第7章 レーダーによる大気の観測
通信情報システム専攻
深尾研究室 M1 青木 裕一
7.1 大気レーダーの検出能
• 7.1.1 雑音の中からの信号の抽出
• 7.1.2 インコヒーレント積分による検出能の改善
• 7.1.3 受信電力とレーダー反射率
雑音の中からの散乱信号の抽出
周波数スペクトルに基づく信号の検出能(detectability)Dは、信号
および雑音の平均電力密度の比で表される。
S : 信号電力の平均値
(1)
N : 雑音電力の平均値
N coh:コヒーレント積分数
N B : ペリオドグラムの全点
散乱信号のスペクトル幅
数
N S : 信号が占める点数
(2)
(1)(2)より
(3)
Ncoh回のコヒーレント積分後NB点FFTを行った結果と、コヒーレント積分を
行わずにNcoh ・NB点FFTを行って得たペリオドグラムの検出能は同一
インコヒーレント積分による検出能の改善
インコヒーレント積分
独立したペリオドグラムを各周波数成分について加え合わせると、
その平均値は真のパワースペクトルの値に近づく
コヒーレント積分のようなSNRの改善は見込めないが、スペクトルの揺らぎが
小さくなるため散乱信号の検出が容易になる。
インコヒーレント積分数をNincとすると、雑音の揺らぎは 1 / Ninc に減じる。
(3)式で与えられるDに対して、インコヒーレント積分により改善される検出能は
N inc
D
fT
S
N
(4)
D≧3のとき雑音の揺らぎが受信電力よりも大きな値を取る確率は0.1%以下
一般にD=3 のレベルを検出限界
受信電力とレーダー反射率
1/ 3
2
Cn
(5)
0.38
• 乱流構造定数
• 時間平均受信電力
Pr
s 2 Pt Ae
64r
2
r (6)
送信パルス幅τ、パルス繰り返し時間T、レーダービームの天頂角θ、
散乱体積の深さΔrとし、システム全体の効率を考慮すると、時間平均
受信電力は
Pr S
Pt Ae cos r 2 a 2
64(ln 2)cTr
2
(7)
Pt / T・ Pt
r c / 2
レーダー反射率を式(7)および、システム雑音温度Tsaを用いて表すと、
=
64(ln 2)
2
cTkBTsa r S
(8)
2
Pt Ae cos a r N
N kTsa B
観測されるSNRを用いれば、レーダー反射率と乱流構造定数が求められる。
7.2 風ベクトルの観測
• 7.2.1 ドップラービーム走査法による風速測定
• 7.2.2 空間アンテナ法による風速測定
• 7.2.3 運動量フラックスの測定
ドップラービーム走査法による風速測定(1)
ドップラービーム操作(Doppler beam swing;DBS)法
レーダービームを任意の方向に走査し、それぞれの視線方向のドップラー速度
を求めれば、風速の3成分を算出できる。
VrW
DBS法の基本的なビーム走査
VrE w cos u sin
西
VrW w cos u sin
u
北
天頂
南
VrE VrW
2 sin
DBS法の一般的なビーム走査
風ベクトル v
(v x , v y , v z ) 、視線方向成分 vdi
vdi v・ i v x cos x v y cos y v z cos z
cos x1 cos y1 cos z1
v cos x 2 cos y 2 cos z 2
cos cos cos
x3
y3
z3
1
vd 1
vd 2
v
d3
レーダー
VrE
東
ドップラービーム走査法による風速測定(2)
m方向の多ビームで観測を行う場合
2
最小二乗法によって与えられる残差 v が最小になる v を求める。
m
v (vx cos xi v y cos yi vz cos zi vdi )
2
i 1
v
0 ( j x, y, z )
v が最適値のとき、
v j
2
このとき、
cos 2 xi cos xi cos yi cos xi cos zi
v cos yi cos xi cos 2 yi cos yi cos zi
2
cos zi cos xi cos zi cos yi cos zi
1
vdi cos xi
vdi cos yi
v
cos
zi
di
簡易VAD(velocity azimuth display)法
vr vz cos vh sin cos( D )
水平速度
vr max vz cos vh sin
vr min v z cos vh sin
鉛直流
vr max vr min
vh
2 sin
v
vr min
v z r max
2 cos
空間アンテナ法による風速測定(1)
空間アンテナ(spaced antenna;SA)法
VHF帯以下の低周波域で用いられる。分反射エコーが
地上に作る干渉パターンを 測定し、その移動速度から
風速(水平成分を)推定する。ランダム媒質が
vh
