アインシュタインは正しいか? ~EPRパラドックスを検証する~ 課題演習A2 上田仁彦 阪上大地 高橋翼 長尾悠人 山本隆太 2008/09/29 内容 1. 2. 3. 4. 5. 基礎となる理論 実験方法 データ解析 Simulation 考察 まとめ 1. 理論 パラポジトロニウムの崩壊 • パラポジトロニウム (e+ e- ) : 1S0の状態にある 内部パリティの積 : - 1 ⇒ e+ e- → γγ によって生じる2つのγ線の状態は 1 R1 R2 L1 L2 F 2 1 Rj x j i y j :右円偏光状態 (RHC ) 2 1 L j x j i y j :左円偏光状態 (LHC ) 2 1 R1 R2 x1 x2 y1 y2 i x1 y2 i y1 x2 2 1 L1 L2 x1 x2 y1 y2 i x1 y2 i y1 x2 2 1 i R1 R2 L1 L2 x1 y2 y1 x2 F 2 2 EPRパラドックス ① 地点α でRHC (LHC)を測定すると、 地点β では必ずRHC (LHC)だと予言できる ⇒β ではRHC またはLHC のどちらかである ② α で何を測定しても、β での光の性質は変わらない (Einsteinの局所性の原理) ⇒β ではRHC またはLHC である ⇒β では50 %の確率でx 偏光またはy 偏光 ③ α でx 偏光(y 偏光)を測定すると、 β では必ずy 偏光(x 偏光)だと予言できる ④ ②と③は矛盾する 矛盾を解決するには 「偏光は光子が生成したときに決まっているが 隠れた変数の存在によって 現象が確率的に見える」 と考えると、矛盾はなくなる → 隠れた変数理論ならOK. 量子力学 • 二つの光子の偏光は、観測するまでは二つの状態 の重ね合わせになっている 1 i R1 R2 L1 L2 x1 y2 y1 x2 F 2 2 • 一方の光子の偏光を観測した瞬間、他方の光子の 偏光が決まる(波束の収束) 隠れた変数理論 • 二つの光子の偏光状態はポジトロニウムが 崩壊したときから決まっている • 今は発見されていない変数(隠れた変数)が 偏光状態を支配している Bellの不等式 • 二つの linear polarizer α,β • 光子がある方向に偏光していれば +1,そ の垂直方向に偏光していれば -1 を出力 • αをφiの方向、βをφjの方向に置き、多数回 測定 • αiβjの平均 i j • 隠れた変数理論ではBellの不等式が成立 4 2 4 3 1 2 13 2 量子力学とBellの不等式 • 量子力学においては、 パラポジトロニウムから 生じた2光子状態は y x' ( ) y' i x1 y2 y1 x2 F 2 ・αの方向をx軸と一致させる ・x’軸はx軸に比べてφずれているとする y1 x1 x ( ) 量子力学における相関(1) ①αでx偏光を測定したとき(α= + 1) 光子1については x1 の状態である 光子2については y2 x' sin y ' cos 従って、 1 1 1 である確率 sin 2 2 1 1 1 である確率 cos 2 2 量子力学における相関(2) ② αでy偏光を測定したとき(α= - 1) 光子1については y1 の状態である 光子2については x2 x' cos y ' sin 従って、 1 cos 2 2 1 1 1 である確率 sin 2 2 1 1 である確率 よって、①、②より 1 1 2 2 sin cos cos 2 sin 2 cos 2 2 2 量子力学はBellの不等式を破る cos 2 であるので 3 1 0, 2 , 3 , 4 8 8 4 と選ぶと 4 2 4 3 1 2 1 3 2 2 2 Bellの不等式を満たすための条件 4 2 4 3 1 2 1 3 2 k cos 2 とすると、 f cos 24 2 cos 24 3 2 cos 21 2 cos 21 3 k 2 3 f max 2 2 1 0, 2 , 3 , k 8 8 4 1 k 2 2. 実験方法 実験の原理 • Compton 散乱を用いて偏光を測定すること で実験的にk の値を求めることができる • 2つのγ線が散乱されやすい方向は 散乱面がなす角φに依存している → 2つの検出器でγ線が同時に観測される 確率のφ依存性を実験で確かめれば、 系を支配する法則が量子力学なのか、 隠れた変数理論なのかを決定できる 実験装置の原理 x C2 2 2 2 1 S2 y O C1 1 S1 1 z φの取り方 y 2 1 x Compton散乱 • Klein-Nishinaの式 2 d re k s 2 sin 2 cos 2 d 2 k0 2 (θ:Compton散乱角 η:散乱面と偏光面のなす角) よって 2 d // re k s 2 sin 2 d 2 k0 2 2 d re k s d 2 k0 2 ただし k s k0 ・ k0 k s ・入射 線の波数 : ・散乱 線の波数 : k0 ks k0 k0 1 cos 1 me c ・古典電子半径 : re me c ・微細構造定数 : 1 137 検出器でγ線が検出された際、 光子γ1、γ2 