レポート本編はコチラ

2016/07/27
志摩 力男 氏 相場展望レポート(2016
相場展望レポート(2016 年 8 月)
8 月相場展望
ドル円
ユーロドル
ユーロ円
豪ドル円
100.00-110.00
1.0600-1.1200
113.00-120.00
76.00 – 82.00
<7 月の相場、ヘリマネ議論がドル円を押し上げ>
BREXIT の衝撃からドル円は 100 円割れを示現する事態となりましたが、それを救ったのが俄に
活発化した「ヘリコプターマネー」の議論でした。前 FRB 議長バーナンキ氏が日銀、そして首相
官邸を表敬訪問し、黒田日銀総裁、安倍首相等と面会しました。たったそれだけのことですが、
「ヘリコプターベン」の異名を持つ前 FRB 議長が何らかの政策示唆をしたはずだということで、
ドル円は一気に 107 円台半ばへと急伸しました。
また、ソフトバンクによる英 ARM3.3 兆円買収も円安に大きく寄与しました。ポンド円は 130 円
を割り込み、どこまで円高が続くのか不安視されていましたが、さすがに 3.3 兆円ものポンド買
い円売りが出ると市場はサポートされます。こちらも、130 円前後から 143 円台へと大きく急伸
しました。
英 ARM 買収は一過性の動きなので、相場への影響は限定的ですが、問題はヘリコプターマネー
議論で活発化した市場の円売り意欲を維持できるのか、そこに懸かって来ています。
このレポートを執筆している時点で、7 月 29 日発表となる日銀政策決定会合の結果や、8 月 2 日
に発表される政府の経済対策の内容はわかっていませんが、これらの結果が、8 月の円相場の行
方を大きく左右するものと思われます。現在、オプションマーケットではドル円の 1 ヶ月変動率
は 15.1%前後、3 ヶ月も 13.4%と非常に高いレベルで取引されています。マーケットも、先行き
の大きな変動に身構えている状況だといえます。
<8 月はどうなるか>
ヘリマネ期待で上昇したドル円相場ですが、市場はどの程度のことを期待しているのでしょうか。
まず、
「狭義」のヘリマネですが、現在二つの主要な意見があります。
一つは、政府が無利子永久債を発行し、それを日銀が直接引き受けることで財政支出を拡大する。
ただ、これは財政法 5 条で明確に禁止されております。
もう一つは、日銀が購入した国債を無利子永久債に切り替えることで実質的な政府債務を軽減す
るというアイデアです。元英金融サービス機構長官、アデア・ターナー氏が主張している意見で
すが、これは国債を全く無価値なものと交換することですから、日本国債がデフォルトしたと認
定されるリスクが高いです。よって、この二つの「狭義」のヘリマネが実施されることは目先あ
り得ません。
しかし、
「広義」のヘリマネ、すなわち政府が財政支出を拡大し、それを日銀が国債大量購入で支
えるといったことは実現可能でしょう。そのためには 8 月 2 日発表の政府経済対策の「真水」が
10 兆円を超えるような大きなものになることが必要です。2013 年 1 月の経済対策では 13.1 兆円
もの「真水」が投入され、アベノミクス第二の矢として経済を支えました。それと同程度のこと
が期待されます。ただ、今のところ報道されているところでは 3 兆円程度の「真水」であり、そ
れでは結果的に市場は失望しそうです。
政府の立場からすると、消費増税延期の際にも 2020 年度財政再建計画を維持しましたので、そ
れとの整合性が問われるわけですから、でたらめな財政支出はできないことになります。
そして、29 日の日銀政策決定会合の結果も重要です。
現在、(1)量を 80 兆円から 100 兆円へ、(2)マイナス金利幅を-0.1%から-0.3%へ、(3)ETF を 5
-7 兆円へと増額、と言ったレベルが市場の期待だと思われます。期待通りの結果でも、政府の
経済対策が小規模であれば、失望売りということになりますが、上記の内容で、且つ、政府から
も大きな財政支出が発表されると、
「擬似ヘリマネ」ということで、株価、ドル円ともに上昇する
可能性があります。その場合は、現在 107 円台後半にある一目均衡表の雲を上方突破し 110 円を
狙うという展開が期待できます。
しかし、最もありえそうな展開としては、日銀の追加緩和が市場期待に届かず、かつ政府の経済
対策も小規模の「真水」にとどまるというケースです。その場合は、即座に 103-4 円台へと軟
化、その後の状況次第では再度 100 円前後を試す展開となりそうです。
日本の金融政策以外にも影響を及ぼす要素は少なくありません。
今のところ、BREXIT の実体経済に及ぼす影響は限定的ですが、徐々に影響が現れてくる可能性
があります。8 月には BOE は政策金利を下げてくると予想されており、ポンド円は再び 130 円
方向を試すかもしれません。
また、最大のリスクとしては、トランプ米共和党大統領候補の支持率が伸びることでしょう。自
由貿易に反対し、中国や日本の為替政策に厳しい立場を取るトランプ氏が優勢となると、クリン
トン氏も同様な政策に傾かざるを得ず、ドル円市場に大きな下方圧力がかかることになります。
ただ、今のところトランプ氏が次期大統領に当選すると見る人は殆どいません。メインシナリオ
ではない。しかし、BREXIT を予想できた識者が殆どいなかったように、トランプ氏が次期大統
領になる可能性は相当程度高いと予想したほうが良いかもしれません。
<ドル円>
先月は、100 円を突破して 95 円方向もあるかと思われた展開でしたが、にわかヘリマネ議論と、
