全体共有がうまく 進まないときの対処法

教育スタッフ P L A Z A
1 年間にわたる連載もいよいよ最終回となりまし
た。今回は、起こりがちな場面・状況別の対処方法と
して、
「全体共有がうまく進まないときの対処法」を
取り上げます。
一般的にグループディスカッションは、
「①指示出
し→②グループ討議→③全体共有→④まとめ」が基本
的な流れとなりますが、このうち「③全体共有」につ
いては次のようなケースが起こりがちです。
。
(1)そもそも参加者の手があがらない(意見が出ない)
(2)意見は出るものの、同じ人ばかりが手をあげる。
(3)意見は発表されたものの、思ったよりも全体共
有が深まらない。
1つ目の【そもそも参加者の手があがらない(意見
が出ない)
】については、
クラス全体に投げかける「全
体質問」だと、参加者は正解を気にしたり周囲の反応
をうかがったりして発言に躊躇しがちです。よって、
本連載第6回「矢印の向きを変える」
(2016 年1月
号)でも触れたように、
「グループ質問」や「個人指名」
を取り入れて、参加者の発言を後押しすることが最短
の対処法です。
2つ目の【意見は出るものの、同じ人ばかりが手を
Sec.3
起こりがちな場面・状況別の対処方法
第
12 回 (最終回)
全体共有がうまく
進まないときの対処法
ラーニング・クリエイト 代表取締役
鈴木英智佳
あげる】については、
「毎回発表者を変えてください」
、
「まだ発言していない人は積極的にしてください」な
どと講師から促すとよいでしょう。より参加者主体で
進行するには、発表した受講生に次の発表者を指名し
てもらうリレー方式も有効です。
全体共有をいかに深めるか?
講師としてとくに悩ましいのが、3つ目の【意見は
発表されたものの、思ったよりも全体共有が深まらな
い】ケースです。具体的には、次のような状況が考え
すずき ひでちか
1997 年慶應義塾大学卒。花王株式会社
に て 人 事 部 門 に 在 籍 後、 教 育 研 修 ベ ン
チャーに転職。100 名を超える契約講師
の採用・育成に携わる。2011 年に株式
会社ラーニング・クリエイト設立。
“参加
者の学ぶ意欲を刺激する”教え方を体系
化し、内製化を支援する「社内講師養成
コンサルタント」として活動している。
られます。
・‌たくさん意見が出すぎて、講師としてさばききれな
い(ホワイトボードに板書しきれない)
・表層的な発言が多く、議論をうまく深められない
・‌発表者と講師だけのやり取りになっていて、ほかの
人が参加できていない
全体共有時に参加者が発表したものを講師だけが受
け止めようとすると、どうしても上記のような状況に
62
企業と人材 2016年7月号
教育スタッフ
PL A ZA
図表1 全体共有の2つの状態
〈A〉
図表2 「取材方式」の進め方
〈B〉
講師
発表者
:留守番役
:取材役
陥って講師の負担が大きくなるだけでなく、場の雰囲
の人にも報告義務が発生するため、全員が能動的にな
気も停滞します(図表1- A)。そうではなく、参加者
らざるを得ません。2つ目の利点は、全グループの意
同士が積極的に意見交換をして、講師はそれを傍から
見が偏りなくクラス全体で共有される点です。一般的
見守るくらいが理想の状態です(図表1- B)。そこで、
に行われる全体発表だと、時間の関係もあって表出さ
参加者主体の場でありながら講師もリラックスでき
れる意見はごく一部となりがちです。この点、取材方
る、そんな一石二鳥の方法をご紹介します。
式では、短時間で効率よくクラス全体の意見が織りま
それが「取材方式」と私が呼んでいるものです
ぜられることになります。講師としても明確な指示と
(図表2)
。ここでは説明をわかりやすくするために、
時間管理だけ行えばよいので、精神的に楽であるとい
5人×5グループの研修という前提で進め方を紹介
うのも見逃せない利点の1つです。
します。
まず、
各グループで1人ずつ
「留守番役」
(☆印)
話し合いのまとめとしては、各グループからもち帰
を決めてもらいます。そして、
残りの4人は「取材役」
った意見を共有したうえで、全体をとおして感じたこ
(●印)として、自分のグループ以外の4グループに
とや、グループで話し合って出てきた意見を、数名の
1人ずつ移動してもらいます。まずはだれがどこに行
人に発表してもらえば十分でしょう。
くのか、役割分担を1分程度で決めてもらい、役割分
忙しい日常業務を脇に置いて、長時間拘束されるこ
担が決まったら、実際に各グループにいっせいに移動
とも多い集合研修は、参加者から煙たがられる存在と
してもらいます。留守番役となった人は、他グループ
なることも多いかと思います。しかし、さまざまな意
から集まってきた取材役に対して、自グループで話し
見やアイデア、感情が共有されて、日常の問題や葛藤
合われた内容を説明し、取材役は文字どおり、取材者
に対する解決策を見い出すことができる研修の場は、
としてしっかりメモを取ります。一定時間が経過した
ゆとりのないなかで成果が求められる今日のビジネス
ら、取材役は自グループに戻って、ヒアリングしてき
シーンにおいて、これからさらにその重要性を増すの
た情報をメンバーに共有します。きちんと情報共有が
ではないでしょうか。
できるようにするために重要なのは、あらかじめ取材
連載の初回にも書きましたが、研修講師は、もって
役に対して、聞いてきた情報をあとで報告する義務が
生まれた特別な才能・資質が求められるものではなく、
あると伝えておくことです。
拠りどころとなる考え方と具体的な手法さえあれば、だ
この取材方式には2つの利点があります。
1つ目は、
れにでも実践が可能な役割です。ここで紹介できたの
受講生が全員参加となる点です。代表者が発言してま
はごく一部のノウハウでしたが、本連載が社内講師の
わりの人はそれを聞くだけの通常の形だと、どうして
皆さん、そしてその先にいる参加者の皆さんの現場で
も聞き役は受け身になりがちです。この点、取材方式
の悩みを解消するための一助となれば幸いです。1年
では、留守番役には説明責任が発生しますし、取材役
間お付き合いいただき、ありがとうございました。
企業と人材 2016年7月号
63