f ( x, y, z ) exp{( x 2 / a 2 y 2 / b 2 z 2 / h 2 )}
で表されるガウス型の散乱電界強度分布を持つ散乱体
の集合からなると仮定すると
受信機1
送信機 受信機2
( , , ) exp{( 2 / 2a 2 2 / 2b 2 2 / 2h 2 )
で示される自己相関関数を持ち、これを観測することに
よって媒質の統計的特性を求めることが可能
2vh
d
SAD(spaced antenna drift;空間アンテナドリフト)法
対になったアンテナの受信信号間の相互相関関数から両アンテナを結ぶ
基線方向を干渉パターンが移動する時間を求め、風速を推定する。
最低3台のアンテナを用いてSAD法で基線に沿う2つの水平成分を求めれば、
水平風速2成分が得られる。
空間アンテナ法による風速測定(2)
FCA(full correlation analysis)法
不規則構造(散乱体)のランダムな運動のために、実際には干渉パターンは刻々
変化する。このため、干渉パターンの変形による相関の低下を考慮して水平風速
の推定を行う手法。散乱体の形状に関する情報も得られる。
信号の干渉パターンが速度 V (Vx , V y ) で動くとすると、地上の2点に置かれた
1対のアンテナで受信される信号パターンの2次元相関関数ρは
( , , ) {A( Vx )2 B( Vy )2 K 2 2H ( Vx )(( Vy )}
AVx HV y F
BV y HVx G
・・・(*)
とおくと
( , , ) { A 2 B 2 C 2 2F 2G 2H)}
3台のアンテナを用いて得た受信信号から独立した2組の相互相関関数を得れば、
それぞれにフィッティングを行うことによって未知数がすべて決定され、水平風速が
求まる。
FSA(full spectral analysis)法
FCA法の解析をすべて周波数領域で行う方法。
(ij ,ij , ij ) exp[ { Aij 2 Bij 2 C 2 2( Fij Gij ) 2Hijij }]
運動量フラックスの測定
運動量フラックス
水平成分の平均風からの変動 u ' と、同じく鉛直流の変動 w' の共分散 u ' w' で
与えられる2次の微小変量。大気レーダーで測定可能。
天頂角θが同じで方位角が180°異なる1対のレーダービーム
V1 w1 cos u1 sin
VrW w1 cos u2 sin
V1 'V2 ' (u1 '2 u2 '2 ) sin 2 ( w1 '2 w2 '2 ) cos 2
V2
V1
u2 , w2
2(u1 ' w1 ' u2 ' w2 ') sin cos
ui ' wi '
u1 , w1
V1 'V2 '
2 sin 2
鉛直ビームを用いる場合
V1 ' w0 ' cos
u'
sin
u ' u1 '( w1 'w0 ' ) cot
u' w' u1 ' w0 ' ( w1 ' w0 ' w0 '2 ) cot
V1
w0
u1 , w1
7.3 乱流の観測
• 7.3.1 スペクトル幅の推定
• 7.3.2 乱流パラメータの推定
• 7.3.3 大気屈折率と乱流構造定数の関係
スペクトル幅の推定
スペクトル幅は散乱体積内の速度成分の広がりを反映しており、様々な要因が寄与。
ビームブロードニング
レーダービームが広がりを持つことに
起因し、 スペクトル幅に最も大きな影響
1/ 2 B 1/ 2vh
21/ 2 21/ 2turb 21/ 2 B
時間変動ブロードニング
シヤーブロードニング
水平風には大気中の波動効果などにより、
鉛直方向に速度変化(シヤー)が生じる。
これが大きな値を持つとき、スペクトルを
広げる要因となる。
S w sin r
2
2
N
1
Ri
| u / z |2 4
1/ 2 S
インコヒーレント積分の間に風速変動があれば、
各パワースペクトルの幅は単一パワースペクトル
に比べて広がる。
W2
(v' )
2
2
2
1
(
1
cos
N
)
2 2
N
21/ 2T 2 ln 2(v' ) 2 4(v'2 ) 2
乱流パラメータの推定
エネルギー消散率
鉛直渦拡散係数 K
z
ブラント・バイサラ振動数
エネルギー波数スペクトルS ( )
2
3
S ( ) a
K ' w'
5
3
a ( 1.5) : Kolmogoroff定数
N2
スペクトル幅、すなわち速度分散は
2
3
b
b
3
2
vrms S ( ) a
a
a
2
これを解くと
5
3
N
a B v rms B
vrms
a 3 / 2 Nv 2 rms Ct Nv 2 rms
3 / 2
3
g
z
N
エネルギー消散がレイノルズ応力による
エネルギー生成と平衡とすると
u
g
1
u ' w' ' w' 1
z
Rf
Rf
g
u
' w'
u ' w'
z
よって、
K
N2
,
Rf
