ハミルトニアンとポアソン括弧 - 多自由度システム情報論講座

物質情報学 1(解析力学),担当 谷村省吾,講義ノート 7
ハミルトニアンとポアソン括弧
理論の定式化
を定め,改めてこれを f (x) のルジャンドル変
換と呼ぶことにする.こうしておくと,
言葉や記号の使い方を明瞭に決めて,まぎれ
f (x) + g(p) = px
なく考えを進めることができるような言葉のし
(4)
くみや規則を作ることを,理論を定式化 (forが成り立ち,f のルジャンドル変換は g であり,
mulate) するという.物理学の理論は,特別な
g のルジャンドル変換は f である,という双対
能力や特殊な思想を持っている人だけが使える
な関係が成り立つ.
ものではなく,その規則に従えば誰でも同様に
使えるように定式化されなくてはならない.ま
た,理論の定式化は唯一絶対のものではなく,
結果的には同じことを説明するが,見かけの異
なる複数の理論定式化が存在することもある.
ハミルトニアン
自由度が 1 の力学系を考える.この系の状態
力学は物体の運動を記述し予測するための理 は一般化座標 q(t) とその時間微分 q̇(t) で記述
論であり,その中でも数学的に洗練された部分 されるが,q̇ = v と書くことにする.この系の
を解析力学という.解析力学の定式化には何通 ラグランジアンは L(q, v, t) という関数である.
りか流儀があり,とくにラグランジュの流儀と たいていの系のラグランジアンは「運動エネル
ギー引く位置エネルギー」,つまり
ハミルトンの流儀が代表的である.
ここでは,前回導入したルジャンドル変換を
1
L = mv 2 − U (q)
2
用いて,ラグランジュ流の力学定式化からハミ
ルトンへ流の力学定式化へ移行する.
(5)
という形であり,L を v の関数として見ると下
に凸な関数になっている.従って変数 v に関し
て L をルジャンドル変換してよい.そこで,
ルジャンドル変換
p :=
前回導入したルジャンドル変換は,微分可能
な凸関数 f (x) に対して,
p=
∂f
∂x
を独立変数とする新たな関数
f ∗ (p) := f (x) − px
(6)
を新たな独立変数と定め,p を正準運動量
(1) (canonical momentum) と名づける.この式を
v について解いて
v = ψ(q, p, t)
(2)
(7)
という形に直す.符号を変えたルジャンドル変
を定めることであった.
換 (3) により
今回は,ルジャンドル変換の符号を変えて
g(p) := px − f (x)
∂L(q, v, t)
∂v
H(q, p, t) := pv − L
(3)
1
(8)
で定まる関数をハミルトニアン (Hamiltonian) と
と名づける.ラグランジアン L(q, v, t) におい
ては q と v を独立変数として扱うが,ハミルト
ニアン H(q, p, t) においては q と p を独立変数
が与えられれば,q(t) および p(t) の時間変化が
dq
∂H
=
,
dt
∂p
dp
∂H
=−
dt
∂q
(9)
である.ハミルトニアンの微分がどうなるか調
べてみよう.(7) を通して v は p に依存してい
ることに注意すると,H = pv − L と (6) から
∂H
∂p
=
=
=
=
)
∂ (
pv − L(q, v, t)
∂p
∂v ∂L ∂v
v+p
−
∂p
∂v ∂p
∂v
∂v
v+p
−p
∂p
∂p
v
=
=
=
=
運動方程式 (canonical equation of motion) と
いう.
問 1. 運動エネルギー引く位置エネルギーの
形のラグランジアン
(10)
1
L = mv 2 − U (q)
2
アンに対して (6) に従って正準運動量を求めよ.
また,v を p の式で表せ.(8) に従ってハミル
トニアンを求めよ.また,ハミルトンの運動方
程式 (16), (17) を具体的に書け.
