3.1 手立てi;叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させること 3 授業の構想 第2章では,本研究における指導内容の整理を行い,本研究のねらいとする,「物語文 において叙述を根拠に自分の考えを述べること」を成立させるための2つの指導のポイン トを導き出した。 本章では,整理した指導内容を身に付けさせるための指導の在り方について考察する。 最終的には,第2章で整理した2っの指導のポイントに対する指導の手立てを考案し,本研 究における授業構想の基盤を構築することをねらいとする。 3.1 手立てi:叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させること 3.1。1 先行研究から得られた知見 本研究で身につけさせたいPISA型読解力のプロセスは,思考のプロセスである。そこで, まずは思考力指導に関する先行研究から,指導の手立てについて考察したい。 国語科で思考力指導を重視してきた井上(2007)は,思考力育成にあたっての留意点を次 のように述べている1)。 ことばを本当に身についたものにする(肉体化する)ためには,イメージの働きが極めて大き いのである。(中略)一方,なにかを直接に経験させたり実際に作業をやらせたりするだけで, それを抽象化・一般化して知識・科学的概念として定着させることを怠ると,今度は「はい回 る経験主義」になってしまう。(中略)子どもに考えさせるためには,まず思考を要するような 問題場面・問題状況を設定し,その中へ子どもを引き入れることが大切である。そうすればい やでも思考を働かせざるを得なくなる。いや,むしろ興味を持って考えてみようとする気持ち を起こさせるように持っていくことが必要なのである。(中略)思考指導を考えるときにも,こ うした経験との結びつきが大切で,それがないと空虚なスキル学習に終わってしまうであろう。 次には,そうして経験したことをまとめて抽象化・一般化し,知識という形で定着を図ること が必要である。(中略及び下線は引用者による) 井上は,思考指導に当たって必要なのは,①思考を要するような問題場面・問題状況の 設定,②経験したことをまとめて抽象化・一般化し,知識という形での定着,であり,こ れらを欠くと「空虚なスキル学習」「はい回る経験主義」に陥り,言葉の力として学習し たことが定着しない恐れがあるとしている。言い換えれば,①,②のような指導に拠るこ 1)井上尚美『思考力育成への方略 一メタ認知・自己学習・言語論理一〈増補新版〉』,明治図書,2007年,p p. 27−28 一 32 3.1手立てi:叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させること とで,転移が可能な思考力としての定着が期待できると言える。 学習したことの転移について,認知心理学の見知から,「転移は,学習課題の内容や問 題解決の手順を記憶することによって生じるのではなく,課題をよく理解しながら学習す ることによって生じる」2)ことが指摘されている。このことは,転用が可能な思考力とし て定着させるためには,思考方略を知識として与えるのではなく,経験を通して考えさせ ることが重要であることを示している。つまり,自分の考えを根拠を元に主張することに ついても,「根拠を意識しながら考えなさい」と指導するのではなく,まずは思考場面を 与え,叙述を基に何かを推論するような活動を経験させることが必要なのである。その中 で経験したことを一般的な言葉に置き換えることによって,自分の考えについて,根拠を 元に主張することが徐々に定着していくことが期待されるのである。(得られた知見①) また,佐藤(2007)は,思考スキルが転移する可能性についての実践を伴った研究を行い, 「思考スキルは,その活用のよさや活用することの意義を実感すると,他作品を読む際に も転移する可能性がある。」(下線は引用者による)3)という結論に至っている。このこと は,思考スキルは,その有用性を実感させることによって,定着させるだけでなく違う文 脈で活用できるようになることを示している。「叙述を根拠に自分の考えを述べること」 の場合,その有用性とは,明確な根拠を示すことによって主張の妥当性が高まることであ る。つまり,「叙述を根拠に自分の考えを示すことが自分の主張の妥当性を高めることに つながる」ことを実感させることによって,転移につながることが期待されるのである。 (得られた知見②) また,北尾(1991)は,児童に学びたいという動機を持たせるために,「賞罰や競争,子 どもの目をさますような教材の提示」といった外的な条件を用いる指導法について,「賞 罰や競争が無ければ学習を放棄する」「面白い教材が提示されなければ学習を続けること ができない他律的な子どもが育つ」という恐れがあると指摘した。その上で,「教育の場 で期待される効果」として「単に一時的なものであってはならず,将来における子どもの 成長を保証できる効果が求められるもの」が望ましいとして,以下のように述べている。 自己を高めたいという欲求,それを満たすためには学習活動にはげむ必要があるという認識, さらには向上の跡が自覚できる評価や学習成果を発表し想像する機会が与えられなければな 2)米国学術研究推進会議編著;21世紀の認知心理学を創る会訳『授業を変える:認知心理学のさらなる挑 戦』,北大路書房,2002年,p.55 3)佐藤佐敏「思考スキルが転移する可能性:文学作品を解釈する思考スキルは,他の作品を読むときに転移 するか」,全国大学国語教育学会発表要旨集112,2007年,PP.119−122 一 33 3.1 手立てil叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させること らない。賞罰や競争で操るよりも向上心を育てることが肝要である4)。 この指摘は,「自己を高めたいという欲求」が感じられるような,内発動機づけの必要 性を示唆している。(得られた知見③) これらの先行研究より得られた3つの知見から,次のことが示唆された。 ・思考を要する問題場面を設定し,「根拠を示しながら自分の考えを述べる」の有用性 を実感させ,その有用性を一般化して知識として理解させることで,「根拠を示しな がら自分の考えを述べること」が定着・転移するのではないか。 ・また,有用性を理解することで,「これを使うことで,説得力のある述べ方ができる」 と,この学習をすることで自己を高めたいという意識につながるのではないか。 これらの示唆は,「根拠を示しながら自分の考えを述べる」ことについての指導,つま り,PISA型読解力のプロセスを身につけるために必要な指導のうちの,「①自分の考え方 の述べ方の指導」の手立てとして有効と判断した。そこで,PISA型読解力の思考プロセス を身につけさせるための手立てを次のように設定した。 【PISA型読解力のプロセスを身につけさせるための手立てi】 叙述を根拠に主張することの有用性を経験を通して理解させる。 3.1.2 自分の考えを述べる「ワザ」の明確化 ここで,説得力のある自分の考えの「述べ方」にど 確化を図る。 PISA型読解力のプロセスによって形成された考えは, 大きな枠組みとしては「主張」と「根拠」で構成され る(再掲図2−6)。物語文についての「自分の考え」(解 釈や評価)を,根拠を基に主張する場合,どのような 述べ方が必要とされるのであろうか。再掲図2−6を元に 考察する。 一根拠一 のような要素が必要か考察することで,指導内容の明 根拠を基にした明瞭な見解の主張く要素4> テキスト外の知識や経験との @ 結び付けく要素3> 十 明言されていないものの ?_による理解く要素2> 十 裏付けとなる事実・叙述の取り出し @ 〈要素1> 再掲図2−6 目的に従って文章を熟考・評価する プロセス 4)北尾倫彦『学習指導の心理学:教え方の理論と技術』,有斐閣,1991年,pp.1−3 一34一 3,1手立てi:叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させること 〈要素1>は,裏づけとなる叙述を取り出して読んだことを表すので,裏づけとなる叙述 を「引用」することで表現される。〈要素2>は,なぜその推論に至ったかを説明すること, つまり,「理由」を示すことで表現される。〈要素3>はそのまま,文章の内容について, 文章外の知識や経験を結び付けて考えたことを示すことで,表現される。この「引用」や 「理由」などが説得力のある述べ方の要素と言える。 ただし,指導に当たっては,学習用語を児童にとって分かりやすい言葉にかみ砕いて示 す必要がある。そこで,「『裏づけとなる叙述』の『取り出し』」は「『しょうこの文』の 『引用』」に,「主張」は「意見」に置き換えて示すこととする。この時,「意見」は結論 と同じ意味として説明する。さらに,これら「述べ方」の総称として,児童にとって馴染 みやすいように「ワザ」5)という言葉を使用する。 盤談議濫幾=欝欝ζ盤[===華=コ る。 なお,「情報の取り出し」の定義では,裏付けとして 叙述の「引用」は絶対に必要な作業ではない。なぜな ら,「情報の取り出し」とは「テキスト中の情報をもと にした同様・同義情報の取り出し」を指すからである。 一根拠一 述べる方法(述べ方の「ワザ」)として,指導内容とす 知識や経験との結び付け 十 理由 十 「しょうこの文」の引用 図3−1 述べ方の「ワザ」(熟考・評価の場合) 「同様」だけでなく「同義」も含めていることは,文中 の叙述と全く同一の情報を取り出すことだけを求めて いるわけではなく,例えば要約した内容でも問題ない 十 ことを示している。 しかし,本研究では,平成20年版学習指導要領「C 読むこと」の指導事項に,「文章の中の大事な言葉や文 を書き抜くこと」([第1学年・第2学年](1)のエ)や,「目 十 「しょうこの文」の引用 的や必要に応じて,文章の要点や細かい点に注意しな がら読み,文章などを引用したり要約したりすること」 図3−2述べ方の「ワザ」(統合・解釈の場合) ([第3学年・第4学年](1)のエ)等,引用を求める指導 事項があることに配慮した。 つまり,PISA型読解力では,叙述を引用することを常に求めているとは言い難いが,本 研究では,学習指導要領の指導事項の確実な定着を目指し,授業では引用を意識させるこ ととした。 5)国語科教育において「ワザ」を前面に出した授業論を展開しているのは堀江祐爾である。このことについ て,3,3.2「『ワザ』指導の先行研究」にて詳述する。 35 一 3.1 手立てi;叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させること 3.1.3 叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させるための指導過程 叙述を根拠に主張することの有用性を経験を通して理 活用場面の中で,さらに有用性や意義に 解させ,「述べ方のワザ」を知識として定着させるため ついての理解を深め,活用への動機づ けが高まる の学習指導過程として,図3−3のような学習指導過程を ↑ 組むことを提案する・ 躇聡題に応、て活用する 【STEP1】は,思考を要する問題場面を設定し,「叙述 ↑ を根拠に示しながら自分の考えを述べる」ことが,自分留躍、て職として理解する の考えを説得力を高めるという有用性を実感させる段階 ↑ [STEP1] である。 活動を通して有用性や意義を理解する 【STEP2】は,その有用性を一般化して知識として理解 図3−3手立てiのための学習指導 させる段階である。具体的には,根拠となる「しょうこ 過程 の文」を「引用」しながら,自分の意見の「理由」を説明することである。本来であれば, <要素3>の「知識や経験を結び付ける」要素も同時に指導したいところであるが,筆者が 実践を行う現任校の児童はこのような指導を今まで特に受けておらず,一度に全て指導す ると混乱する恐れがあるため,ここでは取り扱わないことにした。 【STEP3】は,自分の考えを述べるワザを活用する場を設定し,その中で授業のねらい を達成させつつ,ワザの定着を図る段階である。この【STEP3】からは「手立て血」の「ワ ザを手引きとして示し,振り返りの場を設ける」段階となる。 以上の指導過程を経ることで,叙述を根拠に示しながら自分の考えを述べる有用性を実 感したり,理解を深めたりしながら,定着することが期待される。 3.1.4 叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させるための授業構想 図3−3における【STEP1】から【STEP3】の過程のうち,【STEP1】と【STEP2】では,問 題場面を設定して,活動の中で有用性を感じさせる必要がある。このような活動は,教科 書教材の長い文章のどこかで取り組むよりも,単発の授業で短い教材を用いて行う方が, ねらいがはっきりして実現しやすい。そこで,まずは【STEP1】と【STEP2】を満たした授 業を次のように構想した。 〈授業のねらい〉 ・叙述を根拠に示しながら自分の考えを述べることの有用性を理解すること く学習活動〉 ・複数の解釈が成立可能な,統合・解釈のプロセスを求める学習課題を設定する。 ・児童に自分の考えを発表させ合う。 一36一 3.1手立てi:叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させること ・出てきた意見の中で,誰の意見が「説得力のある」意見と感じたか,各自感じたこと を伝え合う。【STEPI】 ・説得力のある意見として大切な要素を学習用語としてまとめて抽象化する。【STEP2】 について説明する。 あいさつ で示した,詩「あいさつ」(工藤直子・作)を取り上げる。