2. - 青山学院大学理工学部化学・生命科学科

マッカーリ、サイモン物理化学(上)︓p. 169-p. 186
量⼦化学Ⅰ
第8回「調和振動⼦︓核の振動」
最初に古典的な調和振動⼦を学習し、次に量⼦⼒学的調和振動⼦のエネルギーとそ
れに対応する波動関数を学ぶ。この波動関数は原⼦核の波動関数(振動波動関数)
に対応するものである。さらに量⼦⼒学的エネルギーを⽤いて⼆原⼦分⼦の⾚外線
吸収スペクトルを解釈し、振動スペクトルからどのようにして分⼦の⼒の定数を決
定するかを学ぶ。
担当︓⻘⼭学院⼤学理⼯学部化学・⽣命科学科
阿部 ⼆朗、⼩林 洋⼀
1
【復習・第5回講義スライド】Newton⼒学︓⼒と仕事
1.Newtonの運動⽅程式(Newton equation of motion)
は質点に働く⼒、 は質点の質量、 は質点の加速度、 は質点の位置ベク
トル、 は時間を表す。質点に働く⼒が重⼒の場合、加速度 は重⼒加速度 に置き換えることができる。
2.仕事の定義
仕事は「⼒ × 距離」で定義される。
物体に⼒ が作⽤し、その位置が微⼩距離d だけ変化したとき、⼒ がこの
物体に対して⾏った仕事 は、次式で与えられる。
2
【復習・第5回講義スライド】フックの法則
質量 の質点が壁にバネ定数 のバネで固定されている場合を考える。質点
には重⼒が働かないとし、唯⼀の⼒はバネによるものだけとする。
バネに⼒が働かないときの⻑さ(平衡⻑)を とする。バネを の⻑さまで伸
ばすと、バネには元の平衡⻑の⻑さに戻ろうとする復元⼒が働くが、復元⼒はバ
ネの平衡⻑からの変位
に正⽐例する。⽐例定数 がバネの⼒の定数(force
constant)である。 の値が⼤きいほどバネが硬いことになる。
復元⼒
したがって、バネを平衡⻑から∆ まで伸ばすの
に必要な仕事は次式で与えられる。
∆
∆
·
·
∆
∆
この仕事が、平衡⻑から距離∆ 伸びたバネが持つ
ポテンシャルエネルギーに相当する。
3
【単振動】
直線上の運動ではあるけれども等速円運動になぞらえられる運動。
振動数︓振動の速さは単位時間に起こる往復運動の回数で表され、この回数を振
動数または周波数という。 または で表し、単位は Hz(ヘルツ)である。
⾓振動数︓振動の1回の往復運動は円運動1周に対応していて、振動の速さは単
位時間におこなわれる円運動の回転⾓で表される。これを⾓振動数という。⾓振
動数は振動数に1周の⾓度 (rad)をかけて定義される。単位はrad/sである。
⾓速度という場合もある。
等速円運動する物体を真横から光を
当てて鉛直の壁に射影した往復運動
単振動の1往復する時間=周期 / 1秒あたりの回転⾓=⾓振動数、⾓速度 1秒あたりの往復数=振動数、周波数 あるいは 4
http://wakariyasui.sakura.ne.jp/p/mech/tann/tannsinn.html
【バネの振動に関するNewtonの運動⽅程式とその解】
d
d
d
d
0
この微分⽅程式の⼀般解は、
sin
cos
sin
︓振幅、 ︓位相⾓、 ︓⾓振動数
初期変位が になるようにバネを伸ばし、その後に
放して振動させた場合を考える。初速度は0なので、
0
調和振動⼦の変位 の時間変化
d
d
0
となり、変位は以下の式で表される。
また、⾓振動数 と振動数 は次式で与えられる。
/
5
/
【バネの振動の全エネルギー︓エネルギー保存則】
振動の全エネルギー は、ポテンシャルエネルギー
と運動エネルギー の和として表すことができる。
d
1
1
1
d
2
2
2
上式の にそれぞれ、
1
cos 2
1
2
1
2
d
d
1
2
/
1
2
cos
1
2
cos
sin
を代⼊すると、
1
2
sin
cos
を代⼊することで、 は時間に関わらず⼀定になることがわかる。
2
6
cos
sin
cos
【⼆原⼦分⼦の調和振動⼦モデル】
⼆原⼦分⼦の振動運動は、近似的に以下に⽰すようなバネでつながれた⼆つの