の散乱平面をπ1(OS1C1)、π2 (OS2C2)とし、 またその偏光方向をε1、ε2 とすると 1 2 sin 1 1 // 1である確率 2 2 1 sin 1 1 1 1である確率 2 2 1 sin 1 2 π1 // ε1 の場合 k cos 2 1 であるので 1 k cos 2 2 // 2である確率 2 1 k cos 2 2 2である確率 2 よって、 π1 // ε1 のもとでC1、C2 で同 時に光子を観測する確率は 2 1 2 sin 2 1 1 k cos 2 2 2 sin 2 2 1 k cos 2 2 2 2 2 1 sin 1 2 2 2 sin 2 2 2 2 sin 2 π1 ⊥ε1 の場合も同様にして 1 k cos 2 2 2 sin 2 2 1 k cos 2 1 2 2 2 2 1 sin 1 2 2 2 sin 2 2 2 2 sin 2 2 Compton polarimeterの計数率 以上より、検出器C1、C2 に同時にγ線が検出される相対確率 (φ= 45° の場合を基準とした比率)は sin 2 1 sin 2 2 cos 2 R 1 k 2 2 1 sin 1 2 sin 2 1 j 2 cos j 2 cos j (θj:Compton散乱角、φ:散乱面のなす角) このRを計数率と呼ぶ A,Bからkを求める sin 2 1 sin 2 2 R 1 k 2 2 1 sin 1 2 sin 2 N A B cos 2 AR cos 2 (実験より) 1 sin 2 1 2 sin 2 2 k 2 2 sin sin 2 1 B A これより、k の値が実験的に求められ、系を支配する法則 が量子力学なのか、隠れた変数理論なのかを決定できる セットアップ 全体図 CH 上 φ NaI 上 線源 CH 下 NaI 下 セットアップ 写真 φ=45°の場合 セットアップ 側面図 単位はmm CH 上 NaI 上 40 89 22Na 89 NaI 下 40 CH 下 側面図(詳細) 単位はmm CH 上 23 NaI 上 5 3 89 Pb 50 線源 89 2 Pb 1 CH 下 30 20 5 23 NaI 下 4 セットアップ 上面図 単位はmm 23 40 NaI 上 56 54 CH 上 セットアップ 下面図 単位はmm 23 40 NaI 下 56 54 CH 下 セットアップ • • • • • • 鉛によるγ線の遮蔽 high voltageの値を最大に discriminatorのthresholdはできる限り小さく ampによる信号の増幅 gateのwidthの調整 4つのシンチレータで同時に観測された場合 のみカウント →18時間測定を行った 配線図(測定回路) NaI 上 +1300 V PMT Divider +HV ch 2 Amp ch 6 Discri. -2000 V PMT A Discri. B 40 mV PMT NaI 下 +1300 V PMT Divider +HV Discri. D 40 mV C Amp ADC VETO Gate generator -2000 V CH 下 Divider -HV Coincidence CH 上 Divider -HV Gate generator 19 mV GATE Discri. 19 mV ch 10 ch 8 gateのwidth NaIによる信号 gate(1μsec) 3. 解析 キャリブレーションの方法 • NaIシンチレータについて • 実験前と実験後 • 22Na(511keV,1275keV), 60Co(1173keV,1333keV), 137Cs(662keV) の3種類の線源 • 光電ピークをGaussianフィット • 計5点の平均値とその誤差で直線フィット キャリブレーション(NaI上) 実験前 実験後 実験の前後で大きな変化はなかった キャリブレーション(NaI上) データを合わせて10点で直線フィット ADC分布(NaI上) ADC分布(CH上) 有効カウント数の決定 • Thresholdのゆらぎの影響を受けないように したい • Compton散乱(低エネルギー部分)はいろい ろな要因があってよくわからない → NaIシンチレータでは 光電効果を起こした光子だけを見たい 有効カウント数の決定 具体的方法 (1) NaIシンチレータの光電ピーク、 CHシンチレータのピークをGaussianで フィット (2) NaI、CH上下全てで 1σの範囲におさまる光子のみカウント フィット後のADC分布(NaI) フィット後のADC分布(CH) 有効カウント数のφ依存性 有効カウント数のφ依存性 実験データ(有効カウ ント数)を sin 2 1 sin 2 2 cos 2 N 1 k 2 2 1 sin 1 2 sin 2 でフィット(図で p 0 : N , p1 : k) 1 , 2 は実験データ( NaIシンチレータ) の光電ピークのエネル ギー(5点の平均値) h h h 1 cos 1 2 me c を用いて求めた から 4. Simulation 動機 • 実験データは、理論的な曲線では うまくフィットできていない → 現実のセットアップは理想的な状況とは 異なる(シンチレータには大きさがある) • 現実のセットアップに基づいて、 量子力学および, 隠れた変数理論を再現する → 実験と比較 手順 • back-to-backの2つのγ線の生成 • CHシンチレータに入るか判定 ― 減衰長で散乱位置の決定 ― Klein-Nishinaの微分散乱断面積を用いた Compton散乱方向(θ1,φ1,θ2,φ2)の決定 • NaIシンチレータに入射するか判定 ― 光電効果およびCompton散乱の検証 → エネルギー値をファイルに保存 散乱位置の決定 逆関数法 f(x) ・確率分布 x f x exp , : 減衰長 ・累積分布関数 y F ( x) f xdx x 0 ・ y 0, F で一様乱数を振る ・逆関数 x F 1 y が散乱位置 x 0 F(x) F(∞) y 0 x F-1(y) Compton散乱方向の決定 棄却法 長方形の部分(青+黄)の領域に一様に乱数を振る 乱数が青色のところに振られればaccept 黄色のところに振られたらreject f(x) 1 x 0 エネルギー分布 (NaI, φ= 90°) エネルギー分布 (CH, φ= 90°) 有効カウント数の決定 光電ピークとCompton散乱による部分がある → 実験と同様にNaIシンチレータの光電ピーク、 CHシンチレータのピークをGaussianでフィット → NaI、CH 1, 2 (上下) 全てで 1σの範囲におさまる光子のみカウント フィット後のエネルギー分布 (NaI, φ= 90°) フィット後のエネルギー分布 (CH, φ= 90°) 実験値とSimulationの比較 φ(°) 実験データ QM HV 0 9611 4855 4726 45 11824 5618 5750 90 15751 7718 7312 135 15064 7669 7388 180 12102 5974 6697 QM: 量子力学のSimulation HV: 隠れた変数理論のSimulation φ=90°のカウント数で規格化 φ(°) 実験データ QM HV 0 0.6102 0.6290 0.6463 45 0.7507 0.7279 0.7864 90 1.0000 1.0000 1.0000 135 0.9564 0.9937 1.0104 180 0.7683 0.7740 0.9159 χ2の計算 • Simulation(量子力学、隠れた変数)の結果と、 実験値とのχ2を計算 (φ=90°の光電光子カウント数で規格化) 5 2 i 1 Ei S i 2 E S 2 i 2 i Ei(規格化した)実験値 : S i(規格化した) : Simulation 値 χ2の計算 α : 上側累積確率(信頼度) 自由度 ndf = 5-1 = 4 • 量子力学 χ2/ndf = 1.94 (α = 0.101) → 信頼度 95% では棄却できない • 隠れた変数理論 χ2/ndf = 10.3 (α = 0.0000000262) → 信頼度 99.999997% で棄却できる ⇒ 系は量子力学に従っている! 5. 考察 実験データ 理論値からのずれ • 実験データは、A - Bcos2φの形になっていない ⇒ 原因 : シンチレータには大きさがある 1. 非対称性の影響 → N(φ=0°) < N(φ=180°) 2. 角度なまし効果 → 実験から計算される k の値は小さくなる CH 上 NaI 上(φ=0°) 立体角 NaI 上 (φ=180°) 大 立体角 線源 立体角 小 NaI 下 CH 下 小 非 対 称 性 の 影 響 CH 上 NaI 上(φ=0°) 立体角 NaI 上 (φ=180°) 小 立体角 線源 立体角 大 NaI 下 CH 下 大 非 対 称 性 の 影 響 非対称性の影響 φ= 0° 大×小 小×大 φ= 180° 小×小 大×大 0 < (大-小)2 ⇔ 0 < 大×大 - 2×大×小 + 小×小 ⇔ 大×小 + 小×大 < 小×小 + 大×大 ⇔ N(φ= 0°) < N(φ= 180°) 非対称性の補正前 非対称性の補正後 角度なまし効果 φ= 90°以外の角度も入ってくる NaI 下 φ 上から見た図 NaI 上 (φ0= 90°の場合) CH 上下 理論値 平均値 sin 2 1 sin 2 2 R 1 k 2 2 sin sin 2 1 2 1 cos 2 角度なまし効果 総合的な補正 sin 2 1 sin 2 2 cos 20 k 1 R 1 k 2 2 1 sin 1 2 sin 2 が、非対称性、角度な まし効果のために、実 際には sin 2 1 sin 2 2 I 0 R 1 k 2 2 1 sin 1 2 sin 2 と見えるので、実験値 N 0 の補正値は R N 0 N 0 R 補正後 まとめ 実験とSimulationの比較の結果 → 隠れた変数理論・・・棄却 → 量子力学 ・・・支持 実験と理論のずれはシンチレータの大きさ によるものとして理解できる 付録 ポジトロニウムの崩壊 • 光子の荷電パリティ・・・負 2γ: (-1)2 = +1 , 3γ: (-1)3 = -1 • ポジトロニウムの荷電パリティ ψC = (-1)L+Sψ • オルソ(3S1) (-1)0+1 = -1 ⇒ 3γ崩壊 • パラ(1S0) (-1)0+0 = +1 ⇒ 2γ崩壊 ポジトロニウムの荷電パリティ(補足) ψC = (-1)L+S+1ψ(1⇔2) = (-1)L+Sψ ∵ψ(1⇔2) = -ψ ψ : ポジトロニウムの波動関数 ψC : ψを荷電変換した状態 ψ(1⇔2) : ψCの位置およびスピンを 入れ替えた状態 L, S : 合成軌道およびスピン角運動量 2光子のパリティ固有状態 1 R1 R2 L1 L2 パリティ: F 2 1 R1 R2 L1 L2 パリティ: F 2 • 基底状態(L=0)のポジトロニウムのパリティ (-1)L+1 = (-1)0+1 = -1 ⇒ F- : (ε(1)⊥ ε(2)) ε(i) : 光子 i の散乱面 1 1 Bellの不等式を求める(1) 確率 α1 α2 α3 α4 β1 β2 β3 β4 N1 + + + + - - - - N2 + + + - - - - + N3 + + - + - - + - N4 + + - - - - + + N5 + - + + - + - - N6 + - + - - + - + N7 + - - + - + + - N8 + - - - - + + + N9 - + + + + - - - N10 - + + - + - - + N11 - + - + + - + - N12 - + - - + - + + N13 - - + + + + - - N14 - - + - + + - + N15 - - - + + + + - N16 - - - - + + + + Bellの不等式を求める(2) Niをその事象が起こる相対確率とする 4 2 N1 N 2 N 3 N 4 N 5 N 6 N 7 N 8 N 9 N10 N11 N12 N13 N14 N15 N16 4 3 N1 N 2 N 3 N 4 N 5 N 6 N 7 N 8 N 9 N10 N11 N12 N13 N14 N15 N16 4 2 4 3 2 N1 N 2 N 7 N 8 N 9 N10 N15 N16 1 2 N1 N 2 N 3 N 4 N 5 N 6 N 7 N 8 N 9 N10 N11 N12 N13 N14 N15 N16 1 3 N1 N 2 N 3 N 4 N 5 N 6 N 7 N 8 N 9 N10 N11 N12 N13 N14 N15 N16 1 2 1 3 2 N 3 N 4 N 5 N 6 N11 N12 N13 N14 4 2 4 3 1 2 13 2 Bellの不等式を破る場合の計算 3 1 2 1 4 2 cos 2 cos 8 4 2 4 1 1 2 1 4 3 cos 2 cos 8 4 2 4 3 2 3 1 2 cos 2 cos 4 2 8 1 2 1 1 3 cos 2 cos 4 2 8 よって、 4 2 4 3 1 2 1 3 2 2 2 Bellの不等式を破る場合の図 3 2 8 1 2 4 1 3 8 1 0 キャリブレーション(NaI下) 実験前 実験後 キャリブレーション(NaI下) データを合わせて10点で直線フィット ADC分布(NaI下) ADC分布(CH下) フィット後のADC分布(NaI下) フィット後のADC分布(CH下) Simulation おまけ エネルギー分布 (NaI, φ= 90°) エネルギー分布 (CH, φ= 90°) フィット後のエネルギー分布 (NaI, φ= 90°) フィット後のエネルギー分布 (CH, φ= 90°) 非対称性の補正(計算式) 2 0 rCH arctan L 0 d d sin 2 2 L L 1 tan cos 1 tan cos0 l l 総合的な補正(計算式) r arctan CH L 0 2 d cos 2 0 d 0 I 0 d 2 0 r arctan CH L 0 d 2 2 d 2 d rNaI l L tan cos tan 2 2 rNaI l L tan cos0 rNaI rNaI min arctan , arctan l L tan cos l L tan cos 0 rNaI rNaI max arctan , arctan l L tan cos l L tan cos 0 rNaI l L tan cos0 tan arcsin 2 2 rNaI l L tan cos0 2 arcsin d rNaI l L tan cos0 tan arcsin 2 2 rNaI l L tan cos0 2 arcsin rNaI rNaI min arctan , arctan l L tan cos l L tan cos 0 rNaI rNaI max arctan , arctan l L tan cos l L tan cos 0 2 d rNaI l L tan cos tan 2 2 rNaI l L tan cos0 2 2 CH 上 NaI 上 :散乱点(上) :散乱点(下) 線源 NaI 下 CH 下
© Copyright 2024 ExpyDoc