講義ノート(最終版)

力学 I (’16 年度版)
(到達目標)
物体の運動の基本法則を学びます。第 1 段階では 1 次元、すなわち 1 方
向だけの運動に集中して、運動の基本法則を理解します。第 2 段階とし
て、実際の 3 次元での運動法則を学び、惑星の運行などの中心力の場合に
応用します。実験を通じて、楽しみながら実際の力学現象に親しみます。
(スケジュール)
1. 力学とは。位置、速度、加速度
2. 運動法則 3. 一定の力の下での運動
4. 調和振動 (単振動)
5. 減衰振動
6. 慣性力
7. エネルギー保存則
8. 重力によるポテンシャルと脱出速度
9. 運動量保存則
10. 角運動量保存則
11. 2体問題と重心運動、相対運動
12. 角運動量保存と面積速度
13. ケプラー問題 (参考書等)
「コアテキスト 力学」青木健一郎著 サイエンス社 (主に参考にした)
「力学 I」岡村浩著 丸善出版
「基礎力学」 中山正敏著 裳華房
「力学」川村清著 裳華房
「スタンダード 力学」河辺哲次著 裳華房
「力学とは何か」和田正信著 裳華房
「力学入門」窪田高弘著 培風館
2
「基礎からはじめる力学」永田一清著 培風館
「身近に学ぶ力学入門」伊東敏雄著 学術図書出版社
「理工系物理学講義」加藤潔著 培風館
そのほか必要に応じて紹介します。
(成績評価方法)
平常点 (授業・実験への出席・参加状況、ミニレポート提出状況) と期末
テストにより総合的に評価する。
(ホームページ)
講義ノート、期末レポート問題等は、林の個人 HP の「講義内容」
http://lab.twcu.ac.jp/lim/sub4.html の所に、また休講等の急なアナウンスは個人 HP の「トップページ」
http://lab.twcu.ac.jp/lim/index.html
に掲示するので活用して下さい。 3
5
第1章
1.1
力学とは。位置、速度、
加速度
力学とは
力学とは、物体に働く力と物体の運動の関係を明らかにすること。重
力、電磁気力等あらゆる力に適用可能であり、物理学の全ての分野の基礎。
ここで扱うのはニュートンによって完成された「ニュートンの法則」に
基づく
「ニュートン力学」。 ニュートン力学の適用限界 古典物理であるニュートン力学は、日常
的現象を扱うのには問題ないが、次の様な場合には厳密には適用できず
現代物理学にとって替わられる: ・ミクロの世界: 量子力学が必要。 ・光速度 c = 3 × 108 (m/s) に近い速さで運動する場合: 相対性理論が
必要 1.2
位置、速度、加速度
まず、簡単のために、直線に沿った (1 次元的) 運動を考えよう。
例えば x 軸に沿った運動を想定すると、物体、正確には質点(質量を持
つが大きさが無視できる理想化された物体)の時刻 t での位置は、その時
の x 座標 x(t) で与えられる。横軸に t を、縦軸に x(t) をとった、“x-t” 図
を描くと、一般に運動は曲線で表される。等速直線運動の場合には、x-t
図は直線になり、明らかに直線の傾きがその速度を与える。一般の運動
の場合には、 時刻 t の瞬間には、その時刻での曲線の接線に沿って運動
していると考えられるので、時刻 t での瞬間的な速度 v(t) は接線の傾き、
第 1 章 力学とは。位置、速度、加速度
6
つまり微分
dx(t)
= ẋ(t)
(1.1)
dt
で与えられる。ここで、ẋ は x の t による “時間微分”を表す物理特有の
表記法である。
尚、「速度」v(t) は正負いずれも採り得て
・v(t) > 0: x 軸の方向の運動
・v(t) < 0: x 軸と反対の方向の運動
を表す。つまり速度は方向も表すが、これに対し「速さ」は常に正であり
|v(t)| で与えられる。より一般的な 3 次元的運動では、「速度」はベクト
ル ~v (t) であり、今考えている速度は、その x 成分に当たる。「速さ」は、
速度ベクトルの大きさ |~v (t)| である。
同様に、加速度は、速度の瞬間的な変化率なので、時刻 t での加速度
a(t) は、v(t) の微分 v(t) =
a(t) =
dv(t)
= v̇(t) = ẍ(t)
dt
(1.2)
で与えられる。ここで ẍ は x の t に関する 2 階微分の意。
例題 2.1 次の二つの場合に、速度と加速度を求めなさい:
(a) x(t) = 2t2
(b) x(t) = A sin(ωt) (A, ω : 定数) (1.3)
解 (a) については、順次 t で微分して v(t) = 4t, a(t) = 4
(1.4)
と求まる。a(t) = 4 で定数なので、これは
「等加速度運動」である事が分かる。
(b) については、合成関数の微分のやり方を用いると v(t) = Aω cos(ωt), a(t) = −Aω 2 sin(ωt)
(1.5)
となる。この場合
a = −ω 2 x
(1.6)
1.2. 位置、速度、加速度
7
の関係があることに注意。この運動は、後に議論する「単振動」
(調和振
動子の運動)に相当する。
(a), (b) それぞれの場合に、位置、速度、加速度を t の関数としてグラ
フに描くと参考書 (青木 著) の図 1.2 のようになる。 2
一般的な 3 次元的運動の場合には、物体の位置は、原点からその点に向
かうベクトル、つまり位置ベクトル ~r(t) = (x(t), y(t), z(t)) で表される。
(x(t), y(t), z(t)) はその点の座標に他ならない。尚、大学では、ベクトル
の成分を縦に並べた、“縦ベクトル”で表すことも多い。例えば 

x(t)


~r(t) =  y(t) 
z(t)
(1.7)
1 次元の時と同様に、速度は位置ベクトルの時間的変化率、つまり t に
関する微分で与えられ、やはりベクトル量になる: d~r
= ~r˙
dt
~v (t) =
(1.8)
具体的には、位置ベクトルの微分は d~r
dt
∆~r
~r(t + ∆t) − ~r(t)
= lim
∆t→0 ∆t
∆t→0
∆t
x(t + ∆t) − x(t) y(t + ∆t) − y(t) z(t + ∆t) − z(t)
= lim (
,
,
)
∆t→0
∆t
∆t
∆t
dx dy dz
=( , , )
(1.9)
dt dt dt
= lim
で与えられる。速度の各成分を ~v = (vx , vy , vz ) と書くと
vx =
dx
dy
dz
= ẋ, vy =
= ẏ, vz =
= ż
dt
dt
dt
(1.10)
つまり
ベクトルの微分 = 各成分の部分 である。速度ベクトルの大きさ v = |~v | =
が、物体の速さに他ならない。
q
vx2 + vy2 + vz2
(1.11)
第 1 章 力学とは。位置、速度、加速度
8
加速度も同様にベクトル量であり d~v
= ~v˙
dt
dvx
dvy
dvz
ax =
, ay =
, az =
dt
dt
dt
~a =
(1.12)
位置ベクトルを用いて書くと d2~r ¨
= ~r
dt2
d2 x
d2 y
d2 z
a x = 2 , ay = 2 , az = 2
dt
dt
dt
~a =
(1.13)
となる。
1次元の時の式(1.1)、
(1.2)は、ベクトルの x 成分のみを書いたもの
と思えば良い。 例題 2.2 x − y 平面 (z = 0) の上で、原点を中心とし、半径 r の円周を、
角速度 ω で回転する、
「等速円運動」を考える。平面上なので位置ベクト
ル等を ~r = (x, y) の様に 2 次元のベクトルで表すと、位置ベクトルは
~r = (x, y) = (r cos(ωt), r sin(ωt)) (1.14)
と表される。この時、速度ベクトルの方向と大きさを論じなさい。 解 速度ベクトルは、成分 x, y をそれぞれ t で微分して ~v = (−rω sin(ωt), rω cos(ωt))
(1.15)
と求まる。明らかに ~r · ~v = 0 なので、速度は円の接線方向を向くことが
分かる。また、速度ベクトルの大きさ、即ち速さは
v = |~v | =
と求まる。
q
(−rω sin(ωt))2 + (rω cos(ωt))2 = rω
(1.16)
2 9
第2章
運動法則
ニュートン力学では
「ニュートンの法則」
