ニッセイ基礎研究所 2016-08-01 【4-6 月期米GDP】 前期比年率+1.2%、予想外の低成 長継続 経済研究部 主任研究員 TEL:03-3512-1824 窪谷 浩 E-mail: [email protected] 1. 結果の概要:成長率は、前期から上昇も市場予想を大幅に下回る伸び 7 月 29 日、米商務省の経済分析局(BEA)は 4-6 月期のGDP統計(1 次速報値)を公表した。 4-6 月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、季節調整済の前期比年率1で+1.2%となり、1-3 月期(同+0.8%)から上昇したものの、市場予想(Bloomberg 集計の中央値、以下同様)の同+2.5% を大幅に下回った(図表 1・2) 。 (図表 1) (前期比年率、%) 6 (図表 2) 米国のGDP(項目別) 米国の実質GDP成長率(寄与度) 2014年 2015年 5 (実) 4 実質GDP (実) 1-3 (実) 2015年 4-6 7-9 (実) (実) 10-12 (実) 2016年 1-3 4-6 (実) (実) 前期比年率、% 2.4 2.6 2.0 2.6 2.0 0.9 0.8 3 個人消費 前期比年率、% 2.9 3.2 2.4 2.9 2.7 2.3 1.6 4.2 2 設備投資 前期比年率、% 6.0 2.1 1.3 1.6 3.9 ▲ 3.3 ▲ 3.4 ▲ 2.3 1 住宅投資 前期比年率、% 14.9 12.6 11.5 7.8 ▲ 6.1 0 在庫投資 寄与度 ▲1 政府支出 前期比年率、% ▲2 純輸出 寄与度 ▲3 輸出 前期比年率、% 4.3 0.1 ▲ 5.8 2.9 ▲ 2.8 ▲ 2.7 ▲ 0.7 1.4 輸入 前期比年率、% 4.4 4.6 5.6 2.9 1.1 0.7 ▲ 0.6 ▲ 0.4 1.5 0.3 1.4 1.8 0.3 1.8 1.4 1.1 0.3 1.4 1.3 0.4 0.4 1.2 1.4 0.3 0.9 2.1 1.6 1.9 1.6 ▲ 1.6 0.3 1.1 1.4 ▲4 政府支出 純輸出 在庫変動 住宅投資 ▲5 設備投資 個人消費 実質GDP 国内最終需要 PCE価格指数 ▲6 2011 2012 (注)季節調整済系列の前期比年率 (資料)BEAよりニッセイ基礎研究所作成 2013 2014 2015 2016 コア 前期比年率、% 前年同期比、% 前期比年率、% 前年同期比、% 3.5 11.7 13.3 ▲ 0.14 0.17 1.01 ▲ 0.52 ▲ 0.57 ▲ 0.36 ▲ 0.9 1.8 ▲ 0.15 ▲ 0.71 2.6 3.2 1.9 1.2 ▲ 0.41 ▲ 1.16 1.0 1.6 ▲ 0.9 ▲ 1.65 ▲ 0.08 ▲ 0.52 ▲ 0.45 0.01 0.23 (資料)BEAよりニッセイ基礎研究所作成 (四半期) 4-6 月期の成長率を需要項目別にみると、個人消費が前期比年率+4.2%(前期:+1.6%)と前期 から伸びが加速し、当期の成長率を+2.83%ポイント押上げたほか、純輸出(輸出-輸入)の成長 率期寄与度も+0.23%ポイント(前期:+0.01%ポイント)と成長を押上げた。一方、在庫変動の成 長率寄与度が▲1.16%ポイント(前期:▲0.41%ポイント)と、大幅な押下げとなったほか、これ まで好調であった住宅投資が前期比年率▲6.1%(前期:+7.8%)と、前期からマイナスに転じた ことに加え、民間設備投資が同▲2.3%(前期:▲3.4%)と 3 四半期連続のマイナスとなったこと が成長を押下げた。当期は、政府支出も▲0.9%(前期:+1.6%)と小幅ながらマイナスとなった。 4-6 月期は、予想通り個人消費が順調な回復を示したものの、在庫投資が予想以上に成長を押下 げたほか、14 年 10-12 月期以降、高い伸びが続いていた住宅投資が予想外のマイナスとなったこと が、市場予想からの下振れ要因となった。もっとも、住宅市場の基調が変化していないと考えてお り、これらは逆に来期の成長率を押上げることが期待できる。 1 以降、本稿では特に断りの無い限り季節調整済の実質値を指すこととする。 1| 経済・金融フラッシュ 2016-08-01|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved | 0.9 1.7 1.6 今回は、年次改定に伴い過去 3 年分の成長率の改定値も発表された。改定の結果、14 年の成長率 (前年比)は+2.4%と変更はなかったもの、13 年が+1.5%→+1.7%に+0.2%ポイント上方修正され たほか、15 年も+2.4%→+2.6%に+0.2%ポイント上方修正された。