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2016/08/30
志摩 力男 氏 相場展望レポート(2016
相場展望レポート(2016 年 9 月)
9 月相場展望
ドル円
ユーロドル
ユーロ円
豪ドル円
99.50 – 105.50
1.0900 – 1.1400
112.00 – 117.00
74.00 – 80.00
<8 月はヘリマネ期待後の膠着相場>
8 月の相場を一言で言うと「ヘリマネ期待剥落後の膠着相場」
。7 月 29 日(金)に行われた日銀
金融政策決定会合において、日銀は ETF 買い入れ額を従来の 3.3 兆円から 6 兆円へと増額し、同
時に米ドル資金供給枠を 120 億ドルから 240 億ドルへと増額しましたが、市場は「量・質・マイ
ナス金利深掘り」の 3 点セットを期待していたため、ドル円は 105 円前後から 103 円割れへと反
落、その後 100 円台前半での膠着相場に終止しましたが、日本株は ETF 増額による株価下支え
があったため日本株は 1 万 6 千円台の比較的高いレベルを保っての揉み合いとなりました。
今回の日銀の措置がマーケットに与えた最大の影響は、ドル円と日本株の連動性を断ち切ったこ
とでしょう。米ドル資金供給額を増額したことでドル円のベーシススワップが縮小、外国人から
見た日本国債の割安さがなくなり、それをきっかけに日本国債売り(金利は上昇)となり、日米
金利差縮小がドル円売り材料となりました。その一方、日本株は日銀の ETF 購入に堅調となった
ため、円高になっても株価は売られず、株高になっても円は安くならなくなりました。反対に、
ドル円相場は日米金利差に連動するようになりました。
バケーションシーズンという事もあったかもしれませんが、8 月後半はジャクソンホール待ちと
なり、ドル円は 100-101 円をただ往復するのみとなりました。アベノミクスが失速し、日米金
利差が日本株との連動性に取って代わったので、どうしても米金融政策に注目せざるを得ない状
況になったと言えます。
<ジャクソンホールが転換点となるか>
イエレン議長講演は「利上げの根拠、この数ヶ月で強まった」と、ややタカ派的な内容。これま
で、ややタカ派的な発言をしてきた、フィッシャー副議長、ダドリーNY 連銀総裁と歩調を合わ
せました。ただ、決定的な内容でもない。次の焦点は 9 月 2 日の雇用統計に移りました。
この 2 ヶ月、非常に強い数字が続いたことから、市場予想の 18 万人程度は、おそらく問題なくク
リアするはずですが、仮に 6 月の雇用統計のように新規雇用が 3.8 万人となれば、全てご破算。9
月利上げはなくなり、12 月にあるかどうかというところまで後退することになります。
もし市場予想程度の雇用統計内容であれば、過去 3 ヶ月の平均が優に 20 万人を超えてくるので、
9 月利上げの可能性は俄然高まります。9 月 21 日は、日銀金融政策決定会合と FOMC が同時に
開かれる最重要の一日となります。
<大統領選の推移にも注目>
大統領選の推移も重要です。もちろん、クリントン氏、トランプ氏、どちらが米国の次期大統領
になるかで、マーケットは大きく変わってきます。米国のトップエスタブリッシュメントとして
は、なんとしてもトランプ氏が大統領になることは避けたいところ。その事情もあり、大統領選
の直前は、FRB が金融政策を変更することは難しいと考えられます。単純に、選挙に影響を及ぼ
したと見られたくないという意味もありますが、万が一、9 月に政策変更し、その結果株価が暴
落し、トランプ氏を利することがあっては元も子もありません。トランプ氏は、仮に当選した場
合、イエレン議長を始め、現在の FOMC メンバーはほとんどがクビと明言しています。
それにも関わらず、9 月利上げの論調が強まっていますが、これは、トランプ氏が現在自らの失
言問題により支持率をかなり落とし、クリントン氏がかなり有利になったと見られていることも
大きいと思われます。それでも選挙は水物ですから、利上げするならば 12 月というのが順当な線
でしょう。
仮にクリントン氏が当選した場合どうなるか。新大統領の最大の目標は 4 年後の再選です。そう
であれば、就任 3-4 年目は経済好調、株価も右肩上がりの状態が良いはずです。ただ、クリント
ン氏の場合、中間層をサポートする政策を打つと約束しておりますが、それは得てして、株式市
場には負のインパクトを与え得るものです。そうであるならば、就任直後の 1-2 年目に集中して
そのような政策を取ったほうが良さそうです。
FRB も似たような事情を抱えます。金利政策の正常化がイエレン議長を始め、FRB の課題です。
できれば同様に、クリントン氏就任 1-2 年目に金利引き上げを集中させたいと考えているでしょ
う。クリントン氏当選後の 12 月 FOMC から利上げ路線に入り、株価を始め、様々な市場の調整
局面を迎えたいと考えているはずです。すなわち、クリントン氏が大統領になった暁には、堂々
