6 保健活動と地域医療(III 地域医療)

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Title
6 保健活動と地域医療(III 地域医療)
Author(s)
今中, 悦子; 太田, 保之
Citation
地域医療の最前線 (長崎大学公開講座叢書 10) p.97-106
Issue Date
1998-03-20
URL
http://hdl.handle.net/10069/6390
Right
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6 保健活動 と地域 医療
今 中 悦子,太 田 保之
健康 は古今東西,万人の願 いである。 その中で,健康 の概念は拡大の歴史 をた どり,「
健康 -病気がない」とい う考 え
方か らWHOの 「肉体的,精神的お よび社会的に完全に良い状態にあることであ り,単に疾病 または虚弱でない とい う
ことではない」に代表 され る概念に拡大 して きている。 そ して 「肉体的,精神的お よび社会的に完全 に良い状態」 を実
現す るためには,個 人 をとりま く環境に も配慮す る必要性があるとい う考 え方 も論 じられて きてい る。環境要 因 をも含
めた生活の全体 をさす概念 として QOL (
Qu
a
l
i
t
yo
fLi
f
e
)とい う語が用いられている由縁 である
。
これ までの保健活動は有病率や死亡率 な どの客観的健康状態の改善 に多 くの努力 を払 う傾 向にあったが, これか らの
地域保健活動では,健康 をどのように概念規定す るかが重要 なポイン トであ り,健康 はその人が置かれた状況の中での
その人の認知の如何 によ り捉 えられ るものであるか ら, そのことを十分 に考慮 した姿勢で保健活動 を行 ってい くことが
必要 であると思われ る。それゆえにこれか らは QOLをふ まえた "
主観的 ・精神的側面の健康づ くり"が ます ます重要
となって くるであろう。
地域保健活動 においては, まず住民の-ルス ・ケアニー ズを把握 し,共通の 目標 に向か って住民 とともに取 り組む姿
勢が肝要 である。 ここでは, 地域 において実施 したふたつの調査結果 をもとに住民の健康 に対す る認識や思いを捉 え,
これか らの地域保健活動のあ り方について考 えてみたい。
(
1
) 運動継続 の ための要 因分析∼健康 運 動参 加 者 を対 象 に∼
調査 1)は,1
99
0
年 5月29日,鹿児島市開催 の健康 フェスティバルで健康運動に参加 した うちの7
0
名 に計 3回の質問紙法
による追跡 を行 った。
アンケー ト調査 は, フェ,
スティパル開催時 (5月) と 1か月後 (7月)
, 3か月後 (9月)の 3回にわたって,各調査
時期 におけ る運動実施状況 (
運動実施の有無 と運動 内容,継続 ・中断 ・未実施の理由お よび工夫)
,体調 ・自覚症状の内
容,ブレスローの指標 2)に基づ く生活習慣調査,体調チェ ックとして体重 ・
食欲 ・
睡眠・
排継などの状況 を尋ねた (
表 1)0
対象者は女性 65
名 (
9
2.
9%)
,男性 5名 (
7.
1%)であった。年齢構成 は2
9歳以下 1名, 3
0-3
9歳 1名, 4
0-49
歳 9名,
5
0-59
歳28
名, 6
0-6
9歳23
名, 7
0
歳以上 8名,平均年齢57.
0歳である。
フェスティバル時の運動の実施状況によ り 2群 に分け, また調査期 間中の運動実施状況の経過の違 いか らA∼H群 に
わけた (
図 1)0
A∼H群 の運動の実施 (
継続 ・開始 ・再開)・中断 ・未実施の理由につ いて分析 した ものが表 2である。運動の実施理
運動の時間」 「
時間の工夫」 「
仲間の存在」であ り, 中断理 由では 「け
由で上位 にあが っていたのが 「
体調にあわせ て」 「
が ・入院 ・体調の悪化」などの体調に関連 した理由 と 「
仲 間の不在」があが っていた。 また未実施の理 由では 「時間が
とれない」 ことがあげ られている。 この結果か ら 「
体調 」 「
運動す る時間」 「
仲間の存在」の如何が運動の実施状況 と密
㌔
接に関係 していることが推察 された。
8
名の運動継続理 由であるが, ここで も「
体調 」 「
時
図 2は実施群 の うち 2回目アンケー ト時に も運動 を継続 していた5
間」 「
仲間の存在」があげ られていた。
- 9
7-
生活習慣の一つになっていると回答 した者が6
0.
