欧州クレジット・レター - ピクテ投信投資顧問株式会社

ご参考資料
2016年
6月23日
Vol. 12
“欧州クレジット市場の最前線”
欧州クレジット・レター
ECB社債購入プログラムの要点
欧州中央銀行(ECB)の社債購入プログラム(CSPP)が2016年6月8日より開始されました。これまでのところ社債
購入金額は市場の見込みを上回り、順調な滑り出しと見られます。CSPPプログラムの内容を振り返りながら、今後
の展開について述べます。
社債購入プログラム:ECB、社債を購入開始、
購入額は市場予想を上回る
欧州中央銀行(ECB)の社債購入プログラム(CSPP)(図
表1参照)について、最初のデータが公表されました。201
6年6月13日の発表によると、ECBは6月10日時点で、3億
4,800万ユーロ(約420億円)相当の社債を保有しており、
市場予想(2億~2億5,000万ユーロ)を上回りました。報道
によるとECBは不祥事の影響に苦しむ自動車メーカーの
独フォルクスワーゲンや、主要格付け会社3社のうち2社
からジャンク級の格付けを付与されているテレコム・イタリ
アの社債も購入した模様です。ECBは社債購入額につい
て毎週月曜日に公表するとしていますが、決済の関係で
今回の発表は8日に流通市場で購入したもののみが対象
と説明しています。ECBの代理で購入する各国の中銀は
7月18日から保有額などの公表を開始する予定です。
社債購入プログラム:
追加金融緩和を旗印に導入
社債購入プログラムは資産担保証券プログラム(ABSPP)
などと並んで資産購入プログラム(APP)を構成しています
(図表2参照)。APPはECBが2015年1月に導入を公表、当
時はABSPP、カバードボンドを購入するCBPP3、国債など
を購入するPSPPの3プログラムで構成されていました。
導入の背景は当時の預金ファシリティ(マイナス0.2%)は下
限と見られていたため、政策金利でなく量(債券購入)に
よる追加金融緩和を目指しています。この点、同じ債券購
入でありながら欧州債務危機時に導入(ギリシャ国債の
償還が懸念された2010年5月)された証券市場プログラム
(SMP、その後OMTへ)が金融危機にかかる流動性対応
であったのとは趣旨が異なります。
社債購入プログラム:
CSPPの主な内容の注意点
①購入対象について
購入対象社債の部門で銀行は対象外ですが、欧州連合
(EU)規則などに照らして何が銀行に該当するかを調べる
と相当複雑です。実務的には簡便に単一監督メカニズム(
SSM)により監督される企業(銀行)またはその子会社が
CSPPの対象外とみなすのも一案です。
図表1:ECBのCSPPの主な内容
CSPPの主な 内容
名称
社債購入プログラム(CSPP)
公表日
2016年3月10日 ECB政策理事会
開始日
2016年6月8日(社債購入開始日)
終了日
2017年3月、なお2017年9月迄延長の可能性
*非銀行発行の投資適格ユーロ建て社債
購入対象社債 *ユーロ圏で設立された発行体の社債
の主な要件 (親会社が非ユーロ圏でも購入可能)
*適格格付会社1社から投資適格格付け
購入対象年限 購入時残存6ヵ月から30年364日
購入対象利回 預金ファシリティ(現在マイナス0.4%)を上回る
購入残高制限 同一銘柄(ISIN)で70%まで
購入市場
プライマリー、セカンダリー
証券貸出
レンディングはCSPP開始の6週間後を予定
独、仏、伊、スペイン、ベルギー、フィンランドの
各中央銀行
特定されないが月間800億ユーロの資産購入
プログラムの中で購入
購入事務
購入金額
※購入市場でPublic Undertakingはセカンダリーのみ
※購入事務は6中央銀行、ECBはコーディネータの役割を担当
出所:ECBの資料を使用しピクテ投信投資顧問作成
図表2:社債購入プログラムの位置づけのイメージ図
資産購入プログラム
APP
資産担保証
券購入プロ
グラム
ABSPP
カバードボン
ド購入プロ
グラム第3弾
CBPP3
公的部門資
産購入プロ
グラム
PSPP
社債購入プ
ログラム
CSPP
記載された銘柄はあくまでも参考として紹介したものであり、その銘柄・企
業の売買を推奨するものではありません。
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“欧州クレジット市場の最前線”
欧州クレジット・レター
(続き)社債購入プログラム:
CSPPの主な内容の注意点
反対に、何故銀行がCSPPの対象から外れているのか。考
えられる理由としては2つで、まず銀行はECBの監督下に
あるため購入には利益相反が懸念されることです。2つ目
