解答例

2016 年度前期 有機化学演習 第10回 求核アシル置換反応
1. 次の2つの反応の主生成物が異なる理由を説明しなさい。
(「乾燥 HCl」とは、
水を含まない HCl、つまり塩化水素ガスのことである。)
O
+
Cl
(1 eq)
NH2
HO
+
O
NH2
O
NH2
HO
OH
N
H
HO
HCl
O
O
Et3N
上の反応では、–OH と–NH2 を比べると –NH2 の方が求核性が高いため、–NH2
が優先的に反応する。反応に伴って生成する HCl は Et3N と反応して
Et3NH+Cl– となるため、反応に影響しない。一方、下の反応では、HCl が過剰
量あるため、–NH2 はプロトン化を受けて –NH3+となり、求核性を失う。従っ
て、–OH のみが反応する。
(酢酸を過剰量使うのは、平衡を右に偏らせるため
である。)
2. (1) 2,4,6-トリメチル安息香酸をメタノールと濃硫酸と加熱したが、メチルエ
ステルの生成は極めて遅かった。理由を説明しなさい。(2) 2,4,6-トリメチル
安息香酸を塩基の存在下 CH3I と反応させると、メチルエステルが得られた。
反応機構を示しなさい。(3) (1) と比べて(2)の反応の方が容易なのはなぜか。
(1) 2,6-位のメチル基の立体障害によって、カルボニル炭素への求核攻撃が妨
げられるため。
O
OH
H3C
CH3
HO
H+
OH
H3C
CH3
CH3
CH3OH
CH3
(2)
O
O H
H3C
CH3
CH3
O
Base
O
H3C
O
CH3 H C I
3
CH3
(SN2)
O CH3
H3C
CH3
+ I–
CH3
(3) (2) の反応は、反応する位置が O 原子で、立体障害の原因となる2つのメ
チル基から離れているため。
3. (1) N,N−ジメチルアセトアミド(右図)の酸触媒加水分解の
O
反応機構を書きなさい。(2) アミドの加水分解は塩基性条件で
CH3
N
CH3
H3C
も起きるが、酸性条件で行う方が一般的である。理由を説明し
なさい。
(1)
O
O
CH3
N
CH3
H3C
HO
H3C
OH
CH3
N
CH3
H+
CH3
N
CH3
H3C
HO
H+
H
H2O
H3C
H3C
–H+
O H
OH
CH
N H 3
CH3
H
O H
CH3
N
CH3
HO
O
CH3
+ H N
OH
CH3
H3C
H3C
OH
+
H
N
H
CH3
CH3
(2) 塩基性条件では、四面体中間体からの脱離基が強塩基の「(CH3)2N–」である。
一方、酸性条件では、脱離基が弱塩基の「(CH3)2NH」である。このため、酸性
条件の方が反応が進みやすい。
4. (1) 下の反応で化合物Aを合成しようと試みたが、成功しなかった。理由を説
明しなさい。(2) 化合物Aを合成する方法を提案しなさい。
O
O
O
OCH3
+
O
O
+ –OCH3
O
A
(1) 四面体中間体を考えると下のようになる。このとき、–OCH3 は –OCOCH3 よ
りもずっと悪い脱離基なので、–OCH3 が脱離する方向には反応は進まない。
O
O
O
O
OCH3
+
O
OCH3
O
(2) 出発物質の –OCH3 を良い脱離基で置き換えればよい。
O
O
Cl
O
+
O
Cl
O
O
O
–
Cl–
O
O
5. 下の化合物は、いずれもメチルアミン CH3NH2 と反応してアミドを与える。
(1) 化合物1とメチルアミンの反応機構を示しなさい。(2) 化合物1、2、3
を反応性の高い順に並べなさい。また、その理由を説明しなさい。
O
NO2
O
O
O
1
OCH3
O
O
3
2
(1)
CH3
H
O
O
N
CH3NH2
O
CH3
O
H
– H+
O
N
H
O
O
N
H
CH3
+
–O
(2) 脱離基となるフェノキシドの塩基性が低いほど脱離能が高く、従って反応性
が高い。p-ニトロフェノキシドは下の左のようにニトロ基が関与する共鳴寄与体
を持つため安定である。一方、p-メトキシフェノキシドは下の右のようにメトキ
シ基のローンペアとの電子間反発があるため不安定である。よって、2>1>
3の順。
–O
O
N
O
O
O
N
O
–O
OCH3
O
OCH3