大学院理工学研究科 物性物理学特論第10回 -磁気光学の応用(2)- 佐藤勝昭 今回学ぶこと 光通信デバイスと磁気光学材料 光アイソレータ、光サーキュレータ 電流計測と磁気光学効果 磁気光学電流センサー 磁気光学顕微鏡 空間光変調器(SLM) 光通信デバイスと磁気光学材料 http://magazine.fujitsu.com/vol48-3/6.html 要素技術1 半導体レーザ LED構造において、劈開面を用いたキャビティ 構造を用いるとともに、ダブルヘテロ構造により、 光とキャリアを活性層に閉じ込め、反転分布を 作る。 DFB構造をとることで特定の波長のみを選択し ている。 半導体レーザーの動作特性 LED動作 電流vs発光強度 発光スペクトル 佐藤勝昭編著「応用物性」(オーム社) ダブルヘテロ構造 活性層(GaAs) をバンドギャップ の広い材料でサ ンドイッチ:ダブ ルヘテロ(DH)構 造4 http://www.ece.concordia.ca/~ i_statei/vlsi-opt/ DHレーザー 光とキャリアの閉じこめ バンドギャップの小さな半導体をバンドギャップの大 きな半導体でサンドイッチ:高い濃度の電子・ホール の活性層に閉じこめ 屈折率の高い半導体(バンドギャップ小)を屈折率の 低い半導体(バンドギャップ大)でサンドイッチ:全反 射による光の閉じこめ DFBレーザー 1波長の光しかでないレーザ。つまり、通信時に信号の波 がずれることがないので、高速・遠距離通信が可能。 (通信速度:Gb/s = 1秒間に10億回の光を点滅する。電 話を1度に約2万本通話させることができます) http://www.labs.fujitsu.com/gijutsu/laser/kouzo.html 要素技術2 光ファイバー 材料:溶融石英(fused silica SiO2) 構造:同心円状にコア層、 クラッド層、保護層を配置 光はコア層を全反射に よって長距離にわたり低 損失で伝搬 http://www.miragesofttech.com/ofc.htm 東工大影山研HPより 光ファイバーの伝搬損失 短波長側の伝送損 失はレーリー散乱 長波長側の伝送損 失は分子振動によ る赤外吸収 1.4μm付近の損失 はOHの分子振動 による Physics Today Onlineによる http://www.aip.org/pt/vol-53/iss-9/captions/p30cap1.html 佐藤・越田:応用電子物性工学(コロナ社、1989) 要素技術3 光検出 フォトダイオードを用いる 高速応答の光検出が必要 pinフォトダイオードまたはショットキー接合フォト ダイオードが使われる。 通信用PDの材料としてはバンドギャップの小さ なInGaAsなどが用いられる。 光検出 Pin-PD Schottky PD 応答性は、空乏層をキャ リアが走行する時間と静 電容量で決まる。 このため、空乏層を薄くす るとともに、接合の面積を 小さくしなければならない。 Andrew Davidson, Focused Research Inc. and Kathy Li Dessau, New Focus Inc. 要素技術4 光中継:ファイバーアンプ 旭硝子の HPhttp://www.agc.co.jp/news/2 000/0620.htmlより 光ファイバー中の光信号は100km程 度の距離を伝送されると、20dB(百分 の一に)減衰する。これをもとの強さに 戻すために光ファイバーアンプと呼ばれ る光増幅器が使われている。 光増幅器は、エルビウム(Er)イオンを ドープした光ファイバー(EDF:Erbium Doped Fiber)と励起レーザーから構 成されており、励起光といわれる強い レーザーと減衰した信号光を同時にED F中に入れることによって、Erイオンの 誘導増幅作用により励起光のエネル ギーを利用して信号光を増幅すること ができる。 エルビウムの増幅作用 エルビウム(Er)イオンをドープしたガラスは、980nmや1480nm の波長の光を吸収することによって1530nm付近で発光する。こ の発光による誘導放出現象を利用することによって光増幅が可能 になる。 具体的には、EDFに増幅用のレーザー光を注入すると、Erイオン がレーザー光のエネルギーを吸収し、エネルギーの高い状態に一 旦励起され、励起された状態から元のエネルギーの低い状態に戻 るときに、信号光とほぼ同じの1530nm前後の光を放出する(誘 導放出現象)。信号光は、この光のエネルギーをもらって増幅され る。 Erをドープするホストガラスの組成によって、この発光の強度やス ペクトル幅(帯域)が変化する。発光が広帯域であれば、光増幅で きる波長域も広帯域になる。 旭硝子のHPhttp://www.agc.co.jp/news/2000/0620.htmlより 要素技術5 光アイソレータ 光アイソレータ:光を一方向にだけ通 す光デバイス。 光通信に用いられている半導体レー ザ(LD)や光アンプは、光学部品から の戻り光により不安定な動作を起こす。 