は銀行はTLTROⅡ(的を絞った長期性資金供給オペ)によ
り、必要な資金が受けられるという理由が考えられます。
②格付の制約は比較的緩やか
格付けは適格格付け会社最低1社から投資適格(BBB-以
上)が付与されていることが求められています。また、
CSPPで取得後に格下げとなった場合、機械的な売却の必
要は無いと理解されています。
格付けは最低1社から投資適格が付与されていればよい
ため、例えばスタンダード&プアーズなどがBB+とする一
方、フィッチ・レーティングスがBBB-としているテレコム・イ
タリアはこのままの格付けならばCSPPで購入可能に分類
されると見られます。
③購入対象年限は6ヵ月も含む
社債を購入対象とするCSPPでは購入対象年限が概ね6ヵ
月から31年(30年と364日)となっています。一方、国債など
公的債券を対象とするPSPPでは2年から31年までとなって
います。CSPPで6ヵ月からとしたのは中小企業などへの配
慮と考えられます。
④購入市場について
社債購入はセカンダリーマーケットと発行市場であるプライ
マリーマーケットで可能としています。ただし、Public
Undertaking(以後、公共企業)についてはセカンダリーの
みでプライマリー市場での購入は不可となっています。
そもそも公共企業とは国などが直接または間接的に独占
的な所有権により支配している企業で公共性が高いことか
ら発行市場での購入(引き受け)は不可となっています。
CSPPが開始される前、公共企業はPSPPのもとで購入対
象となっていましたが、CSPP開始に当たり、当局は公共企
業のリストを見直し、イタリア電力公社(ENEL)など5社を
PSPPの購入対象からCSPPへと移しています。なお、公共
企業は購入対象としてPSPPまたはCSPPのどちらか一方
にのみ含まれることとなります。
⑤購入機関と規模
CSPPによる社債購入はユーロ圏の6つの中央銀行が担当
しますが、保有状況は週次と、2016年7月からは月次で公
表予定です。月次データには、プライマリーとセカンダリー
市場の区分が示される模様です。また、7月18日より開始
予定の証券貸出(セキュリティレンディング)にあわせ、週
次で中銀がCSPPで保有する社債のISINコードも公表予定
図表3:CSPP適格社債の投資適格リスト作成イメージ
第1フィルター
格付け、最低利回り、残存期間、国籍、通貨建てなど
第2フィルター
ECBが適格とする市場性資産の条件を満たす
※第2フィルターの市場性資産として適格とならない可能性がある例
元本:一部例外を除き変動元本の債券
クーポン:ステップアップ/ダウンのような特殊な変動利付債
準拠法:欧州連合(EU)加盟国準拠法以外の債券
出所:ECBの市場性資産の適格性と信用要件を参照
です。 CSPPによる保有額は週次での公表が開始されていま
す。6月10日時点の社債保有額は約3.5億ユーロで、17日時
点の保有額は約22.5億ユーロ(共に決済ベース、10日の額は
8日取引の流通市場の決済分)であり、この間約19億ユーロ
購入されており、市場予想を上回る購入ペースと見られます。
なお、CSPPにより購入可能な社債全体(投資適格リスト)は2
種類のフィルター(要件)をパスする必要があると考えていま
す(図表3参照)。第1のフィルターは定量的で、図表1に記した
格付けや、預金ファシリティを上回る利回りなどが要件となり
ます。第2のフィルターではECBがオペレーションで適格となる
条件を満たす必要があると考えられます。例えば、元本は変
動しない債券が原則です。ただし条件は多岐にわたり内容も
複雑です。ECBは適格債券のリストを定期的に公表しており、
適格かどうかの判断はリストを参照するのも一案です。
社債購入プログラム:
今後のポイント
CSPPの購入額は開始当初は市場予想を上回るなど順調な
スタートと見ています。また、ユーロ圏社債市場の変動をある
程度抑制する効果も当面は期待されます。
ただし、社債購入の場合国債に比べオペレーション対象とな
るためのハードルが高く、CSPPの規模をどこまで拡大できる
か注意は必要です。また、同質の債券が多く存在する国債と
違い、社債の場合、再投資への懸念も残るなど出口戦略の
方針も確認する必要があると見られます。したがってCSPPに
伴いユーロ圏の社債発行市場が拡大するかを判断するには
当面、慎重に見守る姿勢が必要と見ています。
※将来の市場環境の変動等により、上記の内容が変更される場合
があります。
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