と 12 月から利上げ路線に本格的に入っていくはずです。つまり、9 月利上げが見送られ、ドルが
下落したとしても、12 月利上げが見えているので、ドル下げには限界があるでしょう。
<新興国経済の持ち直し、BREXIT リスクの低減>
もう一つ大きいのは、今年前半と違い、中国をはじめとした新興国経済が安定していることです。
今年の前半は、新興国経済が揺れ、上海における G20 においては、市場安定のため、いわゆる「上
海合意」があったのではないかと憶測が飛びました。
「上海合意」とは、市場関係者の間だけで噂
された、非公式の合意で、中国は経済を安定化させる代わりに、米国は利上げを極力遅らせ、ド
ルの上昇を抑えるという合意が裏であったのではないかと言われております。今はその当時のよ
うに、中国が傾くと、アジア全体が傾いてしまうという状況ではなくなっています。よって、上
海ドル安合意は破棄されるのではないかと見られています。
それから BREXIT も大きな問題でした。英国が EU から離脱することで、英国はリセッションが
避けられず、その影響は世界経済全体に及ぶという懸念でした。しかし、英国は EU から正式に
脱退を表明していません。恐らく今年は表明しないようですから、悪影響も今のところは限定的
なはずです。悪影響が予想以上に小さかったと結論付けられれば、米利上げをサポートする要因
となるでしょう。
<次期日銀決定会合が重要、
「総括」の内容がどうなるか見たい>
日本の金融政策はほぼ限界まで来ているというのが、多くの学者が合意するところでしょう。9
月 21 日に発表される「総括的検証」がどうなるのか、注目です。
最もあり得なさそうなのが、これまでの量的質的緩和は効果がなかったと認め、2%のインフレ目
標を変更する、全くの「敗北宣言」パターンです。これは流石に、元財務官僚黒田日銀総裁には
難しいでしょう。ジャクソンホールで発言したように、これまでの量的質的緩和は効果を発揮し
ている、インフレ率が低下したのは原油価格が下落したからであり、今後も躊躇なく、これまで
の政策を継続していくと発表するのが最有力と思われますし、それが正解と思われます。万が一
にも、これまでの政策が間違っていたと認めた場合、一気に円高になってしまいます。
「総括的検証」発表と同時に、政策の変更も発表されるかもしれません。その場合、金融界に評
判の悪い、マイナス金利の深掘りをやっていくのだと思われます。あくまで、円安に持って行き
たいというところでしょう。
今年はそれ以前とは違い、日銀が政策を出すたびに、市場の反乱を招き、混乱してきました。し
かし、現在 FRB の政策の方向性は間違いなく金融引き締め方向です。同時に政策を発表した場合、
「失望売り」を誘うというよりは、追加のドル円買い材料と素直に認められるのではないでしょ
うか。
<ドル円>
9 月 2 日の米雇用統計の数字が最初の関門です。これがダメであれば、元に戻ってしまいます。
その上で、次は 9 月 21 日、FOMC が利上げに動けば、間違いなくドル円は上昇します。忙しい
9 月になりそうです。ただ、雇用の数字が良くても、9 月利上げを見送る可能性もあります。その
場合は、再度 100 円台前半の地味なレンジ相場へ逆戻りです。いろいろ条件は付いてしまいます
が、米利上げに一番素直に反応するのはドル円でしょう。上値の目標は、米雇用の数字が良けれ
ば 103 円テスト、9 月利上げに動けば、一気にレジスタンスが集中する 104 円台を突破し、105
から 107 円前後へと上昇する可能性があります。 99.50-105.50 円
<ユーロドル>
1.05-1.15 の大きなレンジを抜けられません。どうせ米国は、利上げを出来ないのだから、経常
収支が黒字の分だけユーロ高となるのではないかという意見がジャクソンホールまでは強かった
です。基本的にレンジ相場が続くと想像します。1.0900-1.1400
<ユーロ円>
ユーロドル同様、これまであまり注目を浴びてこなかった通貨ペア。しかし、罫線だけを見てい
ると、底入れしたように見える。112 円をベースに、5 円程度のレンジか? 112-117 円
<豪ドル>
米国が本当に利上げに向かうと、最も影響を受ける通貨ペアはドル円、そしてその次はオースト
ラリアドルではないでしょうか。もはや高金利を理由にキャリー・トレードを進める戦略は難し
いのではないでしょうか。74.00-80.00 円
志摩 力男(しま りきお) 氏 プロフィール
慶應義塾大学経済学部卒
1988 年~1995 年 ゴールドマン・サックス証券会社
2006 年~2008 年 ドイツ証券等
大手金融機関にてプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任、
その後香港にてマクロヘッジファンドマネージャー。
世界各地のヘッジファンドや有力トレーダーと交流があり、現在も現役トレーダーとして活躍。
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