問 2. 自由度が n の系のラグランジアン
L(q1 , · · · , qn , v1 , · · · , vn , t)
に対しては n 個の正準運動量
方程式は
∂L(q, v, t)
∂vi
(i = 1, · · · , n)
(20)
(12) が定められる.これらの式を各 vi について解
いて
vi = ψi (q, p, t)
(13)
(21)
のように v を q, p, t の関数で表す.そして,ハ
に他ならないので,これらと正準運動量の定義
ミルトニアン
式 (6) をあわせると,(10) と (11) は
∂H
dq
=v=
∂p
dt
(19)
(11)
pi :=
( )
d ∂L
∂L
=0
−
dt ∂v
∂q
(18)
を持つ系を自然力学系という.このラグランジ
が成り立つ.一方で,オイラー・ラグランジュ
v = q̇,
(17)
(Hamilton’s equation of motion) あるいは正準
していることに注意して,
∂H
∂q
(16)
で定まる.(16), (17) をハミルトンの運動方程式
が成り立つ.また,(7) を通して v は q に依存
)
∂ (
pv − L(q, v, t)
∂q
∂v ∂L ∂L ∂v
−
−
p
∂q
∂q
∂v ∂q
∂v ∂L
∂v
p
−
−p
∂q
∂q
∂q
∂L
−
∂q
(15)
を意味する.つまり,ハミルトニアン H(q, p, t)
として扱う.だから,
∂p
=0
∂q
( )
∂H
∂L
d ∂L
dp
=−
=−
=−
∂q
∂q
dt ∂v
dt
H(q, p, t) :=
(14)
n
∑
j=1
2
p j vj − L
(22)
問 4. (i) 2 次元平面上の質点のラグランジ
を q, p, t の関数として定める.このとき,q(t)
がオイラー・ラグランジュ方程式
vi = q̇i ,
アン
1
L = m(ẋ2 + ẏ 2 ) − U (x, y)
2
(23)
から正準運動量
( )
∂L
d ∂L
∂L
−
= 0 (i = 1, · · · , n) (24)
px =
,
dt ∂ q̇i
∂qi
∂ ẋ
を満たすならば,qi (t) および pi (t) は
dqi
∂H
,
=
dt
∂pi
(31)
∂L
∂ ẏ
(32)
H = px ẋ + py ẏ − L
(33)
py =
を求めよ.(22) に従って
dpi
∂H
(i = 1, · · · , n) (25)
=−
dt
∂qi
よりハミルトニアン H を求めよ.ただしハミ
を満たすことを証明せよ.(25) もまたハミル
ルトアニンの最終的な形は x, y, px , py の関数と
トン運動方程式あるいは正準運動方程式と呼
すべきことに注意せよ.また,x, y, px , py につ
ばれる.オイラー・ラグランジュ方程式 (24) は
いてのハミルトン運動方程式 (25) を書き下せ.
n 個の変数 qi (t) に対する 2 階の微分方程式で
(ii) 直交座標 (x, y) から極座標 (r, ϕ) への変換を
{
x = r cos ϕ,
個の変数 pi (t), qi (t) に対する 1 階の微分方程式
(34)
y = r sin ϕ
である.