その理由 んぽを しながら くは しっぽに よびかける 時間で上記の学習を行うのに非常に適しているという点から,図3−4 るとむこうのくさむらから 釈の学習課題を作り出すために相応しい教材として,文量も短く,1 おおい げんきかあ﹂ 課題を作成できる教材選びである。複数の解釈が成立可能な統合・解 っぽが ハキハキ へんじする げんき びんびん﹂ くは あんしんして んぽをつづける この授業を構想する上で重要なのが,複数の解釈が成立可能な学習 この詩にはある生き物が描かれている。しかし,その生き物の名 図3−4詩「あいさつ」 (工藤直子・作) 前は明記されていない。ところが叙述をよく読むと, ・「しっぽによびかける」と書いてあるから,しっぽのある生き物と推論できる。 ・「むこうのくさむらから」答えが返ってくるということは,頭としっぽが離れてい る生き物と推論できる。 ・「ぼくはあんしんして」と書いてあるから,散歩中はしっぽの姿は草むらにかくれ て見えないことが推論できる。 など,小学生でも把握しやすいような,詩に描かれた生き物が何かを推論できる材料(叙 述)がいくつもあることが分かる。よって,「あいさつをしている生き物は何ですか」と いう学習課題を提示すれことで,複数の解釈が成立可能な統合・解釈の学習課題が成立す るのである。 その際,ただ学習課題を示すのではなく,「できるだけ説得力があるように説明をしよ う」というフレーズをつけ加えたい。そうすることで,年時で理解した「叙述を根拠に 示しながら自分の考えを述べるワザ」が,説得力をもたせるという有用性に結び付きやす く,根拠を基に自分の考えを述べる有用性が,よりハッキリと児童に理解させられるから である。 なお,授業の冒頭に「『せっとく力』とは,聞いた人が『なるほど!』と感じる意 見の言い方です」という定義を児童に提示することで,より,指導の効果を出したい。 この授業は本研究の基盤とも言える指導内容であるため,実習では教科書教材を使用す る単元の授業とは別に,プレ単元として設定する。 一37一 3. 1 叙述を根拠に自分の考えを述べる有用性を理解させること 手立て 授業にあたり考案したワークシートを図3−5に示す。 月 日 年 番 名前︹ せっとく力のある意見を言おう1Zo﹂ あいさつをしている生き物の名前は.書かれていますか。 二 あいさつをしている生き物は何でしょうか。 ①まず、自分の考えを書きましょう。 あいさつをしている生き物は、 だと思います。 この詩の生き物は何なのか㌦できるだけせっとく力のある説明をしょう あいさつ まくま しっぽに よびかける さんぽを しながら ﹁おおい げんきかあ﹂ すると むこうの くさむらから しっぽが ハキハキ へんじする ﹁げんき びんびん﹂ まくま あんしんして Dだれの脱明に﹁せっとく力﹂を感じましたか。また、なぜそう思いましたか. さんぽをつづける できるだけ友だちにせっとく力をもった幽明が出来るように、そう思った理由を書きましょう。 一一 ) 図3−5 考案したプレ単元授業用ワ 以上の授業構想の全体像を クシート 図3−6に示す。 この詩にえがかれている生き物は何ですか?せっとく力のある言い方で答えなさい。 9・■■願 齢■ 099●.●,・.o,.. ■願 ・ ■●● .・.o「o..・....■ ■ ●●o,■■ 騨 ●じ噂.9,9●●■ 勝 ●o●・ 5騨 ,, , 辱 ● ● ■, 暉 ,9・ @ ∼つかせ,一般化する ?ョを通して,述べ方のワザの有用性について,教え込’のではえ’く ●● ●8 ●9 ■oo 「 ●● o●●● ,畢 oo 願 E 鮪,●●●9.騨・脚 願 よしかぼ ㌦ 雇、。説。、てあ、,,せ。、︾く力があるね!、 根 拠 理由 く 十 ノ 「しょうこの文」の引用 》しょうことなる文があると分かり ・く 述べ方の「ワザ」の一般化 図3−6 手立て rやすいねr 1 \ ノ の具体的な指導のイメージ(並河作成) 38 Dあきが曹い、聖弓んびハごげつし つ 4 ェ鵬お霧 しんキくか ら て一 さあよ へむ一び んら か じか け すら る る 意見 く 二暢9躯だぼぽまとががす思草遠﹄歎く鶉難 、てけく ネ一ては 蛯ニいト ォある力 さほ一しす一ほさ くげつるおくん ロはんぽとおはぽあ ,・goo■ , .●・99 ● .......冒 .■ ■■騨■■■■●■ .・・■・. 三_、がは。き,言。トてると分かりやすいね! ノ 十 ﹂ ャ9 o 3.2手立てli:読むための目的意識を持たせること 3.2 手立てii:読むための目的意識を持たせること 3.2.1 単元を貫く言語活動の位置づけ 文部科学省は,「読解力向上プログラム」で示した「熟考・評価」を初めとするPISA型 読解力向上のための国の指針として,言語活動の重視を掲げている6)。 ・知識・技能の活用などの思考力・判断力・表現力等をはぐくむためには,例えば次のような学習活 動が重要であると考えた。(①∼③,⑤,⑥は省略,並河) ④情報を分析・評価し,論述する。 ・学習や生活上の課題について,事柄を比較する,分類する,関連づけるなど考えるための 技法を活用し,課題を整理する。 ・文章や資料を読んだ上で,自分の知識や経験に照らし合わせて,自分なりの考えをまとめ て,A4・1枚(1000字程度)といった所与の条件の中で表現する。 こうした言語活動は,子どもたちの思考力・判断力・表現力等をはぐくむために知識・ 技能を活用する学習活動を行うことで,言語の能力を高めるという位置づけであり,各教 科等を貫く重要な改善の視点とされている。つまり,単元においてつけたいカを明確にし て,そのカをつけるのに適した言語活動を設定し,その中で言語の能力を高めるという指 導計画の視点が必要なのである。 文部科学省は,国語科における言語活動の充実のために次の点に留意するよう指摘して いる。 学習指導要領の内容の(2)に示す言語活動例を基に,具体的な言語活動を通して児童事項を指導す ることが大切である。その際,「ここで音読する」「ここで話し合う」と言ったばらばらの活動ではな く,児童が自ら学び,課題を解決していくための学習過程を明確にし,単元を貫く言語活動を位置づ けることが必要である7)。 (下線部は引用者による) また,文部科学省教科調査官である水戸部(2012)は,国語科における言語活動の充実の ために重要なものとして,次の4点を挙げている8)。 ・当該単元でつけたいカを見極める。 ・つけたい力に最適な言語活動を選定する。 6>文部科学省「中央教育審議会『幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の 改善について(答申)』」,2008年,p.24 7>文部科学省『言語活動の充実に関する指導資料∼思考力,判断力,表現力等の育成に向けて∼【小学校 版】』,2011年10月,p.11 8)文部科学省教育課程課・幼児教育課編集『初等教育資料』No.885,東:洋館出版社,2012年, p,2 39 3,2手立てli:読むための目的意識を持たせること ・言語活動を,単元を貫いて位置づける。 ・子どもの「大好き」「お気に入り」「伝えたい」などの主体的な意識を生かす。 (下線は引用者) つまり,文部科学省の方針として,次のことが言える。 児童が自ら学び,課題を解決していくための学習過程を明確にし,単元を貫く言語活 動を位置づけることが必要である。 3. 2. 2 単元を貫く言語活動とは このように,平成20年版学習指導要領では,「言語活動を単元を貫いて位置づける」こ とが重視されている。単元を貫く言語活動とは,「個々ばらばらな言語活動を並べるので はなく,単元を通して一貫した言語活動を位置づける」9>ことである。単元を貫く言語活 動が必要とされる背景として,水戸部(2011)は次のように述べている。 現代は極めて変化の激しい時代である。(中略,並河)そうした社会を支える存在となっていく 子どもたちに確かな国語の能力を育むためにこそ,単に知識を教え込むのみではなく,課題を 解決する過程において主体的な思考や判断を促す言語活動を重視した授業作りが不可欠である という認識が大切なものとなるlo)。 国語科では,言語活動を通して学習指導要領の指導事項を指導する。しかし,単元を貫 く学習課題を設定することによって,指導事項の指導だけでなく,主体的な思考判断を伴 う課題解決のための力もっけるという指導効果の高まりをねらいとしていることがうかが える。 つまり,単元を貫く言語活動とは,次のような性格を持っている。 個々ばらばらな言語活動を並べるのではなく,単元を通して一貫した言語活動を位置 づけることであり,主体的な思考・判断を伴う言語活動である。(読むための目的が ある。) 9)前掲書7>,p.2 10)前掲書7),p.4 40 3,2手立てli:読むための目的意識を持たせること 3.2. 3 単元を貫く言語活動の意義 続いて,単元を貫く言語活動の意義について考察する。 まず一つ目の意義である。3.2,1で述べたように,国語科において,言語活動自体が「子 どもたちの思考力・判断力・表現力闘をはぐくむために知識・技能を活用する学習活動を 行うことで,言語の能力を高める」11)という位置づけにある。つまり,単元の学習指導過 程に言語活動を組み込むことは,学習指導要領の指導事項の確実な定着につながるという 意義がある。ただし,その前提としてその単元でつけたいカを見極め,明確にしておく必 要がある。 二つ目は,主体的な思考・判断を伴う学びがもたらす意i義である。水戸部(2011)が「要 約」活動を取り上げた具体例を示しながら,考察する。 要約を指導する際に重要なのは,子ども自身の「目的や必要に応じて」要約できるようにする ことである。それは,要約するときの目的や必要に応じて,元の文章のどの部分を取り上げる かが変わってくるからである。すなわち,要約するという行為は,文章を機械的に縮めること ではない。実生活で必要な能力を考えれば明らかなように,例えばどんな相手に,どんな状況 で要約したことを伝えるかなどをきちんと判断した上に行われる行為なのである。(中略)その 際の目的や必要性を子ども自身が実感して学習できるようにするために,単元を貫いて言語活 動を位置づけることが有効になる]2》。 (下線,中略は引用者による) この中で,水戸部は,課題に応じた要約を繰り返していく中で,実生活で生きるカとし ての要約する力が身につくと指摘している。機械的なスキル学習ではなく,「どんな相手 に,どんな状況で」といった目的意識を持たせた指導こそが重要なのである。これは,文 章を読む力や,自分の考えを述べる力の指導にも当てはまるのではないか。つまり,読む ための目的意識を持たせた上で,主体的に思考・判断しながら言語活動に取り組ませるこ とは,実生活で生きて働く読みの力の定着につながると考えられる。 以上のことから,単元を貫く言語活動は,実生活で生きて働く読みの力の定着につなが るという意義が挙げられる。 単元を貫く言語活動を設定することによるもう一つの大きな意義として,情報の取り出 しとの関係を挙げたい。 PISA型読解力における「情報の取り出し」が必要とする行為は,「与えられた情報と, 11)前掲書7),pp.76−77 12)前掲書7),pp.76−77 一 41 3.2手立てh:読むための目的意識を持たせること テキスト中のそれと全く同じ表現か同じ意味の情報を一致させ,これを利用して,求めら れている新たな情報を発見しなくてはならない」13)ことである。つまり,「情報の取り出 し」では,課題が必要とする情報(叙述)を特定する作業と,それを利用して意味を発見 する作業の2つの作業が必要とされるのである。これは,「情報へのアクセス」と「情報 の取り出し」という言葉に置き換えられる。学習者に目的意識を持たせないような活動, 例えば「この文から○○のどんな気持ちが読み取れますか」のような課題ばかりでは,初 めから叙述が特定されているので,情報へのアクセスの作業が省略されてしまう。ところ が,「この物語の中心的なテーマと深く関わりがある一文を選び,理由を書きましょう」 という課題を単元を貫いて取り組ませることは,情報へのアクセスも,情報の取り出しも どちらも学習者が行う必要が生じるというよさがある。 このように,単元を貫く言語活動の設定により目的意識を持たせることは,読む目的が 生じ,そのことによって必要とする叙述に目を向けさせ,叙述を根拠に読もうとする意識 の向上につながるという意義がある。 以上のことから,単元を貫く言語活動を設定して,目的意識を持たせることの指導上の 意義を次の3点にまとめることができた。 (1)指導事項の確実な定着 (2)実生活で生きて働く読みの力の定着 (3)叙述を根拠に読もうとする意識の向上 この中で,特に(3)の意義は,単元中にずっと「自分にとっての重要な叙述」に着目し て読もうとし,叙述を基に自分の読みを形成することにつながる点で,研究上大きな意味 を持つと言える。これらの意義から,単元を貫く言語活動を組み込むことは有効な手立て と判断した。そこで,PISA型読解力の思考プロセスを身につけさせるための手立て且を次 のように設定した。 【PISA型読解力のプロセスを身につけさせるための手立てii】 叙述を根拠に自分の考えを述べることを伴う言語活動を設定し,単元を貫いて目的意 識を持たせる。 13)経済協力開発機構(OECD)編著 国立教育政策研究所監訳『PISA2009年調査 評価の枠組 OECD生徒の学習 到達度調査』,明石書店,2010年,p.53 一 42 3,2手立てii:読むための目的意識を持たせること 3. 2.4 読むための目的意識を持たせるための言語活動例の分析 文部科学省は,2008年に示された中教審答申において,学習指導要領改訂に当たって充 実すべき重要事項の第1として言語活動の充実を挙げ,各教科等を貫く重要な改善の視点 として示した。その背景には,本研究の第1章でも示したように,PISA調査等の結果より, 我が国の子どもたちには依然として思考力・判断力・表現漂泊に課題があることが挙げら れる。