30
/
.いたが,運動が 日常生活に取 り入れ られパ ター ン化 し,健康習慣
として機能 を果 た しているのではないか と推測 され る 一度身についた健康習慣には持続性があ り,健康的な生活行動
。
が習慣になっている人は健康状態が よ く,かつ以後の死亡率 も明 らかに低 い とブレスロー ら3)が発表 している。このこと
か らも運動 を生活習慣 とさせ るような支援のあ りかたが重要 であると考 えられ る。
図 1 運動実施状況の経過
2回 目
アンケー ト
1回 目
アンケー ト
3回 目
アンケー ト
継続
-
(
61名)
実施
(
58名)
I
(
継続
57名)
- ..
A群
」
(
再開
中断
1名 )
.-.A
.
.
B
C群
群
(
2名)
」
l
(
(
継続
中断
1
4名)
名)
.- .
.D群
E群
l
L
」
(
2
(
中断
諾
開始
1
名)
名)
-…
-. .
F
G
H
群群
中断
(
70名)
(
開始
3名)
対義者
未実施
(
9名)
(
6
未実施
名)
0
50
i
100(
%)
5月
アンケー ト
体調が良 くなる
調 査 内容
生活 習慣
フェスティバル時
第 1回アンケー ト
運動 実施状 況
◎
仲 間の存在
体調 ・症状
◎
時 間的余裕
生活習慣
○
運動後の爽快感
会 員制 ・講座制
体調チェック
好き
◎
9月
7月
第 2回
アンケー ト
◎
◎
第 3回
アンケー ト
◎
◎
○
◎
○ :択一回答
◎ :複数 回答
その他
表 1 アンケー ト調査の内容と実施時期
図 2 運動実施群の運動継続理 由
- 98 -
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ 地域医療
また運動後の爽快感 を継続理由 としてあげた者が5
1.
7
%お り,運動の効用 を住民に知 らせ てい く必要性が示唆 され る。
このことは地域 におけ る健康教育等で反映 してい きたいこ とである。運動の開始理由に 「フェスティバル参加 で運動量
・強度がわか った」 ことが きっかけになった と回答 していた者がお り,本調査 の中で運動 を自分の 「
体力」 と見合 わせ
てセルフコン トロール している姿が明確 に示 されていたが, 自己の 「
体 力」 を知 りつつ健康維持のために運動 してい く
ことはセルフケアに通 じる。体力や障害の程度にあった身体活動 を無理 な く日常化 してい くことが重要 であると思 われ
る。その援助 として具体的に個々に応 じた運動プログラムの設定 をしてい くことが必要 である。本調査 では運動実施の
要 因に 「
体調」のことと 「
時間」があがっているが,運動習慣者が増 える背景 には,家事や仕事か らの解放 による自由
表 2 運動の実施 (
継続 ・開始 ・再開)・中断 ・未実施の理由
実施理 由および工 夫
中断理 由
体調
仲
調や
朝
フェステ
間
.夕
に合
と.
誘
に時間を変更
わせ
い合
ィバ ル参加で運
わせ
る る
・
A
G
C
H
B
D
E
F群 (
5
4
2
1
7
∵
名)
未 実施理 由
病
病気
(
ドク
気タ
入院
のた
ー
スト
ツ
め7
.)
体調
運動
仕事
運動が習慣化
体
荏
夕調
に)
の合
の時間を工夫
に合わせて
に合わせ
. 間 にて運
.仲4
5
2
0
動量
2
間の存
1
.2
.6
.4
(
朝 を.
%
. 体調
けが の悪化
- 9
9-
仕事
体調
時間の余裕
時間が
が
で運動
いいか
とれな
がな
は十分
い
らい
時間の拡大,健康- の希求 の強 さがある といわれてい る。 この ことか ら保健指導の際には対象者個々の生活背景 の情報
を得 た上 で,体力,時間な ど運動実施 に向けて個 々に応 じた きめの細かい支援 を行 うことが必要 であるこ とが示唆 され
る
。
最後 に 「
仲 間の存在」 とい う要 因であ るが,人のつ なが りは社会生活において重要 な要 因であ り,運動 の継続に とっ
て も人 とのつ なが りが重要 な要 因である と思 われ る。
(
2
) 高齢 者 の 自覚 的健 康 感 に影 響 を及 ぼ す諸 因子 につ いて
調査 4)は,鹿児島県の A町 とB町の6
5歳以上 の高齢者 31
3
名(
男1
1
8
名,女 1
95
名,平均年齢 7
3.
