Economic Indicators 定例経済指標レポート

Market Flash
利上げに耐えられる?
2016年7月22日(金)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・6月米中古住宅販売件数は前月比+1.1%、557万件と市場予想(548万件)を上回った。これは2007年2月
以来の最高水準である。戸建て住宅が+1.9%と3ヶ月連続で増加したほか、集合住宅も+1.6%と堅調。
先行指標の中古住宅販売成約指数の上昇と整合的で、最近のMBAモーゲージ申請指数の増加基調等に鑑
みると7月も増加が予想される。
・7月フィラデルフィア連銀製造業景況指数は▲2.9と市場予想(+4.5)に反してマイナス転化。もっとも、
ISM換算では51.4へと6月の46.6から強く反発。内訳をみても出荷(▲2.1→+6.3)、新規受注(▲3.0
→+11.8)が共に力強く反発しており、内容も良い。NY連銀指数とフィリー指数をISM換算したうえ
で合成した指数は50.1と4ヶ月ぶりに50を回復。
中古住宅販売件数・販売成約指数
千
(百万)
6
60
販売成約指数(右)
5.5
4.5
ISM
110
5
中古住宅販売件数
ISM指数・連銀サーベイ
55
100
50
90
45
80
40
70
35
4
フィリー・NY平均
3.5
3
10
11
12
13
14
15
07 08 09 10 11 12 13
(備考)Thomson Reutersにより作成
16
(備考)Thomson Reutersにより作成 3ヶ月平均
14
15
16
・米CB景気先行指数は前月比+0.3%と2ヶ月ぶりに改善。6ヶ月前比年率でみたモメンタムは14年11月を
ピークにその後は一貫して低下、足もとでは+0.3%に落ち込んでいたが、ここへきて漸く下げ止まりの兆
しが見えてきた。
・新規失業保険申請件数は25.3万件と前週から一段と減少。4週移動平均は今次サイクルの最低を更新し、
43年ぶりの低水準に比肩。雇用統計NFPが再び急減速する可能性は低そうだ。
・6月英小売売上高(除くガソリン)は前月比▲0.9%と市場予想(▲0.6%)を下回ったものの、均してみ
れば増加基調にあり、3ヶ月前比年率では+7.0%と好調なモメンタムを維持している。もっとも、先行き
はBREXIT後のサーベイ指標で消費者マインドの悪化が確認されている。実際の消費行動にどのような影響
を与えたか注視する必要があろう。
(%)
12
CB景気先行指数(6ヶ月前比年率)
12
10
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
-10
10
8
6
4
2
0
10
11
12
13
(備考)Thomson Reutersにより作成
14
15
英
小売売上高
(3ヶ月前比年率、%)
10
11
12
13
14
15
(備考)Thomson Reutersにより作成 細線:除くガソリン
16
16
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は10日ぶりに反落。9日続伸した後とあって、さすがに利益確定売りが優勢に。米指標は概
ね好調だったが、ドラギ総裁の会見にサプライズもなく買い材料が途絶えた。WTI原油は44.75㌦(▲
1.00㌦)で引け。
・前日のG10 通貨はJPYの強さが目立った以外に大きな動きはなかった。JPYは黒田総裁がヘリマネを明確に
否定したことを受けてUSD/JPYは107前半から105半ばへと急落。ECB理事会では総裁会見のトーンが予想さ
れたほどハト派ではなく、EURを中心に欧州通貨が小幅に買われた。
・前日の米10年金利は1.556%(▲2.4bp)で引け。株安・原油安を横目に金利低下。欧州債は総じて堅調。
英国(0.834%、▲0.1bp)、ドイツ(▲0.017%、▲0.6bp)が小幅に金利低下となった一方、イタリア
(1.245%、+0.4bp)が小幅に金利上昇、スペイン(1.124%、▲3.3bp)、ポルトガル(3.053%、▲
1.9bp)は金利低下。3ヶ国加重平均の対独スプレッドはタイトニング。ドラギ総裁は追加緩和に関して一
切のヒントを与えなかった印象。
【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】
・日本株は米株安に追随して安寄り後、もみ合い。
・昨日のECB理事会では大方の予想どおり金融政策の現状維持が決定され、主要政策金利は以下のとおり
据え置かれた。政策金利+0.0%、限界貸出金利+0.25%、中銀預金金利▲0.40%。QEも現行パッケージ
に変更は加えられず、毎月の購入額は800億ユーロ、期間は2017年3月末までとされた。総裁会見は予想さ
れたほどハト派的なトーンではなく、追加緩和に関するヒントは得られなかった。エコノミスト予想は9
月理事会でのQE延長が基本路線だが、このまま金融市場が安定を維持すれば、12月理事会に先送りされ
る可能性が高まる。
・昨日、黒田総裁は英BBCラジオに対するインタビューで「我々には非常に強力な政策の枠組みがあり、
必要な場合、日本で金融状況をさらに緩和する上で大きな制約は全くないと考えている」としたうえで、
「ヘリコプターマネーの必要も可能性もない」と明言。それを受けてUSD/JPYは直後の数十分で107前半か
ら105半ばまで急落した。筆者は7/19付け当レポートで、黒田総裁が7月29日の会見でヘリコプターマネー
の可能性を明確に否定し、ヘリマネ観測が急速に萎むことに注意を促していたが、昨日は早くもそのリス
クが実現のものとなった。総裁がヘリマネを否定した際の反応に引き続き注意したい。
・足もとでは、米国株が史上最高値を更新、日本株や欧州株もBREXIT前の水準を完全に取り戻すなど、グロ
ーバルリスクオンが進行中。金融市場が織り込むFEDの年内利上げ確率は45.3%へと上昇し、利下げ確
率は0.0%に戻った。背景としては、BREXITの初期反応一巡、G4中銀への政策期待、予想比で好調な米経
済が挙げられる。直近ではISM指数、雇用統計、小売売上高、鉱工業生産、住宅指標が軒並み市場予想
を上振れて着地するなど、ほぼ全勝状態。エコノミック・サプライズ指数は約1年半ぶりの高水準に達し、
アトランタ連銀算出のGDPNOWは前期比年率+2.4%まで伸びを高め、1Qの+1.1%から明確に反発。
・こうした米経済の堅調地合が続けば、9月FOMCにおける追加利上げの可能性が高まりそうだが、筆者はそ
れがUSD高を通じて原油安、新興国不安、米企業収益への打撃を惹起するとの警戒を維持。足もとの世界経
済が、FEDの緩和姿勢およびそれを映じたUSD安(新興国通貨高、コモディティ高)に支えられているこ
とを再確認する必要があるだろう。FEDの利上げに耐えられるほど世界経済、米国経済は強くないとの
見方を維持する。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2
(%)
アトランタ連銀 GDPNow
80
5.0
エコノミックサプライズ指数(米国)
60
40
4.0
20
0
3.0
-20
2.0
-40
-60
1.0
-80
-100
13
14
(備考)Thomson Reutersにより作成
0.0
13
14
15
16
15
16
(出所)アトランタ連銀
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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