けんさの豆知識 [27]起炎菌シリーズ その① 肺炎球菌 2006 年 11 月発行 2010 年 12 月改訂 感染症の原因となる細菌(起炎菌)を特集します。 今回はその第一弾 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)です。 肺炎球菌は、体力が落ちている時や高齢になって免疫力が低下してくると病気を引き 起こします。この菌が引き起こす主な病気としては、肺炎、気管支炎などの呼吸器感染 症や副鼻腔炎、中耳炎、髄膜炎などがあります。中でも肺炎の約半数は肺炎球菌が原因 とされています。 細菌を分類する基礎的な手技としてグラム(Gram)染色があります。紫色に染まれば陽 性、赤色なら陰性です。染まった形によって球状なら球菌、こん棒状なら桿菌と大別さ れ、色と形の組合せで分類されます。 ⇒グラム陽性球菌/グラム陽性桿菌/グラム陰性球菌/グラム陰性桿菌 1)グラム染色 ●グラム陽性双球菌 ・楕円形の球菌が縦(直列)に並ぶ ・連鎖を形成している部分もある ・莢膜(細胞壁の外側の粘稠性の層)を有するので菌体周囲の透明像として観察される ⇒肺炎球菌においては、 肺炎の早期診断法として良質な(膿性部分が多い)喀痰のグラム染色が有用 →喀痰は口腔内の常在菌によって汚染されやすい検体なのでその質が重要 →膿性部分に多く含まれる好中球に貪食されている菌が認められれば 起炎菌としての可能性が高い 2)検体の内訳 当検査室において 2004 年3月~2006 年6月間に検出された肺炎球菌 261 株の検体 の内訳です。 ・今回の集計では鼻咽腔が半数以上を占めました。すべて小児科から提出されたもので す。肺炎球菌は、Haemophilus influenzae や Moraxella catarrharis とともに乳幼児 の扁桃に常在しやすく、気道感染を起こしたり、耳管を通過して中耳炎を起こしたりし ます。 3)薬剤感受性 肺炎球菌は、耐性菌(抗菌薬に対して抵抗力を持ってしまい薬が効きにくくなった菌 のこと)が生じにくいといわれていた菌ですが、菌が有するペニシリン結合蛋白(PBP) の変異によってペニシリン(PCG)耐性を獲得した耐性菌が注目されています。 PCG の薬剤感受性の結果値(MIC 値)により PSSP(ペニシリン感受性肺炎球菌)・ PISP(ペニシリン中等度耐性肺炎球菌)・PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)に分類されま す。 4)尿中肺炎球菌抗原 肺炎球菌の検出は、分離培養法[検査材料(喀痰など)を培地に塗りフラン器(35℃)に一 晩入れ菌を発育させる]が最も基本的な方法ですが、菌の分離から同定までに最低24 時間かかります。 尿中肺炎球菌抗原検出キット(Binax NOW 肺炎球菌) は、尿中の肺炎球菌莢膜抗原を特異的に認識するポリク ローナル抗体を利用したイムノクロマト法を原理とし ています。検査所要時間15分で結果が判明します。 [2005 年1月から日本において保険適用] 注意点として、尿中の肺炎球菌莢膜抗原は、尿中に排 出されるのが通常症状出現後3日目以降であり発症後 間もない尿では検出できない恐れがあります。また、炎 症所見が改善しても2ヶ月以上に渡って排出されるこ とが報告されており治療効果の判定に用いることはで きません。 尿中に排泄される肺炎球菌莢膜抗原は、抗菌薬投与の影 響を受けにくいことが報告されており、既に抗菌薬が投 与されている方であっても検査を行うことが可能です。 5)肺炎球菌ワクチン 肺炎球菌には 80 種類以上の型があり、それぞれの型に対して免疫をつける必要があ りますが、肺炎球菌ワクチンはそのうち 23 種類の型に対して免疫をつけることができ ます。この 23 種類の型で肺炎球菌による感染症(主に肺炎)の約8割を占めていると言 われています。個人差はありますが、約5年間効果が持続します。
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