4±6.
6歳)に対 して質問
紙法に よる留め置 き調査 お よび聞 き取 り調査 を1
991
年 8月か ら1
0月に行 った。
0% を越 えるいわゆ る過疎化 の進んだ地域 である。 身近 に同年代 の者が多
対象地 区の A, B町 ともに老齢人 口割合 が3
く,集落内に血縁者のい る者が 多い。第 1次産業 に従事 す る者, していた者が半数近 くを占めていた。
対象者- 自覚的健康感 を尋ね, その回答か ら 3群 に分けて調査 内容 を分析 した。 自覚的健康感 は,客観的な健康 では
な く主観的 な健康 を回答 して もらえるよ うに調査項 目の一番始めで答 えて もらうよ うに配慮 した。「あなたは,自分 では
健康 だ と感 じてい ますか ?」 と尋ね回答 をア. はい ィ. いいえ ク. どちらとも言 えないの中よ り選択 して もらった。
ア と回答 した者 を 「
健康群」, イを 「
不健康群」, クを 「中間群 」 として 3群 に分け調査 内容 を分析 した。対象者の構成
0-7
9歳 で不健康 と答 えた割合が高か ったが, 8
0歳
は図 1の とお りであった。 自覚的健康感 と年齢 との関係 をみ ると, 7
不健康群 」 よ りも増 えている。 これはこの年齢 まで生 きてこられた とい う自
以上になる と 「
健康群 」 と 「中間群 」 が 「
0
信が 自覚的健康感 を高め たのではないか と思 われ る (
図 2)
調査 内容 は, 自覚的健康感 に影響 を及ぼす因子 と考 え られ る 1)性別 ・年齢, 2) 身体状況,健康行動 (
ブ レスロー
の指標 2)か ら)
, 3) 人的環境 (ソー シャル ・ネ ッ トワー ク尺度 5) を使用)
, 4)役割 ・
生 きがい度 (PGCモラールスケ
-ル6) を使用) で, その関連性 を検討 した。分析 の結果 を図 3- 8に示す。
① 身体状況 ・健康行動 (
図 3, 4)
自覚的健康感 と病気 ・障害の有無 との関係 では, 「
不健康群 」 での病気 ・障害 をもつ者の割合が高か った (
図 3- a)
0
生活習慣 との関係 をみ る と 「
健康群」 と 「中間群」には 「
生活習慣良群 」 の割合が高 く,「
不健康群 」 には 「良群」の割
合 が低 い (
図 3- b)
。健康 診断 ・
結果報告会 に全体 の8
0.
2%の者が参加 していた。 その中で も 「
健康群 」 の参加 の割合
が高 い (
図 3- C)0
さらに,病気 ・障害の有無 と健康 診断 ・結果報告会-の参加,健康教室 ・健康相談-の参加 との関係 をみたのが図 4
である。病気 ・障害 をもたない者の健康 診断 ・結果報告会への参加割合が有意に高か った (
図 4- a)
。健康教 室 ・健康
相談 では,全体 的に不参加 の者の割合が参加者 よ り高 いが,病気 ・障害 をもつ者の参加割合 が有意に高か った (
図 4b)
。
②社会的つ なが り (
図 5, 6)
自覚的健康 感 と社会 的つ なが りとの関係 では,対象者全体 が ソー シャルサ ポー トネ ッ トワー ク尺度の1
3の支援項 目の
0項 目 (
81.
