1 山田・関報告について 福光 寛(成城大学) 2 お二人について • 山田隆 日本における大口株主所有:株式価値および企業行 動への影響(東京工業大学博士論文 2011) 参照論文:証券経済研究2011/12 • 関憲治 日本の株式市場におけるファンダメンタルリターンお よびバリュエーション変動リターンの分析(東北大学博士論文 2012) 参照論文:山形県立産業短大紀要2010/03 3 以下の質問について • 計量的研究は読んで利用はしていますが日常的に自身行っ ているわけはありません。 • 以下の質問では計量的研究で常に問題にされる、統計学的 な厳密さや選んだ手法の適切さに関する質問は、行っていま せん。 • 事前にいただいたレジメを参考に質問を構成しており、本日新 たに加わった指摘や発言は以下の質問に反映していません。 4 報告者の関心:企業価値とキャッシュフロー 管理との関係の究明 使用した枠組み:ライフサイクル仮説 • 成熟段階にある企業の過剰な内部留保 ⇒ agency cost上 昇 ⇒ 企業価値損ねる 研究の進め方 • FCFでなく営業CFの使途に注目 その活用方法と市場評価 の関係を考察する 最初の疑問 • なぜ営業CF? ⇒ ペイアウトを考えるときに営業CFをベー スにすることは実務的に正しいか? 5 報告者の枠組み • 仮説1 成長段階 設備投資⇒ 市場評価 • 仮説2 成熟段階 ペイアウト⇒ 市場評価 • 仮説3 外部環境 ⇒資金使途 • 計測期間 2008-2012 • データ 日経NEEDS 第二の疑問 • 計測期間短すぎないか 選択した期間の妥当性は? 6 選択時期の妥当性 デフレに加えて 2つの異常イベントを含む時期の妥当性 • 2008 世界的金融危機 • 2011 東日本大震災 など ↓ 企業の設備投資行動は極端に慎重であったと考えられる 企 業・投資家ともにリスク回避的であった可能性高い 第三の疑問 この時期で検証することは適切か? (期間は短かすぎるのではないか) 7 成長・成熟の定義 • 成長企業の定義 総資産成長率は高いが総資産規模小さい • 成熟企業の定義 総資産成長率は低いが総資産規模大きい • 第四の疑問 成長・成熟の判定は数字の絶対的大きさか成長 率の拡大・鈍化か? 外部環境の関係で成長率の数値の意 味は違うのでは? 業種による資産規模の違いは? 8 ペイアウトについて • なぜ配当だけを問題にするのか。自社株買いも問題にするべ きではないか。 • ペイアウトを議論するときに営業CFをベースに考えること(検 証すること)は、企業実務的な観点からただしいのか? 企業 はどの数値を見てペイアウトの水準を決定するのだろうか。 9 報告による結論と解釈 • 結論 仮説1・2の棄却 仮説3の支持 • 解釈 デフレ経済下の景気低迷期が影響 10 本報告ヘのコメント • 企業がFCFを高める行動をとることと、FCF仮説との矛盾は 指摘が多く、本研究はそうした指摘に一つと考えられ問題関 心には共鳴できる。 • ただし今回の報告は計測期間が異常な時期で短期であること の制約が大きく、より長期間での検証を期待。 • 優良大企業のこうした行動は、長期的かつグローバルに生じ ており、2008-2012年の短期的問題ではないのではないか。 別の言い方をするなら、過剰貯蓄仮説を考慮するべきではな かったか。 11 その他の個別の疑問(再掲) • なぜ営業CFをベースにしたのか? ⇒ ペイアウトを考えると きに営業CFをベースにすることは実務的に正しいか? • ペイアウトは配当だけでよいか。自社株買いを合わせて問題 にするべきではないか。 • 成長・成熟の判定は数字の絶対的大きさか成長率の拡大・鈍 化か? 外部環境の関係で成長率の数値の意味は違うので は? 業種による資産規模の違いは? 12 過剰貯蓄仮説については以下を参照 福光寛,過剰貯蓄:理論 と現実,成城大学経済研究182号,2008年11月,57-86 最後に: 現実の企業は複数の異なるライフサイクルの事業を抱えている。 それを無視して企業全体の資産規模や成長率でライフサイク ル議論することは乱暴ではないだろうか。 また日本企業とアメリカ企業の対比として日本企業は内部蓄積 を多角化投資に使いやすいので生き残りができてきた。これに 対してアメリカの企業は吐き出しを迫られるので破綻しやすいと いう言い方がある。例 富士フィルムは豊富な内部蓄積を多角 化による業態転換に使えた。これに対してコダックは内部蓄積 の吐き出しを迫られ業態転換をなしえなかった。日本社会はこ うした企業の生き残り戦略に寛容であり、企業価値評価でもこ の点が影響するのではないか。
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