ある夏の日 神宮藍 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ ある少年と少女の話。夏の終わりがテーマになってます。 目 次 ある夏の日 │││││││││││││││││││││││ 1 ある夏の日 ﹁おーい、待ってよー﹂ そう言って1人の男の子が駆ける。 ﹁君が遅いんでしょー﹂ その男子の目の先には純白のワンピース、つばの大きな麦わら帽子 といったシンプルな装いの女の子がいる。河川敷の草むらに腰掛け ている。ちゃっかりお尻の下にバッグを敷いている。 ﹁かなちゃんが早いんだよ、図書館を一緒に出ようと言ったのに﹂ ﹁私 の 帰 る 準 備 が 早 か っ た ん だ も の、そ れ に 君 だ っ た ら ち ゃ ー ん と 走って追いついて来るって分かってたもん﹂ 夏休みだってラ ﹁もう、そのせいで汗かいちゃったよ⋮⋮。玄関で待っててくれれば よかったのに﹂ ﹁普段インドアな君には丁度いい運動だったでしょ ﹂ ジオ体操と学校のプールと夏期講習以外は家に居たって聞いたわよ﹂ ﹁誰から を感じた。その表れとしてそばに転がっていた石を拾い上げて川に 向かって投げた。もちろん周りに誰も居ない事を確認してだ。 ポチャン。 石が入水した。 ﹁何でママはかなちゃんに何でも言うかなぁ⋮⋮﹂ 僕は2個目の石を手にしながらそう呟いた。 ﹁おばさまは君のことを心配して言ってくれているのよ。だって今日 の図書館だってほとんど外に出ない君を心配して私から君を誘うよ うに頼まれたんだもん。﹂ ﹁そんなことしなくたっていいじゃん⋮⋮勉強はしてるし、成績も良 い。この世は運動が出来なくたって、頭が良くてスピードが速ければ 生きて行けるんだよ。僕の楽しみはプログラミングとゲームだけで 十分。邪魔してほしくないよ。図書館でだって結局半分以上はかな 1 ? 僕は彼女には何でもペラペラと話す自分の母親に対して少し怒り ﹁貴方のママから﹂ !? ちゃんの宿題を僕が教えてたんじゃないか﹂ ﹂ ﹁あはは、いいじゃない。君は運動不足が解消できて、私は宿題が進 む、Win│Winでしょ 投げないの り落としていた。 ﹁あれ ﹂ 僕は彼女の強引な論理にげんなりして手にしていた石を手から滑 ﹁全然ウィンウィンじゃない⋮⋮﹂ ? まぁ、いいわ、私も石を投げよっかなー﹂ お日様も沈んじゃうよ﹂ ﹂ !? ? ﹁よーし、投げるよ ﹁アー、ハイハイ﹂ ﹂ 気の抜けた返事禁止 ! のサイドスローを降り抜く。 ぱしゃっ、ぱしゃっ、ぱしゃ⋮⋮ 石は3回水面を跳ね、沈んだ。 前は5回跳ねたのに ! がった。 彼女は今の記録がお気に召さなかったらしく、腕を振り回して悔し ﹁あーっっ、悔しい ﹂ 右腕を大きく引き、投げる体勢に入る。そして本人にとっては精一杯 多少拗ねた表情を作り、彼女は川と向かい合う。左足を持ち上げ、 ﹁もう ﹂ 得のいく石を見つけたらしく、立ち上がった。 僕はもう溜息をついて見守る。5分程経っただろうか。彼女は納 ﹁1回、1回投げるだけ、ねっ ﹁かなちゃん、そろそろ帰ろう 戻すと彼女が逆光で影絵のように動いて見えた。僕も河原に降りる。 きらと輝いていた。学校の帰り道で何回も見た光景だ。河原に目を 川は夕日の光を受けて何千何万と言うガラスを散らしたようにきら るようで平べったい石を探している。僕はふと川の方に目を向けた。 そう言うと彼女は河原で石を物色し始めた。どうやら水切りをす ﹁そう ﹁うん、君の主張に対してね⋮⋮言葉を失ってね﹂ ? ! ! 私はね、自分が出来たはずの事ができないのは悔しいの ﹁いいじゃん、3回。僕は石を投げても2回が限界なんだから。