あったが,ハミルトンの運動方程式 (25) は 2n
問 3. 3 次元空間中の質点の直交座標を q = で定める.この式の両辺を t で微分して ẋ, ẏ を
(x, y, z) として自然力学系のラグランジアン
r, ϕ, ṙ, ϕ̇ の関数で表せ.逆に,ṙ, ϕ̇ を x, y, ẋ, ẏ
1
L = m(ẋ2 + ẏ 2 + ż 2 ) − U (q)
2
の関数で表せ.ラグランジアン (31) を変数
(26)
r, ϕ, ṙ, ϕ̇ の関数として書き表せ.また,(20) と
同様に
に対して (20) と同様に
∂L
px =
,
∂ ẋ
∂L
py =
,
∂ ẏ
∂L
pz =
∂ ż
pr =
(27)
pϕ =
∂L
∂ ϕ̇
(35)
に従って正準運動量を求めよ.この式を解
に 従って 正 準 運 動 量 を 求 め よ .ẋ, ẏ, ż を
い て ṙ, ϕ̇ を r, ϕ, pr , pϕ の 式 で 表 せ .px , py
px , py , pz の式で表せ.(22) に従ってハミルト
を r, ϕ, pr , pϕ の関数で表せ.逆に,pr , pϕ を
ニアン H を求めよ.このとき,ハミルトアニ
x, y, px , py の関数で表せ.(22) に従って
ンは x, y, z, px , py , pz の関数とすべきことに注
H = pr ṙ + pϕ ϕ̇ − L
意せよ.また,この場合,ハミルトン運動方
程式 (25) は
∂H
dx
=
,
dt
∂px
∂H
dy
=
,
dt
∂py
∂H
dz
=
,
dt
∂pz
∂L
,
∂ ṙ
(36)
よりハミルトニアン H を求めよ.ただしこの
dpx
∂H
=−
,
dt
∂x
dpy
∂H
=−
,
dt
∂y
dpz
∂H
=−
dt
∂z
ハミルトアニンの最終的な形は r, ϕ, pr , pϕ の関
(28)
数とすべきことに注意せよ.また,正準座標
(29) r, ϕ, pr , pϕ についてのハミルトン運動方程式
dr
∂H
=
,
dt
∂pr
dϕ
∂H
=
,
dt
∂pϕ
(30)
であるが,H の微分を具体的に書き下せ.
3
dpr
∂H
=−
,
dt
∂r
dpϕ
∂H
=−
dt
∂ϕ
(37)
(38)
を具体的に書き下せ.とくに,位置エネルギー
先ほどの節ではラグランジアンからハミルト
U が r だけの関数になっている(U が ϕ に依存 ニアンを作ったが,ハミルトン形式の力学を独
しない)場合,ハミルトンの運動方程式はどう 立した理論とみなす立場を採ることもできる.
なるか.
この立場では,ラグランジアンを知らなくて
(iii) 次の等式が成り立つことを確認せよ:
も,ハミルトニアン H(q, p, t) という関数を所
与のものとして認め,運動方程式
px ẋ + py ẏ = pr ṙ + pϕ ϕ̇
(39)
dqi
∂H dpi
∂H
=
,
=−
(i = 1, · · · , n) (43)
dt
∂pi
dt
∂qi
問 5. 3 次元空間中の質点の直交座標 q =
(x, y, z) から極座標 (r, θ, ϕ) への変換を


 x = r sin θ cos ϕ,
y = r sin θ sin ϕ,

 z = r cos θ
で力学系の状態変化は決まると考える.
ハミルトン方程式 (43) は相空間上のベクト
ル場を定めるが,これをハミルトンベクトル場
(40)
(Hamiltonian vector field) という.ハミルトン
方程式は 1 階の微分方程式なので,任意の時刻
で定める.このとき,ラグランジアン
1
L = m(ẋ2 + ẏ 2 + ż 2 ) − U (q)
2
t = t0 における初期条件 (q(t0 ), p(t0 )) が与えら
れれば方程式 (43) の解 (q(t), p(t)) は一意的に
(41)
決まる.変数 t の値を動かすと,相空間上の点
を変数 (r, θ, ϕ, ṙ, θ̇, ϕ̇) の関数として書き表せ. (q(t), p(t)) は相空間中に曲線を描くが,この
曲線を解曲線とか軌跡 (trajectory) という.時
また,(20) と同様に
∂L
pr =
,
∂ ṙ
∂L
pθ =
,
∂ θ̇
∂L
pϕ =
∂ ϕ̇
刻 t0 , t1 を固定すれば,時刻 t0 における相空間
(42) 上の点 (q(t0 ), p(t0 )) に時刻 t = t1 における解
軌道上の点 (q(t1 ), p(t1 )) を対応させる写像
に従って正準運動量を求めて,(22) に従ってハ
Π(t1 , t0 ) : (q(t0 ), p(t0 )) 7→ (q(t1 ), p(t1 )) (44)
ミルトニアンを求めよ.また,ハミルトンの運
動方程式 (25) を書き下せ.とくに,位置エネ が 定 ま る .Π(t , t ) を 時 間 発 展 写 像 (time1 0
ルギー U が r だけの関数になっている(U が evolution map) とか時間推進写像と呼ぶ.明
θ と ϕ に依存しない)場合,ハミルトンの運動 らかに
方程式はどうなるか.