と呼ばれる 3 つの運動法則に基づいて全てのものが導かれる。
2.1
ニュートンの法則
ニュートンの法則は以下の通りである (第 1 法則∼第 3 法則): I (慣性の法則)
力が加わっていない物体は等速直線運動を続ける。
II (運動方程式)
~ = m~a
F
(F~ : 物体に働く力、m, ~a : 物体の質量, 加速度) (2.1)
III(作用・反作用の法則)
~ を物体 B に加える時、物体 A は物体 B より逆向
物体 A が力(作用)F
~ を受ける。作用、反作用の力は A, B
きで大きさが同じ力(反作用)−F
を結ぶ直線上で働く。
2.2
各法則に関するコメント
これらの法則について、少しコメントしよう。
~ = ~0 なら加速
まず「慣性の法則」についてであるが、第 2 法則より F
度はゼロ、即ち等速直線運動となる事が言えるので、一見慣性の法則は
第 2 法則に含まれる様に思える。第 1 法則の本当の意味は、観測者とし
て、この「慣性の法則」が成り立つ様な観測者、即ち
「慣性系」
第2章
10
運動法則
を想定しなさい。すると、慣性系から見ると第 2 法則が成立します、と
いうことなのである。例えば、地上に静止した自動車には力は働いてい
ない (重力と抗力が打ち消す)。地上に静止した観測者 A、あるいはこれ
に対して等速直線運動する加速度ゼロの観測者 B から見ると、自動車は
静止して (A)、あるいは(自分と逆向きに)等速直線運動して (B) いる様
に見えるので、A, B は慣性系である。これに対して、加速度を持って運
動している観測者 C から見ると、地上に静止した自動車は(自分と逆向
きの加速度で)加速運動している様に見えるので、観測者 C は慣性系で
~ = ~0 なのに、自動車の
はない。また、C から見ると、自動車に働く力 F
加速度 ~a はゼロでなく、第 2 法則も成り立っていないことが分かる。後に
議論する様に、こうした加速度を持って運動する観測者(“加速度系”と
も呼ばれる)から見ると、物体には見かけの力である “慣性力”が働いて
いる様に見える。尚、この様に「系」というのは、観測者の事を表して
いる(観測者は自分を原点とする座標系を用いて物体の位置を観測する
ので)。 所で、実際には、地上に静止した観測者は厳密には「慣性系」ではな
い。それは、地球は自転、公転をしているからであるが、地球の運動に
よる加速度は小さいので、近似的には地表に静止した観測者は慣性系と
見なしてよい。
第 2 法則の運動方程式は力学の最も重要な法則であり、力が働くと、そ
F
の方向に加速度(速度の変化)が生じる事を言っている。また a = m
(F =
|F~ |, a = |~a|) より、同じ力を加えても質量が大きいとあまり加速しない
ことを言っている。つまり
「質量とは加速され難さ」
を表しているのである。
~ = (Fx , Fy , Fz ) の様に 3 つの成分(要素)で書くと、
力のベクトルを F
(1.13) より
d2 x d2 y d2 z
F~ = m~a : (Fx , Fy , Fz ) = m( 2 , 2 , 2 )
dt dt dt
d2 x
d2 y
d2 z
→ Fx = m 2 , Fy = m 2 , Fz = m 2 ,
dt
dt
dt
の様に、各成分毎の運動方程式に分解できる。 (2.2)
2.3. 万有引力
2.3
11
万有引力
力には様々なものがあるが、ここでは代表例の一つとして、質量を持っ
た全ての物体どうしに働く
「万有引力」
について考える。地上の物体に働く重力は、地球と物体との間の万有引
力に他ならない。この引力は, 地球と月、あるいは太陽と惑星の間にも普
遍的に働く力なので「万有」なのである。 ニュートンに依れば、一般に
質量 M, m の二つの物体 A, B が、距離 r 離れて存在する時、両者の間
には
Mm
F =G 2
(2.3)
r
の大きさの引力が働く。ここで
G = 6.67 × 10−11 (m3 /(kg · s2 ))
(2.4)
は「重力定数」、あるいは「万有引力定数」と呼ばれる。作用・反作用の
法則により、ベクトルで表すと、例えば A が B から受ける引力は Mm
F~ = −G 2 ~r̂
r
(2.5)
と書ける。ここで ~r̂ は B から A の方向に向かう単位ベクトルで、~r (B か
ら A に向かう “(位置)”ベクトル) を用いて ~r̂ = ~rr (r = |~r|) と書ける。 地表での重力 地表では、物体は重力を受けて鉛直下向きに落下するが、
(空気抵抗を
無視すると)その加速度の大きさは全ての “落体”について同じで、ほぼ
9.8 m/s2 である。これを g と表し、重力加速度と呼ぶ: g = 9.8 m/s2: 重力加速度.
(2.6)
よって、質量 m の物体が受ける鉛直下向きの重力の大きさは (F = ma
において a を g として)
mg
(2.7)
となる。
この地表で物体が受ける重力の正体は、“あたかも”地球の全質量が地
球の中心に集中したと考えた時に物体が受ける万有引力に等しい(説明
第2章
12
運動法則
しないが、これは電磁気学で登場する “ガウスの法則”を用いて示すこと
が出来る)。よって、地表近くの質量 m の物体を考えると、運動方程式
(2.1) より F = ma (F = |F~ |, a = |~a|) なので F = ma → G
ME
ME m
=
mg
→
g
=
G
2
2
RE
RE
(2.8)
の様に g を地球の質量 ME と半径 RE を用いて表すことが出来る。
例題 3.1 万有引力に関する以下の小問に答えなさい。
(1) (2.8) において ME , RE に実際の値を代入し g を計算しなさい。
(2) 月の表面での重力加速度は地表での重力加速度の何倍になるか求めな
さい。 (3) 物体の地表からの高度が高くなると重力、従って重力加速度は小さ
くなる。富士山の山頂での重力加速度は地表に比べて何 % 小さくなるか
答えなさい。
解 (1) (2.8) に ME = 6.0 × 1024 (kg)、RE = 6.4 × 106 (m) を代入すると
g = 9.8 (m/s2 ) が得られる。
(2) 月の表面での重力加速度は地表での重力加速度の
M
(G M
)
R2
M
E
(G M
2 )
RE
=
1
M M RE 2
(
) = 0.17 '
ME RM
6
倍になる。ここで MM = 7.3 × 1022 (kg), RM = 1.7 × 106 (m) は月の質
量と半径。 (3) 重力加速度は、地球の中心からの距離の 2 乗に反比例して小さく成る
ので (逆 2 乗則)、富士山頂での重力加速度は地表での重力加速度の
2
3.8 × 103
RE
3.8 × 103 −2
)
'
1−2×
= 1−1.2×10−3 .
=
(1+
(RE + 3.8 × 103 )2
RE
RE
よって、富士山頂での重力加速度は、地表の場合の 0.1 % ほど小さくなる。
2
13
第3章
一定の力の下での運動
いよいよ物体に働く力が分かった時に、ニュートンの法則、特に「運
動方程式」を用いて物体の運動を求めることを学ぶ。尚、ここから「質
点」という言い方が頻繁に現れるが、これは質量を持つが大きさの無視
できる(点の様に扱える)理想化された物体を表す。これは、大きさの
在る現実的物体(“剛体”等)の運動は複雑なので、議論を単純化するた
めである。
この章では、最も簡単な場合として、一定の(時刻、場所に依らない)
力が質点に働く場合の運動を考える。
3.1
一定重力下の運動
一定の力の身近な例として日常経験する重力を採り上げよう。地表近
くでは、質量 m の質点に働く重力は(ほぼ)一定と見なして良い。重力
は鉛直下向きに働くので、鉛直上向きに z 軸を採ると、質点の運動は z
軸(および初速度ベクトル)を含む平面内で起きる。この平面で水平方
向に x 軸を採ることにする。(2.2) に見られる様に z, x 軸方向のそれぞ
れに関して運動方程式をたてることが出来る。
~ = (0, 0, −mg) と書ける。まず z 軸方向
質量 m の質点に働く重力は F
の運動を考えると、Fz = −mg なので (2.2) より d2 z
−mg = m 2
dt
→
d2 z
= −g.