光アイソレータ:出力変動・周波数変 動・変調帯域抑制・LD破壊などの戻り 光による悪影響を取り除き、LDや光 アンプを安定化するために必要不可 欠な光デバイス。 信光社 http://www.shinkosha.com /products/optical/ 要素技術6 波長多重(WDM=wavelength division multiplexing) この方式は、波長の異なる光信号を同時にファイバー中を伝送させる 方式であり、多重化されたチャンネルの数だけ伝送容量を増加させる ことができる。 通信用光ファイバーは、1450~1650nmの波長域の伝送損失が小 さい(0.3dB/km以下)ため、原理的にはこの波長域全体を有効に使う ことができる。 光通信における 磁気光学デバイスの位置づけ 戻り光は、LDの発振を不安定にしノイズ発生の原 因になる→アイソレータで戻り光を阻止。 WDMの光アドドロップ多重(OADM)においてファ イバグレーティングと光サーキュレータを用いて特 定波長を選択 EDFAの前後にアイソレータを配置して動作を安定 化。ポンプ用レーザについても戻り光を阻止 光アッテネータ、光スイッチ 半導体レーザモジュール用アイソレータ Optical isolator for LD module Optical fiber Signal source Laser diode module 光アドドロップとサーキュレータ 光サーキュレータ B A C D 光ファイバ増幅器と アイソレータ 偏光依存アイソレータ 偏光無依存アイソレータ Faraday rotator F ½ waveplate C Birefringent plate B1 Birefringent plate B2 Fiber 1 Fiber 2 Forward direction B1 F C B2 Fiber 1 Fiber 2 Reverse direction 磁気光学サーキュレータ Faraday rotator Prism polarizer A Reflection prism Half wave plate Port 1 Port 3 Port 2 Port 4 Prism polarizer B アイソレータの今後の展開 導波路形アイソレータ 小型・軽量・低コスト化 半導体レーザとの一体化 サイズ:波長と同程度→薄膜/空気界面、あ るいは、薄膜/基板界面の境界条件重要 タイプ: 磁気光学材料導波路形:材料の高品質化重要 リブ形 分岐導波路形 導波路形アイソレータ 腰塚による マッハツェンダー形アイソレーター リブ形アイソレータ II-VI系希薄磁性半導体の 結晶構造と組成存在領域 Material Crystal structur e Range of Composition Material Crystal structure Zn1-xMnxS ZB WZ 0<x<0.10 0.10<x0.45 Cd1-xMnxSe WZ 0<x0.50 Zn1-xMnxSe ZB WZ 0<x0.30 0.30<x0.57 Cd1-xMnxTe ZB 0<x0.77 Hg1-xMnxS ZB 0<x0.37 Hg1-xMnxSe ZB 0<x0.38 Hg1-xMnxTe ZB 0<x0.75 Zn1-xMnxTe Cd1-xMnxS ZB WZ Range of Composition 0<x0.86 0<x0.45 II-VI DMS の格子パラメータ XRD J. K. Furdyna et al., J. Solid State Chem. 46, (1983) 349 EXAFS B. A. Bunker et al., Diluted Magnetic (Semimagnetic) Semiconductors, (MRS., Pittsburg, 1987) vol.89, p. 231 Cd1-xMnxTeにおける バンドギャップ のMn濃度依存性 Cd1-xMnxTeのバルク成長 ブリッジマン法 出発原料: Cd, Mn, Te元素 石英管に真空封入 4 mm/hの速度でるつぼを降下させる。 融点: 1100°C WZ (高温相) → ZB (低温相) 相転位(温度低 下) 過剰融液組成→相晶を防ぐ効果 CdMnTeの磁気光学スペクトル II-VI族希薄磁性半導体: Eg(バンドギャップ)がMn 濃度とともに高エネルギー 側にシフト 磁気ポーラロン効果(伝導 電子スピンと局在磁気モー メントがsd相互作用→巨大 g値:バンドギャップにおけ る磁気光学効果 小柳らによる Furdynaによる 半導体とアイソレータの一体化 貼り合わせ法 半導体上に直接磁性ガーネット膜作製→格子不整合のため困難 ガーネット膜を作っておき、半導体基板に貼り合わせる方法が 提案されている 希薄磁性半導体の利用 DMSの結晶構造:GaAsと同じ閃亜鉛鉱型→ 半導体レーザとの一体化の可能性。 導波路用途の面内光透過の良質の薄膜作製困難。 安藤ら:GaAs基板上にMBE法でCdMnTeの薄膜を作製。