内縁の妻は遺族年金を受給できる?[PDF形式]

山村 行弘
暮らしの法律
Yamamura Yukihiro
弁護士。第一東京弁護士会所属。
一般民事・刑事事件、知的財産、法律相談などを手がける。
協力:萩谷雅和(萩谷法律事務所)
第
51回
内縁の妻は遺族年金を
受給できる?
相談者の気持ち
亡くなった夫とは 20 年間同居し、介護もしましたが、先妻
との離婚が成立していなかったため事実婚のままでした。入
籍していなくても夫の遺族年金は受給できるでしょうか?
厚生年金保険法は、労働者
者はもはや
「配偶者」
に該当せず、重婚的内縁関
の遺族の生活の安定と福祉の
係にある者が
「配偶者」
に当たるというべきであ
向上に寄与するという厚生年
ると考えられています
(大阪地裁平成 27 年 10 月
金保険法の目的や厚生年金の
2日判決等)
。
社会保障的性格から、遺族厚生年金の受給権者
戸籍上の配偶者との婚姻関係が事実上の離婚
である
「配偶者」
(同法 59 条1項)
には、婚姻の届
状態にあるか否かについては、別居の経緯、別
出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事
居期間、婚姻関係を維持ないし修復するための
情にある者も含まれると規定しています
(同法
努力の有無、
別居後における経済的依存の状況、
3条2項)。したがって、内縁の妻であっても、
別居後における婚姻当事者間の音信および訪問
遺族厚生年金の受給権があります。
の状況、重婚的内縁関係の固定性等を総合的に
考慮すべきであると考えられています。単に、
では、本件のように、被保険者が、戸籍上の
配偶者がいながら、
重ねて別の者と内縁関係
(い
重婚的内縁関係にある者との関係が密接である
わゆる重婚的内縁関係)にあった場合、内縁の
ために、戸籍上の配偶者との関係が疎遠になっ
妻は受給権を取得できるのでしょうか。
ている期間が続いているというだけでは、事実
上の離婚状態にあると評価するには足りません。
この場合、わが国が婚姻について法律婚主義
を採用していることなどに照らして、原則とし
本件においても、戸籍上の配偶者との間で離
て、戸籍上の配偶者が
「配偶者」
に当たるものと
婚の合意はしたうえで、届出だけがされないま
されています。
ま別居状態が継続している場合や、そうでなく
もっとも、前述した厚生年金保険法の目的や
とも、婚姻関係を解消するに相応する財産的給
趣旨から、被保険者が戸籍上の配偶者を有する
付が行われたうえで、20 年間にわたって別居状
場合であっても、その婚姻関係が実体を失って
態を継続し、その間、メールや電話等のやり取
形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将
りをしてないような場合であれば、内縁の妻が
来解消される見込みのないとき、すなわち、事
遺族厚生年金を受給することができるでしょう。
実上の離婚状態にある場合には、戸籍上の配偶
2016.8
35