文部科学省は,思考力・判断力・表現力等を育む言語活動例として表3−1の6点を挙 げた。中教審答申において,思考力・判断力・表現子等を育むために必要な学習活動とし て表3−1のような活動を各教科で行うことが不可欠としている。 表3−1 言語の役割を踏まえた学習活動の分類14) ① 体験から感じ取ったことを表現する ② 事実を正確に理解し伝達する ③ 概念・法則・意図などを解釈し,説明したり活用したりする ④ 情報を分析・評価し,論述する ⑤ 課題について,構想を立てて実践し,評価・改善する ⑥ 互いの考えを伝え合い,自らの考えや集団の考えを発展させる さらに文部科学省は,こうした言語活動の意義や指導のあり方を踏まえ,表3−2のよう な,参考となる具体的な指導事例を示した。 表3−2 指導事例一覧15)。「分類」は表3−1の分類に基づいている。 学年ll 事例 1 重点領域 1 分類 1 読んだ本について好きなところを紹介する 1伝えたいことをかんたんな手紙に書く 2 1見付けたことを報告したり,それを聞いて感想を述べたりする 読むこと ウ・力 ③,⑤ 書くこと ア・イ 話すこと・聞くこと ア・ウ・エ ①③ ②③ ④③ 書くこと 事物について説明した文章を読み紹介したいことを書く 2 大好きな場面を繰り返し読みながら物語を演じる 神話・伝承などの読みきかせを聞いたり発表し合ったりする 1考えをまとめたり,意見を述べ合ったりする 読むこと 1読んで疑問に思って調べたことを基に報告文を書く 書くこと 3 イ・エ ③,④ 伝国 ア(ア) 話すこと・聞くこと ア,オ ウ イ 3 読むこと ウ 2 2 イ 1 読むこと 3 3 1出来事を説明するスピーチを行う 1想像したことを基に物語を書く 3 話すこと・聞くこと ア,イ 書くこと イ,ウ ア,ウ 俳句を音読・暗唱したり好きなものを紹介したりする 伝国 ア(ア) 4 ファンタジーを読み,感想を述べ合う 1紹介したい本を取り上げて説明する 1事物のよさを多くの人に伝えるための文章を書く 読むこと ウ,オ 読むこと ウ,エ,カ 書くこと ア,ウ 1編集のしかたや記事の書き方に注意して新聞を読む 1親しみやすい古文について内容の大体を知り,音読する 読むこと 4 5 5 5 伝国 イ 書くこと 3 ア(ア) 6 1課題を解決するために文章を利用し,資料を提示しながら説明する 話すこと・聞くこと イ ウ ア 読むこと 6 ■調べたことやまとめたことについて,討論する 話すこと・聞くこと ア,エ,オ 6 1本を読んで推薦の文章を書く 読むこと エ,カ 書くこと ア,エ,カ 1 U 新聞記事から材料を収集し,提案する意見文を書く 14)前掲書6),p.25 15)前掲書7),pp.19−62 一43一 ①,③ ⑥,③ ④,③ ①② ③⑤ ②,④ ①,③ ④,⑤,⑥ ②,③ ③,④ ④,③ ①③ ④,⑤ ⑥③ ④,⑤,⑥ ④⑤ 3.2手立てli:読むための目的意識を持たせること この中で特に注目したのが,6年生対象の「本を読んで推薦の文章を書く」である。着 目した理由は次の3点である。 ・第二次で,目的意識(「本を推薦するために読む」)を持ちながら読む活動が成立する。 ・推薦するためには推薦する相手にとって価値のあるものを捉えた上で「自分の考え」を まとめなくてはならず,自分の考えを述べる活動につながる。 ・推薦の根拠として「自分が大切だと思った叙述」を見出させる指導をすることで,叙述 に目を向けながら読もうとしたり,叙述の形式的な特徴に着目したりするようになる。 このことから,「本を推薦する」という目的意識を持たせることが,叙述に即した読み の成立や,自分の考えを述べることにつながることが確認できた。 実践では,教材文の特性を考慮しながら,これらの意義を重視した言語活動を学習指導 過程に組み込みたい。 一44一 3.3手立てiii:「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること 3.3手立てiii:「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること 3.3.1先行研究から得られた知見 本研究では,教師の発問や指示に従って読むのではなく,目的(主として単元を貫く言 語活動に拠る)に応じて自ら文章に根拠を求め,自分で取り出すべき情報を見出し,叙述 に基づいて目的に応じた解釈を行う学習を目指している。教師から「ここの文の○○の気 持ちはどういう気持ちでしょうか」と指示が出て考えるのではなく,仮に言語活動の課題 が「本の好きなところの紹介」であれば,学習者自身が紹介したい一文を見出し,紹介し たいと思う理由を論述するために文章を読むようにさせなければならない。つまり,教師 の指示や発問からではなく,目的や課題に応じて主体的に文章を読み取るための能力,即 ち読むための方略’6)を学習者が持っている必要がある。 こうした方略の獲得には,反復練習のような機械的な作業ではなく,行為を抽象化して 知識として蓄えるような問題解決のプロセスを常に意識することが重要となる(三宮,20 08)17)。Zimmerman(1990)は,学習者自身が自らの学習を調整しながら能動的に学習目標 の達成に向かう学習を自己調整学習とよび,この自己調整学習に役立つ程度まで「メタ認 知能力(認知について認知する能力)」が高まっていくのは,小学校高学年から中学校に かけての段階としている18)。即ち,児童に読解のための方略を学習させるには,読解のプ ロセスを常に意識させ,自分が使った読解のための方略についての「メタ認知応力」を高 めることが一つの方法として考えられる。(得られた知見①) メタ認知と読解のための方略については,全米 姶\ 読解力委員会(National Reading Panel,2000) が読みのカを育てていくための指導方法をまとめ ている。そこでは,「特定の方略を個別に指導し フェ した ひと ぼぐ 霧芸難挙・・{ ていくのではなく,テキスト全体を通じて教師や 生徒同士のやり取りという協働的な対話を通した 読みの活動の中で指導していくことが重要であ り,柔軟かつ適切な読みができるためには多様な 図3−7 メタ認知的な志向性を持った読解 指導のために(lsrael,2007) 方略指導が有効である」’9)ことが明らかとなって いる。その中でも「生徒が自分でためしてみること,そしてそれを自覚的に使用する段階 16)秋田喜代美『読む心・書く心』,北大路書房,2002年,p,55より,「読み手が自分の読み行動を正しく方向 付けようとして意図してやっている行動を,心理学では方略とよんでいる。」 17)三宮真智子編著『メタ認知一学習力を支える高次認知機能』,北大路書房,2009年,p.19 18)同上書17),pp.20−21 19)同上書17),p.102 一 45 3.3手立てiii:「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること からモニタリングを自動的に行えるようにしていくこと」20>が大切であるとしている。前 頁図3−7は,メタ認知を育てる読解のモデル図として示されたものである。これらの知見 は,方略を児童に示すだけでなく,授業の中でモニタリング1)が機能するような仕組みを 作ることや,個別学習スタイルではなく集団による対話学習スタイルが有効であることを 示唆している。(得られた知見②) こうした読解指導におけるメタ認知能力育成は,説明文だけでなく物語文においても研 究がなされている。中川・守屋(2002)は,「大造じいさんとガン」の授業において,自己 の認知活動をモニターしていくモニタリング自己評価群の児童の方が,そうでない児童に 比べ,学習の定着や内発的な動機づけが促進されたとした22)。このことは,読解指導にお けるメタ認知能力育成は物語文においても有効であること,また,読解のための方略につ いて適宜モニタリングを盛り込むことが学習の定着に結び付く可能性を示唆している。(得 られた知見③) これらの先行研究より得られた3っの知見から,次のことが示唆された。 物語文において,読解のための方略を自覚させながら読み取らせ,授業の中で自分の 読み方を振り返らせることが,物語の読み方を定着させる可能性がある。 この示唆は,第2章で整理した本研究における「根拠を示しながら自分の考えを述べる」 ことについての指導,つまり,PISA型読解力のプロセスを身につけるために必要な指導の うちの,「②文学的文章に特有な『読み方』の指導」の手立てとして,有効と判断した。 そこで,PISA型読解力のプロセスを身につけさせるための3っ目の手立てを,次のように 設定した。(2.4で示したように,本研究では2種類の「ワザ」の定着を指導のポイントと しており,手立て血はその両方の定着をねらっている。もう一つは3. 3.5で示す。) 【PISA型読解力のプロセスを身につけさせるための手立てiii・その1】 「物語を読むためのワザ」を手引きとして示し,継続的に言語活動の中で活用させ,活 動後に振り返らせることで,文学的文章に特有な「読み方」を定着させる。 20)前掲書17),p.102 21)モニタリングとは,「理解状態を評価・吟味するはたらき」のことを指す。(大村三道監修,秋田喜代美・久 野雅樹編集『文章理解の心理学 認知,発達,教育の広がりの中で』,北大路書房,2001年,p.66より) 22)中川恵正,守屋孝子「国語の単元学習に及ぼす教授法の効果:モニタリング自己評価訓練法の検討 (実践研究)」,教育心理学研究50(1),2002年,p.90 一46一 3.3手立て血:「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること 3. 3.2 「ワザ」指導の先行実践 国語科教育において「コツ・ワザ(以下,ワザ)」を前面に出した授業論を展開してい る堀江(2012)は,ワザとは「つけたい言葉のカ」を子どもの言葉によって言い換えたもの で,「物語を読むための『用語・観点』を、学習指導要領を踏まえつつ、子どもから引き 出し、それらを『目に見える形に(可視化)』したもの」211)と位置づけている。 堀江は,「ワザ表」の持つ意味として,次の3点を挙げている24)。 ・子どもが自分の力で用語や観点を選択して、物語を読み取るためのツール。 ※子どもが考え、選び、そして表現するための、つまり「思考力・判断力・表現力」を支え るツールという意味を持っている。 ・子ども同士が伝え合いを行う際の「良いところ見つけ観点表」となる。 ※お互いの「読み」の良いところを見つけていく伝え合いの際の「観点表」としても使える。 ただの印象評価ではなくなっていく。 ・振り返りの際の「身につけた力表」。 ※どのワザを使えたかを見つけさせることにより「身につけたカ」を明確にできる。 まず挙げられているのは,物語を読み取るための「ツール」としての性格である。これ は,3.3.1で述べた,物語を読む方略としての機能を指す。ここで堀江はある指摘をして いる。 ただし「読むためのコツ」を全て使えばよい「本の紹介」となるかというとそうではない。そ の本にふさわしいコツを選ぶという「活用」的な場を設定することが必要となる25)。 堀江が紹介する実践例は,必ずと言ってよいほど,言語活動の中でワザを使わせている。 ワザがあるから使うのではなく,読みの目的があり,そのためにツールとして適切なもの を児童に選ばせて使わせるところにポイントがあると言える。 また,ワザを相互評価の観点としたり,振り返りの際に自分についた力をメタ認知させ たりする働きを持つことも示されている。読ための方略をワザという形で可視化すること は,こうした意味が付与される点で,指導上有効であることを示している。 23)堀江祐爾「用語・観点ワザでする物語の授業」『教育科学国語教育』756号,明治図書,2012年 24)同上書23) 25)堀江祐爾「言語活動と指導事項とをつなぐ学習指導を」『基幹学力の授業国語&算数』第13号,明治図書, 2008年 一 47 3,3手立て田:「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること 3.3.3 「物語を読むためのワザ」の項目の作成(内容面) 続いて,「物語を読むためのワザ」の具体的な項目について検討したい。 平成20年版学習指導要領においても,PISA型読解力においても,物語の「内容」だけで なく「形式」(表現・修辞及び文章構造)についての指導を必要としている。 ■学習指導要領国語「C読むこと」より 登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ,優れた叙述について自分の考え をまとめること。([第5学年・第6学年](1)のエ) ■学習指導要領[伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項1より 比喩や反復などの表現の工夫に気づくこと。([第5学年・第6学年](1)のイの(ケ)) ■OECD(2010)「形式の熟考・評価」の定義より それらを評価するためには,「テキストの構造,ジャンル,言葉遣いといった暗示的知識が重 要な役割を果たす」ことが指摘される26)。 (下線は引用者による) このことから,「物語を読むためのワザ」の手引きについて,内容面と形式面を分けて 考える必要があると言える。まずは内容面のワザから整理していく。 (1)内容面のワザ・第一段階 まず内容面についての「ワザ」について考察する。ワザを手引きとして児童が使う際, ワザが無分類に羅列されているのではなく,読みのプロセスに沿って段階的に並んでいる 方が使いやすいと考えた。そこで,PISA型読解力の「情報の取り出し」一「統合・解釈」 一「熟考・評価」のプロセスに沿った段階を踏むような構成にすることにした。 まず最初の段階として,「どんな文に着目するか」というワザを提示することを提案し たい。これは,PISA型読解力の「情報へのアクセス」に相当する。 