物質情報学 1(解析力学),担当 谷村省吾,講義ノート 7 ハミルトニアンとポアソン括弧 理論の定式化 を定め,改めてこれを f (x) のルジャンドル変 換と呼ぶことにする.こうしておくと, 言葉や記号の使い方を明瞭に決めて,まぎれ f (x) + g(p) = px なく考えを進めることができるような言葉のし (4) くみや規則を作ることを,理論を定式化 (forが成り立ち,f のルジャンドル変換は g であり, mulate) するという.物理学の理論は,特別な g のルジャンドル変換は f である,という双対 能力や特殊な思想を持っている人だけが使える な関係が成り立つ. ものではなく,その規則に従えば誰でも同様に 使えるように定式化されなくてはならない.ま た,理論の定式化は唯一絶対のものではなく, 結果的には同じことを説明するが,見かけの異 なる複数の理論定式化が存在することもある. ハミルトニアン 自由度が 1 の力学系を考える.この系の状態 力学は物体の運動を記述し予測するための理 は一般化座標 q(t) とその時間微分 q̇(t) で記述 論であり,その中でも数学的に洗練された部分 されるが,q̇ = v と書くことにする.この系の を解析力学という.解析力学の定式化には何通 ラグランジアンは L(q, v, t) という関数である. りか流儀があり,とくにラグランジュの流儀と たいていの系のラグランジアンは「運動エネル ギー引く位置エネルギー」,つまり ハミルトンの流儀が代表的である. ここでは,前回導入したルジャンドル変換を 1 L = mv 2 − U (q) 2 用いて,ラグランジュ流の力学定式化からハミ ルトンへ流の力学定式化へ移行する. (5) という形であり,L を v の関数として見ると下 に凸な関数になっている.従って変数 v に関し て L をルジャンドル変換してよい.そこで, ルジャンドル変換 p := 前回導入したルジャンドル変換は,微分可能 な凸関数 f (x) に対して, p= ∂f ∂x を独立変数とする新たな関数 f ∗ (p) := f (x) − px (6) を新たな独立変数と定め,p を正準運動量 (1) (canonical momentum) と名づける.この式を v について解いて v = ψ(q, p, t) (2) (7) という形に直す.符号を変えたルジャンドル変 を定めることであった. 換 (3) により 今回は,ルジャンドル変換の符号を変えて g(p) := px − f (x) ∂L(q, v, t) ∂v H(q, p, t) := pv − L (3) 1 (8) で定まる関数をハミルトニアン (Hamiltonian) と と名づける.ラグランジアン L(q, v, t) におい ては q と v を独立変数として扱うが,ハミルト ニアン H(q, p, t) においては q と p を独立変数 が与えられれば,q(t) および p(t) の時間変化が dq ∂H = , dt ∂p dp ∂H =− dt ∂q (9) である.ハミルトニアンの微分がどうなるか調 べてみよう.(7) を通して v は p に依存してい ることに注意すると,H = pv − L と (6) から ∂H ∂p = = = = ) ∂ ( pv − L(q, v, t) ∂p ∂v ∂L ∂v v+p − ∂p ∂v ∂p ∂v ∂v v+p −p ∂p ∂p v = = = = 運動方程式 (canonical equation of motion) と いう. 問 1. 運動エネルギー引く位置エネルギーの 形のラグランジアン (10) 1 L = mv 2 − U (q) 2 アンに対して (6) に従って正準運動量を求めよ. また,v を p の式で表せ.(8) に従ってハミル トニアンを求めよ.また,ハミルトンの運動方 程式 (16), (17) を具体的に書け. 問 2. 自由度が n の系のラグランジアン L(q1 , · · · , qn , v1 , · · · , vn , t) に対しては n 個の正準運動量 方程式は ∂L(q, v, t) ∂vi (i = 1, · · · , n) (20) (12) が定められる.これらの式を各 vi について解 いて vi = ψi (q, p, t) (13) (21) のように v を q, p, t の関数で表す.そして,ハ に他ならないので,これらと正準運動量の定義 ミルトニアン 式 (6) をあわせると,(10) と (11) は ∂H dq =v= ∂p dt (19) (11) pi := ( ) d ∂L ∂L =0 − dt ∂v ∂q (18) を持つ系を自然力学系という.