1 Rf
g
' w'
大気屈折率と乱流構造定数の関係
大気の屈折率
n 1 7.76 105
N
p
e
3.73 101 2 40.3 2e
T
T
f
屈折率 n の変動の分散n
n ( )d
2
(k ) : 3次元スペクトル
B
5 2 5 / 3
n Cn d
B
12
2
2 / 3
Cn 5.45LB n 2
2
2
Cn : 乱流構造定数
LB F 1/ 2 N 3 / 2 F 2 / 0.62
2.07LB 2 / 31/ 3n2
n 2 に代えて屈折率勾配 M n を用いると
Cn LB M n
2
4/3
2
2
p N2
M n dn / dz 7.76 10
( N 2に比例)
T g
5
Cn 2 / 3M n N 2
C 2 n , n 2 : 波長に依存しない
2 / 3M n 2 N 21/ 3
: N 2 に比例、波長の-1/3乗に比例
2
2
7.4 温度プロファイルの観測
• 7.4.1 RASS法による大気温度の測定
• 7.4.2 屈折率の変化とRASS法のレーダー方程式
• 7.4.3 ブラッグ条件と背景場
RASS法による大気温度の測定
RASS(radio acoustic sounding system):
大気レーダーと音源波の組み合わせによって大気温度を測定するシステム
見かけ上の音速(apparent sound velocity)caは
ca cs v
f da
2ca
:大気レーダー観測で得られるドップラー周波数
背景風がないと仮定すると、
ca Kd T レーダーで観測されるfdaよりcaを求め、上式に代入することで高度zに
対する温度プロファイルT(z)が得られる。
T
v
湿潤大気中では、乾燥大気中に比べて音速はわずかに大きくなり、このとき湿潤大気の
温度Tvと実温度Tとの関係は
ca
Tv
Kd
2
Tv (1 0.608q)T
q:水蒸気混合比[kg kg-1]
屈折率の変化とRASS法のレーダー方程式
屈折率の変動
音波強度
下層大気中の乾燥大気の屈折率は
p
n 1 7.76 10
T
5
大気圧の変動 dp によって生じるn
の変動は
dn 7.76 105
1
dp
T
2
Pa Gat
p
Ia
I a (r )
a cs
4r 2
a cs PaGat
p(r )
4r 2
屈折率の変動 dn のrms
Aa
n( r )
r
5 1
Aa 7.76 10
T
RASS法のレーダー方程式
音波面からの後方散乱による大気レーダーの受信電力
4 2 Pt r
r
Par Aa 2 2 sin c 2 (2k k a )
r 2
2
2
a cs PaGat
4
ブラッグ条件と背景場
RASSエコーを受信するためのブラッグ条件
k a 2k k a // k
| k a | 2 | k |
音波面⊥レーダービーム方向
音波の波長がレーダー波長の半分
高度によって温度が異なり、音速が変化する。単一周波数ではなく、周波数を
時間掃引した音波を用いて観測を行う。
背景場の影響
2
ca v r
Tv
Kd
対流圏では高度が上がるにしたがって水平風速が増大
するため、観測可能範囲は温度と水平風の存在に依存
波源から離れるにしたがって電波の波数ベクトルと音波面を直交させることが困難
レーダービームを適宜音波面に直交するように走査することで、RASS観測が
より高い高度範囲まで可能(レーダービーム走査)
7.5 水蒸気プロファイルの推定
ブラントバイサラ振動数
N 2 1 1 T
g
z T z
R
Cp
p0
T
p
混合比
e
q 0.622
p
屈折率
n 1 7.76 10 5
p p0
p
R
CP
R
Cp
p
q
1 7800 0
p
屈折率勾配
2
2
p
N
q
N
7800 dq
5
M n dn / dz 7.76 10
15600
T g
T g
T dz
z
q0
2
2
q
(
z
)
B
(
z
)
dz
z0
混合比の高度プロファイル
2
0
7.6 レーダー干渉計法
• 7.6.1 SDI法
• 7.6.2 FDI法
• 7.6.3 事後ビーム走査法
SDI(spatial domain interferometry)法
北
複数の受信アンテナを適当に離して設置し、
受信電波の空間的な位相差を測定すること
により、散乱体をアンテナビーム幅よりも細か
な角度分解能で測定する手法
vh
風ベクトルの推定
信号の位相差
アンテナ2
基線
Da
kDa cos( ) sin kDa cos( )
アンテナ1
視線方向の速度成分
vr vh sin w cos vh w
vh : 水平風
w : 鉛直流
水平風
kDa cos( )
wkDa cos( )
v
r
v
v
h
h
(vr )
=m
m kDa (u ' sin v' cos )
u ' sin / vh , v' cos / vh