叙述の表現方法には,①語り,②説明,③描写,④会話・心内語の4種類がある27>。こ のうち,描写と会話・心内語は,とりわけ登場人物の考え方や変容,人物相互の関係を表 していることが多い。後述するように,学習指導要領の指導事項が求める読み取る内容に は,登場人物の考え方や変容,人物相互の関係といったものが非常に多い。そこで,この ような内容を読み取る際には,描写や会話・心内語に特に着目することを「ワザ」として 示すこととする。手引きに示された叙述に注目し,その時に登場人物の考え方などが読み 26)前掲書13),p,58 27)大内善一『国語科教材分析の観点と方法』,明治図書,1990年,pp.38−54 一48一 3.3手立て皿:「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること 取られた経験が成功体験として積み重なれば,ワザが般化され,手引き無しでも自然とこ うした叙述に着目するようになることが期待される。 どの学年で,どのような着目すべき叙述を示すかは,学習指導要領国語「C読むこと」 に拠りたい。次の指導事項が関連があると思われる。 ・場面の様子について,登場人物の行動を中心に想像を広げながら読むこと。([第1学年 ・第2学年](1)のウ) ・場面の移り変わりに注意しながら,登場人物の性格や気持ちの変化,情景などについて, 叙述を基に想像して読むこと。([第3学年・第4学年](1)のウ) ・登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ,優れた叙述について自分の 考えをまとめること。([第5学年・第6学年](1)のエ) (下線は引用者による) [第1学年・第2学年]において「想像を広げながら」,[第3学年・第4学年]において「叙 述を基に」読む,という記述が見られる。この両者の記述を比べてみると,一見,[第1学 年・第2学年]は叙述を基にしなくてよいのかと考えてしまう。しかし,「会話文」という やや抽象度の高い用語ではなく,「おしゃべり文」など,低学年の児童にも共通理解でき るような言葉にかみ砕けば,「どんな文に目をつけるとよいのか」というワザを身につけ させることは可能では無いかと考える。以上のことから,[第1学年・第2学年]から,会話 文や人物の様子を表す文への着目を,ワザに入れることとする。 (2)内容面のワザ・第二段階 着目する文を見出したら,次は,その叙述から「どのようなことを読み取るか」を考え なくてはならない。つまり,第二段階として「どんなことを読み取るか」というワザを提 示することを提案したい。これは,PISA型読解力の「情報の取り出し」,及び,次の第三 段階と合わせ,「統合・解釈」に相当する。 物語文における読み取るべき内容について,これもやはり,学習指導要領国語「C読む こと」に拠りたい。次の指導事項が関連があると思われる。 ・場面の様子について,登場人物の行動を中心に想像を広げながら読むこと。([第1学年 ・第2学年](1)のウ) ・場面の移り変わりに注意しながら,登場人物の性格や気持ちの変化,情景などについて, 叙述を基に想像して読むこと。([第3学年・第4学年](1)のウ) ・登場人物の相互関係や心情,場面についての描写をとらえ,優れた叙述について自分の 考えをまとめること。([第5学年・第6学年](1)のエ) (下線は引用者による) これらの指導事項を手がかりに,第二段階のワザを整理することとする。 一49一 3.3手立て血=「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること (3)内容面のワザ・第三段階 ここまでで目的とする読み取りができれば問題ないが,どこから,何を読み取るかが決 定しても,「どのように」読み取るかが分からなければ目的とする読み取りができないこ ともある。そこで,第三段階として「どのように考えるか」を提示することを提案したい。 これは,前の第二段階と合わせ,PISA型読解力の「統合・解釈」や「熟考・評価」に相当 する。 物語文における「考え方」指導の重要性について,西郷(1991)は次のように述べている。 いくら親や教師に口ずっぱく「よく見,よく考えよ」といわれ,また,それをお題目にとなえ ても,それだけで子どもが「よく見,よく考える」ことができるようになるわけではありませ ん。〈見方・考え方〉そのものを教え学ばせることなしに自然にいつのまにか〈見方・考え方〉が できるわけではないのでず8)。 西郷は,こうした問題意識のもと,独自の〈ものの見方・考え方〉(認識方法)の系統表 を「認識論」として体系化した。現在,「認識論」を基盤とした数多くの実践がなされ, 成果を上げている。このことは,物語文における「考え方」指導の必要性を示唆している と言えよう。 そこで,本実践でも「考え方」を手引きとして示したい。「考え方」に関する内容を, 今までと同様に学習指導要領「C読むこと」に求めたところ,該当するものは次の1点し か見出せなかった。 ・文章の内容と自分の経験とを結び付けて,自分の思いや考えをまとめ,発表し合うこと。 ([第1学年・第2学年](1)のオ) そこで,物語文における「考え方」指導の先行 表3−3育てるべき思考力(椙田・2011) 学年 思考力 研究から,椙田(2011)が「発達段階に応じた育て 低学年 並べる・比べる るべき思考力」として取りまとめた系統表(表3一 中学年 比べる.分ける・関係づける 3)29)をワザとして取り入れることとした。 高学年 統合する・状況を判断する 椙田の系統表を取り入れることにした理由は,次の2点である。 ・この項目が学習指導要領国語の目標を念頭に系統性が整理されている点である。例えば, 中学年の「関係づける」は,学習指導要領国語「目標」の「(3)目的に応じ,内容の中 28)西郷竹彦『ものの見方・考え方 教育的認識論入門』,明治図書,1991年,p.10 29)椙田萬里子「豊かなコミュニケーションを通して読み深める授業の創造 ∼主体的に学ぶ子どもの育成 ∼」における「発達段階に応じた思考力」より,A市立F小学校校内研修会において,2011,8,23 一50一 3.3手立て血:「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること 心を捉えさせたり段落相互の関係を考えたりしながら読む能力を身につけさせるととも に」との関連が見られる。 ・椙田が,言葉を手がかりに物事を考えることを重視している点が,本研究と一致すると 判断したからである。具体的な例として,椙田の発問例を挙げてみる。 「兵十は,火なわじゅうをバタリと取り落としました。」の文にある「バタリと取り落としまし た。」と「バタリと落としました。」とでは,兵十の様子は同じでしょうか,違うでしょうか。 この例から,椙田は,違いを比べさせる発問をすることで,言葉の意味をより深く読み 取らせようとしていることがうかがえる。 (4)内容面のワザ・まとめ ここまでに述べたことを整理する。まず,三つの読みの段階を表3−4に示す。また,そ れぞれの段階のワザの候補を,表3−5に示す。 表3−4 「内容面」のワザの読みの行為に即した3つの段階 読み取る段階 相当するPISA型読解力の側面 第一段階 どんな文に着目するか く情報へのアクセス〉 第二段階 どんなことを読み取るか く情報の取り出し〉,〈統合・解釈〉 第三段階 どのように考えるか 〈統合・解釈〉,〈熟考・評価〉 表3−5 「内容面」の「ワザ」の項目候補 ll 1)どんな文 1 2)どんなこと 1 3)どのように 会話文 [第1学年・ 謔Q学年1 登場人物の行動 l物の様子を表す文 自分の知識や経験と結 ム付ける タべる・比べる 登場人物の性格や考え方 比べる o場人物の気持ちの変化 諟i ェける ヨ係づける 優れた叙述 登場人物の相互関係 統合する `写 ?S人物の変容 [第3学年・ 謔S学年】 [第5学年・ 謔U学年] 況を判断する 授業で使用するワザ表は,表3−5の項目を基盤とするが,これらを全部提示するのでは なく,教材分析や単元目標に基づいてある程度数を絞ったものを提示する必要がある。ワ ザの項目が多すぎると,児童が混乱してしまうかも知れないからである。 51 3.3手立てhi:「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること 以上の整理に基づいた,本研究の実践単元「海のいのち」(東京書籍・6年下)の授業 語を読むワザ︵高学年版︶ ﹂ を使うべし書・ 物語を読むワザ を大切に読もう一 =・ まずは、ごんなことを鏡3取りたいかを決訪ましょう. 1 墜 うか? たり @ . ■iI や天物のようす表す文 や ば に線を引こう! 一つだけでなくいくつも見つけよう! 、 え れ 読み取りたい場面を何回も読み、読み取りたいことが表れていると感じた 、 ん いいのでし 兄たり、 齢1 歪り 工、考 ﹂ 萱 考 け つ て 逢り び つけ て比べ て み 考 か ことを け す て ★ ら 名 と と む すび か え ★ 文 す おき 経 つ 験 む ★登場人物の心情を想 したり、 ★登場人物の 格や考え を読み取ったり、 場人物同士の関、を考えたり、 心人物の変 を読み取ったり 知 か 分 1 の の マ や む 言 葉 織 題 び に や してみよう。とくに、言葉の意味にとことんこだわってみよう! 1 ワザ③︼引し唱、かんたんに饒み取れなかったら⋮? 後と 雇 百 亨 ↑ ・文や人物を比べて・ているところや違うところを考卿 の言葉がなかったらどう感じるか考えたりする、 といったワザも使おう。 ﹁読み取る﹂とは﹁文の君葉から書かれていないことの意味を考える﹂ことだよ。 ・ 國 構想の中で作成した「物語を読むためのワザ・内容面編」を図3−8に示す。 C置 iR 図3−8授業で使用した「物語を読むためのワザ」(内容面骨)。図のように,このワザを使って物話を読 むことで,「情報の取り出し」と「統合・解釈」の往還が成立する仕掛けを盛り込んでいる。 これらの「ワザ」に沿って読むことは,PISA型読解力のプロセスに沿って読むことにな り,同時に,学習指導要領の指導事項を身につけることにつながっている。 3.3.4 「物語を読むためのワザ」の項目の作成(形式婚) 続いて,形式面のワザの具体的な項目について検討する。 通常,物語文を教材とする授業の準備として,指導価値を明らかにするために教材分析 が必要となる。特に文章表現の特徴については教材によって異なるため,教材分析が重要 な役割を担う。つまり,形式面のワザは,教材分析によって見出す必要がある。 教材分析の方法は様々であるが,本研究では,3.6「教材分析」の項で,物語文の教材 分析項目を整理した。そこでは,教材分析項目として,①文章構造,②修辞,③表現,④ その他,に大別した。形式面のワザも,この分析観点で教材分析を行い,教材分析によっ て見出された形式的特徴の中から,その単元で児童に着目させたいものについて「ワザ」 一52一 3.3手立てi五:「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること として組み入れることとする。 「内容」編と同様,本研究の実践単元「海のいのち」(東京書籍・6年下)の授業構想 の中で教材分析を経て作成した「物語を読むためのワザ・形式面編」を,図3−9に示す。 章 表 現 の よ さ を 味 わ う ワ ザ一︵高学年版︶ \ ノ 文章表現のよさを味わ[▽ うワザを使うべし! / \ ,まずは、とんな二とを饒あ鼠55たいかを槍⋮訪ましょう. ︵例︶作者の文章の仕掛けを知りたい! 好きな文のみりよくを説明したい! 美しい文章のヒミツが知りたい! などなど、文章衰現のよさを知りたい!9とんな文に自をつけれぽいいのでしょうか? ,ザ①︼ 蒼■き出しの文の工去を見つけよう! 傭の書き出しの文には作者の工夫や仕掛けがい。ぽい,みぬけるかな,て 為ブザ②︼とくちょうのある文章表現である、 ノ 6れらの文は、登場人物の性格や心情、風景の攣なども表しているよ,L ﹁︻ワザ③︼ 、 情景や心情がくわしく書かれている表現︵描写表 ︶を見つけよう! 祠れらの文は、登場人物の性格や心情、風景の様子なども表しているよ!L 一53一 又 ﹁読み取る﹂とは﹁文の言葉から書かれていないことの意味を考える﹂ことだよ。一 にする。 ノ ノ ノ■ ︵︶ ︵ ︶ ︵ 、 図3−9授業で使用した「物語を読むためのワザ」(形式面編) 3.3.5 「物語を読むワザ」の振り返り 振り返りに当たっては,自分がどのようなワザを用いたかを,言語活動の度に振り返ら せる場を学習過程に組み込むことにしたい。そうすることによって,自分がどのようなワ ザを用いたかすぐに把握でき,それによってワザの定着・転移へと結び付くと考えるから である。 方法としては,言語活動のワークシートにワザ表も形成しておき,自分が書いた文章の 中でワザを使用したと思う叙述と,使用したと判断したワザ表の項目を線で結ばせるよう 3.3手立て皿:「ワザ」の提示と振り返りの場を設定すること 実際にワザの振り返りを行ったワークシートの例を図3−10に示す。 ︵伽郵響欝わウサ一 茨に。も義たし趣・みるしもhと働触.裏とな3量又き沸 拳郵き 薪 轟竜か勢霞も. 渠劇, 馨皇馨。 ん鵡撚幽整最詔秘棚一日藤志鱈も⋮.口αぺ三二砥.添 「自分の考えを述べるワザ」の具体的な項目は,再掲図3−1,図3−2に示す。 郷蛎鞍燦遍な擁馨馨慧轟 ↓ 無 縷 ﹁ 響勾窪市, 脅養.霧轡漏雛 喚.ト え 鋲み雑もた λ榔謡 脅瓢嶺へ鞠 に輯彰曙望3 O紅白ぜ妻8購ご糀整い延纏、拷驚で欝 魎漏罎、.防十二おなかに蒙穏く、・tい,. ましたヤ、車のさあ、蓼かkあ入サぐお 膨昌ブ︸達山 驚 犠騰鍵獣勲二二鰭灘裸鍵謹 、,か・虚氏ん軽鴬いみ釈 鞭舞滋に画隷マ︽響、 ★蟹’窪 もう;墜三二募か禿や匁“轟がた隊充か樹マる 、 κげ罎憾.蜜薩t,鰹汰.二審、 白いしいカ$U、もうkしく℃..