このラグランジ が成り立つ.一方で,オイラー・ラグランジュ v = q̇, (17) (Hamilton’s equation of motion) あるいは正準 していることに注意して, ∂H ∂q (16) で定まる.(16), (17) をハミルトンの運動方程式 が成り立つ.また,(7) を通して v は q に依存 ) ∂ ( pv − L(q, v, t) ∂q ∂v ∂L ∂L ∂v − − p ∂q ∂q ∂v ∂q ∂v ∂L ∂v p − −p ∂q ∂q ∂q ∂L − ∂q (15) を意味する.つまり,ハミルトニアン H(q, p, t) として扱う.だから, ∂p =0 ∂q ( ) ∂H ∂L d ∂L dp =− =− =− ∂q ∂q dt ∂v dt H(q, p, t) := (14) n ∑ j=1 2 p j vj − L (22) 問 4. (i) 2 次元平面上の質点のラグランジ を q, p, t の関数として定める.このとき,q(t) がオイラー・ラグランジュ方程式 vi = q̇i , アン 1 L = m(ẋ2 + ẏ 2 ) − U (x, y) 2 (23) から正準運動量 ( ) ∂L d ∂L ∂L − = 0 (i = 1, · · · , n) (24) px = , dt ∂ q̇i ∂qi ∂ ẋ を満たすならば,qi (t) および pi (t) は dqi ∂H , = dt ∂pi (31) ∂L ∂ ẏ (32) H = px ẋ + py ẏ − L (33) py = を求めよ.(22) に従って dpi ∂H (i = 1, · · · , n) (25) =− dt ∂qi よりハミルトニアン H を求めよ.ただしハミ を満たすことを証明せよ.(25) もまたハミル ルトアニンの最終的な形は x, y, px , py の関数と トン運動方程式あるいは正準運動方程式と呼 すべきことに注意せよ.また,x, y, px , py につ ばれる.オイラー・ラグランジュ方程式 (24) は いてのハミルトン運動方程式 (25) を書き下せ. n 個の変数 qi (t) に対する 2 階の微分方程式で (ii) 直交座標 (x, y) から極座標 (r, ϕ) への変換を { x = r cos ϕ, 個の変数 pi (t), qi (t) に対する 1 階の微分方程式 (34) y = r sin ϕ である. あったが,ハミルトンの運動方程式 (25) は 2n 問 3. 3 次元空間中の質点の直交座標を q = で定める.この式の両辺を t で微分して ẋ, ẏ を (x, y, z) として自然力学系のラグランジアン r, ϕ, ṙ, ϕ̇ の関数で表せ.逆に,ṙ, ϕ̇ を x, y, ẋ, ẏ 1 L = m(ẋ2 + ẏ 2 + ż 2 ) − U (q) 2 の関数で表せ.ラグランジアン (31) を変数 (26) r, ϕ, ṙ, ϕ̇ の関数として書き表せ.また,(20) と 同様に に対して (20) と同様に ∂L px = , ∂ ẋ ∂L py = , ∂ ẏ ∂L pz = ∂ ż pr = (27) pϕ = ∂L ∂ ϕ̇ (35) に従って正準運動量を求めよ.この式を解 に 従って 正 準 運 動 量 を 求 め よ .ẋ, ẏ, ż を い て ṙ, ϕ̇ を r, ϕ, pr , pϕ の 式 で 表 せ .px , py px , py , pz の式で表せ.(22) に従ってハミルト を r, ϕ, pr , pϕ の関数で表せ.逆に,pr , pϕ を ニアン H を求めよ.このとき,ハミルトアニ x, y, px , py の関数で表せ.(22) に従って ンは x, y, z, px , py , pz の関数とすべきことに注 H = pr ṙ + pϕ ϕ̇ − L 意せよ.また,この場合,ハミルトン運動方 程式 (25) は ∂H dx = , dt ∂px ∂H dy = , dt ∂py ∂H dz = , dt ∂pz ∂L , ∂ ṙ (36) よりハミルトニアン H を求めよ.ただしこの dpx ∂H =− , dt ∂x dpy ∂H =− , dt ∂y dpz ∂H =− dt ∂z ハミルトアニンの最終的な形は r, ϕ, pr , pϕ の関 (28) 数とすべきことに注意せよ.また,正準座標 (29) r, ϕ, pr , pϕ についてのハミルトン運動方程式 dr ∂H = , dt ∂pr dϕ ∂H = , dt ∂pϕ (30) であるが,H の微分を具体的に書き下せ. 