ソフトバンクによる巨額買収に助けられました。ただ、市場はあまりにも過度な内容を織り込ん
でしまっているので、リスクとしてはやはりダウンサイドになるのではないでしょうか。上値ト
ライに失敗すれば、今度は下値トライですが、先の G20 でも為替への介入は厳に慎むべきとの合
意がありました。大きな経常黒字も復活しており、やはり構造的にドル円は下サイドに弱い。市
場の過度な期待が剥落し、再度下値トライとなる相場を予想したい。その場合は 100 円テスト。
一方、市場の期待以上の内容が日銀、そして政府経済対策から提示されれば、107 円台を突破し
て 110 円というケースもあり得る。しかし、この可能性は低いと想定しています。
100.00-110.00
<ユーロドル>
しばらく相場らしい相場がありません。トレードの対象からは外れてしまっています。
現状の 1.05-1.15 程度の長期レンジを突破しないと方向感は戻ってこない様に見えます。
しかし、こうした状況はいつか終わります。金融政策の方向性は常にユーロ安方向ですが、殆ど
効いていないように見えます。反対に、経常収支黒字が大きく、それがユーロドルを支えます。
新たに、イタリアの銀行が持つ巨額の不良債権が問題となっております。日本円で考えますと約
45 兆円と見積もられており、経済規模の違いを考えますと、日本で言えば 100 兆円以上の不良債
権があることになります。これはあまりにも過剰です。しかも、不良債権が増えたのは、この数
年です。ドラギ総裁による金融緩和もイタリアの不良債権問題には全く有効でなかったというこ
とになります。イタリアはいずれ、ユーロから離脱しなければならないのでしょう。
そのような現実が表面化すると、もしかしたらユーロ売りの展開になるかもしれません。
1.0600-1.1200
<ユーロ円>
ドル円の方向性次第ですが、メインシナリオとしては下値トライと考えています。
113.00-120.00
<豪ドル円>
豪ドル円の方向性も、ドル円の方向次第とは言えます。メインシナリオとしては、下方向と考え
ています。RBA 利下げの可能性も消えていません。
76.00-82.00
志摩 力男(しま りきお) 氏 プロフィール
慶應義塾大学経済学部卒
1988 年~1995 年 ゴールドマン・サックス証券会社
2006 年~2008 年 ドイツ証券等
大手金融機関にてプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任、
その後香港にてマクロヘッジファンドマネージャー。
世界各地のヘッジファンドや有力トレーダーと交流があり、現在も現役トレーダーとして活躍。
■ご留意いただきたい事項
マネックス証券(以下当社)は、本レポートの内容につきその正確性や完全性について意見を表明し、また保証するも
のではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を
推奨し、勧誘するものではございません。当社が有価証券の価格の上昇又は下落について断定的判断を提供するこ
とはありません。
本レポートに掲載される内容は、コメント執筆時における筆者の見解・予測であり、当社の意見や予測をあらわすもの
ではありません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがござ
います。
当画面でご案内している内容は、当社でお取扱している商品・サービス等に関連する場合がありますが、投資判断の
参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。
当社は本レポートの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかか
る最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。
本レポートの内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布
することはできません。
当社でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等に
は価格の変動・金利の変動・為替の変動等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。また、発行
者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそ
れがあります。信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠
金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が
生じるおそれがあります。
なお、各商品毎の手数料等およびリスクなどの重要事項については、「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」
をよくお読みいただき、銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身のご判断で行ってください。
マネックス証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第165号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会