dt2
(3.1)
2
これは z に関する微分方程式である。微分の逆演算は積分なので, ddt2z を
2 回不定積分すれば z(t) 即ち z 方向の運動が決まることに成る。この様
に
力学の主題: 微分方程式を解くこと 第3章
14
一定の力の下での運動
と言える。さて、(3.1) を不定積分すると z 方向の速度成分が
dz Z d2 z
vz =
=
dt = −gt + v0z
dt
dt2
(3.2)
と求まる。ここで v0z は積分定数(任意定数) であるが、vz (0) = v0z な
ので t = 0 の時の z 軸方向の “初速度”という物理的意味がある。よって、
実際の運動においては初速度が与えられると vz は完全に決定される。同
様に、もう一度不定積分すると
Z
z=
dz
1
dt = − gt2 + v0z t
dt
2
(3.3)
となる。ただし、ここでも z0 の様な t = 0 における z 座標、すなわち “
初期位置”が積分定数として一般にあるが、初期位置を原点に採ることに
より(これはいつでも可能)(3.3) のように決定される。
この様に、運動方程式は 2 階の微分方程式なので 「二つの「初期条件」を与えると運動が決定される」
事になる。 一方、x 軸方向には力は働かず (Fx = 0)、明らかに等速運動をするので
x = v0x t
(3.4)
となる。ここで v0x は x 軸方向の初速度である。
モンキー・ハンティング
(3.3)、(3.4) から t を消去すると放物線の方程式が得られる(各自チェッ
クしてみる)。よって重力下の物体の運動は「放物運動」と呼ばれる。放
物運動の例として、以下の例題の様な
「モンキー・ハンティング」
の問題を考えてみよう。 例題 4.1 地面に置かれた銃で、銃から水平に l だけ離れた高さ h の木の
上のサルを狙うとする。銃から(コルクの)弾丸が放たれた瞬間にサル
は木から落ちるものとする。この時、弾丸がサルに命中するかどうか論
じなさい。ただし、弾丸の速さは十分に速く途中で地面に落下すること
はないものとする。 解 銃の位置を座標の原点にとると、弾丸が放たれて t(s) 後の弾丸の位置
座標は、弾丸の初速を v0 、仰角を θ として
1
xb = v0 cos θ t, zb = v0 sin θ t − gt2
2
(3.5)
3.1. 一定重力下の運動
15
となる。一方、サルの t(s) 後の位置座標は
1
xm = l, zm = h − gt2
2
(3.6)
となる。弾丸が命中する条件は xb = xm , zb = zm が成立することである。
l
xb = xm より t = v0 cos
となり、これを zb = zm に代入すると θ
l tan θ = h
(3.7)
が条件となるが、これは銃がサルを狙う時に当然満たされる関係式であ
る。よって、弾丸の速さに依らず、サルを狙う限り銃弾は必ずサルに当
たることになる。 2
このモンキー・ハンティングの問題は、少し見方を変えると、自明の
問題となり、計算をしないでも容易に理解できる。
(3.5)より、時刻 t で
の弾丸の x, z 座標は
1
(x, z) = (v0 cos θ t, v0 sin θ t − gt2 )
2
1
= (v0 cos θ t, v0 sin θ t) + (0, − gt2 )
2
(3.8)
と書ける。つまり、弾丸はあたかも重力が存在しない(無重力)とした
場合の位置から 12 gt2 だけ自由落下したと見なせるのである。仮に重力が
無ければ弾丸は必ず木の上のサルの位置に到達する。実際には、その位
置から自由落下分だけ下がった位置に到達するが、サルの方もその間木
の上の位置から同じだけ自由落下しているので、弾丸とサルの位置は同
じになり、弾丸は必ず命中することなるのである。
更に別の見方をすると、自由落下するサルは自由落下するエレベーター
同様に(慣性系ではなく)「加速度系」なので、後で議論する「慣性力」
のために、サルから見ると世界は無重力状態にある様に見える。よって
自分を狙って放たれた弾丸は落下することなく直進して来るので、当然
自分に当たることになるのである。
17
第4章
調和振動(単振動)
滑らかな台の上で、一端が固定されたばねに物体(質点と考える。質
量 m)が取り付けられた場合の物体の運動を考える。この運動を
「調和振動 or 単振動」
と言い、振動する物体を
「調和振動子(harmonic oscillator)」
と言う。振動方向に x 軸をとり、ばねが自然長の時(物体に力が働いて
いない時)の位置を x = 0 とする。ばねからは “変位”x に比例した大き
さの “復元力”が働く: F = −kx (k : ばね定数).
(4.1)
これを “フックの法則” と言う。すると F = ma より、解くべき微分方程
式は k
d2 x
k
−kx = mẍ → ẍ = − x ( 2 = − x)
(4.2)
m
dt
m
となる。
(4.2) は 2 階の微分方程式であるが、(3.1)を解いた時の様に、単純に
2 回不定積分をして
「一般解 (全ての解を網羅した一般的な解)」
を求めることは出来ない。しかし、
「特殊解(微分方程式を満たす特別な解)」
を容易に見つけることが出来る。
2 階微分した時に (符号を変えて) 自分自身に比例する関数としては sin
や cos 関数が思い浮かぶ。実際、 x = sin(ωt)
とすると
k
ω2 =
m
(4.3)
s
→ ω=
k
m
(4.4)
第4章
18
調和振動(単振動)
であれば (4.2) の解であることが分かる。ω は “角振動数”(角速度)と呼ば
れる。 sin でなくても cos 関数でも同様のハズである。実際、x = cos(ωt)
としても解になることが容易に分かる。
こうして、二つの特殊解が見つかったことになるが、(4.2) は x につい
て一次式の “線型の微分方程式”なので、特殊解の線形結合
x = a sin(ωt) + b cos(ωt)
(4.5)
もまた解となることが容易に分かる。つまり、(4.2) は
(
d2
k
+ )x = 0
2
dt
m
(4.6)
と書けるが、これに (4.5) を代入すると
d2
k
+ )[a sin(ωt) + b cos(ωt)]
2
dt
m
d2
k
d2
k
= a( 2 + ) sin(ωt) + b( 2 + ) cos(ωt)
dt
m
dt
m
=a×0+b×0=0
(
(4.7)
となる。(4.5) を “三角関数の合成”を用いて
x = A sin(ωt + ϕ) (A =
√
b
a2 + b2 , tan ϕ = )
a
(4.8)
と書くことが出来る。ここで A は |x| の最大値になるので、振動の “振幅”
であり、また、ϕ は t = 0 での sin 関数の中身の角度なので “初期位相”
と呼ばれる。(4.8) は二つの任意定数(積分定数)A, ϕ を含んでいるが、
以前議論したように、2 階の微分方程式の一般的な解は 2 個の任意定数を
含むはずである。つまり、(4.8) は(4.2)の一般解なのである。
ここで学んだ重要な教訓として、
「二つの特殊解を見つければ、それらの線形結合として一般解を構成す
ることが出来る」
ということが言えるのである。 例題 5.1 ばね定数 k のばねの先に取り付けられた質量 m の調和振動子が
ある。これに、自然長の位置で初速 v0 を与えた。その後の調和振動子の
変位 x(t) を求めなさい。
解 一般解 x(t) = A sin(ωt+ϕ) から速度を求めると v(t) = Aω cos(ωt+ϕ)。
t = 0 における初期条件を課すと x(0) = 0 → A sin ϕ = 0, v(0) =
19
v0 → Aω cos ϕ = v0 . これから、ϕ =q0, A =
v0
ω
と決まる。よって
k
x(t) = vω0 sin(ωt) と求まる。ただし ω = m
。 2
なお、調和振動の周期、即ち一往復するのに要する時間 T は (4.8)、(4.4)
より
r
2π
m
T =
= 2π
(4.9)
ω
k
で与えられる。k が大きく、従ってばねが強くなると T は小さくなるが、
これはばねが強くなると速く振動することを言っていて、直感的にも理
解出来る。
21
第5章
減衰振動
台の上に置かれた調和振動子の振動は、実際にはずっと振動するの
ではなく、次第に振動が弱まり(振幅が小さく成り)最後静止してしま
う。これは、空気抵抗や、台からの摩擦力といった運動を妨げる抵抗力
を受けるからである。ここでは、こうした減衰する調和振動、即ち
「減衰振動」
を考えよう。抵抗力には色々なタイプがあるが、ここでは、物体の運動
方向と逆向きで速さに比例した抵抗力
−γv = −γ ẋ (γ : 定数)
(5.1)
を受けて振動する調和振動子の運動を考える。(速さの 2 乗に比例する大
きさの抵抗力を想定する場合もある。) 運動方程式は s
−mω 2 x − γ ẋ = mẍ → mẍ + γ ẋ + mω 2 x = 0 (ω =
k
)
m
(5.2)
となる。抵抗力の無い時の調和振動子の場合には、x = sin(ωt) あるいは
x = cos(ωt) という三角関数を予想して二つの特殊解を求めた。ここでも
これにならい、特殊解の形を
x = eiαt (α : 定数)
(5.3)
とおいて、これを微分方程式に代入して定数 α を決め、特殊解を求める
事にする。
一見 (5.3) は三角関数ではなく、また複素数でもあり奇異な感じがする
が、オイラーの公式より e±iθ = cos θ ± i sin θ ↔ cos θ =
eiθ − e−iθ
eiθ + e−iθ
, sin θ =
2
2i
(5.4)
なので、(5.3) は三角関数と関係しており実は同等の扱いになっている。
ではなぜ三角関数ではなく (5.3) を選んだかと言うと、指数関数だと一階
第5章
22
減衰振動
微分でも自分自身の定数倍に成るからである。そのために t に関する一