3 dpr ∂H =− , dt ∂r dpϕ ∂H =− dt ∂ϕ (37) (38) を具体的に書き下せ.とくに,位置エネルギー 先ほどの節ではラグランジアンからハミルト U が r だけの関数になっている(U が ϕ に依存 ニアンを作ったが,ハミルトン形式の力学を独 しない)場合,ハミルトンの運動方程式はどう 立した理論とみなす立場を採ることもできる. なるか. この立場では,ラグランジアンを知らなくて (iii) 次の等式が成り立つことを確認せよ: も,ハミルトニアン H(q, p, t) という関数を所 与のものとして認め,運動方程式 px ẋ + py ẏ = pr ṙ + pϕ ϕ̇ (39) dqi ∂H dpi ∂H = , =− (i = 1, · · · , n) (43) dt ∂pi dt ∂qi 問 5. 3 次元空間中の質点の直交座標 q = (x, y, z) から極座標 (r, θ, ϕ) への変換を x = r sin θ cos ϕ, y = r sin θ sin ϕ, z = r cos θ で力学系の状態変化は決まると考える. ハミルトン方程式 (43) は相空間上のベクト ル場を定めるが,これをハミルトンベクトル場 (40) (Hamiltonian vector field) という.ハミルトン 方程式は 1 階の微分方程式なので,任意の時刻 で定める.このとき,ラグランジアン 1 L = m(ẋ2 + ẏ 2 + ż 2 ) − U (q) 2 t = t0 における初期条件 (q(t0 ), p(t0 )) が与えら れれば方程式 (43) の解 (q(t), p(t)) は一意的に (41) 決まる.変数 t の値を動かすと,相空間上の点 を変数 (r, θ, ϕ, ṙ, θ̇, ϕ̇) の関数として書き表せ. (q(t), p(t)) は相空間中に曲線を描くが,この 曲線を解曲線とか軌跡 (trajectory) という.時 また,(20) と同様に ∂L pr = , ∂ ṙ ∂L pθ = , ∂ θ̇ ∂L pϕ = ∂ ϕ̇ 刻 t0 , t1 を固定すれば,時刻 t0 における相空間 (42) 上の点 (q(t0 ), p(t0 )) に時刻 t = t1 における解 軌道上の点 (q(t1 ), p(t1 )) を対応させる写像 に従って正準運動量を求めて,(22) に従ってハ Π(t1 , t0 ) : (q(t0 ), p(t0 )) 7→ (q(t1 ), p(t1 )) (44) ミルトニアンを求めよ.また,ハミルトンの運 動方程式 (25) を書き下せ.とくに,位置エネ が 定 ま る .Π(t , t ) を 時 間 発 展 写 像 (time1 0 ルギー U が r だけの関数になっている(U が evolution map) とか時間推進写像と呼ぶ.明 θ と ϕ に依存しない)場合,ハミルトンの運動 らかに 方程式はどうなるか. Π(t2 , t1 ) ◦ Π(t1 , t0 ) = Π(t2 , t0 ) (45) が成り立つ. 相流 とくに,ハミルトニアン H(q, p) 自体が陽に ハミルトン形式の力学では (q, p) = (q1 , · · · , 時間 t に依存していない場合が重要である.そ qn , p1 , · · · , pn ) という 2n 個の変数を用いて力 のような系を自律系 (autonomous system) と 学系の状態を指定する.これらの変数を正準座 いう.自律系に対しては任意の時刻 t0 , t1 と任 標 (canonical coordinates) といい,ペアになる 意の時間 τ に対して qi と pi を正準共役 (canonical conjugate) とい Π(t1 + τ, t0 + τ ) = Π(t1 , t0 ) う.正準座標で張られる 2n 次元の空間を相空間 (46) (phase space) あるいは状態空間 (state space) が成り立つ.この性質を時間発展の時間並進不 変性 (time-translation invariance) という.こ という. 4 物理量の時間変化と保存量 の性質のため, Π(t1 , t0 ) = Π(t1 − t0 , 0) (47) 系の状態が決まれば値が決まるような関数 のことを物理量 (observable) という.例えば, が成り立つ.そうすると,時間 t の分だけ時間 物体の位置や運動量や運動エネルギーや角運 発展を進める写像 σ(t) := Π(t, 0) 動量は物理量である.