Π(t2 , t1 ) ◦ Π(t1 , t0 ) = Π(t2 , t0 )
(45)
が成り立つ.
相流
とくに,ハミルトニアン H(q, p) 自体が陽に
ハミルトン形式の力学では (q, p) = (q1 , · · · , 時間 t に依存していない場合が重要である.そ
qn , p1 , · · · , pn ) という 2n 個の変数を用いて力 のような系を自律系 (autonomous system) と
学系の状態を指定する.これらの変数を正準座 いう.自律系に対しては任意の時刻 t0 , t1 と任
標 (canonical coordinates) といい,ペアになる 意の時間 τ に対して
qi と pi を正準共役 (canonical conjugate) とい
Π(t1 + τ, t0 + τ ) = Π(t1 , t0 )
う.正準座標で張られる 2n 次元の空間を相空間
(46)
(phase space) あるいは状態空間 (state space) が成り立つ.この性質を時間発展の時間並進不
変性 (time-translation invariance) という.こ
という.
4
物理量の時間変化と保存量
の性質のため,
Π(t1 , t0 ) = Π(t1 − t0 , 0)
(47)
系の状態が決まれば値が決まるような関数
のことを物理量 (observable) という.例えば,
が成り立つ.そうすると,時間 t の分だけ時間
物体の位置や運動量や運動エネルギーや角運
発展を進める写像
σ(t) := Π(t, 0)
動量は物理量である.相空間の点 (q, p) は力学
(48) 系の状態を一意的に指定している.ということ
は,物理量は相空間上の関数 A(q, p) に他なら
を定めるのが自然であり,
ない.その意味ではハミルトニアン H(q, p) も
σ(t2 ) ◦ σ(t1 ) = σ(t2 + t1 )
(49) 物理量の一種である.
系の状態が時間変化すれば,それに伴って物
が成り立つ.さまざまな初期条件に対して解曲 理量の値 A(q(t), p(t)) も変化する.その変化の
線を描いた図を相流 (phase flow) という(厳密 仕方は,ハミルトン運動方程式 (43) により
には,写像の族 {σ(t) | t ∈ R} のことを相流と
)
n (
∑
dA
∂A dqi ∂A dpi
いうが,ここでは図形的・視覚的役割を強調し
=
+
dt
∂q
dt
∂pi dt
i
i=1
て,解曲線の束そのもののことを相流と呼ぶこ
)
n (
∑
∂A ∂H
∂A ∂H
とにした).自律系の場合,相流は,時間変化
=
−
(51)
∂qi ∂pi
∂pi ∂qi
i=1
しないベクトル場に沿った流れになる.非自律
系の場合は,ベクトル場そのものが時間的に変 を満たす.この式の右辺はまとまりがよいので,
)
化していくので,一枚の絵にベクトル場と相流
n (
∑
∂A ∂H
∂A ∂H
{A, H}P :=
−
(52)
を描くことはあまり意味をなさない(アニメー
∂qi ∂pi
∂pi ∂qi
i=1
ションとして描くなら意味がある).
ハミルトン形式の力学は運動方程式が相空 と書き,{A, H}P を A と H のポアソン括弧
間上の 1 階の微分方程式なので,相空間上の一 (Poisson bracket) という.