バッ ファ層:ZnTe, CdTe層 電流磁界センサ 電流センサ Before installation Magnetic core After installation Aerial wire Hook Magneto-optical sensor head Fail-safe string Fastening screw Optical fiber 光ファイバ磁界センサ 磁気光学顕微鏡による磁区観察 クロスニコル条件で は、磁化の正負に対 して対称になり、磁気 コントラストがでない ので、偏光子と検光 子の角度を90度から 4度程度ずらしておく と、コントラストが得ら れる。 ファラデー効果を用いた 磁区のイメージング CCDカメラ 検光子 対物レンズ 偏光子 試料 穴あき電磁石 光源 ファラデー効果で観察した (Gd,Bi)3(Fe,Ga)5O12の磁区 NHK技研 玉城氏のご厚意による CCDカメラによる磁気光学イメージング 磁性ガーネットの磁区の変化 趙(東工大)、 佐藤(農工大) 磁気光学顕微鏡その1 顕微鏡:Olympus BH-UMA CCD:Hamamatsu C4880 検光子 : Glan-Thompson( MG*B10) 対物レンズ:NeoSPlanNIC × 10, × 50 波長板:ACP-400-700 偏光子:Glan-Thompson( MG*B10) 波長選択:干渉フィルター (450, 500,550, 600, 650 nm) 光源:ハロゲン電球 20W 開発中の反射型顕微鏡 光源(LED) 偏光子 λ/4波長板 レンズ 対物レンズ CCD カメラ 電磁石 試料 無偏光ビーム スプリッター 検光子 磁気光学信号の検出方法 PEM Sample Polarizer p=50kHz I(0) I0T{1 2F J0 ( 0 )} I( p) I0T 2F J1( 0 ) I(2p) I0 T 2 F 2J2 ( 0 ) Detector Analyzer F F T Jn MCD Faraday rotation transmittance Bessel function p modulation frequency 0 retardation λ/4波長板を使った測定法 =0 = 45º -45º E1 Polarizer a = 45º H E2 l /4 Wave plate E3 Sample Rotation F Elipticity F a E4 = 0º LP 45º RCP -45 º LCP CCD camera Analizer E 2 ASQPE 1 1 1 1cos F iF sin F 2 1 1sin F iF cos F sin F iF cos F 1 i cos2 isin 2 1 0E x cos F iF sin F isin 2 1 i cos2 0 0E y 1 cos F sin F F sin 2 F cos2 F icos2 F sin 2 F F sin F cos F E x cos sin sin 2 cos 2 i cos 2 sin 2 sin cos 2 F F F F F F F F F F I cos F sin F F sin 2 F cos2 F 2 cos2 F sin 2 F F sin F cos F E x /4 2 2 I(0º) I(45º) I(45º) 光強度 I() と磁気光学信号 Faraday rotation 1 LCP LP Faraday ellipticity RCP 1 LCP I( )/ IIN I( )/ IIN RCP F = 5º F = 0º F = -5º F = +5º F = 0º F = -5º 0.5 LP 0.5 I(0º) I(-45º) I(0º) I(45º) -45 0 45 0 I(45º) I(-45º) 0 -45 0 45 Angle of l/4 W ave Plate (degree) Angle of l/4 W ave Plate (degree) F = -5, 0, 5°, F = 0° F = 0°, F = -5, 0, 5° 磁気光学画像の求め方 ファラデー回転角 2I(0) I( /4) I( /4) 1 1 F sin 2 2 2 (1 F ) E x 1 2I(0) I( /4) I( /4) F 2 (1 F 2 )I( /4) I( /4) 100 mm ファラデー楕円率 1 2 F I( /4) I( /4)/ E x 1 I( / 4) I( / 4) F 2 I( / 4) I( / 4) 2 CCD カメラで撮った (a)I(0º), (b)I(45º), (c)I(-45º) および、画像処理で得られ た (d)ファラデー回転と (e)楕円率. クロスニコル法との比較 Optical modulation Magnetic contrast F & F (simultaneously) Quantitativeness Brightness