階微分を含む微分方程式 (5.2) は α に関する代数方程式(2 次方程式)に
焼き直され、簡単に解けることになる。 実際 (5.3) を(5.2)に代入すると (−mα2 + iγα + mω 2 )x = 0 → −mα2 + iγα + mω 2 = 0
(5.5)
という α に関する 2 次方程式が得られる。これを解くと s
γ2
iγ
α=
±ω 1−
2m
4m2 ω 2
(5.6)
となる。この二つの解を (5.3) の α に代入すると微分方程式の特殊解が二
つ得られる。よって一般解は、それら二つの特殊解の線形結合である q
γt
− 2m
iω
1−
γ2
t
4m2 ω 2
q
−iω
1−
γ2
t
4m2 ω 2
) (A+ , A− : 任意定数) (5.7)
で与えられる(A± は一般に複素数)。このままでも良いが、x は本来実
数(実関数)なので、(5.4) を用いて (5.7) の右辺の括弧の中を sin と cos
の線形結合の形に書き直すと
x=e
(A+ e
+ A− e
s
s
γ2
γ2
t)
+
b
cos(ω
1
−
t) (a, b : 定数)
a sin(ω 1 −
4m2 ω 2
4m2 ω 2
(5.8)
と書け、更に “三角関数の合成”を行うと、最終的に
s
x = Ce
γt
− 2m
sin(ω 1 −
γ2
t + ϕ)
4m2 ω 2
(5.9)
と成る。この解は二つの任意定数(積分定数)C, ϕ を含むので一般解に
なっている。C, ϕ は、調和振動子の場合と同様に、初期条件を与えると
決めることが出来る。当然であるが、γ = 0 とすると、前章で議論した調
和振動子の場合(4.8)と同等に成る (A の代わりに C となっているが)。
実際に、この解が質点のどの様な運動を記述しているか考察しよう。こ
こでは、簡単のために、γ < 2mω という抵抗力があまり大きくない場合
のみを考える。 q
2
この場合には、 1 − 4mγ2 ω2 は実数なので、質点は調和振動子の様に振
動する。ただし、調和振動子の時とは以下の様な相違点がある: 23
γt
・振幅が e− 2mqに比例してだんだんと小さく成る(“減衰振動”)。
2
・角振動数が ω 1 − 4mγ2 ω2 となり、抵抗が無い時の ω に比べて小さくなる。
なお、2mω < γ や 2mω = γ の場合については、ここでは扱わないが、
各自どの様な運動になるか考えてみよう。
25
第6章
慣性力
第 2 章「運動法則」の所で既に述べたように、加速度を持って運動する
~ = m~a は、そのままでは
観測者(“加速度系”)から見ると運動方程式 F
~ の他に見かけ
成り立たず、物体(観測している対象物)には、真の力 F
の力が働いているように見える。別の言い方をすれば、運動方程式を成
り立たせようとすると、そうした見かけの力である 「慣性力」
を考える必要がある、という事である。電車が急ブレーキをかけると、乗
客は運動方向に、この慣性力を受ける様に思えるが、これは「慣性の法
則」でそれまでの運動を継続しようとするために働く力のように思える。
これが慣性力の言葉の意味であるようだ。この章では、慣性力について、
少し掘り下げて考えてみよう。
6.1
回転しない加速度系
2 章で用いた、地上に静止する車 A (質量を m とする) を、加速する自
動車 O (観測者、observer) から見るという例を用いると、O から見ると
A は O の加速度 (~aO と書こう) と逆向きで同じ大きさの加速度、つまり
−~aO で運動している様に思える。つまり、A は静止しているので、本来
A には(真の)力は働いていないが、運動方程式を成り立たせようとす
ると、質量 m の物体に加速度 −~aO を生じさせる慣性力 m(−~aO ) = −m~aO
(6.1)
を考える必要がある。この様に、慣性力は、観測している対象物 (今の場
合 A) の質量に、観測者(加速度系、今の場合 O)の加速度の逆符号を掛
け算したものである。
もう一つ、エレベーターの例を考えよう。エレベーター内に居る観測
者 O がボール A (質量 m)を鉛直上向きに投げ、最高点に達した時に、
エレベーターを釣っているワイアーが切れ、エレベーターが自由落下を
第 6 章 慣性力
26
始めたとする。地上に静止している別の観測者 O’ から見れば、その後、
エレベーターもボールも単に自由落下するだけであり、t 秒間でどちら
も 12 gt2 だけ落下するので、ボールはエレベータの床に落下しないが何の
不思議もない。しかし、エレベーター内の O から見ると、ボールはエレ
ベータの床に落下せず、宙に浮いている様に見える。つまりエレベーター
内はあたかも “無重力状態” になった様に見える。これは、O が鉛直下向
きに g の大きさの加速度を持つ加速度系であるために、ボールには鉛直
上向きに mg の大きさの慣性力が働き、ボールに働く真の力である鉛直
下向きの重力(大きさ mg) を相殺する(打ち消す)からである、と考え
ることが出来る。
より一般的に、慣性力が(6.1)で与えられることを(少し数式を使っ
て)示すことが出来る。静止している慣性系から見た時の、観測される
物体 A の位置ベクトルを ~r、加速度系 O の位置ベクトルを ~rO としよう。
すると、O から見た時の A の “相対的な”位置を表す位置ベクトルは
~r − ~rO
(6.2)
と表される。これを時刻 t で 2 回微分し、物体 A の質量 m を掛けると m(~a − ~aO ) = F~ − m~aO
(6.3)
となる。ここで、~a, ~aO は、それぞれ慣性系から見た A および O の加
~ は A に働く真の力であり、慣性系において成立する運動方程式
速度、F
F~ = m~a を用いた。(6.3)が、加速度系 O から見た時に(運動方程式を
成り立たせようとする時に)A に働く力となる。こうして確かに、O か
~ の他に慣性力 −m~aO が働いている様に見えること
ら見ると、真の力 F
が分かる。
(N.B.) (6.2) の引き算は、慣性系から見た時の、O から A に引いたベク
トルの成分を表している。厳密には、上の議論では、慣性系と加速度系
O の持つ座標軸が(原点はずれているものの)互いに平行であり、その
ために O から見ても O から A に引いたベクトルの成分が変わらないこ
とを暗に仮定している。この後で議論する回転する加速度系(回転する
座標系)の場合には、もはやこの前提は成り立たないことに注意しよう。
6.2. 回転する加速度系
27
こうした慣性力の典型的な例として「遠心力」をとり上げよう。例え
ば、円形のカーブに沿って走る車の中の乗客からみると、誰からも力を受
けていないのにカーブの方向と反対側のドアに押し付けられる様な力が
働いている様に感じる。これが遠心力 (円の中心から遠ざかる方向の力)
である。車の外に静止している慣性系から見れば、慣性の法則で円の接
線方向に運動しようとする乗客を、車がカーブしてさえぎる事でドアに
押し付けられているだけで、“ドアに押し付けられる様な力” は存在しな
い、と考えるであろう。
一般に、半径 r の円上を角速度 ω で円運動する加速度系を考えよう (た
だし、その座標系の原点は回転するものの、座標軸は慣性系の座標軸と平
行で回転しないものとする)。この場合、この加速度系の加速度は円の中
心方向を向き、その大きさは |~aO | = rω 2 なので(ミニレポート 1 を参照)、
この加速度系から見ると、質量 m の物体には、大きさ m|~aO | = mrω 2 で
~aO と逆向き、即ち円の中心から遠ざかる方向に遠心力が働くことになる。
6.2
回転する加速度系
北極の真上の(空中の)固定点から糸でつるされた振り子の振動を考
えてみよう。北極の上に立っている観測者 O から見ると、振り子の振動
面(糸と振動する振り子を含む面)は徐々に回転し、一日で一回転する
ことに成る。その理由を考えてみよう。
仮に宇宙空間に静止した慣性系から見たとすると、この振り子の振動
面は時間が経っても変化しないはずである。しかし、観測者 O 自身が地
球の自転のために一日一回転するために、O から見ると相対的に振動面
が一日一回転する様に見えるのである。この様な現象は
「フーコー振り子」
と呼ばれたりする。なお、一般に北緯 θ の所では sin1 θ 日で振動面が一回
転することを示す事ができる(赤道上では振動面は回転しない)。
振動面が徐々に変化するということは、振り子に、重力の他に、振り
子の運動方向、つまり速度ベクトルと直交する方向に見かけの力が働い
ていることを示唆している。こうした、物体の速度に垂直に働く慣性力
を 「コリオリ力 」
と呼ぶ。この場合、観測者 O は、宇宙空間に静止した慣性系に対して運
動していない(その座標系の原点は運動していない)が、地球の自転と
第 6 章 慣性力
28
共にその座標系が回転することで(回転する加速度系)慣性力が生じる
のである。コリオリ力により生じる現象としては、台風の目に吹き込む
風が、北半球と南半球では逆に回転しながら吹き込む、といった現象が
ある。
さてコリオリ力は、速度ベクトルに垂直に働くと述べたが、ここで、そ
の大きさについて考察してみよう。メリーゴーランドの回転する円板の
中心の上に立って、メリーゴーランドと共に回転する座標系を持つ加速
度系 O を考えて見よう。円板を z = 0 の x − y 平面とし、円板は z 軸を “
回転軸” (回転するコマの軸を想像すると良い)とし、その周りを角速度
ω で回転しているとする。円板の中心から小球が速さ v0 で転がり始めた
とする。ただし、円板と小球の間の摩擦力は無視して良い。この時、円
板と共に回転する観測者 O から見た小球の座標を (x, y)、また、原点を
加速度系 O と共有するものの(原点はどちらも円の中心)回転せず静止
している慣性系 O’ から見た小球の座標を (x0 , y 0 ) とする。 円板と O’ が
時計回りに回転しているとすると、両者の関係は Ã
x
y
!
