1. - 青山学院大学理工学部化学・生命科学科

マッカーリ、サイモン物理化学(上)︓p. 207-p. 222
量⼦化学Ⅰ
第9回「⽔素原⼦」
⽔素原⼦のシュレーディンガー⽅程式を学習し、波動関数の形状や3つの量⼦数
が導⼊された経緯について学ぶ。また、⾓運動量演算⼦と球⾯調和関数との相関
について学習し、⽔素原⼦において、⾓運動量の⽅向が空間的に制限されてるこ
とを学ぶ。
担当︓⻘⼭学院⼤学理⼯学部化学・⽣命科学科
阿部 ⼆朗、⼩林 洋⼀
1
【⽔素原⼦のシュレディンガー⽅程式】
ポテンシャルエネルギー
, , を受けて運動する
電⼦の三次元シュレディンガー⽅程式
, ,
2
⽔素原⼦ではポテンシャルエネルギー
, ,
, ,
, ,
は次式で表される。
/
ただし、
4
, ,
したがって、⽔素原⼦中の電⼦に対するシュレディンガー⽅程式は、
2
となるが、ラプラス演算⼦(
に表記することができる。
2
2
, ,
4
4
, ,
, ,
あるいは∆)を使うと以下のように簡潔
, ,
≡ ∆≡
【⽔素原⼦モデルを通じて学ぶこと】
1.⽔素原⼦のシュレーディンガー⽅程式の解き⽅、及び得られる波動関数の形状
2.量⼦数 (主量⼦数), (⾓運動量量⼦数) ,
(磁気量⼦数) 導⼊の経緯
3.⾓運動量が離散的な値をとること(空間量⼦化)
4.ボーアの⽔素原⼦モデルとの⽐較(第10回予定)
3
【⽔素原⼦の考え⽅】変数分離が⼤事︕
三次元の箱モデルでは , , の変数分離により⼆次元の箱、⼀次元の箱の問題へ
と帰着した。⽔素原⼦モデルでは、極座標表⽰( , , )を⽤いて、動径成分、
⾓度成分へと変数分離をすることによりシュレーディンガー⽅程式を解く。
三次元の箱
, ,
⽔素原⼦
, ,
4
⼆次元の箱
,
球表⾯
,
⼀次元の箱
のみ
円周
のみ
【⽔素原⼦のシュレディンガー⽅程式】
2
4
極座標への変換
, , を⽤いて
, ,
, ,
≡
を書き直すと(⽂献参照)
1
1
sin
1
sin
sin
⽔素原⼦のシュレーディンガー⽅程式は
1
1
sin
2
2
1
sin
4
, ,
, ,
を両辺にかけて整理すると
2
5
sin
4
以外は のみの関数
1
sin
sin
1
sin
以外は , のみの関数
0
【動径部分と⾓度部分の分離】
変数分離を⽤いると
, ,
代⼊して
,
,
︓動径関数
, ︓球⾯調和関数
で割ると
2
4
,
のみの関数
1
sin
1
sin
sin
0
, のみの関数
, , は独⽴変数より
2
1
(式1)
4
1
,
6
1
sin
sin
1
sin
(式2)
は定数、
に含めた
を
【球⾯調和関数:
,
】
(式2)︓球表⾯上に存在する粒⼦のシュレーディンガー⽅程式
次に , を分離する
,
(式2)に代⼊し、
sin
sin
sin
で割る
1
のみの関数
,
は独⽴変数より
sin
sin
0
のみの関数
sin
は定数であり、後で平⽅根を
とることからあらかじめ⼆乗し
た値を⽤いた
1
成分の式を書き換えると
0
⼀次元の箱モデルで解いてきた微分⽅程式と全く同じ(境界条件のみ異なる)
7
【球⾯調和関数の 成分】
0
この微分⽅程式の解は
及び
は の⼀価関数なので、
円運動の境界条件
2
及び
cos 2
1
2
0, 1, 2, …
∴
1
磁気量⼦数
0, 1, 2, …
磁気量⼦数 は、 成分の境界条件、つまり、
円周上に存在する粒⼦の境界条件から⽣じる
8
【球⾯調和関数の 成分】
例題)規格化条件を⽤いて
9
の
を求めてください。
【球⾯調和関数の 成分】
sin
sin
sin
、Θ
とすると、0 ≦
1
2
≦ より 1 ≦
≦1
0, 1, 2, … ,
0
1
この式はルジャンドル⽅程式と同形状であり、解が有限であるためには
1 でなければいけない
≦
1
2
1
