鹿野達史の日本経済の視点 - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券

景気循環研究所
鹿野達史の日本経済の視点
2016 年 7 月 28 日
望まれる量的金融緩和の拡大
●ブレグジット決定後の円高・株安は反転し、金融市場は立ち直りつつある。
経済対策、追加金
英国のEU離脱(ブレグジット)決定後に進んだ円高・株安の動きは反転
融緩和への期待も
し、金融市場はショックから立ち直りつつある。英国で新政権が予想より
あり、先行き警戒
も早く始動し、英政局が一旦、落ち着きをみせたこと、さらに、米国の 6 月
感が弱まる。
の雇用統計が堅調な内容となったこと、などが契機となったが、ここにき
ては、政府の経済対策と日銀の追加金融緩和への期待が加わり、先行きに
対する警戒感が弱まってきている。
経済対策については、参院選での与党勝利を受け、安倍総理大臣から策
円レートは、依然、
定の指示が出されていたが、7 月 27 日の総理の講演では、「事業規模 28 兆
企業の想定以上の
円・財政措置 13 兆円」とする方針が示され、当初の市場の予想よりも「大
円高水準に。
型」になる可能性がある。金融政策については、政府の財政出動に返済不要
の資金を提供する「ヘリコプターマネー」政策の議論が出る中、7 月 28~
嶋中 雄二
景気循環研究所長
鹿野 達史
景気循環研究所副所長
29 日の金融政策決定会合で追加金融緩和が決定されるとの見方が多い。
●引き続き、円高による収益下振れ、景気下押しが懸念される状況。
ただ、7 月中旬以降、円安方向の動きをみせている円レートも、足元で 1
シニアエコノミスト
03-6627-5131
ドル=104~105 円台で推移しており、年初と比べれば、13%程度の円高
shikano-tatsushi1@
sc.mufg.jp
で、企業の想定を上回る円高水準にある(6 月の日銀短観では、16 年度上期
宮嵜
浩
の企業の想定円レートは、全規模・全産業で 1 ドル=112.18 円)。
4 月の本欄(「鹿野達史の日本経済の視点:円高回避に望まれる政策対
シニアエコノミスト
03-6627-5132
応。その他の収益環境は良好に。」16 年 4 月 11 日号)でも示した通り、企業
miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp
の想定を上回る円高進行は企業収益の下振れにつながっているケースが
圭亮
多く(図 1)、慎重な企業の収益見通し(6 月の日銀短観の 16 年度上期の経常
シニアエコノミスト
03-6627-5133
利益見通しは、全規模・全産業で前年比 13.9%減)から、さらに下振れる可
福田
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
景気循環研究所
能性がある。ブレグジット・ショックによる円高は解消されたものの、ショ
ック以前にも円高が進行しており、引き続き収益下振れ、景気下押しが懸
念される状況にあるといえる。
東京都千代田区大手町 1-9-2
大手町フィナンシャルシティ
グランキューブ
1
2016 年 7 月 28 日
図 1.
円レートと経常利益見通しの修正率の推移(全規模・全産業)
(%)
(%)
10
上方修正
5
↑
↓
0
-18
-16
-14
-12
-10
-8
-6
-4 想定レー ト
-2 よ り円安
0
↑
2
↓
4
想定レー ト
6
よ り円高
8
10
12
14
経常利益見通しの
修正率(左目盛)
下方修正
-5
-10
円レートの想定からの乖離
(1期先行・右逆目盛)
-15
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
17 (年、四半期)
(注)四半期。経常利益見通しの修正率は各当該半期の修正率、3期平均で直近は16年3、6月調査の平均。
円レートの想定からの乖離は各期の前期調査に対する乖離率、3期平均で直近は16年2Q、7月値をもとに算出。
(資料)日銀「短観」、日本経済新聞社資料などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
●マネー拡大の勢いが弱まっている。望まれる量的金融緩和の拡大。
マネー拡大の勢い
ブレグジット・ショック前までの円高進行については、米国の利上げペ
が落ちる中、円高
ースが、当初みられていたよりも緩やかなものにとどまっていることが大
が進行し、株価も
きいが、国内では、マネーの拡大の勢いが弱まっていることも重要だ。マネ
弱めの推移に。
タリーベースの伸びの鈍化が続く中、マネタリーベースの名目GDP比
は、16 年春以降、低下傾向となっている。
マネタリーベースの名目GDP比をトレンド除去したベースでみると、
月次では、16 年 3 月以降、水準を下げ、四半期ベースでは、4~6 月期、7~9
月期(7 月)と低下しており、こうした状況の下、円高が進行し、株価も弱め
の推移となっている(図 2、3)。
図 2.
