13 - Keio University

宿題の解説 7 月 12 日
c
三井隆久 ⃝
Department of Physics, Keio University School of Medicine,
4-1-1 Hiyoshi, Yokohama, Kanagawa 223-8521, Japan
(Dated: July 26, 2016)
問I
p0 =10 気圧で n=10 mol の理想気体がある。この気体
が、T =300 K の温度を保ったまま、p1 =1 気圧になるま
で仕事しながら膨張した。仕事量と気体の吸熱量 Q を求
めよ。
答
外界と系でやりとりした仕事を W (符号は外界から系へ
の仕事を正) とすれば、dW = −pdV である。したがって、
∫ p=p1
W =−
pdV,
(1)
p=p0
となる。状態方程式 pV = nRT から、
(2)
となるので、
p1
W =
p0
nRT
dp = nRT log
p
となる。したがって、
Q = T [S(p1 , T ) − S(p0 , T )],
(
(
)
)
∂F
∂F
+T
,
= −T
∂T V =V1
∂T V =V0
( )
( )
p0
V1
= nRT log
,
= nRT log
V0
p1
(9)
値を代入して、Q = −W = nRT log(p0 /p1 )=57434 J。
問 II
nRT
dV = − 2 dp,
p
∫
となる。吸熱量は Q = T ∆S であり、エントロピーは自由
エネルギーの微分なので、
(
)
∂F
d
S=−
= −nR log(V ) +
F0 (T ),
(8)
∂T V
dT
(
p1
p0
)
,
(3)
系が外界に行う仕事は −W なので、仕事は nRT log(p0 /p1 )
である。
吸収した熱量 Q は、第 1 法則から ∆U = Q + W で
あり、理想気体の内部エネルギーは温度が一定なら変化
しないので、∆U =0 となる。したがって、Q = −W =
nRT log(p0 /p1 ) である。
自由エネルギーを用いた方法: これは、等温過程にお
ける仕事なので、ヘルムホルツの自由エネルギー変化を求
めればよい。
(
)
∂F
nRT
= −p = −
,
(4)
∂V T
V
なので、
F (V, T ) = −nRT log(V ) + F0 (T ),
(5)
となる。ここで、F0 (T ) は温度のみで圧力や体積に依存し
ない関数である。したがって、
( )
V1
, (6)
W = F (V1 , T ) − F (V0 , T ) = −nRT log
V0
( )
p1
= nRT log
,
(7)
p0
1) 理想的な半透膜の存在を前提として、2 種類の気体を
等温条件で分離するために必要な最小仕事を求めよ。半透
膜には、特定の分子のみを通過させる働きがある。
2) 空気中には分子数比で 1 %のアルゴンが含まれてい
る。300K において、アルゴン 1 mol を空気中から得るため
に必要な仕事の最小値を求めよ。R=8.31 J/molK とせよ。
3) 石油の燃焼熱は 44 MJ/kg で、石油 1kg を燃焼させ
ると 3.09 kg の CO2 が生じる。生じた CO2 は大気中へ放
出され、現在 400ppm(体積比) の濃度になっている。温度
300K において、3.09kg の CO2 を大気中から除去するた
めに必要な最小仕事を求めよ。CO2 の分子量 44。
答
1) 図 (a) に示すように、温度 T , 圧力 p, 体積 V の容器
に分子 A が nA mol, 分子 B が nB mol 入っている。容器は
シリンダー形状であり、両端に 2 個のピストンがある。ピ
ストンには、分子 A は通すが分子 B を通さない半透膜 A、
分子 B は通すが分子 A を通さない半透膜 B がそれぞれ付
いている。
nA
V,
nA + nB
nB
V,
VB =
nA + nB
V = VA + VB ,
VA =
(10)
(11)
(12)
とする。
図 (b) に示すように、半透膜 A を右に動かすときには、
分子 B からなる気体が圧縮されるため、仕事が必要であ
2
る。分子 A は素通りなので、半透膜 A に分子 A 起源の力
は加わらない。半透膜 A を右に動かし、右側の体積が VB
になったとき止めたとすると、このとき必要な仕事は、式
(6) から、
WB = RT nB log(
VA + VB
),
VB
(13)
である。
次に、図 (c) に示すように、右側の半透膜 B を左に動か
す。半透膜 B は、分子 B の影響を受けないから、この過
程では、分子 A からなる気体が圧縮され、左側の体積が