質点の振動運動で記述することができる。
ここで、それぞれの質点に対応した⼆つの運動⽅程式を考える。
d
d
d
d
⼆つの運動⽅程式を、辺々引くことで、
d
d
d
d
となる。さらに、次式で定義される換算質量 と相対座標 を導⼊すると、
1
1
1
バネにつながれた⼆つの質点の換算質量と相対座標を⽤いた運動⽅程式が得ら
れる。すなわち、1体系と同じように取り扱うことができること意味している。
7
次に、量⼦⼒学的調和振動⼦のシュレディンガー⽅程式のエネルギー準位と波
動関数について考えるが、その前に、
 ⽔素原⼦のシュレディンガー⽅程式
 箱の中の粒⼦のシュレディンガー⽅程式
について復習しておく。
シュレディンガー⽅程式はハミルトン演算⼦ の固有関数と固有値を求める問題
である。ハミルトン演算⼦ は運動エネルギー演算⼦ とポテンシャルエネル
ギー演算⼦ からなる。
3次元か1次元かの違いあるものの、 については電⼦を対象とする⽔素原⼦と
箱の中の粒⼦では同じである。なぜならば、電⼦の質量と速度は変わらないから
である。⼀⽅で、電⼦が置かれている環境に対応する は異なる。すなわち、
⽔素原⼦
︓
箱の中の粒⼦︓
8
, ,
4
0
ただし、
/
【⽔素原⼦のシュレディンガー⽅程式】
ポテンシャルエネルギー
, , を受けて運動する
電⼦の三次元シュレディンガー⽅程式
, ,
2
⽔素原⼦ではポテンシャルエネルギー
, ,
, ,
, ,
は次式で表される。
/
ただし、
4
, ,
したがって、⽔素原⼦中の電⼦に対するシュレディンガー⽅程式は、
2
となるが、ラプラス演算⼦(
に表記することができる。
2
9
, ,
4
4
, ,
, ,
あるいは∆)を使うと以下のように簡潔
, ,
≡ ∆≡
【⼀次元の箱の中の粒⼦の問題】
軸上で
0と
の間に閉じ込められた質量 の⾃由粒⼦について考
える。⾃由粒⼦とは、粒⼦がポテンシャルエネルギーを感じていない、つまり
0であることを意味する。
井⼾型ポテンシャル
(箱型ポテンシャル)
∞
0
上式の⼀次元シュレディンガー⽅程式に
で次式が得られる。
10
0を代⼊して、式変形すること
⽔素原⼦と⼀次元調和振動⼦の違いは以下の⼆つである。
 粒⼦の質量が異なる。電⼦の質量 と、⼆つの質点の換算質量 の違い。
 粒⼦が受けるポテンシャルの違い。
クーロンポテンシャルと、バネのポテンシャルエネルギーの違い。
以下に、⽔素原⼦と⼀元調和振動⼦のシュレディンガー⽅程式を⽰す。
この⼆つのシュレディンガー⽅程式の違いについて理解してください。
⽔素原⼦
⼀次元調和振動⼦
, ,
2
11
, ,
4
d
2 d
1
2
【⼀次元調和振動⼦のエネルギー準位】
⼀次元調和振動⼦のシュレディンガー⽅程式は次式で与えられる。
d
2 d
1
2
この微分⽅程式を解くのは容易ではないため、ここでは解だけ⽰す。
/
1
2
1
2
/
ここで、
および
4
3
2
1
0
12
9
2
7
2
5
2
3
2
1
2
1
2
1
2
/
0, 1, 2, ⋯
︓量⼦数
︓⾓振動数
︓振動数
量⼦論では最低エネルギーはゼロにな
らない。
0の準位を零点準位、その
準位のエネルギーを零点エネルギーと
いう。
【⼀次元調和振動⼦の波動関数】
⼀次元調和振動⼦の波動関数は次式で与えられる。
/
/
/
ここで、
/
1
/
をエルミート多項式
であり、
規格化定数 は、
2 ! /
は に関する 次の多項式である。
という。エルミート多項式
と
の数例を記す。
以下には、
1
2
13
/
4
2
8
12
16
48
32
160
12
120
/
/
4
/
4
/
2
1 2
3 /
/
9
/
【⼀次元調和振動⼦の波動関数】
⼀次元調和振動⼦の波動関数を図⽰すると以下のようになる。
箱の中の粒⼦の波動関数との類似性を理解しておく。
/
14
2
9
/
4
4
2
1 /
/
/
/
3 /
振動波動関数は原⼦核の波動関数である。
/