相空間の点 (q, p) は力学 (48) 系の状態を一意的に指定している.ということ は,物理量は相空間上の関数 A(q, p) に他なら を定めるのが自然であり, ない.その意味ではハミルトニアン H(q, p) も σ(t2 ) ◦ σ(t1 ) = σ(t2 + t1 ) (49) 物理量の一種である. 系の状態が時間変化すれば,それに伴って物 が成り立つ.さまざまな初期条件に対して解曲 理量の値 A(q(t), p(t)) も変化する.その変化の 線を描いた図を相流 (phase flow) という(厳密 仕方は,ハミルトン運動方程式 (43) により には,写像の族 {σ(t) | t ∈ R} のことを相流と ) n ( ∑ dA ∂A dqi ∂A dpi いうが,ここでは図形的・視覚的役割を強調し = + dt ∂q dt ∂pi dt i i=1 て,解曲線の束そのもののことを相流と呼ぶこ ) n ( ∑ ∂A ∂H ∂A ∂H とにした).自律系の場合,相流は,時間変化 = − (51) ∂qi ∂pi ∂pi ∂qi i=1 しないベクトル場に沿った流れになる.非自律 系の場合は,ベクトル場そのものが時間的に変 を満たす.この式の右辺はまとまりがよいので, ) 化していくので,一枚の絵にベクトル場と相流 n ( ∑ ∂A ∂H ∂A ∂H {A, H}P := − (52) を描くことはあまり意味をなさない(アニメー ∂qi ∂pi ∂pi ∂qi i=1 ションとして描くなら意味がある). ハミルトン形式の力学は運動方程式が相空 と書き,{A, H}P を A と H のポアソン括弧 間上の 1 階の微分方程式なので,相空間上の一 (Poisson bracket) という. {A, H}P = 0 であれば,A の値は時間変化し 点を選ぶごとにそれを初期条件とする解曲線が 一意的に決まり,力学系の振る舞いがすべて相 ない,つまり A は保存量になる. ただし,一般的には,時間 t にあからさまに 空間中の相流という幾何学的図として捉えられ る.つまり,ハミルトン流の力学は,力学系の 依存した関数 A(q, p, t) も物理量とみなすこと 振る舞いの全体像を把握するのに便利である. ができる.このような関数の時間変化は ) n ( ∑ ∂A dqi ∂A dpi dA ∂A = + + dt ∂qi dt ∂pi dt ∂t i=1 問 6. 質量 m とばね定数 k は正の数とし, ∂A (x, p) を正準座標とする.ハミルトニアン = {A, H}P + (53) ∂t 1 2 1 2 H= p + kx (50) に従う. 2m 2 どのようなハミルトニアン H に対しても に関して,ハミルトン運動方程式を書け.(x, p) {H, H}P = 0 なので,自律系であれば H 自体 平面において,この方程式が定めるハミルトン が保存量である.実数 E に対して ベクトル場を描け.運動方程式の解を求めよ. H −1 (E) := { (q, p) | H(q, p) = E } 相流も描け. 5 (54) は,一般に,相空間内の (2n − 1) 次元曲面を定 を求めよ. める.これをエネルギー E の等エネルギー面 (iii) (ϕ, pϕ ) を正準座標としてハミルトニアン (constant-energy surface) という.従って,解 H(ϕ, pϕ ) を求めよ. 曲線は初期条件で決まる等エネルギー面上を (iv) ハミルトン運動方程式を求めよ. 動く.もちろん,相空間が 2 次元の場合は等エ (v) (ϕ, pϕ ) を座標とする相空間においてハミル ネルギー面は 1 次元であり,その意味では等エ トンベクトル場・等エネルギー面・相流を描け. ネルギー曲線と呼ぶのがふさわしい.また,等 (vi) 周期的運動と非周期的運動の境目の条件 エネルギー面は一つよりも,いろいろなエネ 式を求めよ. ルギー値に対する面の族を考えた方が解曲線 問 10. 質量 m とばね定数 k は正の数とし, の族の振る舞いがわかりやすい. (x, p) を正準座標とする.ハミルトニアン 問 7. 問 6 で扱ったハミルトニアンについて H= エネルギーの値 E をいろいろ変えて (x, p) 平 面内に等エネルギー曲線を描け. (60) に関して,ハミルトン運動方程式を書け.相空 問 8. (x, p) を正準座標として,ハミルトニ 間内に等エネルギー面を描け.この方程式が定 アン 1 2 H= p 2m 1 2 1 2 p − kx 2m 2 めるハミルトンベクトル場を描け.