0
1
0, 1, 2 … ,
0, 1, 2, … ,
⽔素原⼦の 成分から量⼦数 が導かれる。 は⾓運動量を決める量⼦数
であることから、 ⾓運動量量⼦数(⽅位量⼦数)と呼ばれる。
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【球⾯調和関数の 成分】
は以下の式によって求められるが、詳細は省く
•
0のとき
ルジャンドル多項式︓
1
0のとき
•
1
1/2 5
3
1
ルジャンドル陪関数︓
1
/
1
1/2 3
1/2 3
/
1
/
3
ルジャンドル陪関数が の関数であることを強調して
と書き、
,
とすると、
, 及び
, は以下のように表される。
の規格化定数を
,
0, 1, 2 … ,
11
0, 1, 2, … ,
ある 平⾯上の円周上の粒⼦の挙動が により導かれ、
その円周を異なる に対して求めていくと最終的に三次元
の球表⾯上の粒⼦をすべて記述できる。
【⾓運動量演算⼦の交換関係】
L
r
,
の交換関係: p
,
,
は0
0より
交換できないものは , であり、
それ以外は可換なことから、
,
,
12
,
より
【⾓運動量演算⼦の交換関係】
他の成分について同様に計算すると
⾓運動量演算⼦の各成分同⼠は⾮可換
つまり、
”⾓運動量の各成分は同時に確定できない”
,
,
,
例題)
13
,
を導いてください
【⾓運動量の⼆乗の演算⼦】
⾓運動量の⼆乗の演算⼦と⾓運動量の⼀⽅向成分との交換関係を求める
,
,
,
,
,
,
,
,
,
,
,
0
,
,
0
同様に計算すると
,
,
,
14
0
0
0
∴
,
0
,
⾓運動量演算⼦とその⼆乗は⾮可換
つまり、
”⾓運動量はある⼀⽅向の成分と
⼤きさのみ確定できる”
,
【⾓運動量演算⼦の極座標表⽰】 導出⽅法は⽂献参照
(式3)
1
1
p6の(式2)に同様の式が表れていることに気付く。式2に代⼊すると
1
,
1
sin
sin
1
sin
1
1
1
両辺に
をかけると
0, 1, 2 …
1
”球⾯調和関数は
15
の固有関数”
”⾓運動量の⼆乗(⼤きさ)は離散化(量⼦化)している”
【⾓運動量のz成分】
p13(式3)より、 は⼀回微分してもとの関数になるものが固有関数。
ならば、
は の固有関数である。
球⾯調和関数の 成分に
の固有関数である。
が含まれているので、球⾯調和関数は
,
,
球⾯調和関数は ,
の固有関数なので
,
,
,
1
,
,
1
,
,
1
,
1
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0, 1, 2, …
≧0
1 ≧
0, 1, 2, …
⽔素原⼦の磁気量⼦数
に対する条件
それぞれの に対して2
1個の が存在する
【⾓運動量の空間分布】
例) 1のとき( 1
,
,
1
2)、
,
0, 1
2
,
/
,
2
1
, 0, 1のときの
0, 1をすべて図⽰すると
• ⾓運動量は離散的な値をとる
1
2
0
2
1
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2
0, 1
• 量⼦数は各成分 , の境界条件から
⽣じる → , →
• ⾓運動量はある⼀⽅向の成分( )
と⼤きさ )しか明確に定まらない
• それぞれの に対して2
存在する
1個の が
【極座標変換に関する参考⽂献】
1)量⼦化学(上) 原⽥義也著 裳華房 p99‐100, 119
2)インターネットサイト “EMANの物理学”
量⼦⼒学、第三章 “⾓運動量とスピン”
http://eman‐physics.net/quantum/contents.html
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