Ã
=
cos(ωt) − sin(ωt)
sin(ωt) cos(ωt)
!Ã
x0
y0
!
(6.4)
の様に「回転行列」を用いた線形変換の形で与えられる。O’ から見て、
小球は原点から x0 軸の方向に v0 の速さで転がり始めたとする。すると摩
擦は無視出来るので、O’ から見ると、その後小球は速さ v0 の等速直線
運動をする。つまり O’ から見た t 秒後の小球の位置は
Ã
x0
y0
!
Ã
=
v0 t
0
!
(6.5)
となるが、これを (6.4) に代入すると、O から見た小球の位置は Ã
x
y
!
Ã
cos(ωt)
= vo t
sin(ωt)
!
(6.6)
となる。この位置ベクトルを t で順次微分して、O から見た小球の速度
~v 、加速度 ~a を求めると、
Ã
~v = vo
cos(ωt)
sin(ωt)
Ã
~a = 2vo ω
!
Ã
+ vo tω
− sin(ωt)
cos(ωt)
!
− sin(ωt)
,
cos(ωt)
Ã
!
− vo tω
2
(6.7)
!
cos(ωt)
,
sin(ωt)
(6.8)
6.2. 回転する加速度系
29
となる。時刻 t = 0 で考えてみると、 Ã !
1
,
0
à !
0
~a = 2vo ω
1
~v = vo
(6.9)
となる。つまり、加速度は速度ベクトルに直交する y 軸の方向を向き、そ
の大きさは 2v0 ω で与えられる。v0 は t = 0 における速さなので、これを
一般的に v で置き換え、また小球の質量 m を掛け算すると、結局 O か
ら見ると小球には、あたかも 2mvω
(6.10)
の大きさの慣性力が、速度ベクトルと直交する方向に働くことに成る。こ
れが「コリオリ力」の大きさに他ならない。
もちろん、慣性系 O’ から見ると、小球には摩擦力が働かないので、小
球は等速直線運動をしているだけであるが、O’ に対して O が時計回りに
回転しているために、O から見ると相対的に、物体が反時計回りの方向、
つまり y 軸の方向に曲がる(回転する)力を受ける様に見えるのである。
(N.B.)
(1) 一般的には、コリオリ力は 2m~v × ~ω
(6.11)
で与えられる。ここで ~
ω は「角速度ベクトル」と呼ばれ、その方向は回
転軸の方向(右ねじを回転方向に回すときねじが進む方向にとる。上記
のメリーゴーランドの場合には z 軸と反対方向)で、その大きさは角速
度 ω である様なベクトル。また ~v × ω
~ は「外積」
(下の (2) を参照のこと)
を表している。上記の場合は、~v と ~
ω が直交する場合なので、(2) から
分かるように、|~v × ~
ω | = |~v | · |~ω | = vω となるのである。
~ とベクトル B
~ の
(2) ベクトルの外積について少し述べよう。ベクトル A
~×B
~ と書かれ、その方向は、A
~ から B
~ の方向に右ねじを回す
外積は A
時にねじの進む方向を向き、またその大きさは ~ × B|
~ = |A||
~ B|
~ sin θ
|A
で与えられる。ただし、θ は二つのベクトルの成す角である。 (6.12)
31
第7章
エネルギー保存則
物理学では、いくつかの重要な保存則がある。保存則とは、時間が経っ
ても変化しない性質を述べたものである。この章では、まず「エネルギー
保存則」について考える。
7.1
運動エネルギーと仕事
重い車でも静止していれば物を破壊したりしないが、運動している場
合には物に衝突すると物を破壊してしまう。重い車ほど、また速いほど
破壊能力は大きくなる。この様に運動する物体はエネルギーを持ってい
ると考えられるので、
「運動エネルギー K 」
というものを次の様に定義する:
運動エネルギー:K =
1 2 1
mv = m(vx2 + vy2 + vz2 ) (v = |~v |).
2
2
(7.1)
ここで、m, v は考えている物体の質量と速さ、vx,y,z は速度の x, y, z 成分。
簡単のため、まず x 軸に沿った一次元的な運動を考えてみよう。この
場合 vx → v と置き直すと
1
1
K = mvx2 → K = mv 2 .
2
2
(7.2)
(運動方向に)力を加えると物体は加速し運動エネルギーも大きくなるの
で、K の時間的変化率は力に関係していそうである。そこで K の時間微
分を考えてみると(合成関数の微分を用いて)
dv dK
dK
=
= amv = (ma)v = F v
dt
dt dv
(7.3)
となる。ここで a, F は物体の加速度および物体に働く力の x 成分であ
り、最後の変形では運動方程式 F = ma を用いた。こうして、運動エネ
第7章
32
エネルギー保存則
ルギーの時間的変化率は力に速度を掛けたものになるが、3 次元的な運動
~ · ~v という内積になることが分かる。(7.3) を微小な時間
では、これは F
間隔 ∆t における運動エネルギーおよび x 座標の変化 ∆K, ∆x を用いて
(近似的に)書くと
∆K
∆x
'F
∆t
∆t
→ ∆K ' F ∆x
(7.4)
が得られる。右辺の、力に微小な “移動距離” (正確には位置座標 x の変
化である “変位”)を掛けたものを
“力が物体に対してした(微小な)仕事”
と言って ∆W と書く: 微小仕事:∆W = F ∆x.
(7.5)
なお、一般的な 3 次元的な運動の場合には、微小仕事は ∆W = F~ · ∆~r
(7.6)
の様に内積を用いて書かれる。ここで ∆~r は位置ベクトルの変化を表す
“変位ベクトル”である。力が働いても移動が無い場合、あるいは移動方
向が力と直交する場合には、仕事はゼロであることに注意しよう。直感
的にも、水の入ったバケツを水平に移動しても(余り)疲れないが、鉛
直上方に持ち上げると疲れる。
~ が物体の働く場合に、物体が点 P から点 Q まで移
特に、一定の力 F
動する時に力のする仕事 W は、P から Q までのある経路を採ってこれ
を微小区間に分け、それぞれの区間での変位ベクトルを ∆~r1 , ∆~r2 , · · · と
すると
−→
W = F~ · ∆~r1 + F~ · ∆~r2 + · · · = F~ · (∆~r1 + ∆~r2 + · · ·) = F~ · PQ
(7.7)
→
~ と全体の変位ベクトル −
の様に、経路に依らず、力 F
PQ の内積に成る事
が分かる。
(7.4)、(7.5) より ∆K ' ∆W 、即ち
「力が物体にした仕事の分だけ、物体の運動エネルギーは増加する」
という事が言える。
これは、3 次元的な場合にも言える。例えば、等速円運動の場合には物
体に働く力は中心を向き(向心力)、運動方向(速度の方向)である円の
接線方向と直交するので、力は仕事をしない。一方、等速なので運動エネ
7.2. 位置エネルギーとエネルギー保存則
33
ルギーは変化しないので、つじつまが合っている。つまり、仕事を (7.6)
の様に内積を用いて定義したのは妥当であったことが分かる。
なお (7.3) の F v 、3 次元的な場合には
P ≡ F~ · ~v
(7.8)
~ · ∆~r = ∆W と書けるので 単位時間
で定義される P は、(7.6) より P ' F
∆t
∆t
当たりの仕事と見なされ、
“仕事率”
と呼ばれる。その単位はワット (W) (エネルギーの単位はジュール J で
あり、W = J/s)である。 7.2
位置エネルギーとエネルギー保存則
例えば原点 O から鉛直上向きの高さ h の点 P まで、重力に逆らって質量
−→
m の物体を静かに運ぶのに人がする仕事は、(7.7) より |F~ | = mg, |OP| =
h なので mgh (g : 重力加速度) である。
一方、点 P で手をはなすと物体は P から O まで落下するが、その際に
重力がする仕事も mgh であり (人がする仕事の場合とは、力も移動方向も
逆なので)、
「力が物体にした仕事の分だけ、物体の運動エネルギーは増加
する」という原理により、落下の際に運動エネルギーが mgh だけ生じる
ことに成る。こうして、人が重力に逆らって h の高さまで持ち上げたこと
で、人がした仕事 mgh の分だけ物体に “潜在的なエネルギー(potential
energy)” が蓄えられた、と考えることが出来る。このエネルギーを日本
語では
「位置エネルギー V 」
と言う。
上の例から、P から O まで高さが減少して、物体の位置エネルギーが
減少 (mgh → 0) した分だけ、物体の運動エネルギーは増加 (0 → mgh)
した事が分かる。そこで、運動エネルギー K と位置エネルギー V の合計
である
「力学的エネルギー E 」
を E =K +V
(7.9)
第7章
34
エネルギー保存則
で定義すると、E は時間に依らず変化しない事になる。この物理法則を
「エネルギー保存則」
と言う。
エネルギー保存則は、力が一定ではなく場所に依り変化する場合でも
成立する。これを簡単な 1 次元的な(x 軸にそった)運動の場合について
示そう。まず基準点を原点 O とした時の座標 x の点 P における位置エネ
ルギー V (x) は、人が物体に働く力 F (x) に逆らって O から P まで物体
を運ぶ時の仕事に等しい。 (7.7) と同様に、線分 OP を幅 ∆x の微小区
間に分け、i 番目の区間で人のする微小仕事 −F (xi )∆x (マイナスは、人
が加える力は物体に働いている力 F (xi ) と逆方向なので) を足し合わせる
と、位置エネルギー V (x) は
X
(−F (xi ))∆x → V (x) =
i
