真理への接近

真理への接近
反証を通じて真理へ接近していくことの
可能性
そもそも真理とは?
• 対応説(言明と事実との一致)
• 明証説(明証なものが真理)
• 整合説(真理は体系として存在する)
• 道具主義(プラグマティズムの真理観、有
用なものが真理)
ポパーは、タルスキーの意味論的真理論と呼ばれる
ものを実在論の立場から受け容れている。
• これは、外界が実在し、われわれの語ること(言明)
が事実と合致するとき真理が語られているという常
識に合うし、また多くの科学者が受け容れている立
場であると思われる。
• しかし、有用なもの、とくにわれわれの欲望を充足さ
せる上で有用なものが真理であるとする説も強い。
ここからは道具主義的科学論が生まれてくる。これ
に対するポパーの批判については後述。
真理への接近という観念について
• ポパーの定義した「真理への接近度
(verisimilitude ) 」という観念については
いろいろ問題点が指摘されているが、ここ
ではおおよその考え方を説明する。
真理への接近を説明するための補論
論理的帰結
• 真なる言明からは、真なる言明のみが帰結する。
• 偽なる言明からは、真なる言明と偽なる言明が
帰結する。
• 科学において問題になるのは、自分たちが検討
している仮説が真か偽かということ。
• その仮説から、いかなる帰結が生じてくるかを検
討することが課題となる。
真理への接近を説明するための補論──論理的帰結の概念を説明する例
例:「クジラは魚である」からの論理的帰結
•
•
•
•
「水中で生活している。」(真)
「背骨がある。 」 (真)
「ヒレがある。 」 (真)
などなど。
•
真なる言明の集合を真内容と呼ぶ。
•
•
•
「卵生である。 」 (偽)
「浮き袋がある。 」 (偽)
などなど。
•
偽なる言明の集合を偽内容と呼ぶ。
真理への接近を説明するための補論
言明の真偽を定めるには判定規準が必要
• 対応説の立場において、言明が事実に対応しているかどうかを決
定するには、対応しているかどうかの判定規準が必要になる。
• 例:いま何時何分かを決めるとき、誰の時計を規準にするかというこ
と。
• 現在のところ、最も優れた時計でも2000万年で1秒未満の誤差が
あるという(2003年6月新聞報道)。
• 長さの規準:1799年メートル原器、1960年クリプトン原子、1983年
光が真空中を1秒間に進む距離の299,792,458分の1.
• 重さ:白金の人工原器、10の-8乗での相互比較済。
真理への接近を説明するための補論
判定規準と真偽のかかわり
•
真
• ある程度の誤差を含んでしか、
言明の真を言えないということ
は、言明の真を絶対的に立証
するという意味での実証は不
可能であるということ。真という
こと自体が蓋然性を含んでい
る。言明と事実が許容誤差範
囲内にあるので矛盾しないと
いうだけ。
•
偽
• しかし、判定規準にあいまいさ
があっても、偽の立証はできる。
(なるほど判定規準にはあい
まいさがあるが、その誤差範
囲を大きく逸脱しているから、
誤りだ。)
• 例:正午の時報を聞きながら、
「いまは12時15分である」とい
えば、これは明らかに誤り。誤
りということ自体に誤差はない。
真理への接近を説明するための補論
真理の判定規準
• ポパーは、真理の判定規準に関する古代の懐
疑主義者(セクストゥス・エンピリコス)の議論を
継承している。どんなものでも疑わしい。
• しかし、反証ができると考えている点で、現実世
界に対する懐疑主義者になっているわけではな
い。ある規準を立てれば、それによって偽である
と明白に言えるものが存在する。よって、反証主
義者はすべてを疑わしいとする懐疑主義者では
ない。
真理への接近を説明するための補論
真理の判定規準に関する懐疑主義者
の議論
• ある真理の判定規準が真なるものであるということを論
証するためには、すでに真理の判定規準が前提されて
いる。
• しかし、これは論点先取の虚偽である。
• もしくは、ある真理の判定規準が真なるものであるという
論証自体が、真であることをさらに論証しなければなら
ないことになり、これは無限背進に陥る。
真理への接近を説明するための補論
真理の判定規準についての考察から
• 実証主義者は、(証拠を
• 反証主義者は、真理の
たくさん集めることで)真
立証はできず、できるの
は反証のみと考える。
理の立証ができると信じ、
またそうすべきであると
• 実験・観察が精密になる
考えている。
ことによって、かつての真
実がひっくり返されること
を実証主義者はうまく説
明できるのか
本題に戻って
真理への接近度:ポパー的定義
──仮説の比較──
• 仮説T1が仮説T2よりも真理に接近してい
るといえる条件
•
•
•
(1)仮説T1の真内容 ≧ 仮説T2の真内容
もしくは
(2)仮説T1の偽内容 ≦ 仮説T2の偽内容
科学の目標:真なる言明のみを照らし出し、偽なる
言明は照らし出さないような理論の探求
真理への接近度と科学の現実
当面のテスト状況に応じて真内容と偽内容を考える。
たとえば
仮説1
仮説2
仮説1:天動説
実験〔観察)1
真
真
仮説2:地動説
実験〔観察) 2
真
偽
実験〔観察) 3
偽
偽
実験〔観察) 4
真
真
実験〔観察) 5
真
偽
注
この場合、真とは偽では
ないということ。この実験
を説明できるということ。
この表のような場合においては、仮説1の真内容には4個の言明が属し、仮説2の
真内容には2個の言明しか属さない。仮説1からは偽なる言明が1個帰結して
いる。
仮説1のほうが仮説2よりも真理に接近していると判定する。
真内容とか偽内容のすべてを考察しているのではなく、当面のテスト状況との相
関において判定しているのみ。
仮説1の支持者にとっては実験3をカバーするために、新しい仮説を導入すると
いった理論改善が必要になる。つまり、反証こそが理論前進のための原動力にな
るということ。