20
/
.)の支援 を受 けていた。「ネ ッ トワー ク強群」の割合 が 「
不健康群」に比べ 「
健康群 」 「中
うち,一人平均 1
図 5)0
間群 」 で有意 に高か った (
社会 のつ なが りと健康行動 との関係 をみたのが図 6であ る 生活習慣 との関係 ではネ ッ トワー クが強いほ ど生活習慣
。
結果報告会- の参加状況 との関係 は, ネ ッ トワー クが強い者ほ ど参
の良い者の割合 が高か った (
図 6- a)。健康 診断 ・
- 1
00-
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ 地域医療
加者の割合が有意に高かった (
図 6- b)
。健康 診断・
健康相談-の参加状況 との関係 では,ネ ッ トワー クが強い群 の参
加 の割合が高 く,ネ ッ トワー クの弱い群 では不参加の割合 が高か った (
図 6- C)
0
③仕事 (
役割) ・生 きがい度 ・不安 (
図 7, 8)
J
4.
8
% を占めた。仕事 の内容
仕事 (
生計 を賄 うための収入 を伴 う仕事 とは限 らない) をもっている者の割合 は全体 の7
1.
8%であった。 自覚的健康感 との関係 では,「
不健康群 」 < 「中間群 」 <「
健康群」 と仕事
は最 も多いのが 田畑仕事 で8
をもつ者の割合が高かった (
図 7-a)
0
自覚的健康度 と生 きがい度 との関係 をみ ると,「
健康群」ほ ど生 きがい度が高かった (
図 7- b)
。不安 の数 で 自覚的
健康群」では不安 0と回答 した者の割合が多 く,不安 の数が他群 に比べ て
健康感 との関係 をみたのが図 7- Cである。「
少ない。対象社全体 の不安 の内容 は,「
健康 」6
5.
8
%, 「経済面」1
9.
8%, 「
死」1
8.
5
%で 「
健康」に対す る不安が圧倒的
に多か った。
。生 きがい度 と仕事 の有無 との関係 では,
さらに生 きがい度 と仕事の有無,社会的つ なが りとの関係 をみてみた (
図 8)
生 きがい度が高い者ほ ど仕事 をもっていた (
図 8- a)
。 また社会的つなが りとの関係 では,生 きがい度が高い群 ほ どネ
ッ トワー クが強かった (
図 8-b)
0
以上の結果 をまとめ ると以下のようになる。
1) 自分 を健康 だ と感 じている者ほ ど病気 ・障害のない者が多 く,健康 診断 ・結果報告会の参加者に病気 ・障害 を持つ
者が少なか った。一方,健康教室 ・健康相談の参加者に病気 ・障害 を持つ者が多か った。
2) 自分 を健康 だ と感 じている者ほ ど社会的つ なが りが強 く,社会的つ なが りが強い者ほ どよい生活習慣 をもち,健康
診断等-の参加が よ く,良い健康行動が とれていた。
3) 自分 を健康 だ と感 じている者ほ ど仕事 を持 ち,生 きがい度 も高 く不安 の数 も少 なか った。
生 きがい度が高い者ほ ど仕事 を持 ってお り,社会的つなが りも強か った。
人的環境,身体的状況,健康行動,生 きがい,仕事 (
役割)は相互に関連 しあい, 自覚的健康感 に影響 していると考
えられ る。 (
図 9)
図 1 対象の構成
- 1
0
1-
E
F 65-69歳
臨 70-79歳
E
E
f
880歳以上
図 2 自覚的健康 感 と年齢
a・病気障害の有無★★
(
%)
屯 有。
闘 無し
b.
生活習慣☆
持 不明
C.健康診断
書 参加
迅 不良
・結果報告者 ☆
迅 不参加 E
EB 不明
100
80
60
40
20
0
健 康群
中間群
不健康 群
健康群
中間群
健康群
不健康群
★
中間群
p<0.
05 ★p<0.
01
★
図 3 自覚的健康感 と身体状 況 。健康 行動
a.
健康診断 。結果報告会柑
B 参加
(%)
100
巳 不参加 撞 不明
b.
健康教室 ・健康相談相
対 参加
/
㍗
【
80I,
]
60
40
i
2
0
0
有り
E
S
3
不参加 持 不明
I
「
】
1
\
無し
有り
不明
図 4 病気 ・障書の有無 と健康 行動
- 1
0
2-
I
l
t
t;
無し
不健康群
不明
★
★ p<0.
01
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ 地域医療
ネットワーク
臨 中間
健康群
中間群
不健康群
p<0.
05
図 5 自覚的健康感 と社会的つ なが り
★
★
a.
生活習膚 ★
(
%)
b.