運動方程式 (55) の解を求めよ.相流も描け. 問 11. (i) 円錐曲線 (conic section) と呼ばれ に関して (x, p) 平面において等エネルギー曲線 の族を描け.ハミルトン運動方程式を書け.こ る曲線を定義する.平面上に定点 O を定め,点 の方程式が定めるハミルトンベクトル場を描 O を通らない直線 ℓ を定める.平面上の点 P か ら ℓ に下ろした垂線の足を H とすると,OP と け.運動方程式の解を求めよ.相流も描け. 問 9. 質量 m の物体が重力加速度 g の場の中 PH の長さの比 にあり,鉛直平面内を動くとする.(x, y) を一 OP =ε PH 般化座標として,この系のラグランジアンは 1 L = m(ẋ2 + ẏ 2 ) − mgy 2 (56) が一定値であるような点 P の軌跡が円錐曲線 である.ε = 21 , 45 , 1, で与えられる.この系は拘束条件 2 2 x +y =a 2 (a > 0) (61) 5 4 として,この定義どお り円錐曲線を作図してみよ.この定数 ε は離心 (57) 率 (eccentricity) と呼ばれ,点 O は焦点 (focus) と呼ばれる.点 P の軌跡は 0 < ε < 1 の場合は に縛られているとする.そこで,ϕ を独立変数 円錐曲線は楕円 (ellipse), ε = 1 の場合は放物線 として (parabola), ε > 1 の場合は双曲線 (hyperbola) x = a sin ϕ, y = −a cos ϕ (58) になる.ε = 0 の場合をどう考えるべきか,よ で座標変換する. く考える必要があるが,結果的には円になる. (i) L を ϕ, ϕ̇ の関数で表せ. (ii) 点 O から ℓ に下ろした垂線の足を D とし て,OP = r, OD = λ, ∠DOP = θ, ελ = ρ と (ii) 座標 ϕ に対して共役な正準運動量 ∂L pϕ = ∂ ϕ̇ おくと, (59) PH = λ − r cos θ 6 (62) 場合に分けて,解軌道の振る舞いを分析せよ. となることを示せ.また, OP r = =ε PH λ − r cos θ (iv) 2 つの物理量 (p ) ϕ Jx := cos ϕ + pr sin ϕ pϕ − mk cos ϕ (69) ( pr ) ϕ Jy := sin ϕ − pr cos ϕ pϕ − mk sin ϕ (70) r (63) から r= ελ ρ = 1 + ε cos θ 1 + ε cos θ (64) を定義する.(i) で導いたハミルトン運動方程 を導け.これは円錐曲線の方程式と呼ばれる. 式を用いて θ = 0 のとき距離 r は最も短くなるが,惑星 dJx = 0, dt が太陽に最も近づく点という意味でこの点は dJy =0 dt (71) 近日点 (perihelion) と呼ばれる.離心率 ε が 1 となることを示せ.つまり Jx , Jy は保存量であ より小さいか大きいかによって場合分けして, る.J = (Jx , Jy ) をラプラス・ルンゲ・レンツ 角度 θ のとり得る値の範囲を考えよ.直交座標 ベクトル (Laplace-Runge-Lenz vector) という. (v) ベクトル J = (Jx , Jy ) と r = (x, y) = x = r cos θ, y = r sin θ を代入すると, √ x2 + y2 2 2 これら 2 つのベクトルがなす角を θ とすると, = ρ − εx (1 − ε )x + y + 2ερx = ρ 2 (r cos ϕ, r sin ϕ) の大きさをそれぞれ J, r とし, r = ε(λ − r cos θ) 2 内積の定義と性質から (65) J · r = Jx x + Jy y = Jr cos θ となる.この式の方が,ε の値に応じて楕円・ 放物線・双曲線になることがわかりやすい. が成り立つが,さらに Jx x + Jy y = p2ϕ − mkr 問 12. 問 4 (31) の U が万有引力の位置エネ ルギー (72) (73) が成り立つことを示せ. k GM m =− U =−√ r x2 + y 2 (66) (vi) 上の式 (72), (73) から p2ϕ = r= mk + J cos θ 1+ で与えられる場合を考える.ここで GM m = k とおいた.(r, ϕ, pr , pϕ ) を正準座標とする. p2ϕ mk J cos θ mk (74) (i) 万有引力の下で動く質点のハミルトニアン を導け.