Z
x
0
0
0
(−F (x ))dx = −
Z
x
F (x0 )dx0 (7.10)
0
の様に定積分で与えられる。
位置エネルギーは力(の符号を変えたもの)を積分して得られるので、
位置エネルギーを微分すれば力(の符号を変えたもの)になると期待さ
れる。実際、(7.10) より dV
dV
= −F (x) → F (x) = −
dx
dx
(7.11)
が導かれる。すると、(7.9) で与えられる力学的エネルギー E の時間微分
は、(7.3)、(7.11) より (合成関数の微分を用いて)
dK dV
dK dx dV
dE
=
+
=
+
= F v + v(−F ) = 0
dt
dt
dt
dt
dt dx
(7.12)
となる。これは、E が時間的に変化しない事、即ちエネルギー保存則が
成立している事を示している。 以上述べたエネルギー保存則は 3 次元的運動でも一般に成立する。その
際、位置エネルギーは次に述べる「線積分」を用いて表される。一般に、
空間の 1 という点から 2 という点まで、ある経路 (contour) C12 に沿って
~ が物体に対してする仕事 W を考える。(7.10) と
物体が移動した時に力 F
同様に、経路を N 個の微小な区間に分け、それぞれの区間での微小な仕
事 ∆Wi を足し上げ、最後に N を無限大にする。即ち、
W = lim
N →∞
N
X
i=1
∆Wi = lim
N →∞
N
X
i=1
F~i · ∆~ri =
Z
C12
F~ · d~r
(7.13)
7.2. 位置エネルギーとエネルギー保存則
35
という
「線積分」
を考えると、これが、経路 C12 に沿って物体が移動する時に力のする仕
~ · d~r = Fk dr (Fk は力の d~r 方向の(d~r に
事を与える。(7.13) において F
平行な)成分、dr = |d~r|) と書き換えると
Z
W =
C12
Fk dr
(7.14)
とも書ける。
こうして、ある点 P (位置ベクトル ~r) での位置エネルギー V (~r) は、基
準点 O(普通は原点)から点 P まで力に逆らって人がする仕事なので、
F~ → −F~ と置き換えて、次の様に線積分で定義される: V (~r) = −
Z
F~ · d~r.
C
(7.15)
ここで C は O から P へのある経路を表す。
(N.B.) 位置エネルギーが定義出来て、エネルギー保存則が成り立つよう
な力を
「保存力」
と言うが、保存力の場合には、(7.15) の線積分は経路 C の採り方に依ら
ない必要がある。O から P までの任意の 2 つの経路 C1 , C2 を考える。保
存力であれば仕事は経路に依らないので Z
C1
F~ · d~r =
Z
C2
F~ · d~r →
Z
C1
F~ · d~r −
Z
C2
F~ · d~r = 0 →
I
F~ · d~r = 0
(7.16)
が言える。ここで は経路 C1 の後に C2 を逆向きに O まで戻る一周する
積分を表す。つまり、保存力であるための条件は 「任意の閉じた経路に沿って一周する時の力のする仕事がゼロ」
という事になる。例えば、地上付近での重力の様な場所に依らない一定
~ が一定のベクトル(定数ベクトル)だと
の力は保存力である。実際 F
H
I
F~ · d~r = F~ ·
I
d~r = 0.
(7.17)
H
これは、一周すると元の点に戻るので d~r = ~0 であるからである。 最後に、3 次元の場合について位置エネルギーと力の関係を考えよう。
3 次元では、(7.11) に対応して ~ (~r)
F~ = −∇V
(7.18)
第7章
36
エネルギー保存則
が言える。ここで “ナブラ”ベクトルは
~ =( ∂ , ∂ , ∂ )
∇
∂x ∂y ∂z
(7.19)
で定義される。具体的には Fx = −
∂V
∂V
∂V
, Fy = −
, Fz = −
.
∂x
∂y
∂z
(7.20)
(7.18) の関係を次の様に証明することが出来る。まず無限小の変位 d~r だ
け位置が変化した時の位置エネルギーの変化 dV は、人が力に逆らって
d~r だけ物体を運ぶ時の無限小の仕事に等しいので
dV = V (~r + d~r) − V (~r) = −F~ · d~r
(7.21)
と書ける。一方、数学で学ぶ全微分の式を書くと dV = V (~r + d~r) − V (~r) = V (x + dx, y + dy, z + dz) − V (x, y, z)
∂V
∂V
∂V
~ · d~r
=
dx +
dy +
dz = ∇V
(7.22)
∂x
∂y
∂z
よって、(7.21)、(7.22)より ~
F~ = −∇V
(7.23)
が言えるのである。 例題 7.1 調和振動子が持つ、バネの力による位置エネルギーを求めなさい。
解 調和振動子が受ける力は、フックの法則より
F (x) = −kx (k : ばね定数)
よって、(7.10) に従って位置エネルギーを求めると
V (x) = −
Z
x
0
0
Z
x
(−kx )dx = k
0
0
1
x0 dx0 = kx2
2
となる。
2
例題 7.2 質量 m のロケットが、地球から受ける万有引力により持つ、地
球の中心からの距離が r の位置における位置エネルギーを求めなさい。た
だし、重力定数を G、地球の質量を ME とする。また、位置エネルギー
の基準点は無限遠点にとると良い。 37
第8章
運動量保存則
エネルギー保存則と並んで重要な保存則に 「運動量保存則」
がある。 まず、運動量とは何であろうか? 質量 m の質点が速度 ~v で運動してい
る時、この質点の持つ運動量 p
~は
p~ = m~v
(8.1)
で定義される。
力を加えると質点は加速し、従って運動量も変化するので、運動量の
時間的変化率、つまり時間微分は力に比例するはずだが、実は力そのも
のになる。実際、質点の運動方程式は次のように運動量を用いて書き直
すことが出来る:
d~v
d(m~v )
F~ = m~a = m =
dt
dt
d~p
→ F~ =
dt
(8.2)
即ち 「力は運動量の時間的変化に等しい」
という事が言える。
一つの質点を考えると、力が働く限り運動量は保存しない。では、二
つの質点 1、2 がある場合はどうであろうか? それぞれに働く力と運動
~1 , F~2 および p~1 , p~2 としよう。それぞれの物体に関する運動方程式
量を F
は(8.2)より
d~p1
F~1 =
dt
d~
p2
F~2 =
dt
(8.3)
(8.4)
と書ける。(8.3) と (8.4) を足すと
d~p1 d~p2
d
F~1 + F~2 =
+
= (~p1 + p~2 )
dt
dt
dt
(8.5)
第 8 章 運動量保存則
38
となる。ここで、1, 2 の間に働く力が、お互いの間で働く、作用・反作用
の法則に従う
“内力”
~1 = −F~2 なので F~1 + F~2 = ~0 となり、従って (8.5)
のみであるとすると、F
より
d
(~p1 + p~2 ) = ~0 ↔ p~1 + p~2:時間的に一定 (8.6)
dt
が言える。これは二つの “質点系” の全運動量は時間的に変わらない事を
言っている。これが
「運動量保存則」
に他ならない。 もし質点系の外からの「外力」が働く時には、全運動量の時間微分は
消えず、 d
(~p1 + p~2 ) = f~1 + f~2
(8.7)
dt
が言える。ここで f~1,2 は、それぞれの質点に働く外力である。一方、(8.7)
は、質点系の重心が外力によって運動することを表していることが分かる。
まず、質点系の重心の位置ベクトル ~rG は、それぞれの質点の位置ベク
トル ~r1,2 を用いて ~rG =
m1~r1 + m2~r2
m1~r1 + m2~r2
=
m1 + m2
M
(8.8)
と表される。ここで M = m1 + m2 は系全体の質量。これを時間微分す
ると、重心の速度 ~vG は ~vG =
d~rG
m1~v1 + m2~v2
p~1 + p~2
=
=
dt
M
M
(8.9)
と書ける。つまり
p~1 + p~2 = M~vG
(8.10)
であり、重心に全質量が集中したと考えた時の重心の持つ運動量が全運
動量に等しい事が分かる。
(8.10) を時間微分すると d
(~p1 + p~2 ) = M~aG
dt
(8.11)
となる。ここで ~aG は重心の加速度。よって、(8.7) と (8.11) より f~1 + f~2 = M~aG
(8.12)
39
が言えるが、これは 「重心の運動は、あたかも質量と外力がその点に集中した時の一個の質
点の運動と同じである。」
ということを意味している。重心は、いわば系を “代表している”点なの
である。特に、系に外力が働かない場合には、系の重心は等速直線運動
をすることになる。
例題 8.1 2粒子の弾性散乱(重心系) 2 粒子が衝突し飛び去る場合(散乱)を考える。一般には衝突の際に生
じる熱や音のために力学的エネルギーは失われるが、力学的エネルギー
が保存される理想的な衝突である “弾性衝突”を考える。2粒子の重心と
共に動く観測者、即ち “重心系”から見たときの散乱の様子を説明しなさ
い。ただし、2粒子以外からの外力は働かないものとする。
解
外力が働かないので重心は等速直線運動をする。重心と共に運動する
慣性系である
「重心系」
から見ると、当然重心は止まってる。従って、(8.10) より、重心系から見
ると全運動量はゼロ(ベクトル)となる。つまり
p~1 + p~2 = ~0 → m1~v1 + m2~v2 = ~0.