健康診断 ・結果報告会
生 参加
E
S]
不良
強い群
中間群
弱い群
ヨ 不参加
強 い群
中間群
出 不明
弱い群
★
★
C.健康教室 ・健康相談
軌 参加
国 不参加
正 不明
強い群
中間 群
弱い群
★p<0.
01
★
図 6 社会的つ なが りと健康行動
a.
仕事の有無★
P 有り
E
S無 し
b.
生きがい度★
E
f
E
D
不明
書 高い
日 中間
C.
不安の&*
E
3低い
凶1-3
藍的∼7
中間群
不健康群
I
l
I
I
-
健康群
「
1
I
中間群
健康群
不健康群
★p<0.
01
図 7 自覚的健康感 と仕事 ・生 きが い ・不安
- 1
0
3-
a.
仕事の有無★
★
(
%)J 削
高い群
b.
社会的つなが り★
★
E
S 無 し Ⅲ 不明
1 強い
巴 中間
中間群
高い群
中間群
低 い群
町 弱い
低 い群
★
★ p<
0.
01
図 8 生 きがい度 と仕事の有無,社会的つなが り
(
社会的つなが り)
自覚 的健康感
健康行動 <--
-- ->
仕事 ・役割
図 9 自覚的健康感 と諸因子間の関係
(
3
) これ か らの 地 域 保 健 活 動
今 回,(
2
)
で紹介 した調査 結果 では老年期 の健康 は,病気 ・障害 の有無 といった身体 的側面か らのみ捉 え られ るのでは
な く, 「
仕事 ・役割 」 「
社会 的つ なが り」 な どの社会 的 な側面か ら健康 が捉 え られた り, さらには生 きが いや健康行動 に
も影響 してい るこ とがわか った。
柴 田 らの調査研 究 7) では,老人の保健行 動 の実態が,都 市化や過疎化 といった地域社会構造 に規定 されているこ とが確
認 されてい る。 (
2)
の調査結果 も過疎化 の進 む地域 での調査 であった こ とが大 いに影響 してお り, いわゆ る 「
社会 的つ な
が り」 の濃密 な地域 であったこ とが結果 に反映 されていた。地域保健 活動 をすすめ るにあたって地域社会 の特性か ら学
ぶべ き点 は多い。 た とえば老人の保健行動 が, それ ぞれの老人の生活,生活形態 (
同居 ・
別居 な ど),生活関係 (
家族 ・
友人 ・近隣 の人々 との人間関係) に影響 されていたこ とか ら,保健行動 の改善方 向 を地域社会 その ものの改善 (
地域 の
活性化 な ど) に求めてい く視 点が示唆 され る 住 民の健康 を支援 してい く上 で,地域 の状況 を把握 しつつ地域 のネ ッ ト
。
ワー クづ くり- の支援 とい う視 点 もこれか らの保健活動 の中で ます ます必要 になって くるもの と思 われ る。
- 1
0
4-
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ 地域医療
(
1
)
で紹介 した調査 では健康教育 に関す る示唆が得 られたが,健康教育の根本的課題 は,人々の保健的知識の充実 とそ
「
保健教育 とは,健康 につ いてわか っているこ とが らを,教育的過程 を通 じて,盟
の行動化 (
習慣化)とい う点 にある (
)
8)
。行動科学的視 野は,それ を実現す るための方法論的基盤
ましい個 人お よび地域社会 の行動様式に変 えるこ とであ る」
として,昨今大 き くクロー ズア ップ されて きてい る。保健行動 (
健康 習慣)におけ る課題 は,保健行動の形成 ・変容 が
いかなるプ ロセスをた どるものか, その全貌が明 らかになっていないこ とである。
宗像 9)は,「人々の保健行動 を支 えるもの」として(
1
)
生 きがいをもっている,(
2
)
生活行動 の中で保健行動 を優先 しよう
とす る, (
3)
積極 的な対処行動 をとる, (
4)
保健規範 をもっている, (
5)
情緒的支援がある, の 5つ を想定 している。
保健行動 の実践 を支援す る時,地域 に居住す る人々の保健行動 を支 えるものが どの ように生起 して くるかの問題 を追
及す る視点 を常 に重視 していかねばな らない と思 う。食生活 ・運動生活 な どといった個別的な保健行動が,生活 に起 因
し生活のなかで発揮 され る以上,サー ビス提供側 は常 に住民の生活 を把握す るところか ら出発 しなければな らない。
住民 とともに一人ひ とりの生活 を考 えるこ とが,広 い意味では住民の健康や保健行動 の改善 を考 えるこ とであ る と考
える。 きめの細かな支援 を展開 してい きたい。
合 わせ て, 「
住民一人ひ とりを大切 に」とい う視点は, ぞれぞれの人の生活背景や価値観 を知 り,個 々に応 じた支援 の
あ り方 を考 えてい くこ とに他 な らない。サー ビス提供側 が,各種 の保健サー ビス活動 の中でひ とつの価値観 だけ を押 し