=b
vh
1
(u ' ) 2 (v' ) 2
u'
arctan
v'
b
鉛直流 w vr 0 12
m12
風ベクトル
の方位
FDI(frequency domain interferometry)法
わずかに周波数の異なる複数の送信波を照射し、
受信信号間の位相差をもとにしてレーダーの送信
パルス幅よりも細かい高度分解能を得る手法
コヒーレンス(coherence)S12
S12
v1v2
*
| v1 |2 | v2 |2
散乱層の厚さとレーダーから散乱層の中心位置
までの距離
2C r
2 1 2
r2 C
2
12 2 r 2
z1
4k
r2
4
k 2 t
1
C
ln | S12 | (1 N / S ) 1
2
2
2k
z
0
事後ビーム走査法
(post beam steering:PBS)
SDIの概念を拡張すると、2台のアンテナで受信された信号に適当な位相量を
加算することによって、レーダービームを任意の方向に向けたように処理が可能
同一基線上にない3台のアンテナを用いると、レーダービーム幅内の
散乱強度の水平分布を映像化可能
事後ビーム走査(post beam steering:PBS)法
時系列信号そのものに位相量を与える方法
事後統計的走査(post statistic sterring:PSS)法
信号に統計処理を施した後に位相量を与える方法
7.7 レーダー映像法
• 7.7.1 フーリエ法に基づく映像法
• 7.7.2 ケイポン法に基づく映像法
• 7.7.3 ミュージック法に基づく超高分解能法
フーリエ法(Fourier based imaging)
所望のベクトル k方向の信号強度(輝度)が推定され、輝度の空間分布
を決定できる。PSS法をN個のアンテナの場合に一般化したもの。
[WF (k )] [exp( jkd1 ), exp( jkd2 )・・・ exp( jkdN )]T [v(t )]をN個の受信アンテナからの信号ベクトルとすると、フィルター
の k 方向の出力 y (t )は
y(t ) [WF (k )]・[v(t )]
自己相関 BF (k ) [ y(t )]・ [ y(t )] は輝度を表し、
BF (k ) [WF (k )]・ [ R・] [WF (k )] [ R] [v(t )]・ [v(t )]
y (t )の自己相関関数 Ry ( ) y (t ) y * (t ) を行列の形で表すと、
R y (k , ) [WF (k )]・[ R( )]・[WF (k )]
[ R( )] [v(t )][v(t )]
降雨時にドップラースペクトルで大気乱流と降雨のエコーが分離
している場合には、両者の輝度分布を推定することが可能。
ケイポン法(Capon based imaging)
線形フィルターによって得られた出力を最小化
1
[e(k d )] [exp( jkd d1 ), exp( jkd d 2 )・・・ exp( jkd d N )]T
N
の方向で
[e(kd )]・[WC (kd )] 1
が成立する条件の下で
[WC (k )]・[ R]・[WC (k )]
を最小化
Lagrangeの未定係数法
[ R ]・1 [e(k )]
[WC (k )]
[e(k )]・[ R ]1・[e(k )]
1
BC (k )
[e(k )]・[ R 1 ]・[e(k )]
干渉波が存在する場合、その方向にヌル(null)点を持つようにフィルターの条件を
追加設定することにより、干渉波を抑圧することができる。
ミュージック法(multiple signal classification)
相関行列の特異分解を用いて散乱源分布(輝度分布)を決定する方法
N個のアンテナにM個の散乱源からの電波が入射する場合、N N
の受信信号相関行列[R]の固有ベクトル[qi](i=1~N)は互いに直交
固有値λ1~λNは信号部分空間( λ1~λM )と雑音部分空間(λM+1~λN)
に分解可能
散乱点の個数Mはλ1~λNの分布から推定可能
散乱源方向ベクトル[e(k1 )] ~ [e(kM )]が張る部分空間が信号部分空間と同一
エルミート行列の固有ベクトルの直交性から、信号部分区間⊥雑音部分空間
[ql ]・[e(kn )] 0, n [1, M ], l [ M 1, N ]
ミュージック法によって得られる輝度分布は
1
2
N
BM (k ) [ql ]・[e(k )] ([e(k )・[Q]・[Q]・[e(k )]) 1
l M 1
輝度分布が最大となる位置が散乱源の位置を示す。
ケイポン法において、散乱源数が既知であり、雑音出力が1に等しく、SNRが
無限大であれば、ケイポン法の結果はミュージック法の結果に近づく。
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