(8.13)
ここで、m1,2 , ~v1,2 は二つの粒子の質量、および衝突前の速度である。よ
って
m1
~v2 = − ~v1
(8.14)
m2
1
となり、2 粒子は、同一直線上を v2 = m
v という速さの比で逆向きに運
m2 1
動して来て衝突する。
0
運動量保存則より、衝突後の速度 ~v1,2
についても m1~v10 + m2~v20 = ~0 → ~v20 = −
m1 0
~v
m2 1
(8.15)
1 0
v が言える。
従って v20 = m
m2 1
一方、弾性衝突では衝突の前後で力学的エネルギーは保存されるので
1
1
1
1
m1 v12 + m2 v22 = m1 v102 + m2 v202
2
2
2
2
(8.16)
第 8 章 運動量保存則
40
が成立する。これに、運動量保存則から導かれた v2 =
を代入すると、明らかに
v10 = v1 → v20 = v2
m1
v 、v20
m2 1
=
m1 0
v
m2 1
(8.17)
が言える。即ち、衝突後、2粒子は同一直線上を、それぞれ衝突前と同
じ速さで互いに遠ざかって行くが、速度の方向は(一般に)衝突前とは
異なる。
特に、m1 = m2 の時には v1 = v2 = v10 = v20 なので、二つの質点は同
じ速さで正面衝突し、散乱後、衝突前と同じ速さで正反対の方向に飛び
去って行くことになる。
2
41
第9章
角運動量保存則
(8.2) に見られる様に、物体に力が働くと運動量は変化する。しかし、
例えば、一端を固定されたひもの先の物体に働く張力、惑星が太陽から
受ける万有引力の様に、ある固定された中心に向かう
「中心力」
を受けて運動する場合には、その中心の周りの
「角運動量」
と呼ばれる物理量は変化せず保存される。これを説明しよう。 ~ と書くと、その定義は 角運動量はベクトル量である。これを L
~ = ~r × p~
L
(9.1)
である。ここで ~r は物体の位置ベクトル、p
~ は運動量ベクトルである。ま
た右辺は、これらの “外積”を表す。 (N.B.) 外積とは? ~ B
~ の
ここで外積について少し説明しよう。一般に、二つのベクトル A,
~×B
~ は次の様に定義される:
外積 A
~ とB
~ のどちらにも垂直で、A
~ から B
~ に右ねじを回転す
・その方向は A
る時にねじの進む方向。
~ × B|
~ = |A||
~ B|
~ sin θ (θ : A
~ とB
~ の成す角)。
・|A
よって、互いに平行、反平行のベクトルどうしの外積は(θ = 0, π なの
で)ゼロベクトルとなる。特に、同じベクトルどうしの外積は消える:
~v × ~v = ~0。
~ = (Ax , Ay , Az ), B
~ = (Bx , By , Bz ) と
ベクトルの成分を用いると、A
して
~×B
~ = (Ay Bz − Az By , Az Bx − Ax Bz , Ax By − Ay Bx )
A
で与えられる事が分かる。
(9.2)
第9章
42
角運動量保存則
等速円運動の様な回転運動では ~r と p
~ (~v ) は直交するので角運動量は
ゼロではないが、例えば原点を通る直線上を運動する一次元的な運動で
~ = ~0 となる。こうして直観的
は ~r と p
~ (~v ) は平行(or 反平行)なので L
には、角運動量は “回転運動に伴って現れる運動量”であると言える。
さて (8.2) に対応する関係を求めてみると、角運動量の時間微分は “力
~ に等しい事が分かる。これを示してみよう。まず、力の
のモーメント”N
モーメント(トルクとも呼ばれる)は ~ = ~r × F~
N
(9.3)
~ が ~r と直交する場合を考えると |N
~ | = rF (r, F は
で定義される。仮に F
~r, F~ の大きさ) なので、同じ大きさの力でも、原点からの距離が大きいほ
ど力のモーメントが大きい。これは「てこの原理」で支点からの距離が
長いほど “回転させる力”が大きいことにちょうど対応している。つまり
直観的には、力のモーメントとは “回転に関与する力”と言える。(ただし
トルクの単位は力の単位 N ではないので注意しよう。)
(9.1) を t で微分すると ~
dL
d
d~r
d~p
= (~r × p~) =
× p~ + ~r ×
dt
dt
dt
dt
~
~
~
= ~v × p~ + ~r × F = ~r × F = N
(9.4)
が得られる。ここで、(8.2) の関係、および ~v × p
~ = m~v × ~v = ~0 を用いた。
まとめると ~
~ = dL .
N
(9.5)
dt
これは運動量の場合の (8.2) に対応するものである。
(9.5) より、力がゼロでなくても力のモーメントがゼロの場合には、角運
~ は、
動量は変化しない。具体的には、先に述べた中心力の場合には、力 F
~ = ~r × F~ = ~0
中心を原点とする位置ベクトル ~r と反平行であり、従って N
となる。よって 「中心力の場合には、その中心の周りの角運動量は保存される」
ことが分かる。こうした保存則を 「角運動量保存則」
という。尚、角運動量は ~r に依存するので、どの点を原点に採るかで結
果は異なる。よって、どの点の周りの(どの点を原点とした時の)角運
動量かを指定する必要があるのである。 43
例題 6.1
質点が原点を中心とした等速円運動をする場合に角運動量は保存され
るかどうか述べなさい。また、それを直接計算により確かめなさい。
解
等速円運動では物体に働く力は原点 O に向かう中心力なので、角運動
量は保存する。
実際、x-y 平面 (z = 0) 内で質点が、原点を中心とする半径 r の円周上
を角速度 ω で回転するとすると、位置ベクトル、運動量ベクトルは
~r = (x, y, z) = (r cos(ωt), r sin(ωt), 0)
p~ = m~r˙ = mω(−r sin(ωt), r cos(ωt), 0)
(9.6)
と表される。よって角運動量を (9.2) のルールに従って計算すると
~ = ~r × p~ = mr2 ω(0, 0, 1)
L
(9.7)
となり、角運動量は時間に依らず一定であり (z 軸方向を向く)、角運動量
が保存していることが分かる。
2
45
第 10 章 2 体問題と重心運動、相
対運動
今までは1個の質点の運動を考えて来たが、ここでは 2 個の質点系が
互いに力を及ぼし合いながら運動する場合である
「2 体問題」 を考える。典型例は太陽と惑星が万有引力を及ぼし合いながら運動する
2 体問題(“ケプラー問題”と呼ばれる)である。
10.1
重心運動と相対運動
2 体問題は、重心運動と相対運動、という二つの独立な運動に分解でき
る。それぞれの運動はあたかも一個の質点の運動の様に扱うことが出来
る。以下で、これを見てみよう。
2 個の質点 1、2(質量 m1 、m2 ) が力 F~1 、F~2 を受けて運動するとすると、
それぞれの運動方程式は
F~1 = m1~r¨1
F~2 = m2~r¨2
(10.1)
~ ((??) の ~rG に相当)、相対座標(質点 2 から見
である。系の重心座標 R
た質点 1 の “相対的”な座標)~r は
~ = m1~r1 + m2~r2 (M = m1 + m2 )
R
M
~r = ~r1 − ~r2
で与えられる。逆に ~r1 , ~r2 は
~+
~r1 = R
m2
~r
m1 + m2
(10.2)
第 10 章
46
~−
~r2 = R
2 体問題と重心運動、相対運動
m1
~r
m1 + m2
(10.3)
の様に重心座標、相対座標を用いて表される。
すると、まず (10.1) の 2 式を足すと ¨~
F~1 + F~2 = M R
(10.4)
が得られる。これは(8.9)に対応する式であり、系を代表する重心は、2
個の質点に働く力の合力により、あたかも質量 M の質点の様に運動する。
次に、(10.1) の 2 式をそれぞれ m1 , m2 で割って引き算すると
1 ~
1 ~
F1 −
F2 = ~¨r
m1
m2
(10.5)
が得られる。
特に、二つの質点に働く力が、作用・反作用の法則に従う “内力”のみ
であるとすると
F~1 = −F~2 ≡ F~
(10.6)
と書ける。これを (10.4)、(10.5) に代入すると ¨~
~0 = M R
F~ = m~¨r
(10.7)
が得られる。ここで
1
1
1
=
+
m
m1 m2
→ m=
m1 m2
m1 + m2
(10.8)
で与えられる m は
「換算質量 (reduced mass)」
と呼ばれる。m2 → ∞ とすると m = m1 となる。つまり、片方が非常に
重いと、換算質量はもう一つの質量 m1 に一致する。よって太陽と惑星の
2 体問題の場合には、換算質量は惑星の質量とほとんど同じである。
よって、
・重心運動: 等速直線運動
~ を受けて運動 ・相対運動:質量 m の質点が力 F
の様に、“1 体問題” に帰着する。よって、2 体問題の場合には、運動方
程式を解くことが出来る。3 体以上に成ると、その問題は一般には解け
ない。
10.1. 重心運動と相対運動
47
(N.B.)