VA になった時に止めたとすると、この過程での仕事は、
WA = RT nA log(
VA + VB
),
VA
nA + nB
nA + nB
) + RT nB log(
), (15)
nA
nB
となる。
(a)
理想気体が断熱可逆膨張したときの、温度 T と圧力 p
との関係を求めよ。断熱可逆膨張は、外部と熱の出入りが
無い状態で、外界と仕事のやりとりをしながらゆっくりと
膨張する過程である。可逆であるとは、ゆっくりなので、
dS = dQ/T が成立する過程という意味。
答
理想気体の内部エネルギーは温度のみに依存し、U (T )
のように表すことができる。定積比熱の定義は CV =
(∂U/∂T )V なので、どのような過程であろうと、理想気
体について dU = CV dT が成立する。
一方、問いでは断熱状態 (dQ = 0) で膨張するので、第
1 法則から dU = −pdV である。したがって、
CV dT = −pdV,
nA
nB
: 分子A
半透膜B
(c)
P, T
VB nB
VA
CV
R dV
+
= 0,
T
V dT
P, T
VA
nA
(17)
となる。膨張するとき仕事を外部へ行うが、断熱なので、
仕事をした分だけ内部エネルギーが低下し、温度が下がる。
1 mol の気体を想定して、1 mol あたりの体積を V とす
ると、p = RT /V なので、
: 分子B
V
(b)
(16)
問 III
P,T一定
半透膜A
)
石 油 1kg の 燃 焼 で 排 出 さ れ る CO2 は 、3.09 kg/(44
gram/mol)=70 mol なので、必要な仕事の最小値は、1.54
MJ となる。これは熱力学的理論限界なので実際にはこの
10 倍くらい必要であること、さらに燃焼熱が 44MJ/kg で
あることを考慮すると、地球温暖化防止のため大気から二
酸化炭素を可逆的な方法で人工的に取り除くのは現実的で
ない。
(14)
となる。図 (c) を見てわかるように、この手順で気体 A,
B は分離できるから、W = WA + WB が分離に要する仕
事であることが分かる。気体の分離のために加えた仕事
W は等温条件なので、熱として気体から熱浴に出るため、
∆S = W/T だけエントロピーが減少する。
逆の過程をたどれば、図 (d) のように 2 種類の気体の混
合を行うとき、同じ大きさの仕事が外部行われ、同じ大き
さの熱が吸収され同じ大きさのエントロピーが増大するか
ら、この過程は可逆であり、W が最小仕事であることが
分かる。気体の場合、体積は分子数に比例するから、分子
数で表すと、
W = RT nA log(
1 − 400 × 10−6
1
mol × log
400 × 10−6
1 − 400 × 10−6
= 22kJ.
+
VB nB
(18)
これを積分して、
log T +
R
log V = 一定,
CV
(19)
が得られる。さらに理想気体において、比熱比 γ が
(d)
P, T
VA
VB
nA
nB
P, T
V= VA + VB
nA
nB
2) RT (1 × log(100) + 99 × log(100/99)) = 14 kJ
3) CO2 を 1 mol 大気から除去するために必要な最小仕
事は、
(
1
RT 1mol × log
400 × 10−6
γ=
CV + R
Cp
=
,
CV
CV
(20)
となることを用いて変形すると、
T V γ−1 = 一定,
(21)
pV γ = 一定,
(22)
Tp
1−γ
γ
= 一定,
(23)
などが得られる。一定値は状況により決まる値であるが、
過程の進行に伴い変化しない値である。
3
問 IV
答え:エネルギー保存則を用いた方法
地上近辺の大気が急速に上昇した結果、断熱可逆膨張
して温度が下がった。1 km あたりの大気温度の低下を求
めよ。
外部から力点に力を加えて、てこが微小角度 θ 回転し
たとする。このとき、外部がてこに対して行った仕事は、
h力 θf力 である。一方、てこが回転すると、作用点が外部系
にたいして、h作 θf作 という量の仕事を行う。てこがエネ
ルギーを浪費しない(支点に摩擦などがない)とすれば、
力点からてこに対してなされた仕事はすべて、作用点か
ら外部系に仕事として伝達される。両者が等しいとして、
h作 θf作 = h力 θf力 , となる。この式から、h作 f作 = h力 f力 が
得られる。
答
上空 (高さ h) に行けば、大気圧 p が下がる。両者には、
dp = −ρgdh,
(24)
という関係がある。分子量 M 、1 mol あたりの体積 V1mol 、
密度 ρ = M/V1mol を用いると、理想気体の状態方程式は、