of images Inhomogeneous sample Crossed polarizer ○ ○ ○ ○ × △ ○(0.25 I0 ) ○ △(0.01 I0 ) △ ファラデー回転像を測定した試料 MODで作製した Y2BiFe4GaO12 正方形ドット配列 サイズ 50mm×50mm 膜厚 200nm YBFGO YBFGO 0.5 Faraday rotation ( 5 10 degree/cm) 1 YFGO YBFO 0 -0.5 400 500 600 700 Wave length (nm) 通常の磁気光学効果像 YBFGOの磁気光学スペクトル ファラデー楕円率像 磁化反転 ファラデー回転角像 磁化反転によるファラデー効果の画像の反転 波長500 nm ファラデー回転像のラインプロファイル 1 Faraday Rotation (degree) Faraday Rotation (degree) 1 0.5 0 -0.5 -1 500 600 700 800 900 1000 0.5 0 -0.5 -1 500 Position (pixel) 700 800 Position (pixel) 磁化反転 回転角 ~ 0.5 deg. 600 900 1000 ファラデー回転F と ファラデー楕円率F の波長依存性の定量的評価 0 Faraday ellipticity (degree/cm) Faraday rotation (degree/cm) 0 -1 104 -2 104 of YBFG thin film F by MO spectrometer -3 104 -4 104 of patterned YBFG F by MO microscope -5 104 400 500 600 Wave length (nm) 700 -1 104 -2 104 -3 104 -4 104 -5 104 -6 104 -7 104 400 500 600 Wave length (nm) 700 積算と平滑化による磁気光学像の 改善とノイズの評価 = 0.470º Faraday Rotation (degree) 0.4 : 標準偏差. 0.2 0 1 shot -0.2 -0.4 500 600 700 800 900 1000 0.920º Position (pixel) Integration (10 times) Faraday Rotation (degree) 0.4 0.2 0.148º 0 -0.2 = 0.148º -0.4 500 600 700 800 900 1000 Position (pixel) Faraday Rotation (degree) 0.4 0.2 0.048º 0 -0.2 = 0.046º -0.4 500 Integration (10 times) + Smoothing 600 700 800 Position (pixel) 900 1000 ヒステリシスの測定 20 ( フ ァ ラ デ ー 回 転 角 度 ) Garnet film prepared by LPE by Prof. Shinagawa of Toho Univ. -20 -20000 磁場(A/m) 20000 Pt/Co MO ディスクの記録マーク MO記録された1 mmのグルーブが明瞭に見られており分解能 は1 mm以下と推定される 低温成膜FePt薄膜のKerr回転画像 Fe38Pt62(20nm)/Pt(40nm)/Fe(1nm)/MgO(001) Kerr回転画像 FePt薄膜のKerr回転画像 L10 Fe50Pt50(100nm)/MgO(001) Kerr回転画像 SEM像 Kerr images of Bi:YIG film Kerr rotation Kerr Ellipticity (degree) 2.5 2.4 2.3 0. 29o 2.2 2.1 2 1.9 100 200 300 400 500 600 700 Pos ition (pix el) Kerr ellipticity Kerr Ellipticity (degree) -0.15 -0.2 -0.25 -0.3 0.22 o -0.35 -0.4 -0.45 -0.5 0 100 200 300 400 500 Pos ition (pix el) 600 700 今後の展開 実時間測定 ソフト 液晶波長板による偏光スイッチ 低温測定 光源の光強度増強 液晶変調器を用いた磁気光学顕微鏡 空間磁気光学変調器(MOSLM) 光画像処理に用いられるSLM (spatial light modulator)として通常液晶が用いられるが、 応答速度が速いSLMが求められていた。 磁気光学効果を用いると高速応答が期待できる。 豊橋技科大の井上らは、MOSLMを開発した。 磁界の印加のためにWord線とBit線に電流を 流し、合成磁界で磁化を反転する。 MOSLMの例 豊橋技科大井上研のHPより
© Copyright 2024 ExpyDoc