{A, H}P = 0 であれば,A の値は時間変化し
点を選ぶごとにそれを初期条件とする解曲線が
一意的に決まり,力学系の振る舞いがすべて相 ない,つまり A は保存量になる.
ただし,一般的には,時間 t にあからさまに
空間中の相流という幾何学的図として捉えられ
る.つまり,ハミルトン流の力学は,力学系の 依存した関数 A(q, p, t) も物理量とみなすこと
振る舞いの全体像を把握するのに便利である. ができる.このような関数の時間変化は
)
n (
∑
∂A dqi ∂A dpi
dA
∂A
=
+
+
dt
∂qi dt
∂pi dt
∂t
i=1
問 6. 質量 m とばね定数 k は正の数とし,
∂A
(x, p) を正準座標とする.ハミルトニアン
= {A, H}P +
(53)
∂t
1 2 1 2
H=
p + kx
(50) に従う.
2m
2
どのようなハミルトニアン H に対しても
に関して,ハミルトン運動方程式を書け.(x, p)
{H, H}P = 0 なので,自律系であれば H 自体
平面において,この方程式が定めるハミルトン
が保存量である.実数 E に対して
ベクトル場を描け.運動方程式の解を求めよ.
H −1 (E) := { (q, p) | H(q, p) = E }
相流も描け.
5
(54)
は,一般に,相空間内の (2n − 1) 次元曲面を定 を求めよ.
める.これをエネルギー E の等エネルギー面 (iii) (ϕ, pϕ ) を正準座標としてハミルトニアン
(constant-energy surface) という.従って,解 H(ϕ, pϕ ) を求めよ.
曲線は初期条件で決まる等エネルギー面上を (iv) ハミルトン運動方程式を求めよ.
動く.もちろん,相空間が 2 次元の場合は等エ (v) (ϕ, pϕ ) を座標とする相空間においてハミル
ネルギー面は 1 次元であり,その意味では等エ トンベクトル場・等エネルギー面・相流を描け.
ネルギー曲線と呼ぶのがふさわしい.また,等 (vi) 周期的運動と非周期的運動の境目の条件
エネルギー面は一つよりも,いろいろなエネ 式を求めよ.
ルギー値に対する面の族を考えた方が解曲線
問 10. 質量 m とばね定数 k は正の数とし,
の族の振る舞いがわかりやすい.
(x, p) を正準座標とする.ハミルトニアン
問 7. 問 6 で扱ったハミルトニアンについて
H=
エネルギーの値 E をいろいろ変えて (x, p) 平
面内に等エネルギー曲線を描け.
(60)
に関して,ハミルトン運動方程式を書け.相空
問 8. (x, p) を正準座標として,ハミルトニ
間内に等エネルギー面を描け.この方程式が定
アン
1 2
H=
p
2m
1 2 1 2
p − kx
2m
2
めるハミルトンベクトル場を描け.運動方程式
(55) の解を求めよ.相流も描け.
問 11. (i) 円錐曲線 (conic section) と呼ばれ
に関して (x, p) 平面において等エネルギー曲線
の族を描け.ハミルトン運動方程式を書け.こ る曲線を定義する.平面上に定点 O を定め,点
の方程式が定めるハミルトンベクトル場を描 O を通らない直線 ℓ を定める.平面上の点 P か
ら ℓ に下ろした垂線の足を H とすると,OP と
け.運動方程式の解を求めよ.相流も描け.
