スポーツ傷害(J. sports Injury)Vol. 17:21−22 2012 腓腹筋内側頭のストレッチング方法の検討 ― アキレス腱のねじれ構造に着目して ― 水原郷病院 地域保健福祉部 江玉 睦明(PT) JA新潟厚生連新潟医療センター リハビリテーション科 渡邉 博史(PT) 梨本 智史(PT) 日本歯科大学新潟生命歯学部 第一解剖学講座 影山 幾男(DDS) 新潟リハビリテーション大学 理学療法学科 熊木 克治(MD) JA新潟厚生連新潟医療センター 整形外科 古賀 良生(MD) はじめに 方 法 腓腹筋内側頭(以下,内側頭)はハムストリングスに 種類は,スタティックストレッチングで行い,立位で膝 続いて肉ばなれの好発部位である 1).筋損傷に対するスト 関節伸展・足関節背屈位で下腿中間位(図 1 − A)と,下 レッチングは,再生促進などの効果 2)が明らかにされてお り,これらの効果を得るためには,損傷している内側頭を 効果的にストレッチングする必要がある.しかし,内側頭 のストレッチングに関しては,解剖学的,バイオメカニク ス的報告は少なく方法が統一されていない 3)~ 5). 腓腹筋は二関節筋でかつヒラメ筋と共通停止腱を持ち, 解剖学的に非常に複雑な構造を持つ.また,アキレス腱は 外側方向へのねじれ構造を呈しており,ねじれ構造は主に 内側頭の停止腱により構成されている 6),7). そこで今回,アキレス腱のねじれの方向を考慮すること で内側頭を効果的にストレッチングすることができるか検 討した. 対 象 対象は,健常成人 20 人 20 足(平均年齢は 31 ± 6 歳,男 性 10 名,女性 10 名)であった.群分けは,下腿中間位を 中間群(平均年齢 30 ± 6. 4 歳,男女各 5 名,左右各 5 名), 下腿 10°内旋位を内旋群(平均年齢 33 ± 5. 5 歳,男女各 5 名,左右各 5 名)とした.各群において,男女や左右側は ランダムに割りつけた.また,2 群間の年齢に有意差は認 めなかった. — 21 — 図 1.ストレッチング肢位 A:下腿中間位 B:下腿 10°内旋位 腿 10°内旋位(図 1 − B)での 2 肢位で行った.時間は,20 秒を 3 セット,休憩は各セット間に 10 秒とした.体幹前 傾の程度は痛みの無い範囲で行った. 効果判定として,機器は,筋硬度計(neutoneTDM-Z 1, 佐藤商事製,単位:T,佐藤商事の任意単位,図 2)を使用 し,腹臥位・足関節を他動的に 0°背屈位で行った.スト レッチング前後に内・外側頭の筋腹中央部で筋硬度計を用 いて筋硬度を測定し,変化率(%)を算出し,実測値と変 化率にて比較した. 図 3.内旋群 統計学的検討方法は,各群内では対応のある t 検定,2 群間では対応のない t 検定を用い,有意水準は 5%とした. 図 4.中間群 図 2.筋硬度測定 腹臥位,足関節他動背屈 0° 結 果 1)内旋群(下腿 10°内旋位,図 3) 内側頭の筋硬度が有意に低下していた. 2)中間群(下腿中間位,図 4) 内側頭と外側頭共に有意な差を認めなかった. 3)2 群間の比較(内旋群と中間群,図 5) 内側頭において,内旋群と中間群に有意な差を認めた. 考 察 参考文献 アキレス腱は,腓腹筋内側頭と外側頭,ヒラメ筋の 3 つ の筋群の停止腱から構成され,外側方向へのねじれ構造を 呈している.また,内側頭の停止腱は外側方向に斜めに走 行し,アキレス腱のねじれを主に構成していると報告され ている 6),7).膝関節伸展,足関節背屈に下腿を内旋させる ことで,近位部では脛骨内側顆により起始腱膜が圧迫され, また,遠位部ではアキレス腱のねじれが強まることが考え られた.そのため,下腿内旋位ではより伸張を加えるこが でき,効 果 的に内 側頭をストレッチングできたと考えられた. 図 5.2 群間の比較 ま と め ◦アキレス腱のねじれの方向を考慮することで内側頭の効 果的なストレッチングが可能か検討した. ◦膝関節伸展・足関節背屈に下腿内旋を加えることで効果 的に内側頭をストレッチングすることができた. 1)武田寧,内山英司.スポーツ損傷としての肉離れの疫学的調 査 — スポーツ種目特性,年齢—.Orthopaedics 2010;23: 1 − 10. 2)Ji Hye Hwang, Yun-Ju Ra, kyung Mu Lee, et al. Therapeutic Effect of Passive Mobilization Exercise on Improvement of Muscle Regeneration and Prevention of Fibrosis After Laceration Injury of Rat. Arch Phys Med Rehabil 2006; 87:20 − 26. 3)堀居昭.下腿のスポーツ障害のメカニズムとストレッチング. スポーツ障害別ストレッチング.第 2 版.東京:杏林書院; 1998.p. 81 − 89. 4)小柳磨毅,上野隆司,中江徳彦.腓腹筋.井上悟監修.ストレッ チング アスリートケアマニュアル.第 1 版.東京:文光堂; 2007.p. 248 − 249. 5)鈴木重行,平野幸伸,鈴木敏和.腓腹筋内側頭.鈴木重行 編.アクティブストレッチング.第 1 版.東京:三輪書店; 2007.p. 179 − 182. 6)Pawel Szaro. Grzegorz Witkowski, Robert Smigielski, et al. Fascicles of the adult human Achilles tendon-An anatomical study. Annals of Anatomy 2009 ; 191 : 586 − 593. 7)江玉睦明,影山幾男,熊木克治.アキレス腱の構造とその臨 床応用.第 117 回日本解剖学会誌 2012;87:119. — 22 —
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