﹂ ﹁よくない ! 2 ? ? ! ﹂ ﹁水切りなんだからそりゃ失敗することもあるって⋮⋮それにそんな それに⋮⋮ねっ、人には向き不向きがあるでしょ こと言うんだったら勉強でも頑張って欲しいんだけど。せめて宿題 は。﹂ ﹁それでもヤなの ﹂ ﹁あのさぁ⋮⋮﹂ 学生の│││ 鳴っちゃった、さ、帰ろ !! 下校を促す放送だ。 ﹁あ ﹂ お家に帰りましょう、繰り返します、只今夕方5時になりました、小 ││ヴーッ、ヴーッ、只今夕方5時になりました、小学生の皆さん、 い口を開いたその時。 か100点を結構取るのだ。ちょっと納得しがたく、追求しようと思 題を僕に甘え過ぎなのだ。それなのにいつもテストでは95点以上 僕は自分でも半目になったのが分かった。彼女は大体普段から宿 ! ﹂と急かす彼女に引っ張られ、家路についたのだった。 らを駆けあがる。僕は納得が行かなかったけど、仕方なく﹁早く く ﹁⋮⋮⋮ん、もう朝か⋮⋮なんでまた小学生の時の夢を⋮⋮﹂ 早 を流し込んで家を出る。時刻はAM6:47。いつもの会社に行く時 僕は急いでパンとスクランブルエッグと牛乳といった簡単な朝食 ﹁あ⋮⋮そうか、今日は⋮⋮﹂ らしく、眼鏡をかけてベッドから降りる。 小学生の夢を見ていた自分はそんな事を思った。頭が覚醒して来た の時だと夏休みの終わりを強烈に実感する前日だ。ついさっきまで ダーを見て予定を確認する。2032年8月31日火曜日。小学生 ベッドの中で伸びをすると上半身を起こし、ベッドの脇のカレン まり、じっとりと濡れいていた。 僕は光目覚ましの強力な光を受けて目を瞬かせてた。額に汗が溜 ! 3 ! ? 彼女は助かったと言わんばかりの勢いで川べりで傾斜のある草む ! ! 間より早い。でもこの時間に出なくてはならなかったのだった。目 的地が遠くにあるからだ。電車を乗り継ぎ、タクシーに乗ってある場 所に向かう。そこはある意味、人の終着地とも言える場所だった。S 県H市東︵ひがし︶霊園。僕はその霊園の一角に2つの手桶を持って 立っていた。この間知ったのだが、水は2つ用意した方が良いのだそ うだ。1つは故人に捧げる水、1つは掃除用の水。 ﹁まったく、絶対来いってことで夢に出たのか、かなちゃん⋮⋮﹂ 僕はそんな事を言いながら墓石に水を掛けた。墓石には﹁由比家之 墓﹂とある。側面の最新の墓銘は﹃由比 奏恵︵ゆい・かなえ︶ 20 17年8月31日永眠 享年9歳﹄とある。 僕は墓石に手を置いた。そして線香を立て、手を合わせる。目を開 く と 墓 石 の 後 ろ か ら い た ず ら っ ぽ い 少 女 の 笑 顔 が 見 え た 気 が し た。 ビックリして墓の裏側に回るが、誰も居なかった。僕はがっかりした と同時に笑った。かなちゃんらしいと思ったからだ。あの少女が僕 4 の心が作り出した幻覚だったのか、本当に彼女の幽霊だったのかそれ はどうでも良かった。 僕は手桶を持って彼女の実家へ向かうべく歩き出した。顔を上げ ると夏らしい真っ青な空に真っ白な入道雲が沸き立っていた。蝉の 声も少なくなってきており、夏の終わりが近いことを告げている。彼 は気付いていなかったが、もしも霊感のある者が見たらびっくりした であろう。影の薄い大きなつばの麦わら帽子に白いワンピースと着 ﹂ た少女が肩車をして両手を振り上げていたのだから。 ﹁なんか肩が重いな⋮⋮気のせいか 終わる││。 じがして、この重さを味わっていたかったからだ。あぁ、今年も夏が 僕は疑問に思いながらも気にしない事にした。何故だか幸せな感 ?
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