また、15 年の四半期毎の成長 率は、 1-3 月期が+0.6%→+2.0%と上方修正される一方、 4-6 月期が+3.9%→+2.6%と下方修正され、 改定前に比べて成長率の変動が緩やかとなった。 2. 結果の詳細: (個人消費・個人所得)個人消費が前期から大幅に加速 4-6 月期の個人消費は、財消費が前期比年率+6.8%(前期:+1.2%)、サービス消費が+3.0%(前 期:+1.9%)と財、サービス消費ともに前期から伸びが加速した(図表 3)。財消費では、自動車・ 自動車部品が+4.5%(前期:▲8.5%)と 3 期ぶりにプラスに転じたことから、耐久消費財が+8.4% (前期:▲0.6%)と前期から大幅なプラスに転じたほか、食料・飲料が+8.6%(前期:+3.2%) となるなど、非耐久消費財も+6.0%(前期+2.1%)と前期から伸びが加速した。サービス消費は、 医療サービスが+3.8%(前期:+5.6%)と前期から伸びが鈍化したものの、住宅・公共料金+4.2% (前期:0.7%)などが伸びた。 一方、所得は実質可処分所得が+1.2%(前期:+2.2%)と、前期から伸びが鈍化した(図表 4)。 消費の伸びが所得を上回った結果、貯蓄率は 5.5%(前期:6.1%)と、前期から低下した。 (図表 3) (前期比年率、%) 5 (図表 4) 米国の実質個人消費支出(寄与度) (前期比年率、%) 15 米国の実質可処分所得伸び率と貯蓄率 (%) 10 8 4 10 6 3 5 2 1 4 2 0 0 0 ▲5 ▲1 サービス ▲2 ▲3 財 ▲4 ▲5 2011 2012 (注)季節調整済系列の前期比年率 (資料)BEAよりニッセイ基礎研究所作成 2013 2014 サービス(医療除く) 医療サービス 非耐久消費財 耐久消費財(自動車関連除く) 自動車関連 実質個人消費 2015 2016 (四半期) ▲2 実質可処分所得伸び率 貯蓄率(右軸) ▲ 10 ▲4 ▲6 ▲ 15 ▲8 ▲ 20 ▲ 10 2011 2012 2013 (注)季節調整済系列 (資料)BEAよりニッセイ基礎研究所作成 2014 2015 2016 (四半期) (民間投資)住宅投資が予想外の落ち込み 4-6 月期の民間設備投資の内訳をみると、設 備機器投資が前期比年率▲3.5%(前期:▲9.5%) と 3 期連続でマイナスとなったほか、建設投資が ▲7.9%(前期:+0.1%)と前期からマイナスに 転じた(図表 5) 。とくに、原油価格の下落に伴 い資源関連が▲57.8%(前期:▲32.7%)と大幅 なマイナスとなったことが大きい。一方、知的財 産投資は+3.5%(前期:+3.7%)とプラスを維持 した。 2| (図表 5) (前期比年率、%) 30 米国の実質設備投資(寄与度)と実質住宅投資 25 20 15 10 5 0 ▲5 ▲ 10 知的財産投資 ▲ 15 設備機器投資 建設投資 設備投資 住宅投資 ▲ 20 2011 2012 2013 2014 (注)季節調整済系列の前期比年率 (資料)BEAよりニッセイ基礎研究所作成 経済・金融フラッシュ 2016-08-01|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved 2015 2016 (四半期) | 最後に、住宅投資は 14 年 1-3 月期の▲1.4%以来のマイナスとなった。住宅投資は 14 年 10-12 月期から 5 期連続の 2 桁増加となっていたことから、伸び鈍化が見込まれていたものの、マイナス に転じたことは予想外であった。もっとも、住宅販売などの住宅関連指標は堅調となっており、住 宅投資の落ち込みは一時的とみられる。 (政府支出)14 年 10-12 月期以来のマイナス 政府支出は、14 年 10-12 月期の前期比年率▲ (図表 6) 0.4%以来のマイナスとなった。政府支出の内訳 (前期比年率、%) 4 をみると、地方政府支出が▲1.3%(前期:+3.5%) 2 と、前期の大幅なプラスからマイナスに転じたこ 0 とが大きい(図表 6)。 米国の実質政府支出(寄与度) ▲2 さらに、連邦政府支出も▲0.2%(前期:▲1.5%) と、国防関連支出が▲3.0%(前期:▲3.2%)と マイナスとなったこともあり、2 期連続でマイナ スとなった。一方、非国防支出は+3.9%(前期: +0.9%)と前期から伸びが加速した。 ▲4 地方政府 連邦(非国防) ▲6 連邦(国防) 政府支出 ▲8 2011 2012 2013 2014 2015 (注)季節調整済系列の前期比年率 (資料)BEAよりニッセイ基礎研究所作成 2016 (四半期) (貿易)財輸出が牽引 4-6 月期の輸出入の内訳をみると、輸出が前期比年率+1.4%(前期:▲0.7%)と 4 期ぶりにプ ラスに転じた一方、輸入は▲0.4%(前期:▲0.6%)と 2 期連続のマイナスとなったことから、純 輸出は、輸出主導のプラス寄与であったことが分かる(図表 7、8) 。 (図表 7) (図表 8) 米国の実質輸出(寄与度) (前期比年率、%) 15 10 15 5 10 0 5 ▲5 0 ▲ 10 サービス 自動車関連 飲食料 ▲ 15 2011 2012 その他財 資本財(自動車関連除く) 輸出 2013 (注)季節調整済系列の前期比年率 (資料)BEAよりニッセイ基礎研究所作成 2014 米国の実質輸入(寄与度) (前期比年率、%) 20 サービス 消費財(自動車関連除く) 工業用原料 その他財 消費財(自動車関連除く) 自動車関連 資本財(自動車関連除く) 石油製品 工業用原料(石油関連除く) 飲食料 輸入 ▲5 ▲ 10 2015 2016 (四半期) 2011 2012 2013 2014 (注)季節調整済系列の前期比年率 (資料)BEAよりニッセイ基礎研究所作成 2015 2016 (四半期) 輸出を仔細にみると、サービス輸出は▲0.9%(前期:▲2.2%)と 2 期連続でマイナスとなった ものの、食料・飲料が+20.9%(前期:▲10.3%) 、自動車・自動車部品が+4.9%(前期:▲0.1%) と前期からプラスに転じるなど、財輸出が+2.7%(前期:+0.1%)と前期から伸びが加速し、輸出 を牽引した(図表 7)。 一方、輸入はサービス輸入が+1.5%(前期:+2.5%)と伸びは鈍化したものの、前期からプラス を維持する一方、財輸入が▲0.9%(前期:▲1.3%)と 2 期連続でマイナスとなった(図表 8)。財 3| 経済・金融フラッシュ 2016-08-01|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved | 輸入では、民間航空機関連が+50.0%(前期:▲37.2%)となったことから、資本財(自動車除き) は+10.2%(前期:▲8.9%)と前期から大幅なプラスに転じたものの、自動車・自動車部品が▲10.3% (前期:+0.5%) 、消費財(食料、自動車除き)が▲5.4%(前期▲5.5%)とマイナスとなった。 (物価・名目値)物価上昇圧力は抑制された状況が持続 4-6 月期のGDP価格指数は、前期比年率+2.2%(前期:+0.5%)と、前期から伸びが加速、市 場予想(同+1.9%)も上回った。その結果、名目GDP成長率は+3.5%(前期:同+1.3%)と、前 期から伸びが大幅に加速した(図表 9)。 FRBが物価の指標として注目するPCE価格指数2は、前期比年率+1.9%、前年同期比+0.9%(前 期:+0.3%、+0.9%)となった(図表 10) 。さらに、食料品とエネルギーを除いたコアPCE価格 指数は前期比年率+1.7%、前年同期比+1.6%(前期:+2.1%、+1.6%)となった。エネルギー価格 が反発していることもあり、PCE価格指数の前期比年率の伸びは加速している。もっとも、前期 比年率では、PCE価格指数、コア指数ともにFRBが目標とする 2%を下回っており、物価上昇 圧力は抑制された状況が持続している。 (図表 9) (図表 10) 米国の名目と実質の成長率 (前期比年率、%) (前期比年率、%、逆軸) ▲8 8 (%) 5 米国のPCE価格指数伸び率 名目GDP 4 GDPデフレータ(右逆軸) 6 ▲6 実質GDP 3 4 ▲4 2 ▲2 0 0 2 1 0 ▲1 ▲2 2 ▲2 ▲4 4 2011 2012 2013 2014 2015 2016 (注)季節調整済系列の前期比年率、実質GDP伸び率≒名目GDP伸び率-GDPデフレータ伸び率 (資料)BEAよりニッセイ基礎研究所作成 (四半期) PCE価格指数(前期比年率) コアPCE価格指数(前期比年率) PCE価格指数(前年同期比) コアPCE価格指数(前年同期比) ▲3 2011 2012 2013 (注)季節調整済系列 (資料)BEAよりニッセイ基礎研究所作成 2014 2015 2016 (四半期) 2 現在、FOMCのメンバーは四半期に一度物価見通しを公表しており、そこで物価の指標として採用されている指数がPCE価格指 数とコアPCE価格指数である。見通しは年単位で、各年の 10-12 月期における前年同期比が公表されている。 (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報 提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。 4| 経済・金融フラッシュ 2016-08-01|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved |
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