この式を (64) と見比べると,質点の 軌道は離心率 1 2 k 1 2 H= p + p − (67) J 2m r 2mr2 ϕ r ε= (75) mk に関して,ハミルトン運動方程式を書け. (J ≥ 0 だから ε ≥ 0)の円錐曲線であることが (ii) pϕ が保存量であることを示せ.このことか わかる.(74) からラプラスベクトル J は焦点 ら,この質点は,(r, pr ) だけを正準変数とし, から近日点の方向を向いていることがわかる. pϕ は定数として位置エネルギー (vii) (69), (70) と (67) から 2 pϕ k V (r) = − (68) J 2 := Jx2 + Jy2 = 2m p2ϕ H + m2 k 2 (76) 2 2mr r となることを示せ.ラプラスベクトル J は保 の場の中を動く質点ともみなせる. (iii) エネルギー値が E < 0, E = 0, E > 0 の 存量であり,その大きさ J はたしかに保存量 7 pϕ , H だけの関数になっている.また,(75), のポアソン括弧で得られる関数 {A, B}P もま た保存量であることを証明せよ. (76) から √ ε = 2p2ϕ 1+ H mk 2 問 15. (x, y, z, px , py , pz ) を正準座標とする (77) 系において となることを示せ.H の値はエネルギーであ Lx := ypz − zpy (85) ることに注意.H < 0 ならば 0 ≤ ε < 1 であ Ly := zpx − xpz (86) り,質点の軌跡は楕円になる.H = 0 ならば Lz := xpy − ypx (87) ε = 1 であり軌跡は放物線になる.H > 0 なら で定められる物理量 Lx , Ly , Lz に関して以下の ば ε > 1 であり軌跡は双曲線になる. ポアソン括弧を求めよ: (viii) k > 0 の場合 (66) は力の大きさが距離の 2 乗に反比例する引力を表しているが,k < 0 {Lx , Ly }P , {Ly , Lz }P , {Lz , Lx }P . (88) とするとこれは斥力の場になる.k < 0 の場合, 質点の軌道は必ず双曲線になることを示せ. 【コメント】ラプラス・ルンゲ・レンツベクトル 問 13. A, B, C を正準座標 (q, p) の関数とす (69), (70) のような複雑な式をどうやって思い る.c を任意の実数定数とする.ポアソン括弧 ついたか不思議に思われるだろうが,3 次元の ベクトル p = (px , py , pz ), L = (Lx , Ly , Lz ) を (52) について以下の関係式を証明せよ: 使うとラプラス・ルンゲ・レンツベクトルは {cA, B}P = {A, cB}P = c{A, B}P (78) {A + B, C}P = {A, C}P + {B, C}P (79) {A, B + C}P = {A, B}P + {A, C}P (80) というまとまりのよい形に書ける. (81) {B, A}P = −{A, B}P J = p × L − mk {A, BC}P = {A, B}P C + B{A, C}P (82) r r (89) 力学の進歩 {AB, C}P = {A, C}P B + A{B, C}P (83) 解析力学は以上で終わりではなく,今もなお {A, {B, C}P }P + {B, {C, A}P }P 進化している.正準変換,ポアソン括弧と対称 +{C, {A, B}P }P = 0 (84) 性の理論,ハミルトン・ヤコビの理論,可積分 (78), (79), (80) の性質を線形性という.(81) 系,カオス,場の解析力学,制御理論,拘束系 を反対称性という.(82), (83) をライプニッツ の理論などの諸概念・諸理論が,ラグランジュ 則 (Leibniz rule) という.(84) をヤコビ恒等式 とハミルトンの解析力学の後に展開している. (Jabobi identity) という. これらの理論は,エレベーター・ロボット・加 問 14. 時間に陽に依存しない物理量 A, B, C 速器・ロケット・人工衛星・天気予報などさまざ が保存量ならば,それらをスカラー倍したり まな物体の運動の予測や制御に役立っている. 足し算したり掛け算したりして得られる関数 とくに近年はコンピュータの発達に伴って力学 も保存量であることを証明せよ.保存量同士 の応用範囲はますます広がっている. 8
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