 左側から縦方向に折れ曲がっていく。したがってこの折れ曲 がりの点(転向点)の色指数が小さいほど若い星団となる。 転向点の色指数を見てみると、Aがおよそ0.0、Bがおよそ- 0.2、Cがおよそ0.4であるから、B、A、Cの順に若くなる。した がって③が正答となる。 第6回天文宇宙検定1級問題・解答 No. 問題 正答 32 質量M の天体の周りを質量m の小天体が、半径a の円軌道で運 動している。このときの質量m の小天体の全エネルギーはどう表さ れるか。ただし、G は重力定数である。 ①-GmM /2a ②-GmM /a ③-3GmM /2a ④-2GmM /a 33 最も比推力の高い推進機はどれか。 解説 ① 円運動の速度をv とすると、重力と遠心力がつり合うことか ら、GmM /a 2=mv 2/a 。これから、v 2=GM /a を得る。した がって全エネルギーE は運動エネルギーmv 2/2と位置エネル ギー-GmM /a の和で与えられるので、 E =mv 2/2-GmM /a =GmM /2a-GmM /a =-GmM /2a となり、①が正答となる。 ④ 液体ロケットのような化学推進機は、大量の推進剤を噴出す るため推力は大きいが、燃焼ガスの平均分子量とガス温度 が低いため、数百秒程度の比推力である。一方で、②~④ の推進機は電気推進に分類され、電気エネルギーを用いて 推進剤をプラズマ化する。プラズマとなった推進剤は、密度 は低いが非常に温度が高いため、化学推進と比較して比推 力が高い。その中でもXe(キセノン)を推進剤とするイオン推 進機は、その原理からプラズマ化されたイオンの加速効率が ほぼ100%であるため、推進剤としてヒドラジンやテフロンを用 いるアークジェット推進機やパルスプラズマ推進機よりも、高 い比推力を獲得できる。 ①液体ロケット推進機 ②直流アークジェット推進機 ③パルスプラズマ推進機 ④イオン推進機 34 国友一貫斎が行わなかったことはどれか。 ① 天体観測をした望遠鏡は反射望遠鏡である。他にも種々の 実用具を製作している。 ①屈折望遠鏡の製作 ②反射望遠鏡の製作 ③太陽黒点の観察 ④筆ペンの製作 35 星の原材料は星間物質であり、その密度が高くなった領域で星は形 ③ HⅠ領域は、温度が1万K前後の中性水素ガスの領域であ 成される。星間ガスの諸相を温度の高い順に並べたときに、正しい る。星間雲は、温度が100Kほどでやや密度が上昇したHⅠガ ものを選べ。 スからなる。密度が高く温度が10K程度の極低温の領域が分 子雲と呼ばれており、分子雲中のガスが集積し密度と温度が 上昇した分子雲コアの領域が星へと進化する。 ①HⅠ領域>星間雲>分子雲>分子雲コア ②星間雲>HⅠ領域>分子雲>分子雲コア ③HⅠ領域>星間雲>分子雲コア>分子雲 ④星間雲>HⅠ領域>分子雲コア>分子雲 36 銀河座標での天体の位置を( l ,b )、距離をr とする。太陽を原点、 銀河中心方向をx 軸、銀河面をx-y 平面、銀河北極方向をz 軸とす る直交座標系(x ,y ,z )でのこの天体の(x ,y ,z )座標として正しい ものはどれか。 ①(r ②(r ③(r ④(r ④ 銀河座標の定義から、x 座標は、距離r をcos b で投影したも のをさらにcos l で投影する。y 座標は、距離r をcos b で投影 したものをさらにsin l で投影する。z 座標は距離r をsin b で投 影する。そのため、④が正答となる。 sin b sin l ,r sin b cos l ,r cos b ) sin b cos l ,r sin b sin l ,r cos b ) cos b sin l ,r cos b cos l ,r sin b ) cos b cos l ,r cos b sin l ,r sin b ) 37 日の出前にオリオン座と金星が見えている。同じ地点で同じ日時に 同じ星空が見えるのは何年後か。 ①1年後 ②8年後 ③12年後 ④29年後 8 ② 金星の公転周期は0.615年である。この値に近い最も簡単な 既約分数は8/13である。それは地球が8回公転する間に金 星が13回公転するということである。したがって8年後に同じ 星空が見える。 第6回天文宇宙検定1級問題・解答 No. 問題 正答 38 縦軸に絶対等級M を、横軸に色指数B -V をとって作成したHR図 上に、星の半径が太陽の半径の100倍(R =100R ☉)の半径一定の 線を描いた場合、太陽の半径と同じ(R =R ☉)半径一定の線とどの ような関係になるか。 ①R =R ☉の線を、10等級暗い方に平行移動させた線 ②R =R ☉の線を、5等級暗い方に平行移動させた線 ③R =R ☉の線を、5等級明るい方に平行移動させた線 ④R =R ☉の線を、10等級明るい方に平行移動させた線 39 アポロ計画で宇宙船に積み込まれたコンピュータのメモリは4KB程 度のものであった。これについて述べた文で適切でないものはいく つか。 ・ 月は非常に近いので、最近の「はやぶさ」や「あかつき」などと異な り、自分で考える必要がなかった ・データを受信できればよいだけなので、その大きさで十分であった ・そもそも「枯れたコンピュータ技術」という考え方にもとづいていた 解説 ④ 星の光度L は、星の半径R と表面温度T を用いると、 L /L ☉=(R /R ☉)2(T /T ☉)4 で与えられる。星の表面温度が等しい場合、色指数B -V も 等しくなる。そのため、同じ色指数の星の場合、光度は星の 半径だけで決まり、半径が太陽半径の100倍の星の光度は 太陽半径の星の光度の1万倍になる。絶対等級は光度が100 倍明るいと5等級、1万倍明るいと10等級明るくなる。このこと はどの色指数でもいえるので、正答は④になる。 ④ 地球から月までは電波で1秒強の距離であるから、何か起き た場合は地上との交信でも十分間に合った。アポロ計画の 時代、計算は地上の大型コンピュータでなされており、本船 ではその結果のデータを受信できればよく、自ら大量の計算 をこなす必要はなかった。宇宙空間でコンピュータが故障し てしまうと大変困るので、わざと「古くて」「使い込まれていて」 「動作が十分確認されている」システムを利用していた。この 方針で故障を避ける考え方を「枯れたコンピュータ技術」とい う。 ①3つ ②2つ ③1つ ④0 40 次の図は系外惑星の観測データを集約したもので、軌道長半径を 横軸に、惑星の質量を縦軸にとったものである。丸で囲まれたグ ループがホットジュピターに対応している図はどれか。 9 ② ホットジュピターは木星級の巨大ガス惑星が中心恒星の至 近を周回しているものを指す。したがって質量が大きく(縦軸 の上側)、軌道長半径が小さい(横軸の左側)、という条件に 該当するのは②である。なお、①は地球型惑星(スーパー アースなど)、③は海王星型惑星、④は木星型惑星、に対応 する。
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