寓懸蔭 秦 鑑 蔭議ぢ旗樋と,“㍉鉦巖嚢¢漢、畜 、 螺 序 し 、 墜・墜 匿 恥マ零怨ぼぐた沸臓いをg暑・匿 ・繋やλ轍竜翫べ轟 輿され ご 一根拠一 十 一54一 「しょうこの文」の引用 理由 心根 拠一 再掲図3−1述べ方の「ワザ」(熟考・評価の場合) 十 十 曹牒, べ曹 実婁 み実 亀み 辱亀 、辱、 やλ轍竜集轟 べ轍奪撰美し荏幻し側ご砺身為、獣考戴難繋嚢 霧 胤気潤 目 ,,書 か 鰯 潤目 書か い い りも ,華 鵜華 鰐⋮ ,舘鵜 言㌔琴 なレ 覧㌔ 魯卯 、、 い笑 嘗錦 愚貰 仏つ¥ 卯脇 脇︵︵ い錦笑 麟賞專禽耀O‘3を 鞠W 勲勲 貞貞 設設 よよ ちち 。。 鴨わ今ウサU ﹀いマ惣Wて轍箱マ艶嵐いマ泣き韮︸しk隔.Y爵一う文窪婁礒 しく町い彪いに5か ・嬢燈旗や心鶯麟くれ ‘6 蝕轟る雲燦漁蘭 な 灘璃や窃分び鱒,な 食壁め窯から嬢導幅 寅鵬墜径律て⋮ 蟻塾勢、 ★鷺の窯にかく凄鉢 た驚三焦物殿心繋を 再掲図3−2述べ方の「ワザ」(統合・解釈の場合) 「しょうこの文」の引用 理由 知識や経験との結び付け 犠跨尻.釜号ご讐脚.℃い3と篤夢み,ぎレ街.も まレ苺顔.“⋮⋮こ⋮⋮、、、、⋮.⋮:⋮、⋮⋮⋮:⋮.、:..,,, .⋮⋮ ⋮, 若警森歳、蒼、雇、属鳥な実憲払.葱、“, 亀、博才、 噂工目し、、W.窟ど膨ゆ磁、必獄、ヤ姦ん燐 崖 蕪驚 ぞ壕N鋳嚢騰白壁慧藪羅白話∼酷細郊繧 穏願こもか、た姻か駅徴かきみX,叡とa∼嫡漢毒.ミ粕 獣融印蹄毘賦二丁母あ勉兆‘裂晶癒雨ス婁︾七酒盛爆 艦め薫く謝ぐ潟旧参嚢∼⋮⋮ ⋮⋮⋮⋮⋮’⋮ :さ蕊ヂξ十一三白㌔秦のた愁、山き 三食璽隔月,蕉,肇旗⋮畷ぞ鋤嘩遍照ん娠レ紹妖砿極 薮敏るう。養之、 よう塵 [=コ 十 十 ノ 響篤6瞳、毒畷を 糖零 .2 ㍗も ζ奪 も奪 冷 擁 ㎞罫ζ ててみ 図3−10 実際に授業でワザの振り返り行った際のワークシート。児童自身が,自分のレポートの 中でワザを自覚できた部分にサイドラインを引き,ワークシート下部に掲載してある「手 隔 .砺黙、臥購醸、幾、建、渥⋮、摂蛭ぶゑ灘墾凝ゆ 断 蕃 一 磯髄,傷,鱗、灯僅寒晦,詫で碧マ津西沓マ装ざ たもあ奪凝短駕綜褻巌一物 慈 , ︸ 澗 闇財密綜伶丁憲矧下土,蓋溺伽瀬務雀 て示し,言語活動の中で繰り返し活用するようにする。 團 一ぢ劣ぐち簿弓簡ザ釜:て箏引ゆのワザと縮び鱈げよう! ◆ 驚語腸、り総基ミ樗隔顧 箒揮晶8)憐戚 :箪もびらの欝難 》隻{μ,壽など 閥画一マ ゼ轟’裟ツ・盤・t:(欝鯵輯} 引き」の該当する項目を丸で囲んで線で結ばせている。授業は5年生「注文の多い料理 店」のものである。こうした自己評価法も,3.1.2でふれた「ワザ」と同様,堀江の「国 再教育の実践と研究をつなぐ会」で実践例が報告されている。 3.3.6 「自分の考えを述べるワザ」の項目 「自分の考えを述べるワザ」についても,ここまで述べてきたのと同様に,手引きとし 3.4手立てiv:「伝え合い」の場を繰り返し設けること 3.3. 7 「物語を読むワザ」の提示の方法について ﹃ごんぎつね﹄新美南吉 図3−11見本の言語活動 組む言語活動の見本となるような文章を提示し,「自分たちはどのようなことができない といけないか」を,見本の文章をもとにして児童から引き出すところがらはじめたい。そ の際,今までの学習経験を思い出させるなどして,児童から引き出しやすくしたい。 3. 4手立てiv:「伝え合い」の場を繰り返し設けること 3.4.1 3つの対話的実践 協働的,或いは対話的な学びについての有効性は,従来より多くの研究家が述べてきた ことである。例えば,ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」は,子どもが一人で問題を解 決できる発達のレベルと,その問題解決の過程に教師や仲間の援助が介在したときに達成 される発達のレベルとの間に存在する「発達の可能性」の領域を意味している30)。この領 域を埋めていくのが,大人や有用な仲間との社会的相互作用,つまり,協働的・対話的な 学びの場である。また,塚田(1983)は教師の統制・指示や賞賛よりも,子ども同士の言語 活動と教師に対する子どもの言語活動(自発的質問など)が活発なクラスほど,学力が伸 びていることを明らかにしている3D。これは協働的・対話的な学びの場の設定が教師主導 型の授業よりも有用である可能性を示唆している。 本研究では,佐藤(1995)の提唱する「対話的学びの三位一体論」に注目した。佐藤iは, 学びとは,人と人との関係において成立する社会的実践であると位置づけ,表3−6(次頁) のような「3つの対話的実践」として整理している32}。 30)佐伯脾・藤田英典・佐藤学編『学びへの誘い』,東京大学出版会,1995年,p.61 31)吉田甫・栗山和宏編著『どう教えるかどう学ぶか 認知心理学からの教育方法論』,北大路書房,1992年, pp. 184−185 32)同上書30),pp.68−71 一55一 ブックレポート 六年 OO OQ に,図3−11に示すような,これから取り みなさんは、友だちとのすれちがいを感じたことはありま んか?﹃ごんぎつね﹄は、ひとりぽっちのこぎつね︻ごん﹂ すれちがいの物語です。 一人ぼっちのいたずら好きなこぎつね﹁ごん﹂は,人間の むところにいってはいたずらばかりしています。ところが、 る事件をきっかけに、ごんはおっかあに先立たれた兵十が 分と同じ一人ぼっちになったと同情するようになります。 して、ある事件の﹁つぐない﹂として、くりや松たけを持 ていくようになります。しかし、兵十はこんがいたずらを に来たと思い、じゆうでごんをうってしまいました。兵十 、うってしまった後でくりや松たけを持ってきていたのが んだと知りました。 私は.この作品のテーマは﹁すれちがいが生み出す悲しさ﹂ と思います。なぜなら、ごんの気持ちは兵十にはまったく たわっていなくて.やっと伝わったのが取り返しのつかな ことが起きた後だったからです。作者は、私が感じたよう 、すれちがいが生み出す悲しさを伝えたかったのだと思い 少しでも読む経験の中で認識させるため す。 そこで,これらの「物語を読むワザ」を 私が素晴らしいと思った文があります。それは、 青いけむりが、まだ、 つつ口から細く出ていました。 いう文です。なぜなら.兵トのこうかいしている気持ちを よくせつ表現するのではなく、けむりの色や細さで表して るところがら、余計に物語の悲しさが伝わってきたからで 。私は、けむりの青さが、兵十の強いこうかいの気持ちを を読むワザ」はそうなっていない。 とちゅうまではいたずらをするごんの楽しい話だったの 、あんなに悲しい結末になるとは私は予想もできませんで るワザ」はそれが実現しているが,「物語 現しているように思えました。 望ましい。その点で,「自分の考えを述べ 窯した。 のではなく,経験を通して定着させる方が た。私は最後の場面を何度も読み返しました。こんなに私 引きつけたこの物語を.多くの人に読んでもらいたいと思 するように,初めから知識として提示する 物語はいつも幸せな結末をむかえるとはかぎりません。い 物語をしょうかいしてといわれたら、私は﹃ごんぎつね﹄ すすめます。きっと、心に残る物語だと思います。 本来,これらの「ワザ」は,井上が指摘 3.4手立てiv:「伝え合い」の場を繰り返し設けること 表3−6 佐藤(1995)「3つの対話的実践」 対象(テキスト)との対話 対象に問いかけて働きかけて,推論し,探究し,・名づけ統制する ニいう一連の対話で構成された言語的実践(テキストと対話する アとによって,対象を認識し,言語化すること。) 自己との対話 自己の保有する意味の関係を編み直し,自己の内側の経験を再構 ャする言語的実践。 他者とのコミュニケーシ 他者との関係を内に含んだ社会的実践。(「言葉」を媒介として ㏍唐ニいう対話 ミ会的相互作用が行われることで,「外言」が学習者の感覚的意 。(自発的概念)である「内言」へと内化され,それまで持って 「た思考との比較から自己の再構成が行われること。) 「テキストとの対話」とは,「どこに書いてあるのか」「どう書いてあるのか」という 学習者とテキストとの対話を指している。「自己との対話」とは,叙述に基づいた意味づ け,例えば「どんな気持ちなのか」「この物語のテーマは何なのか」「この表現の工夫は 何を暗示しているのか」という内なる自己との対話を指している。「他者との対話」とは, 他者とのコミュニケーション(話し合い活動)を通して自己との対話にて形成された考え を互いに交流して,協同的に課題を解決するプロセスを指している。「発達の最近接領域」 によって,この他者との対話によって「自分の考え」の再構成や,読みの深化(イーザー の言葉を借りれば「否定」)が期待できる。 この「3つの対話的実践」に注目した理由は,そのサイクルの中に,自分以外の他者と の話し合いだけでなく,「テキストとの対話」と「自己との対話」も位置づけていること にある。表3−6の「対象に問いかけて働きかけて」からは,目的に応じて,文章から必要 な叙述を見出す「情報の取り出し」で行う行為を含んでいることがうかがえる。また,「推 論」や「自己の保有する意味の関係を編み直し」からは,「統合・解釈」や「熟考・評価」 で行う行為を含んでいることがうかがえる。ここまでのプロセスは,PISA型読解力のプロ セスによって「自分の考え」が形成されることを含んでいると言える。さらにこの上に「他 者との対話」が行われ,「自分の考え」の再構成まで行われる。つまり,3つの対話的実 践は,PISA型読解力のプロセスで行われる活動を含んでいる上,形成された「自分の考え」 の再構成や,読みの深化」まで期待できるところが優れているのである。この,最終段階 における自分の考えの再構成を,「自己内灘対話」33)と呼ぶこととする。 なお,「テキストとの対話」「他者との対話」において形成された「自分の考え」を文 33)「自己内再対話」については,次の論文を参考にした。大濱さおり「小学校国語科の学習指導における 『対話のサイクル』の有効性 一物語教材を用いた読むことの指導を中心に一」,兵庫教育大学大学院修 士論文,2012年 一 56 3,4手立てiv:「伝え合い」の場を繰り返し設けること 章化することと,「他者との対話」の後に再構成した「自分の考え」を文章化することは, 非常に重要である。そうすることで,学びによって形成・再構成された自分の考えが目に 見える形で表現でき,自分自身で変容を確認できるからである。 この,3つの対話的実践を通して自分の考えを再構成する学びを,「伝え合い」のプロ セスと位置づける(図3−12)。 テキストとの対話 → 1自己との対話 1→1 他者との対話 どこに書いてあるのか? どんな気持ちなのか? そこからも読み取れるのか! どう書いてあるのか? ヌんな考えなのか? サんな解釈もあるのか! ト ヌんな工夫なのか? >1 1 自己内再対話 1 上記3つの「対話」によって文章に対す る意味の捉え直しが起こる 図3−12 「伝え合い」のプロセス。佐藤(1995)「3つの対話的実践」によって,学習者の中で意味 の捉え直しが生じT伝え合いの前に比べて読みの深まりが期待される この伝え合いの場を学習活動の中に繰り返し組み込むことで,PISA型読解力のプロセス が幾度となく繰り返され,その上で,より妥当性のある,質の高い「自分の考え」が形成 されることにつながるのである。以上のことより,PISA型読解力の思考プロセスを身につ けさせ,より的確な自分の意見の形成につながる手立てを,次のように設定した。 【PISA型読解力のプロセスを身につけさせるための手立てiv】 自分の意見を持たせた上で互いに交流する「伝え合い」の活動を充実させる。 3.4.2 「伝え合い」を組み込んだ学習過程 佐藤が挙げる3つの対話的実践のうち,「他者との対話(話し合い活動)」は,自己と の対話にて形成された考えを互いに交流して,協同的に課題を解決するプロセスである。 この話し合い活動において,形成された学習課題に対する自己の考えが,再構成されると いう学びが起きる(自己内高対話)。3つの対話的実践では,まずは一人読みで自分の意 見を持ち,他者との対話を通して意味の捉え直しがおき,最終的に自分の意見を表出する ために書く活動を取り入れることで自分の考えが深化していくので,こうしたプロセスが 成立するような学習の場を授業で確保する必要がある。 一57一 3.5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について 童は限られた者だけになり,全員参加というわけにはい t T 統合・解釈 かない。そこで,話し合いの場を,少人数から学級集団 i T 量 へとシフトする二段階に設定したい。 −−1:1:1:一一 情報の取り出し 1 他者との対話 が出てきて読みの深化が起きやすくなるが,発言する児 母 焦点となる叙述を・ 中心に話し合う 一 焦点の学習課題 巳墜一−−﹂,,1,響t しか深化が起きない。逆に学級集団で行うと多様な読み ■.,.’ できるが,自分と相手という限られた二者の中の読みで テキスト・自己との対謡 ,悟⋮ 価 ⋮ →平 ⋮ ↓ ↑ 一向 ﹁一ol:l−,1 , − ﹂ @1 宿人で学習課題に一 ゥい、自分の考一 @: ・えをまず持つ ・ 「 @:一1 旨 1 し 出釈 﨣 の取り出し @ ↓ ↑ @統合・解釈 ←考 ⋮ 熟 ⋮ いに参加でき,一人ひとりの他者と対話する機会を確保 一制一解 の←合 とが考えられる。例えば個対個ならば必ず全員が伝え合 青 など,人数の違いによって深まり方の質が左右されるこ 主 課題 主課題 ↓ 報統 「他者との対話」は,個対個,少人数集団,学級集団 ・再向個 o このようにして考案した,「伝え合い」を組み込んだ 主課題 1構か人1 ↓ 1成いで1自 学習過程モデルを図3−13に示す。第一段階として,家庭 1す・学1己 情報の取り出し ,る自習S内 語.嶽 !