容易に分かるように、換算質量 m は m1 , m2 いずれよりも小さい。そ
~
の理由は、質点 2 から見た時の質点 1 の加速度は mF1 ではないからであ
~
る。それは自分も逆向きに − mF2 の加速度を持つので、質点 1 がより大き
な加速度を持ち、従ってより軽くなった様に見えるからである。実際 2 か
ら見た 1 の相対的な加速度は F~
F~
F~
− (− ) =
m1
m2
m
(10.9)
となり、確かに換算質量が現れる。
(10.3) を用いて、この系の運動エネルギーを、重心座標、相対座標の時
~˙ ~r˙ を用いて表すことが出来る:
間微分 R,
1 ˙ 2 1 ˙ 2 1 ~˙ 2 1 ˙ 2
m1~r1 + m2~r2 = M R + m~r
2
2
2
2
(10.10)
つまり
「系の運動エネルギー = 重心の運動エネルギー + 相対運動の運動エネ
ルギー」
が言える。 この様に、2 体問題は重心運動と相対運動に完全に分離でき、また重心
は(外力が働かない限り)単純な等速直線運動をするだけなので、今後
は相対運動にのみ注目して議論する。質点 2 の位置を原点にとり、質点 1
(位置ベクトル ~r)の相対運動を考える。ある時刻(例えば t = 0)におけ
る質点 1 の位置ベクトルと速度ベクトルを含む平面を考えると、質点 1 に
~ もこの平面内にあるので、質点 1 はこの平面内でずっと運動す
働く力 F
ることになる。この平面を xy 平面にとり、xy 平面上の運動を考えよう。
太陽の周りを回る惑星の運動の様な回転運動の場合には、直交座標 (x, y)
よりも極座標 (r, ϕ) を用いる方が何かと便利である。そこで、色々な物理
量を極座標で表してみよう。まず、相対運動の位置ベクトル ~r を (x, y) 座
標と極座標 (r, ϕ) で表した時の、両者の関係は
Ã
~r =
x
y
!
Ã
=r
cos ϕ
sin ϕ
!
(10.11)
である。これを t で微分し速度ベクトルを求めると
Ã
~v =
ẋ
ẏ
!
Ã
= ṙ
cos ϕ
sin ϕ
!
Ã
− sin ϕ
+ rϕ̇
cos ϕ
!
(10.12)
第 10 章
48
2 体問題と重心運動、相対運動
となる。右辺の二つの項は、速度の ~r 方向(これを “動径方向”と言う)の
成分、それと直交する “角度方向”の成分を表している。
これを用いると、系の運動エネルギーは、動径方向の運動エネルギー
と角度方向の運動エネルギーの和の形で表される:
1 2 1
1
1
mv = m(ẋ2 + ẏ 2 ) = mṙ2 + m(rϕ̇)2
2
2
2
2
(10.13)
なお、円運動の場合には ṙ = 0 なので右辺 2 項目のみ残るが、rϕ̇ は(ϕ̇
は角速度 ω なので)rω と書け、確かに円運動の速さに等しいことが分
かる。
角運動量は z 軸方向を向く。その成分を単に L と書くと、(10.11)、(10.12)
より L = xpy − ypx = m(xvy − yvx ) = mr2 ϕ̇
(10.14)
となる。角運動量なので、回転の速度に対応する角速度で書かれている
のは当然と言える。
(10.14) を用いると、系の運動エネルギー (10.13) は
1 2
L2
mṙ +
2
2mr2
の様に、角運動量を用いて書ける。
10.2
(10.15)
角運動量保存と面積速度
二つの質点に働く力が、作用・反作用の法則に従う “内力”の場合には、
~ は、相対座標 ~r と平行、あるいは反平行である。よっ
質点 1 に働く力 F
て、中心力の場合に議論したように、力のモーメントはゼロとなる: ~ = ~r × F~ = ~0.
N
(10.16)
よって、角運動量は保存される。
ここで、原点 (質点 2) と質点 1 を結ぶ線分が単位時間に描く面積、即ち
“面積速度”について考えよう。惑星の運動に関するケプラーの第 2 法則
は、“太陽と惑星を結ぶ線分の描く面積速度が一定”という “面積速度一定
の法則”であるが、これは角運動量保存則に他ならないことが容易に分か
r
る。dt という時間間隔の間に質点 1 は ~v dt だけ変位する ( d~
= ~v )。よっ
dt
て dt の間に線分が描く面積 dS は
1
1
dS = r(vdt) sin θ = dt|~r × ~v | (θ : ~rと~v の成す角)
2
2
(10.17)
10.2. 角運動量保存と面積速度
49
よって面積速度は
1
1
1 ~
dS
= |~r × ~v | =
|~r × p~| =
|L|
dt
2
2m
2m
(10.18)
となり、角運動量が保存されると面積速度が一定になる事が分かる。面
積速度一定の法則は、中心力であれば、その大きさ F が r のどの様な関
数かに依らず常に成立する(万有引力の場合だけでなく)ので、一般的
な法則である。
(10.15) より、相対運動に関する力学的エネルギー E は
1
L2
E = mṙ2 +
+ V (r)
2
2mr2
(10.19)
と書ける。ただし、ここで V (r) は中心力による位置エネルギーである。
エネルギー E は保存される。
そこで、角運動量保存則、エネルギー保存則を用いて、相対運動を解
いてみよう。まず、角運動量保存則より L は定数なので 1
L2
E = mṙ2 + Vef f (r) (Vef f (r) = V (r) +
)
2
2mr2
(10.20)
と書くと
「相対運動は Vef f (r) を位置エネルギーとする、r 方向 (動径方向) の 1 次
元的運動」
と見なせることが分かる。こうして 1 次元的な問題に帰着する。
L2
なお、Vef f は “実効ポテンシャル (effective potential)” とも呼ばれ、2mr
2
という、慣性力である「遠心力」による位置エネルギーの効果も採り入
れた実効的な位置エネルギー(ポテンシャル・エネルギー)である。 (10.20) より
s
dr
2
= ṙ =
(E − Vef f )
(10.21)
dt
m
と書けるが、角運動量保存則、エネルギー保存則より E, L は定数なの
で、これは r(t) に関する(常)微分方程式に他ならず、“変数分離法”を
用いて解くことが出来る: q
dr
2
(E
m
− Vef f )
= dt →
Z
r
r0
q
dr
2
(E
m
− Vef f )
= t.
(10.22)
ここで r0 は任意定数(積分定数)であるが、(10.22) より t = 0 で r = r0
となるので、r(0) = r0 という意味がある。(10.22) の左辺の積分が解析的
第 10 章
50
2 体問題と重心運動、相対運動
に可能かどうかは Vef f に依るが、いずれにせよ、(10.22) により r(t) は (間
接的にではあるが) 決定されていて、微分方程式は解かれたことになる。
次に、質点 1 の相対運動の “軌道”(惑星の運動の場合の楕円の様な)を
考えよう。直交座標では軌道を表すのは x, y の間の関係式である。同様
に極座標では軌道は r, ϕ の間の関係式である。これを求めてみよう。
まず、(10.14) より dϕ
L
= ϕ̇ =
(10.23)
dt
mr2
と書け、従って、(10.21) と組み合わせると
dr
=
dϕ
dr
dt
dϕ
dt
=
r2 q
2m(E − Vef f )
L
(10.24)
これから、軌道を表す関係式が
Z
r
r̂0
q
L
r2 2m(E − Vef f )
dr = ϕ
(10.25)
の様に (間接的な形で) 求まる。ここで r̂0 は新たな任意定数であるが、ϕ = 0
の時 r = r̂0 なので、r̂0 は偏角がゼロの時の中心からの距離、という意味
を持つ。