必殺 × ポスドク - タテ書き小説ネット

必殺 × ポスドク
トクロンティヌス
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
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ポスドク
︻小説タイトル︼
必殺
︻Nコード︼
N3473CX
︻作者名︼
トクロンティヌス
︻あらすじ︼
午前零時の帳の向こう、教授への晴らせぬ恨み、晴らします︱
1
一. ある夏の日。首都圏大学の正門横の守衛室にて。︵前書き︶
ポスドクを追われたものたちと、追いやったものたちとの闘い
2
一. ある夏の日。首都圏大学の正門横の守衛室にて。
一. ある夏の日。首都圏大学の正門横の守衛室にて。
﹁堀くん、申し送り始まるよ﹂
白髪の先輩に促されて、堀は守衛室に併設されている休憩室から
出て、先輩の横に並ぶ。昨日の夜番と、自分たち朝番との確認事項
のやりとりである。もう一年も同じ光景が続いている。
﹁それでは、申し送り始めます。夜番さん、報告どうぞ﹂
朝番のリーダーが手慣れた感じで始める。
﹁昨日の夜は、2号館で11時以降の在室を確認しましたが、研究
室の教授の確認取れてます。あと、貸出鍵は体育館の明日まで貸出
を除いては、全部帰ってきてます。朝、いくつかすでに貸し出して
ますが﹂
﹁あ、そうそう﹂
いつも通りの報告を続けていた昨日の夜番のリーダーの顔が一瞬
だけ曇る。
﹁また、5号館の・・・ほら、例の教室。怒鳴り声で通報ありまし
て。念のため駆けつけたんですが・・・﹂
﹁ああ﹂と朝番の先輩も諦めたような顔で頷く。
﹁どうにかならないもんですかね。昨日は女の子でしたが、頬を腫
らせて、見てられないですよ﹂
しばらくして、﹁俺達ではどうにもねぇ﹂と暗い雰囲気のまま、
申し送りは終わる。しばらくして、夜番シフトの二人の警備員たち
はそのまま休憩室で着替えをして、帰宅していく。
3
﹁藤田さん、午前中の巡回行ってきます。その後、俺、そのまま西
門待機しますんで﹂
﹁ああ、お願い。西門暑いから熱中症気をつけてね﹂
首都圏大学は、人文系学部こそ規模が小さいものの、理学部や工
学部などの自然科学系の学部が有名で、特に工学部の建築学科の評
判が高い、国立の大学である。また、ここ数年で理学部や工学部の
生物学系の研究室から、相次いでNatureやScienceと
いった有名雑誌に論文が載り、政府からの外部資金も多く集まって
いて、今、注目の大学の一つになっている。唯一の欠点は、最寄り
に私鉄の駅があるものの、その最寄駅から山の上のキャンパスに向
かって、”登山”をしないといけないことくらいである。
そんな首都圏大学の警備員は、派遣会社の派遣社員か、大学が直
接雇用している時給制の非常勤職員で、そのほとんどが定年後の仕
事として働いている。堀のような30代の警備員は珍しいため、体
力のいる仕事や、空調設備のない西門守衛室の真夏や真冬の待機な
どを任させることが多かった。
定期巡回を終える頃には猛暑日の日差しが、エアコンのない西門
守衛室を容赦なく照らしている。藤田の言う通り、熱中症に気をつ
けなければならないが、案外、堀はこの西門待機が気に入っていた。
正門が一番大きな門なため、来訪者対応など暇にならなくていい
のだが、西門は西門で学生が多く住むアパート街への出口なため、
大学生や大学院生が様々な様子で往来する。その様子を、ぼーっと
眺めているのが堀にとって、結構、いい暇つぶしになっていたのだ
った。
入学式前後は黒かった大学生の頭も、今時期になると、すでに金
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髪や茶髪になっていたり、服装も凝ったものから、Tシャツ・短パ
ン姿の割合が増えたりと、変化があったり、8時間の勤務の中でほ
とんど何も特別なことの起こらない職場にとって、貴重な暇つぶし
時間である。
日もすっかり落ちて、西門の閉門時間になった頃、鍵をかける堀
の後ろからか細い声で﹁すいません﹂と聞こえた。振り返ると、背
の低い女学生がダンボールを抱えて立っている。
﹁すいません、西門、もうダメですか?﹂
いつもなら、このタイミングであれば﹁ああ、大丈夫ですよ﹂と
ただ鍵を開けるのだが、女学生が涙声で声をつまらせながらだった
せいで思わず、﹁どうしたんですか?﹂と問い返してしまう。聞か
れた女学生も一瞬びっくりした顔で、﹁えっ!?﹂というと、すぐ
に顔を伏せて、肩を震わせはじめてしまったのだった。堀は予想外
のことに﹁とりあえず、正門の方へ﹂と絞りだすのが精一杯であっ
た。
正門横の守衛室で少しだけ落ち着いた女学生は、理学部生物学科
の大学院修士課程1年生︵M1︶の福山と名乗った。ショートカッ
トの茶髪がゆるくカーブしていて、少し胸元がゆるく見えるTシャ
ツ︵と呼んでいいのかわからないが︶、ふわっとしたスカートにサ
ンダル、今どきの流行りはわからないにしても、堀にはそれなりに
垢抜けているようにも見えた。
﹁それで、何があったの?﹂
事情を聞いた藤田が心配そうに声をかける。福山は俯きながら、
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手に持った冷たいお茶の入ったグラスを見つめたままで、
﹁私、修士の学生なんですけど、修士から首都圏大学に来たんです。
研究者になりたくて﹂
﹁前の大学は広島の小さな大学だったので、あんまり研究とか深く
できなかったし、有名な雑誌に論文出してて、CRESTみたいな
大型の研究費もってる先生の教室で研究しようと思って、中村先生
の研究室に︱﹂
その名前を聞いた瞬間、堀も藤田もそろって﹁5号館の...﹂
と唸る。
﹁中村先生、知っているんですか?﹂
ええ、まぁと堀が当たり障りのないように返す。福山は﹁そうで
すよね、有名な先生ですから﹂とつぶやくと、残っていたお茶を飲
んで続ける。
﹁前の大学に居た頃に、中村先生の研究を論文で読んで、﹃ここで
研究したい﹄って思ったんです。それからすぐにメールを出して、
見学に来て、院試受けて・・・﹂
﹁合格してすごく嬉しかったんです。﹂
間と呼ぶには長い沈黙が続く。
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﹁・・・でも、私、才能なかったんですね。。どれだけ実験しても、
先生の予測しているような結果はでなくて。﹃そんな実験、修士な
ら当たり前にできるだろ!﹄とか、昨日の進捗報告会でも怒鳴られ
て、今日は頑張ろうと思ったんですけど。。。﹂
福山の目に涙が溢れる。
﹁先生は﹃もういい。別の研究室を探せ﹄って・・・﹂
その後、肩を震わせながら言葉にならない福山を、オロオロと藤田
がなだめていた。
ただ一人、堀だけは福山ごしに横暴な教授を見据えて、じっと眉間
に皺をよせているのだった。
︵続く︶
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n3473cx/
必殺 × ポスドク
2015年10月4日17時53分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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