緻舞 学習や授業の冒頭において自分の意見を目に見える形で ↓↑ i蕪i話 文章化して形成する場を設定する(テキストとの対話・ コ コ 1 をび, 自己との対話)。第二段階として,まずグループの中で 図3−13 「伝え合い」を組み込ん だ学習過程モデル 話し合い,全員が自分の考えを発信し,反応をもらう場 を持ち,その後で全体で話し合う場を設ける(他者との対話)。ここで,他者の考えに影 響を受けたり他者の考えを取り入れたりして,自分の考えの再構成が起こることが期待さ れる。最後の第三段階として,話し合いを経て見つめ直した自分の意見を文章化して形成 する場を設ける(自己内曇対話)。このプロセスのそれぞれの段階の中で,学習者は繰り 返しPISA型読解力のプロセスを往還する。また,第一段階,第三段階は論述する言語活動 を通して,ワザの活用・定着が行われることが期待される。その上で,より妥当性のある, 質の高い「自分の考え」が形成されることにつながるのである。 3. 5 物語の構造やテーマを捉えさせる指導について ここまでのところで,物語文において「叙述を根拠に自分の考えを述べる」ための4つ の指導上の手立てを整理した。しかし,物語文の読解指導はこれだけすればよいわけでは ない。3,5では,ここまでに挙げた4っの手立て以外の読解指導のポイントとして,以下の 2点について整理する。 ・物語の全体的な構造やあらすじを捉える指導 ・物語の中心的なテーマを捉える指導 一58一 3. 5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について 3.5.1 物語スキーマと物語文法 物語の中でも,民話,伝説,神話など 単純な物語には,その構造的特性に多く の共通性と明確な規則性を見出すことが 表3−7 岩永(1986)による物語スキーマと物語文 法の区別 物語スキーマ人の内部知識 物語文法 物語スキーマの言語的記述 できる34)。典型的な物語の構成要素とそれ 表3−8 Thorndyke(1977)による物語文法の書き替え ーマと,物語構造のもつ規則性を記述す 規則 123456789 らの関係についての内的表現を物語スキ は物語理解の際に利用している。岩永(19 86)は,表3−7のように,人の内部知識と しての物語スキーマと,物語スキーマの 言語的記述としての物語文法という使い 分けを示している35)。 物語文法における構造に関する知識は, 「書き替え規則」として表現される。こ の書き替え規則の細部は研究者によって 10 異なるが,川崎(2000)は,その代表例と してThorndykeを取り上げている。 Thornd 規則 規則番号 るルール体系を物語文法と呼び,読み手 物語 設定+テーマ+プロット+解決 設定 主要登場人物+場所+時間 テーマ 事件(※1)+目標 プロット エピソード(※2) エピソード 回目標十試み(※2)十結果 試み 事件(※2)/エピソード 結果 事件(※2)/状態 解決 事件/状態 下位目標 /目標 理想状態 登場人物 /場所 /時間 状態 ※1:任意の要素であり,繰り返しを許す要素でもある。 ※2:繰り返しを許す要素である yke(1977)による物語文法の書き替…え規則 を表3−8に示す36)。Thorndykeの規則では,典型的な物語は「設定(Setting)」,「テーマ(T heme)」,「プロット(P10t)」,「解決(Resolution)」の4つの要素を必ず含むようになっ ている。 物語スキーマの実在性について,丸野(1 983)が検討を行い,表3−9のような結果を 表3−9 物語スキーマの実在性についての検討(丸野, 1983) ①物語文法に合わないような物語の展開は,理解がしにくい こと。また,典型的な展開の物語とそうでないものを比べる と,典型的な物語の方が,少ない時間で読めて高い水準 の要約ができること。 得た37)。この丸野の検討結果は,物語スキ ーマが,物語の読みの過程に深い関わり ②物語の構造をくずして読ませ,後に要約させてみるど物 語文法に合う形に組み直されて再生されること。 があることを示唆している。また,Sadow (1982)は,物語文法に基づく発問を示す ③物語展開の一部を省いたものを読ませると,後にその部 分が補って再生されたり,もとの文章の中にあったと誤っ ことで,児童に物語をスムーズに理解さ て再任されること。 せることができ,その上,物語一般を理 34)川暗恵里子『知識の構造と文章理解』,風間書房,2000年,p.99 35)岩永正史「物語スキーマの指導」国語科教育33,1986年,p.68 36)同上書34),p.100 37)丸野俊一「文章の理解と記憶の発達」『記憶と思考の発達心理学』,金子書房,1983年,pp,221−251 59 3.5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について 解させる枠組み(物語スキーマ)を育てることになるとしている38)。これらの知見は,物 語スキーマに基づくこと,つまり,前述の「典型的な物語における4つの要素」をテキス トから見出してその関係性を考えさせることが,物語文の構造を把握させる指導として有 効な手段となり得ることを示している。 一方で,岩永(1986)は,物語スキーマ指導の欠点として,「表面的な事象ばかり追いか け,心情把握といった観点が抜けている」「スキーマが未発達の児童に物語スキーマ指導 をなすことは,かえって児童が物語から読み取る内容を規制するのではないか」39)の2点 を挙げている。しかし,前者の懸念については,物語スキーマによる指導を初めから物語 の表層的な構造の理解のみをねらいとすれば問題は無いと思われる。また,後者の懸念は, 教材分析によって教材文が物語スキーマに即していることを確認した上での指導なら問題 は無いと思われる。逆に言えば,物語スキーマに当てはまらないようなテキストであれば, 無理に物語スキーマの枠組みで指導しないよう留意する必要があると言える。 日本の小学校教科=書の文学教材を見ると,例えば低学年の「大きなかぶ」は,大きなか ぶを引っこ抜くという,登場人物の「目標」と「解決」が明快で単純な物語である。しか し,中学年の「サーカスのライオン」になると様々な「エピソード」が挿入され,要素が 徐々に多様化,複雑化していく。さらに,高学年の「海のいのち」では,中心人物の「目 標」と「解決」の構図とその因果関係が容易に読み取りにくくなったり,「やまなし」の ように,物語スキーマの典型から外れたものが登場したりするようになる。ところが,こ うした容易に読み取れない作品や,典型から外れた作品の方がむしろ味わい深いと感じら れるようにもなっていく。これは,物語スキーマの発達によるものである。これらのこと から,日本の教科書教材は,児童の物語スキーマの発達に合わせたものをある程度選んで 掲載していると言える。 小学校の発達段階でも,子どもなりの物語スキーマを用いて,トップダウン式に細部を 意味づけていく読み方を獲得し,使っている。また,日本の教科書教材もある程度物語ス キーマの発達に応じて選ばれている。本研究では,叙述を根拠に読むという,言わばボト ムアップ式の読みを重視しているが,第1章の冒頭で述べたように,文章を読むと言うこ とは,トップダウン処理とボトムアップ処理がかみ合うことによってなされるものである。 そこで,例えば,「中心人物はある設定のもと何らかの課題・欠損を抱えており,それが 中心人物の行動によって,ある解決・充足に至る」といった物語スキーマに沿ったトップ ダウン型の読み方も示し,児童の読解や物語スキーマの形成を促進するような指導も行う べきだと考える。 ここまでに得られた知見を,次頁表3−10に整理する。 38)前掲書35),p.69 39)前掲書35),pp.72−73 一60一 3.5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について 表3−10 物語スキーマに基づいた指導の整理 【物語の典型例】 「設定(Setting)」,「テーマ(Theme)」,「プロット(Plot)」,「解決(Resolution)」 の4つの要素を必ず含む。 【指導上のメリット】 ・児童が形成している物語スキーマに沿った読み方を示すことで,物語を読み取りや すくさせることができる。 ・物語一般を理解させる枠組み(物語スキーマ)を育てることになる。 【指導上の留意点】 ・物語の表層的な構造の理解のみをねらいとし,心情理解など解釈を別に行う必要が ある。 ・物語スキーマに当てはまらないようなテキストであれば,無理に物語スキーマの枠 組みで指導しないようにする。 3.5.2物語文法を基盤とした指導(1)一ストーリーマップ①・基礎知識七一 続いて,物語文法に基づいた物語文指導の一事例である「ストーリーマップ」を取り上 げる。 欧米では,物語文法の考えを取り入れた「ストーリーマップ」を用いて,物語の構造を 学習している。ストーリーマップとは,「順序にかかわらず,テキストにおける出来事あ るいは考えの間の,意味関係を示す意味マップ(semantic map)」と定義されている40)。 山本,山村(2010)は,ストーリーマップを活用した創作文の指導を実践している。この 実践ではストーリーマップを次のように捉えている4D。 その型は,「問題」と「解決」を基本とする。物語は,中心人物が,ある問題(欠損)を抱え るところがら始まる。その問題を解決しようとして,行動を起こす。様々な難題をクリアし て,最終的に問題は解決される。(中略,引用者)このように,ストーリーマップとは,「問 40)山本茂喜,山村勝哉 「創作文の指導におけるストーリーマップ活用の意義」,香川大学教育実践総合研 究(20),2010年,P.140 41)同上書40),p.140 なお,山本氏の提案は「創作文」のための手法であるが,物語の構成をとらえる点で 読解活動にも大いに活用できると考えた。 一 61 3.5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について 題(欠損)」と「問題の解決(欠損の解消)」を基本線として物語を作っていくツールである。 また,物語の設定として,登場人物を「中心人物(主体)」と,それに対する「援助者」,「敵 対者」とに分けて考える。さらに,その中心人物(主体)が希求するものを「対象」とする。 この対象が,物語のテーマにつながっていく。 つまり,ストーリーマップとは,物語の順序(ス トーリー)より,因果(プロット)を取り扱った 図と捉えることができる。因果を扱っていること の効果として,後述するように,物語の叙述と全 体との関係性を論理的に捉えられることが挙げら れる。 なお,ストーリーマップの典型的な構造は,図 3−14のような形で表される。 以上のことから,ストーリーマップとは,物語 の構造とテーマが見えてくるものであることがう 図3.14スト_リ_マップ かがえる。 ストーリーマップは,アメリカ合衆国の読むことの学習指導における「『作品(世界) 全体(=whole)を扱う読むことの学習指導』をおこなうために,作品の構造を捉えさせる 際に,重要な役割を果たす教具のひとつ」‘2)であり,堀江(2005)がその目的,方法,意味 を整理して紹介している。 〈目的〉「作品世界全体を扱う読むことの学習指導」を行うために,作品の構造を捉える際に, 重要な役割を果たすため。 〈方法〉「Title(書名)」「Characters(登場人物)」「Problems(問題)」「Major Events(主な出 来事)」「Outcomes(結末)」等の要素を書き込む 〈意味〉「作品世界全体を扱う読むことの学習指導」では,「要約」を書く活動を行う。ストーリ 一一一一マップは,その「要約」を書くための道具となる。「要約」とは,「主題」と「それを 支える細部」との関係を見つけ出してまとめる作業である。その「要約」を書くために, 上記のような物語に不可欠な「物語の要素」をメモするのがストーリーマップである。 ストーリーマップにおいて,物語を構成している要素間の論理関係を明らかになる。 つまり,ストーリーマップはアメリカ合衆国において,要約指導のためのツールとして 扱われていることがうかがえる。 42)堀江祐爾「アメリカ合衆国における読むことの学習指導 一story mapを用いた学習活動を中心に一」,20 05年,全国大学国語教育学会発表要旨集109,pp.76 一62一 3,5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について また,堀江は,ストーリーマップの指導上の意義として,テキストの全体と部分との関 係性を論理的に思考する点を挙げている。 「主題」とそれを支える「細部」との関係を見つけ出してまとめるのがく要約〉という活動であ る。「主題」をどのような「細部」がどのように支えているか,その関係こそが文章における く論理〉ということになろう。〈要約〉を書くことは,〈論理的思考を育てる〉ことに深く関わっ ているのである43)。 「主題」とは物語の中心的なテーマのことであり,「細部」とは部分部分の叙述のこと である。この堀江の指摘は,物語の中心的なテーマと,それを支える叙述との関係性を捉 える上で,ストーリーマップが有効であることを示唆している。叙述を基盤にして物語の テーマを捉えることは本研究のねらいとするところである。ストーリV一一一・マップの活動は, 叙述を根拠に物語の中心的なテーマを捉える指導にもつながる可能性がある。 ここまでに得られた知見を,表3−11に整理する。 表3−11 ストーリーマップに関する基礎知識 【ストーリーマップとは…,】 ・「順序にかかわらず,テキストにおける出来事あるいは考えの間の,意味関係を示 す意味マップ(semantiG map)」を指す。 ・「作品(世界)全体(=whole)を扱う読むことの学習指導」をおこなうために,作 品の構造を捉えさせる際に,重要な役割を果たす教具のひとつである。 ・「問題」と「解決」を基本とする。また,中心人物(主体)が希求するものを「対 象」とし,この対象が,物語のテーマにつながっていく。 ・主題(main idea)・登場人物(characters)・設定(setting)・事件(events)・結末 (outcome)などから成る物語の因果(プロット)の構成図である。 【以上のことから,ストーリーマップとは…,】 ・要約指導に使われている。 ・全体(テーマ)と部分(細部の叙述)の関係性を捉える指導に適している。 43)前掲書42),p.77 63 3.5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について 3.・5.3 物語文法を基盤とした指導(1)一ストーリーマップ②・実践編一 ここまでに得られた知見を生かして,ストーリーマップを物語の要約,つまりあらすじ を書く指導に活用することを考えた。 本研究における実践では,単元を貫く言語活動として「ブックレポート」を計画してい る。その中で,物語を簡単に読み手に紹介する方法として,あらすじを書かせようと考え ている。その際,あらすじを書くための一つの方法として,ストーリーマップにおける因 果を捉えさせたい。ただし,あらすじを書くときは必ずこのフォーマットで書きなさいと いう指導に陥らないよう,こういうのを参考にしてみようね,というニュアンスで指導に 当たりたい。 本実践は,プロジェクト実習と改善実習の2回に分けて行うので,プロジェクト実習で は丁寧に指導し,改善実習では児童に任せるようにし,ワークシー一一一トも差をつけてみたい。 図3−15及び次頁3−16に,これらの知見を元に作成した「ばらの谷」と「海のいのち」の ストーリーマップを示す。 ト ① 谷一 ワ﹁ ク ト 月 1 ス 日 ト 8 リ 1::::rレ:: あ ら す じ を書モつ :: の ま とめて : 1 六 マ 年 ッ @ プ @ を ヤ 作 つ シ て O あ ( ら き す じを し 」尼一一 一一一1 じ 睾 叢旱きと で考す 誓 ④ : ブ 葛と 罐 つ 一 :[亟ヨ… ::::: :::: 美8と思わ 奮o め o よ ? その うように な 舎まと きごとを£た を襲とと思 たですか ’ だに けな 短尋 語 1 めで ます し。 よ一 う ?書きにくかっ で ) 1 量場人物 : : ; レ: 回 を : き: る ( 2 リ 1 大き な : で ツ に ス 1⑤ 1 ㌃ 一 シ 1 リ 1マ 一 の ス ト ツ 『 プ ガ 署 たで てじ を らの 容を マ 考 え よう ; 碧 よ らつ す 言吾の内 リ﹁ 場 害 物 書 き やす 語 に霧 一 ば 1 面を読 こ ・ て iの めあて 物 定 ド ン 僕 募 一 カ1げ す か ハ ス ② ン 。霧 は 「 気持 ち が 変 化 した あ らす じ O に 『三i縷劃 ③ 設 ド ラ な う 一 曾 考えよう 5 よ 亀 束 場 ㌻ こと 5 い で 一 結 面を読 は や’す ド ラガン 1素 」 を じ﹃ ∞G の 分物 か緬 り ップを 作る マ 圃 囮 回 ドラガノの闘題 1 ⑥ ) 1 ⑦ ^⑥ 1’軸のかいけつ す 例 ︶lI 阪 ら ト 1 の ﹁ し■日。ス や す くな 書 【あらすじの書き方】 究 自分のカであらす 今回、あらすじの書き方を練習しました。 あらすじの書き方はいろいろありますが、 じが書けるようになるといいですね、 @中心人物がかかえる問題 A中心人物が大きく変わったきっかけとなるできごと ③中心人物がかかえる問題のかいけつ を見つけてっなげるとだいたい書けます。 読書感想文などでもちょうせんしてみて杁 これから、 いろんな物語で、 こう 呈 由 も 書い て くださ 理 1 ) 図3−15 「ばらの谷」におけるストーリーマップを基盤とした要約指導用のワークシート。児童にとって 初めての活動となるので,自力で取り組めるよう,書き入れるべき内容を示唆するヒントをたく さん示した。 一64一 3.5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について 嘲 圃圓 1 匝] 海の 一 めあて い 1 の リ じ 重要なでoごと ち 圃 囲 囮 スト す ︻ あら 画 1 物 隔 の 皿 窪 ワ 一 1 一 ブ1 マ } 一 ック 一 ツ 『 プ クシ レ 1 ポト P 写 に の 一 ら ノ、 年 す じ 物 語 1 1 一 : 番 を ま を整 ⋮1 内 容 1 r 一 あ プ 1 1 に書 ㌃¥ 鯉 :[巫司: 1 1. す歪与 理 ・ 一 1一 一 h 一 P 秩@一 一 7 一 一 一 コ 1 lI: 1 1 1 同r1 』 Q さ i⋮ Ii: らすじ が書 きや すく なウま玄 :i脚 : L 1 名 と め つ I F[画1 あ 一 日 く 一ス 1 画 月 ト ) 図3−16 「海のいのち」におけるストーリーマップを基盤とした要約指導用のワークシート。「ばらの谷」 で一度取り組んでいるため,ヒントは示していない。 3.5.4 物語文法を基盤とした指導(E)一テーマ指導①・背景編一 続いて,得られた知見「全体(テーマ)と部分(細部の叙述)の関係性を捉える指導に 適している」に基づいて,物語文法をテーマ指導に活用する方法を考える。物語文法に基 づくテーマ指導を考える前に,まず,従来の日本の読解指導におけるテーマ指導,いわゆ る主題の指導の背景についての整理を試みる。 日本の国語科教育における「主題」は,『国語教育指導用語辞典』によると大きく3つ に分けることができる。これらをまとめると次頁表3−12のようになる。 65 3,5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について 表3−12 日本の国語科教育における主題指導の3つの立場n4) 「作家論」的立場 定義 「作品論」的立場 「テクスト論(読者論)」的立場 書き手(作家)が 作品に描かれている 書かれたものに刺激されて読者が想像す 表そうとした中心 人間の生活現象に内 る一筋の主張 の考え 在している一般的な もの・本質的なもの 騨 一 一 雪 一 一 一 一 一 一 捉え方 冒 一 一 一 一 一 一 一 一 一 , 騨 一 一 需 , 層 一 一 層 薗 ■ 一 一 璽 ■ 一 層 騨 一 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 作家の伝えたいこ 作品の語りや描写や 言語そのものの持つ抽象性や「表現」か とを想像する 筋や構造からどう読 ら生まれる空所に対し,読み手の解釈, み取るかを重視 一 一 一 一 一 一 騨 騨 鴨 一 卿 騨 噂 一 一 , 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 璽 ■ 一 雪 甲 一 一 一 一 曽 騨 一 鱒 嘗 冒 冒 一 冒 一 一 雪 璽 雪 一 一 一 一 璽 一 一 一 一 一 一 層 一 一 一 冒 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 創造によって捉える 一 一 一 一 一 騨 藺 一 賜 一 一 一 一 一 一 一 , 一 曽 一 一 一 一 一 一 ” 一 膚 聯 騨 噌 葡 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 作家の考 作家の意図が優先 作家がどう考えるか 作家と切り離すことができる えとのか される 作家の無意図的表現を扱うことが可能と は無関係 かわり 一 一 一 一 ■ 囎 一 一 一 一 作品の中における なる 一 } 馴 一 一 響 層 喩 一 一 曽 噛 一 一 一 一 一 一 一 ■ 璽 一 璽 一 一 騨 曜 一 一 一 一 一 鞠 胸 一 一 一 一 一 一 作品の中に最初から埋め込まれている 象徴性,暗示性,比喩などから生まれる, 読み手の自由な想像の余地に基づける 位置づけ 一 一 曽 一 一 一 一 一 一 一 ■ 一 ■ ■ 冒 一 一 一 一 一 一 一 ■ 一 一 一 ■ 一 ■ 一 ■ 一 一 一 一 一 ■ 一 一 一 一 一 一 藺 璽 一 一 一 一 一 冒 一 一 一 ■ 一 騨 一 一 , 騨 , 冒 , 冒 ■ ■ ■ ■ ■ ■ 雪 一 一 一 一 一 冒 一 一 一 一 一 甲 一 一 一 一 甲 卿 騨 騨 主題の存 唯一または数個の正解がある 鴨 F 層 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 響 一 一 } 一 ¶ 一 } 層 一 層 在 作家と切り離すことで,作品の意味や価 値が多様化した 一 帰 騨 零 ■ 一 , , 騨 , 欠点 胃 一 一 一 一 一 冒 一 冒 一 一 一 一 ■ 一 一 一 一 ■ 一 一 一 璽 騨 璽 } 一 一 一 一 一 一 一 一 騨 一 一 騨 一 一 鱒 一 一 胃 艘 一 噌 贈 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 曹 一 一 層 一 , 璽 一 騨 一 } 卿 「主題追究の授業」 が,教師の描いて 従来の主題追究の授業によって実現され いる一つの「主題」 に生徒を誘導して てきた「ストーリーに沿って作品の主題 導こうとするものであったため,その 性・思想性を深く読む面白さ」まで失わ 点が強く批判されてきた。 れたり,対比・色・クライマックスとい つた読みの視点を教えることまで拒否す る傾向が生まれ出し,「書いてあることを 読む」ことから「読みたいように読む」 生徒が出始めた。 表から分かるように,日本の文学の授業において,主題の形成は,作家論的または作品 論的立場をとってきた。ところが,「主題」は一つしか存在し得ないという,正解到達主 44)寺崎賢一「主題」,田近洵一・井上尚美編『国語教育指導用語辞典 第四版』,2009年,pp.66−67 66 3.5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について 義の読解からの脱却を目指すようになり,学習指導要領からも「主題」という言葉は消え ていった。一方で,読者論に立つ読解指導が叫ばれるようになり,読み手の自由な想像に 基づいた主題の形成が行われるようになった。しかし,読み手が自分の好きなように読む ことから,どこまで許容しても良いかという課題も見られるようになったことは,第1章 でも述べた通りである。 ここで,指導の方向性を探る大きな手がかりとなるのが,学習指導要領の語句の変遷に 見られる意図である。平成10年度版小学校学習指導要領において,それまで存在した「主 題」の理解という語句が削除された。 第5学年 1目標(2)より 話し手の意図をつかみながら聞いたり,主題や要旨を理解しながら文章を読んだり することができるようにするとともに,読書を通して考えを深めるようにすること。 (平成元年度版) 第5学年及び第6学年 1目標(3)より 目的に応じ,内容や要旨を把握しながら読むことができるようにするとともに,読 書を通して考えを広げたり深めたりしょうとする態度を育てる。(平成10年度版) (下線は引用者による) 学習指導要領から「主題」という記述が削除されたことについて,椙田(2011)は次の ように述べている。 主題が削除されたのは,教師がある一つの主題にこだわって,子どもたちを引きずり回す弊害 があるからだと思われる。だからといって,主題に近いことにふれさせなくていいということ ではない。主題が一つであるかのような言い方をしなければよいのである。主題は決して一つ ではない。ただ,子どもの受け止めばだいたい似通ってくるものである。全然違うテーマを受 け止めているような子がいたら,「もっと他にあるでしょ」と,正すべきである45)。 同じような指摘を浜本(2004)も行っている。 文学の読みを「主題」読みに限定していった読解指導は,いったんは否定されなければならな かった。否定の後の「読者論に立つ文学指導」は,それなりの発展をしてきたが,「どのような 読みも許される」・「読者の数ほど読みはある」と言われるようになって,作品の表現や構造に 45)前掲書30) 67 3.5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について 即する厳しさが拡散する傾向を生んでおり,いまだ十分な発展をしていない46)。 これらの指摘を整理すると,次の2点に集約される。 ・正解到達主義的な主題指導や,指導の目的を主題におく読解指導からの転換が必要 である。 ・主題について,学習者が捉えた読みであれば何でもよいという風潮は認めるべきで はない。 以上のことから,正解到達主義的な主題指導や,指導の目的を主題におく読解指導か らの転換が必要とされつつも,主題についてどこまで読みを許容して良いかの指標が明 らかになっていない,という主題指導における現在の課題が見えてきた。 3.5.5物語文法を基盤とした指導([)一テーマ指導②・実践単一 そこで着目したのが,伊暗(2012)の「さぐる思考」に基づいた実践である。伊暗の実践 では,主題把握について,「作者の側からではなく,読者が何を受け取るのかという,読 者の側からのアプローチJ 47)が基本であるとし,「テキストの全体構造を論理的に把握す る」「主題とテキスト細部の情報を論理的に関連づける」a8)ことによって導かせるとして いる。これらは,ストーリーではなくプロットにおける因果関係を重視したり,全体と細 部の関係性を関係づけたりする物語文法を基盤としたストーリーマップにおける指導と完 全に一致しており,伊崎はこれを実践レベルで研究しているので,本研究でも大いに参考 になると考えた。 特に注目したのが,伊暗の実践で使用されたワークシートである。