付 け る結果 になってはな らない。 あ くまで も個 々人の価値観や生活背景 を知 りつつ支援 してい くこ とが重要 であ る。 そ
PLAN-DO-SEE」の過程 の うち,特 に 「SEE」(
-評価)
のためにはすべ ての保健サー ビス活動 の展開の中で 「
の段階 を重視 してい くことが大切 であると思 われ る。
1
9
7
8
年 に提案 されたWHO/UNICEFのプ ライマ リー ・-ルス ・ケア (
PHC)の概念 では,①提供 され る "ルス ・ケア'
'は住民のニー ドに対応 してい るこ と,②保健活動- の住民の主体 的参加,③有限の資源の最大 限の活用,
④ そのアプ ローチに係 わ る資源の強調 ・統合 をはか る10) こ とが述べ られている。① の住民のニー ズへ の対応 とは地道 に
一人ひ とりを大切 に してい く視点 を述べ ているもの と考 えられ る。
1)
(
2)
の調査結果か ら社会的ネ ッ トワー クの重要性 の知見 を得 たが,社会的ネ ッ トワー クは孤立 を解消 し, さま
また,(
ざまなス トレスを和 らげ,主観 的幸福感 を高め, さらには死亡率 の低下,寿命の延長 に も好影響 を もた らす との報告 も
あ り,前述④ の提唱に もあるように社会的参加 を促 し社会 ネ ッ トワー クづ くりを側面か ら支援 していけ るよう関連職種
と手 を携 えて地域保健活動 を行 ってい きたい。
参考文献
1) 太田絵美,他 (
鹿児島大学医療技術短期大学部専攻科地域看護学特別専攻第 2期生);健 康運動参加者の健康意識 と保健
行動-運動継続のための要因分析-.看護研究論文集,第 2号,1
0
4-1
0
7
,1
9
91
.
2) 星旦二,他 ;正 しい生活習慣は長寿に導 くか,医療の歩み,1
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1
2
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,1
9
8
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e
s
l
o
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ndEns
t
r
om J
E;Pe
r
s
i
s
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e
nc
eo
fhe
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he
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ns
hi
pt
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al
i
t
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e
vMe
d9:4
9
8
4
8
3
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8
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4) 中村美奈子,他 (
鹿児島大学医療技術短期大学部専攻科地域看護学特別専攻第 3期生);高齢者の自覚的健康感に影響 を
及ぼす諸因子.看護研究論文集,第 3号,9
5-9
9
,1
9
9
2
.
5) 宗像恒次 ;行動科学か らみた健康 と病気,1
1
5-2
1
7
, メヂカルフレン ド社,1
9
9
0
.
6) 古谷野亘 :生 きがいの測定一改訂版 PGCモラールスケールの分析,老年社会科学,8
3- 9
5
,1
9
81
.
7) 愛知大学体育研究室,愛知県設楽保健所 ;過疎地域における老人の生 きがいと保健行動に 関する基礎的研究,愛知県北設
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0
5-
楽郡 富 山村調査報告書,1
9
8
9
.
9
9
2
.
8) 柴 田博 ;老人保健活動 の展開.医学書院,東京, 1
9) 宗像恒次 ;病気の心理社会 因 と保健行動.健康 と病気の行動科学 (日本保健医療行動学会編) 1
6
, メヂカルフレン ド社,
1
9
8
6
.
見直 し)の理論 と実際, 1
4- 2
3
,医学書院, 1
9
81
.
1
0
) 丸地信 弘,松 田正 巳 ;PHCの背景 とその概念.保健活動 〈
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0
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