問 9. 質量 m の物体が重力加速度 g の場の中 PH の長さの比
にあり,鉛直平面内を動くとする.(x, y) を一
OP
=ε
PH
般化座標として,この系のラグランジアンは
1
L = m(ẋ2 + ẏ 2 ) − mgy
2
(56) が一定値であるような点 P の軌跡が円錐曲線
である.ε = 21 , 45 , 1,
で与えられる.この系は拘束条件
2
2
x +y =a
2
(a > 0)
(61)
5
4
として,この定義どお
り円錐曲線を作図してみよ.この定数 ε は離心
(57) 率 (eccentricity) と呼ばれ,点 O は焦点 (focus)
と呼ばれる.点 P の軌跡は 0 < ε < 1 の場合は
に縛られているとする.そこで,ϕ を独立変数
円錐曲線は楕円 (ellipse), ε = 1 の場合は放物線
として
(parabola), ε > 1 の場合は双曲線 (hyperbola)
x = a sin ϕ,
y = −a cos ϕ
(58) になる.ε = 0 の場合をどう考えるべきか,よ
で座標変換する.
く考える必要があるが,結果的には円になる.
(i) L を ϕ, ϕ̇ の関数で表せ.
(ii) 点 O から ℓ に下ろした垂線の足を D とし
て,OP = r, OD = λ, ∠DOP = θ, ελ = ρ と
(ii) 座標 ϕ に対して共役な正準運動量
∂L
pϕ =
∂ ϕ̇
おくと,
(59)
PH = λ − r cos θ
6
(62)
場合に分けて,解軌道の振る舞いを分析せよ.
となることを示せ.また,
OP
r
=
=ε
PH
λ − r cos θ
(iv) 2 つの物理量
(p
)
ϕ
Jx :=
cos ϕ + pr sin ϕ pϕ − mk cos ϕ (69)
( pr
)
ϕ
Jy :=
sin ϕ − pr cos ϕ pϕ − mk sin ϕ (70)
r
(63)
から
r=
ελ
ρ
=
1 + ε cos θ
1 + ε cos θ
(64)
を定義する.(i) で導いたハミルトン運動方程
を導け.これは円錐曲線の方程式と呼ばれる. 式を用いて
θ = 0 のとき距離 r は最も短くなるが,惑星
dJx
= 0,
dt
が太陽に最も近づく点という意味でこの点は
dJy
=0
dt
(71)
近日点 (perihelion) と呼ばれる.離心率 ε が 1 となることを示せ.つまり Jx , Jy は保存量であ
より小さいか大きいかによって場合分けして, る.J = (Jx , Jy ) をラプラス・ルンゲ・レンツ
角度 θ のとり得る値の範囲を考えよ.直交座標 ベクトル (Laplace-Runge-Lenz vector) という.
(v) ベクトル J = (Jx , Jy ) と r = (x, y) =
x = r cos θ, y = r sin θ を代入すると,
√
x2
+
y2
2
2
これら 2 つのベクトルがなす角を θ とすると,
= ρ − εx
(1 − ε )x + y + 2ερx = ρ
2
(r cos ϕ, r sin ϕ) の大きさをそれぞれ J, r とし,
r = ε(λ − r cos θ)
2
内積の定義と性質から
(65)
J · r = Jx x + Jy y = Jr cos θ
となる.この式の方が,ε の値に応じて楕円・
放物線・双曲線になることがわかりやすい.
が成り立つが,さらに
Jx x + Jy y = p2ϕ − mkr
問 12. 問 4 (31) の U が万有引力の位置エネ
ルギー
(72)
(73)
が成り立つことを示せ.
k
GM m
=−
U =−√
r
x2 + y 2
(66) (vi) 上の式 (72), (73) から
p2ϕ
=
r=
mk + J cos θ
1+
で与えられる場合を考える.ここで GM m = k
とおいた.(r, ϕ, pr , pϕ ) を正準座標とする.
p2ϕ
mk
J
cos θ
mk
(74)
(i) 万有引力の下で動く質点のハミルトニアン を導け.この式を (64) と見比べると,質点の
軌道は離心率
1 2
k
1 2
H=
p +
p −
(67)
J
2m r 2mr2 ϕ
r
ε=
(75)
mk
に関して,ハミルトン運動方程式を書け.