この実践で使用され たワークシートは,①テーマを書きこむ欄,②テーマを導くための作者のメインアイディ ア,③このお話ならではの工夫,の3つに大きく分かれており,①には物語のテーマ,② にはテーマに関係のあるプロット,③にはテーマを支える細部の叙述が書きこまれるよう になっている。こうしたプロセスを経てテーマを考えることは,叙述や文脈の意味に即し たものとなることに価値があると考える。 この伊崎のワークシートを参考にして作成した,「海のいのち」のテーマを把握するた 46)浜本純逸「国語教育研究の課題と方法」,国語科教育56,2004年,p.22 47)伊暗一夫「読解リテラシーの向上をめざす学習指導の工夫に関する研究(3)『さぐる思考』の活性化」, 環太平洋大学研究紀要(5),2012年,p.54 48)同上書47),p.55 一 68 3.5物語の構造やテーマを捉えさせる指導について めのワークシートを図3−17に示す。なお,PISA型読解力との関連も合わせて整理し,吹き 出しにて示しておく。 「海のいのち」のしかけを見つけよう r 、 1,「テーマ1(作者が読者に伝えたいと感じたこと) (幅 作者は,この作品を通して 一 d Pの ノ L @ ということを特に強(伝えたい ィ広 黷「 フ理 e解 }形)成 ノ そのために/7 72.テーマを伝えるための作者のアイディア ︵ ︵ ︵ 両全)体 ニ( )だ。燃一が, rをとおして 、 つ。ッ,における,中心人物.太一の欠損一 @(問題)→充足(問題の解決)」を伴う変容 物語の中心と捉え,その因果関係(なぜ太一はクエを殺さなかったか)からテーマを導 ノ 遼かせた・ 、 工 1 ノ 一 ﹁ ト 「 工宍② 、一 ノ 「 ﹁ 、ノ 「工宍③ L 図3−17 伊崎の実践を参考にした,物語の中心的なテーマを把握させるためのワークシート 一69一 轣j ゥと ノ些 オ分 ト( 「盛 奄撃撃 「「 R.テーマを支えるこの作品ならではの工宍(弓1用しながら) フ物 A語 Wの }心 情 3,6 教材分析 3.6 教材分析 3.6.1 先行研究の整理 続いて,授業を構想する上で欠かせない教材分析の手法について,考察する。 物語文の教材分析のための項目について,大内(1990)は,授業のための教材研究を視野 に入れた,網羅的な整理を行った。一方,廣野(2005)は,物語言説を基盤とした小説技法 の項目を15に整理した。大内の整理は,日本の国語科教育の中で熟成されたものの整理で あるのに対し,廣野の整理は現代文学理論における物語論(ナラトロジー)に基づく分析 である。どちらも物語文のテキスト分析という点では同じアプローチであるが,見比べた ところ,この両者には重複しない項目がかなりあった。さらに,筆者が大学院で指導を受 けた吉田(2011)の教材分析項目の中にはこの両者に含まれないものがあった。その中には 物語の主題に迫る鍵となる項目が含まれており,分析項目として非常に実践的だと感じて いた。そこで,教材から教材価値を見出すための教材分析の項目について,大内,廣野, 吉田の分類を再整理し,一覧表にすることを試みた。 大内は,従来の解釈を中心とした教材研究が授業の構想へとつながりにくいのは,教材 研究が教師による作品解釈にだけにとどまっているからだとして,「教材分析」が必要だ としている。大内による「教材分析」の定義は次の通りである。 所与の教材に含まれる教育的な陶冶価値として,内容価値や表現価値を分析・解明し,教材 の特質や意義を明らかにすること。分析の観点は,教材により異なることが多い。分析の過 程では,教材の意味構造や文章構造などを図式化して表す総合イピ9)の作業や,〈教材の核>50)の 抽出を行う。また,学習者の〈読み〉の予想を行う5D。 大内の分類を酔臥表3−13に示す。大内は,「分析」とは,「確かな『指導内容』を抽出 するために,客観的・普遍的な『分析コード』によって行うこと」52)としている。つまり, 大内の提案とは,客観的な「分析コード」を用いて作品を分析し,教材の特質及び意義を 明らかにすること,と言えよう。文学的文章には特有の表現技巧や技法,仕掛けなどがあ 49)大内は,分析により得られたデータを比較したり,関連付けたりして「総合化」することによって,教材 が所有する内容価値や,表現価値が明らかにされていくとしている。 50) 「教材の核」とは,大内による定義では,「教材全体を貫く骨格にあたるもので,教材全体の内容に比し て,一般化・抽象化の進んだもの。そして,これを手がかりに教材内容に一貫した筋を通すことのできる もの。」である。 51)前掲書28),p.29 52)前掲書28)Jp.16 70 3,6 教材分析 るため,こうした分析によって明らかにすることは必要であると言える。 吉田の分類53)を表3−14に示す。吉田は,大内と同様,国語科教育における授業を前提と している。大内との大きな違いは,主題を探求するための分析項目が用意されているとこ ろである。 語り 説明 描写 会話・心内語 漢語・和語・外来語 時と場所 冒頭 登場人物 ストーリーとプロット 視点人物・語り手 語り手 全体の構成 時代背景 伏線 焦点化 提示と叙述 題名 中心人物の変容 登場人物の相互関係 転換点となる事件や人物 心情が読み取れる会話文 主題 対比 色彩などの感覚表現 活用場面 一大内,廣野に比べ, 句読法衰記法 題名 書き出しと結末 視点の意味 書き手 視点の設定 視点の転換 間テクスト性 メタフィクション 結末 一ノ」ぺ r物語言説を中心とした,「テキス ,《【 g」の分析に特化している。 「 L ィ語内容を重 汲オている。 L ∠ 果 視点 文章構造 文章の構成・配置 構成・筋 性格描写 アイロニー 声 反復 異化 慣用句・熟語 方言・俗語 時間 イメジャリー オノマトペ 慣用句 品詞一副詞・数詞・助詞 句読法 表記法 小説技 法 護梧 。1 工 語彙・語句 比喩法 対比法 反復法 倒置法 省略法 設疑法 現在形止めと過去形止め 断定形止め 推量形止め 否定形止め 色彩語 象徴語 接続語 指示語 主題 の 探 求 表現・修辞 表現技法 文末表現 物語の構造 表現方法 表3−13 大内の教材分析項目 表3−14 吉田の教材分析項目 表3−15廣野による小説技法項目 「 ィ語言説と物語内容,物語行為に ワたがった広範囲な項目を並べて 「る。 」 廣野の分if5‘)(表3−15)は,物語論に基づい 表3−16物語の3っの相(ジュネット,1972) ている。物語論とは,ジェラール・ジュネツ 物語の相 意味 トが整理したテキスト分析の全体的な枠組み 勃語言説言語的存在としての物語,つまりテクスト のことを指す・ジュネットは・物語を表3−16翰罰容語られる話の内容 に示した3つに識別した・糖謝ま・この分 U為語るという行為 これらの相 類の中の物語言説を中心として, の相関関係を扱う研究として定義されている55)。この分類に基づけば,大内や吉田の分類 は,物語言説と物語内容にまたがっていると言える。特に吉田の項目は,物語内容につい て丁寧な分析項目が並んでいる。 53)兵庫教育大学教職大学院2011年度吉田ゼミにおける,吉田和志による教材分析項目から引用 54)廣野由美子『批評理論入門一『フランケンシュタイン』解剖講義』,中公新書,2005年,pp.4−112 55)土田知則・青柳悦子・伊藤直哉『現代文学理論 テクスト・読み・世界』,新曜社,1996年,p.50 一 71 3.6 教材分析 3. 6.2 教材分析表の作成 (1) 大まかな分類 この中で最も網羅的なのは大内であるため,まず,仮の大分類を「文章構造」「修辞・ 表現」とし,吉田と廣野の項目が当てはまるか検討した。その結果,吉田の「物語の構造」 と「主題の探求」は「文章構造」へ,「表現の工夫」と「語句・語彙」は「修辞・表現」 へ収まることが確認できた。一方,廣野の項目は,「問テクスト性」など,いくつかの項 目が収まりきらなかった。これらは,一括して「小説技法」という大分類を作って収める こととした。 表3−17 作成した教材分析表 (2) 似たような項目の整理 廣野の「焦点化」と大内や吉田の「視点人物」は使 妾霧咳竃 構成 設定(時・場・人物) ① 文章構造 うした,物語言説の相で多く見られる同義語を統一し た。例えば,「焦点人物」と「視点人物」は同義語で あり,「視点人物」という用語に統一した。 あらすじ 題名 物語内容 ストーリーとプロット っている用語が違うだけで同じことを指している。こ 転換点となる事件・人物 中心人物の変容 主題 視点 (3) 項目の精選 視点人物 比喩(直喩・隠喩) 叢羨 オノマトペ 対比・類比 擬人法 その他の技法 色彩語 の教材分析表を作成した。主として①,②,④から内 きると考える。項目数がこの段階でやや多いかも知れ なお,一つ一つの項目の詳しい意味については,巻 末資料恢にまとめた。また,教師用の教材分析ワーク シートを巻末資料XV皿に添付した。 72 時間 アイロニー イメジャリー 反復 声 ないので,その場合は④を削る。 ④その他の小説技法 容価値を,②,③,④から表現価値を見出すことがで 象徴語 異化 メタフィクション 間テクスト性 物語言説 省略法 葛 以上のような観点で整理を行った結果,右の表3−17 心情が読み取れる会話文 性格(人物)描写 情景描写 ③修辞 低いと判断したものは除外することとした。 教材分析項目 る。指導内容との関係性と筆者の経験から,重要度の ②表現 思ったときに時間がかかりすぎてしまう可能性があ 垂譲 視点の変換 ここに挙げられた項目を全て取り入れて整理をする と膨大な表ができあがり,現場で教師がいざ使おうと 物語行為 蕪 書き出しと結末 3.7 本研究における指導の構想の整理及び実践の大まかな構想 3.7 本研究における指導の構想の整理及び実践の大まかな構想 ここまでのところで,PISA型読解力を基盤にした読みのプロセスを身につけさせるため の手立てを整理してきた。今回,授業を二つの単元に分けて実践できることを活用すれば, 一回目(プロジェクト実習)は本研究のねらいに即したガイダンス的な指導を,二回目(改 善実習)は一回目の指導を生かしてさらに発展的な指導をするという段階的な指導過程を 組むことが可能となる。このことから,段階的な指導過程を組む前提で,実践の大まかな 構想を考察した。 まず,前提となる条件として次のようなことが挙げられる。 ・実習校との一協議iの結果,プロジェクト実習は8時間程度,改善実習は15時間程度の時 数の配当がある。 ・「ばらの谷」の文章は,中心人物の欠損一充足も分かりやすく,比較的平易である。 ・「海のいのち」の文章は省略が多く,登場人物の言動の因果が読み取りにくいことが ある。また,様々な形式的特徴(情景描写,色彩語,隠喩,碗曲表現等)が見られる。 こうした前提を元に,検討した点は次の通りである。 ・手立てi「叙述を根拠に主張することの有用性の実感を伴った理解」は,他の手立て の基盤となるところなので,プロジェクト実習の,しかも,プレ単元を特設して指導 する。 ・手立てii「読むための目的意識を持たせること」は,どちらの単元でも組み込むこと とする。 ・手立て血「ワザの提示と振り返り」は,2つの実習で分けて取り組む。プロジェクト 実習では,文章が平易で「物語を読むワザ」を使わなくても概ね文章を読み取れるこ とから,指導のポイントの①「述べ方のワザ」の定着を目指す。改善実習では,文章 が難しいため,指導のポイント②「物語を読むワザ」を活用し,その定着を目指す。 ・手立てiv「伝え合い」は,本来どちらも組み込みたいが,時数の関係でプロジェクト 実習では組み込まないこととする。 ・物語スキーマに基づいた指導として,テーマの把握とあらすじの指導をどちらの単元 でも組み込む。 ・単元を貫く言語活動は,目的意識を持って取り組め,さらにつけたい力をつけるのに 適した活動(要約,大切な一文とその理由の記述,物語の中心的なテV一一・一マと叙述との 関係の説明,作品の推薦文事)を組み込む余地がある「ブックレポート」にする。た だ,プロジェクト実習は時数も少ないので,あらすじと熟考・評価の学習課題だけに 73 3.7 本研究における指導の構想の整理及び実践の大まかな構想 絞った「簡易ブックレポート」とする。 ・重視するPISA型読解力のプロセスは,いずれも教材文の特性から「ばらの谷」は熟考 ・評価,「海のいのち」は統合・解釈とする。「ばらの谷」は,中心人物の二面性が 描かれ,相反する立場の評価をしゃすいという教材文の特性から熟考・評価とした。 「海のいのち」は,文章に省略が多く,書かれていないことを書かれたことばから推 論するカを高めるのに適しているということから統合・解釈とした。 これらを一つの図に整理したもの,即ち,第2章で整理した2つの指導のポイントに対す る指導の手立てを含んだ本研究における授業構想の基盤を,図3−18に示す。 十 1 明言されていないものの @ 推論による理解 十 裏付けとなる事実・叙述の取り出し 指導のポイント① 叙述を根拠に自分の考えを表現する﹁述 べ方﹂指導が必要 根 拠 @ 結び付け ︿手立て・・11> ■ テキスト外の知識や経験との ︿手立てi・⋮mV 叙述を根拠に自分の考えを述べるよさを 理解させ、言語活動で述べ方のワザとし て継続的に活用させる 1 根拠を基にした明瞭な見解の主張 目的意識を持たせることで、目的に応じ て必要とする叙述を見出そうとする 身に付けさせたい読みのプロセス 〈手立てii>目的意識を持たせることで,目的に応じて必要とする叙述を見出そうとする く手立てiii>言語活動での物語を読むワザの継続的な活用と振り返り く手立てiv>伝え合いのプロセスを組み込むことで,読みの深化が起きる その他の指導のポイント ストーリーマップを活用した要約指導 指導のポイント② 文学的文章の特有な「読み方」指導が必要 テーマの把握指導 図3−18 本研究における授業構想の基板 74 一
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