Mp
,
RT
ρ=
(25)
と書けるから、式 (24) は、
dp = −
gM p
dh,
RT
(26)
答え:トルクを用いた方法
力点と作用点に力を加えた状態で、てこが釣り合ってい
る(静止している)とする。このとき、支点を中心として、
⃗
⃗
てこに作用するトルクはゼロになる。これは、dL/dt
=N
と、静止しているから角運動量がゼロということから導か
れる。作用点や力点の力の向きが、てこに垂直であること
を考慮すると、トルクは N = h作 f作 − h力 f力 =0 となる。
このことから、てこの原理が導かれる。
となる。理想気体の断熱膨張では、
T
p
γ−1
γ
= 一定,
問 VI
(27)
なので、一定値を a と置いて、
T = aP
γ−1
γ
,
(28)
講義では、コマの心棒の下端が地面に接した状態(ほぼ
垂直の状態)の歳差運動の解析を行った。通常のコマはこ
のような状態で回転するが、ここでは、地球ごまの外枠が
地面に接した状態(ほぼ水平の状態)の解析をしよう。
z
となる。また、微分すると、
γ − 1 1 γ−1
dT
=a
p γ ,
dp
γ p
(29)
L
が得られる。式 (28) と (29) から、
dT
γ − 1 dp
=
,
T
γ p
θ
(30)
横から見た図
となるから、式 (26) の dp を置き換えて、
dT
γ − 1 gM
=−
,
dh
γ
R
rg
地面
(31)
y
が得られる。γ = 7/5, M =28.8 などを代入すると、
dT /dh=-9.8 K/km が得られる。実際には、水蒸気の凝縮
などにより、気温の逓減率は 6.5 K/km になるそうである。
L
φ
rg
問V
てこの原理を、ニュートン力学で正しいとされる事を用
いて証明せよ。
x
上から見た図
x
4
d
L sin θ =
dt
⃗ コマの質量を M , 重力加速度を ⃗g ,
コマの角運動量を L,
コマの重心を ⃗rG とすれば、コマの運動方程式は、
⃗
dL
=
dt
1
,
(32)
⃗ が x-y 面となす角度を θ、L
⃗ の x-y 面への射影
となる。L
⃗
が x 軸となす角度を ϕ とすれば、L = (Lx , Ly , Lz ) は、
Lx = L cos θ cos ϕ,
(33)
Ly = L cos θ sin ϕ,
Lz = L sin θ,
(34)
(35)
⃗ である。
となる。ここで、L = |L|
⃗ との関係を求める
次に、重心の座標 ⃗rG と角運動量 L
必要がある。コマは一般には複雑な運動をし、角運動量
は中心軸まわりの高速回転 (自転) に起因した大きな成分
と、歳差運動に起因した小さな成分からなる。自転に起因
した成分はコマの中心軸に平行で重心の座標と直交して
いる。そこで、トルクを求める場合だけ、重心の座標を角
運動量に対して直交した方向に選んでも運動にはあまり
大きな影響はないだろう。このようなわけで、重心の座標
⃗rG = (xG , yG , zG ) を、
xG ≈ −rG sin θ cos ϕ,
yG ≈ −rG sin θ sin ϕ,
(36)
(37)
zG ≈ rG cos θ,
(38)
として近似する。ただし、rG = |⃗rG | である。θ や ϕ は角
運動量が座標軸となす角度であるが、トルクを求める場合
だけ近似して重心も θ や ϕ で表すことができるとした。
⃗g = (0, 0, −g) に注意して式 (33)∼(38) を式 (32) へ代入
すると、
d
L cos θ cos ϕ =
dt
d
L cos θ sin ϕ =
dt
2
,
(39)
3
,
(40)
4
,
(41)
となる。コマはゆっくり歳差運動をするので、角運動量の
大きさ L はほとんど変わらないと仮定しよう。この条件
で、式 (41) から「θ=一定」が導かれる。式 (39) にこれら
の条件を入れると、
−L cos θ sin ϕ
d
ϕ = gM rG sin θ sin ϕ,
dt
(42)
となるので、
d
ϕ=
dt
5
,
(43)
となることがわかる。したがって、コマは水平面から θ 傾い
たままで、式 (43) で与えられる角速度で歳差運動を行う。
答え
(1)
⃗
dL
= ⃗rG × ⃗g M,
dt
(44)
(2) (3) (4)
d
L cos θ cos ϕ = gM rG sin θ sin ϕ,
dt
d
L cos θ sin ϕ = −gM rG sin θ cos ϕ,
dt
d
L sin θ = 0,
dt
(45)
(46)
(47)
(5)
d
gM rG sin θ
ϕ=−
.
dt
L cos θ
(48)