(J ≥ 0 だから ε ≥ 0)の円錐曲線であることが
(ii) pϕ が保存量であることを示せ.このことか
わかる.(74) からラプラスベクトル J は焦点
ら,この質点は,(r, pr ) だけを正準変数とし,
から近日点の方向を向いていることがわかる.
pϕ は定数として位置エネルギー
(vii) (69), (70) と (67) から
2
pϕ
k
V (r) =
−
(68)
J 2 := Jx2 + Jy2 = 2m p2ϕ H + m2 k 2
(76)
2
2mr
r
となることを示せ.ラプラスベクトル J は保
の場の中を動く質点ともみなせる.
(iii) エネルギー値が E < 0, E = 0, E > 0 の 存量であり,その大きさ J はたしかに保存量
7
pϕ , H だけの関数になっている.また,(75), のポアソン括弧で得られる関数 {A, B}P もま
た保存量であることを証明せよ.
(76) から
√
ε =
2p2ϕ
1+
H
mk 2
問 15. (x, y, z, px , py , pz ) を正準座標とする
(77) 系において
となることを示せ.H の値はエネルギーであ
Lx := ypz − zpy
(85)
ることに注意.H < 0 ならば 0 ≤ ε < 1 であ
Ly := zpx − xpz
(86)
り,質点の軌跡は楕円になる.H = 0 ならば
Lz := xpy − ypx
(87)
ε = 1 であり軌跡は放物線になる.H > 0 なら
で定められる物理量 Lx , Ly , Lz に関して以下の
ば ε > 1 であり軌跡は双曲線になる.
ポアソン括弧を求めよ:
(viii) k > 0 の場合 (66) は力の大きさが距離の
2 乗に反比例する引力を表しているが,k < 0
{Lx , Ly }P , {Ly , Lz }P , {Lz , Lx }P . (88)
とするとこれは斥力の場になる.k < 0 の場合,
質点の軌道は必ず双曲線になることを示せ. 【コメント】ラプラス・ルンゲ・レンツベクトル
問 13. A, B, C を正準座標 (q, p) の関数とす (69), (70) のような複雑な式をどうやって思い
る.c を任意の実数定数とする.ポアソン括弧 ついたか不思議に思われるだろうが,3 次元の
ベクトル p = (px , py , pz ), L = (Lx , Ly , Lz ) を
(52) について以下の関係式を証明せよ:
使うとラプラス・ルンゲ・レンツベクトルは
{cA, B}P = {A, cB}P = c{A, B}P
(78)
{A + B, C}P = {A, C}P + {B, C}P
(79)
{A, B + C}P = {A, B}P + {A, C}P
(80) というまとまりのよい形に書ける.
(81)
{B, A}P = −{A, B}P
J = p × L − mk
{A, BC}P = {A, B}P C + B{A, C}P (82)
r
r
(89)
力学の進歩
{AB, C}P = {A, C}P B + A{B, C}P (83)
解析力学は以上で終わりではなく,今もなお
{A, {B, C}P }P + {B, {C, A}P }P
進化している.正準変換,ポアソン括弧と対称
+{C, {A, B}P }P = 0 (84)
性の理論,ハミルトン・ヤコビの理論,可積分
(78), (79), (80) の性質を線形性という.(81) 系,カオス,場の解析力学,制御理論,拘束系
を反対称性という.(82), (83) をライプニッツ の理論などの諸概念・諸理論が,ラグランジュ
則 (Leibniz rule) という.(84) をヤコビ恒等式 とハミルトンの解析力学の後に展開している.
(Jabobi identity) という.
これらの理論は,エレベーター・ロボット・加
問 14. 時間に陽に依存しない物理量 A, B, C 速器・ロケット・人工衛星・天気予報などさまざ
が保存量ならば,それらをスカラー倍したり まな物体の運動の予測や制御に役立っている.
足し算したり掛け算したりして得られる関数 とくに近年はコンピュータの発達に伴って力学
も保存量であることを証明せよ.保存量同士 の応用範囲はますます広がっている.
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