ドル円レートとマネタリーベースの推移
(トレント゛=100)
(円/ドル)
134
ドル円レート(右目盛)
102.0
130
126
101.5
122
118
101.0
114
110
100.5
106
102
100.0
98
94
99.5
マネタリーベース/名目GDP
トレント゛除去後(左目盛)
99.0
13/10
14/4
14/10
15/4
15/10
90
86
16/4
(年、月次・日次)
(注)マネタリーベースのGDP比は月次、日本経済研究センターの月次GDPなどをもとに推計、GDPの
直近は当研究所予測、1994年以降のデータをもとにトレンドを推計、円レートは日次。
(資料)日本銀行、日本経済研究センター、日本経済新聞資料などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー
証券景気循環研究所作成
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当確性、完全性を保証するものではなく、利用に際してはお客様ご自身でご判
断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
2
2016 年 7 月 28 日
図 3.
日経平均株価とマネタリーベースの推移
(トレント゛=100)
(円)
22000
マネタリーベース/名目GDP
トレント゛除去後(左目盛)
102.5
102.0
20000
101.5
18000
101.0
100.5
16000
100.0
14000
99.5
日経平均株価(右目盛)
99.0
12000
13/7
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
16/7
(年、月次・日次)
(注)マネタリーベースのGDP比は月次、日本経済研究センターの月次GDPなどをもとに推計、GDPの
直近は当研究所予測、1994年以降のデータをもとにトレンドを推計、株価は日次。
(資料)日本銀行、日本経済研究センター、日本経済新聞資料などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー
証券景気循環研究所作成
量的拡大を伴わな
金融緩和の効果については、緩和を受け、円安・株高・金利低下が進み、
い金融緩和となっ
企業収益の拡大がもたらされ、企業部門を中心に支出が拡大し、さらに、雇
たマイナス金利導
用・所得環境が改善に向かい、一段の需要拡大に結び付く好循環が進むこ
入後、金融市場は
とが期待されてきた。過去をみると、マネタリーベースの拡大に遅れて、雇
不安定な動きに。
用者数の増加がみられ、足元でも、雇用の改善が続いている(図 4)。一定の
効果は上げているといえるが、14 年 4 月の消費税率引き上げや天候要因な
どもあり、雇用・所得環境の改善の一方、個人消費は力強さを欠いている。
こうした中、マネータリーベースの鈍化が続くことになれば、円高から
株価が下押しされ、好循環のメカニズムが弱まり、物価に対してもマイナ
スの影響が出てくる懸念がある。16 年 1 月のマイナス金利導入は量的拡大
を伴わない金融緩和となったが、その後の展開は、結果として、為替、株式
相場などが不安定な動きとなった。量的金融緩和の拡大が望まれる。
(トレント゛=100)
図 4. 雇用者数とマネタリーベースの推移
(トレント゛=100)
120
103.0
マネタリーベース/名目GDP
トレント゛除去後・2年先行(左目盛)
115
102.0
雇用者数
トレント゛除去後
(右目盛)
110
102.5
101.5
101.0
105
100.5
100
100.0
99.5
95
99.0
98.5
90
76
80
84
88
92
96
00
04
08
12
16
(年、四半期)
(注)四半期ベース。GDPの直近は当研究所予測、1976年以降のデータをもとにトレンドを推計。
(資料)総務省、日本銀行、内閣府資料などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
(16.7.28
(以 上)
鹿野 達史)
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2016 年 7 月 28 日
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